龍神の社からの来訪者
おはようございます
翌日、社に行ったサクヤは巡回を口実に御山に向かう。ついでに薬草園に寄って御力を籠めた。
「水にも籠めておいてくれたかい?」
「あら、イズマさん。お元気そうですね。」
「サクヤ君もね。今から御山かい?」
「はい。ヌシ様に帰還の報告をと思いまして。」
「そう。君がここを留守にすると、妖魔退治で大忙しだったよ。左馬介君だったかな?頭がいない分、彼が獅子奮迅の活躍だったよ。」
「そうでしたか。後で褒めておきます。ヌシ様はお変わりありませんか?」
「元気なもんだよ。退屈そうだったから、早く顔を出してあげるといい。」
「そうします。」
サクヤはサクサクと御山を登り、アカイヌヌシのもとへやってきた。
「ヌシ様、サクヤ帰還しました。」
「うむ。」
それだけ言って背を向ける。サクヤも何も言わずに背を撫でた。
「治癒の御力の原因がわかりました。やはり、私の父は帝に近い者のようです。」
「そうか、そうだろうな。其方は理を知る前から治癒の御力を使っていたからな。」
「でも、理を知る前から浄めもできましたよ。弓の方は無意識にやってましたし、筋力強化も同じです。どうも腑に落ちないことが多いのですが。」
「…それは、我にもわからん。」
「えっ?!そうなのですか?」
「正直、我でもそこまでなんでもかんでもできるわけではない。其方は、その、ちょっと異常だ。」
「えぇ~!そんな、ヌシ様まで私を妖扱いするのですか!」
「いやいや、そんな凄い妖なぞ見たことないわ。妖どころか、神に近いのではないか?」
「…神、ですか?」
「なんというか、前にも言ったかもしれんが、神といえど常識や固定観念に囚われておる。神によって領分が違うと考えておるしな。理が判っていても、その壁を超えるのは容易ではない。」
「…。」
「其方の1番の強味というか、良き点はその素直さだ。出来ると思えば出来るし、最早無意識に御力を使っておる。我でも無意識に使う事なぞない。しかも其方、僅かながら空まで飛ぶというではないか。我でもできぬぞ、そんなこと。」
「…。私って、何なのでしょうか?」
「知らぬ。我の常識の外におる。あるいは『日輪の血』のせいやもしれぬな。あれも中々非常識な奴ゆえな。」
「『日輪の血』ですか…。それなら、帝はもっと凄い御力を持っているのでしょうか?」
「あの一族は山を下りたらしいな。どれだけ日輪の血の力があっても、力量がなくなっては宝の持ち腐れだ。」
アカイヌヌシは呆れた様な顔で都の方を見た。
「しかし、ヌシ様にすら判らないことがあるのですね…。しかも、それが私の事とは…。」
「世の中判らないことの方が多い。例えば日輪や月、星の動きなど、我等にも判らん。どのように子ができて、なぜ死んでいくのか。そもそも神力とはどういう作用でそうなるのかも、判らないことだらけだ。」
「確かにそうですね。ヌシ様でも判らないことに、私が悩んだところで解決するとは思えませんし。余計なことを考えず、あるがままにあろうと思います。」
「ふっ…、其方はそれでいい。その素直ささえなくさなければな。」
「はい。」
山を下りたサクヤは弓寮に戻ってきた。
左馬介を見かけたので褒めておいた。
サクヤは少しすっきりした気分で鍛錬に打ち込んでいた。
(難しいことは考えなくていい。感じたまま、正しいと思ったことをやればいい。)
サクヤの放った矢は、狂いなく的の中心を貫いた。
「サクヤさん、宮司がお呼びです。」
警護の槍兵が伝達に来た。
「今行きます。左馬、小隊戦術訓練の指揮を任せる。」
「了解です!」
キビキビと動く兵達を満足気に見て、サクヤは的場を後にする。
「なぁ、やっぱり俺いらなくないか?」
「頭、頭はサクヤさんの手綱ですから。」
「それもいらなくなってると思うんだ…。」
「…。」
「サクヤ、入ります。」
「うむ。サクヤ、お客人だ。」
「!隼人殿。」
「よう。先日は世話になったな。」
「…龍神の里に戻られてたのでは?」
「あぁ、一旦帰った後、国府に戻ったら、お前達は帰った後でな。経緯は蒼士郎さんと蒼衣様に聞いた。随分助けられたようで礼を言うよ。」
「いえ、そんな大した事は…。それにしても、我々が帰ったのは昨日ですから、早すぎませんか?」
「追いかける形になったが、こっちは馬だからな。」
「あぁ、なるほど。で、ご要件は?」
サクヤの問いを宮司が引き取った。
「疫病の流行を事前に防げたのはサクヤのお陰と知った当社の宮司が、サクヤ達を是非招待したいと言っている。」
「また招待ですか…。」
「なんだよ。湖の国はいいとこだぞ。」
「すみません。傭兵の国と言う心象しかなくて…。下手に行くと勝負を挑まれそうで、ちょっと…。」
「ぐっ…、ひ、否定できねぇ。」
「やっぱり。」
「まてまて。大事な客人にそんなことはさせない!俺が保証する!」
「隼人殿の保証がどの程度効果があるのでしょうか?」
「ぐっ!お前はさっきから痛いところばかり突きやがって。矢も言葉も狙いがエグいんだよ!」
「なんか、上手いこと言ってますけど、湖の国に行くことに対する利がわからないのですが?」
「お、お前、失礼だな!湖の国には大きな湖があって魚が美味いんだ。そして、俺も乗って来たが、良質な馬がいる。」
「馬、馬か…。乗ってみたい気がする。」
「だ、だろ!馬はいいぞ!ちょっと臆病だが、素直で速くて楽だぞ!」
「馬かぁ、いいなぁ。それなら行く価値はあるかもしれないな。」
宮司と藤十郎はサクヤを少し呆れた目で見ている。
((動機が単純過ぎないか?))
「よしよし。じゃあ了承で伝えるぞ。後日改めて使者を寄越すから、一緒に来てくれ。梅雨が明けたくらいがいいだろう。」
「分かった。そう言えば蒼衣様の留学の話はどうなったのだ?」
「その話は聞いたが、蒼衣様が一旦国に帰って宮司の了承を得てからだろうな。俺が今から瑞の国府に戻って、蒼士郎さんを馬に乗せて帰るから、それからだな。」
「なるほど、了承した。」
「じゃあ要件は済んだ。早いとこ蒼士郎さんを国に返さなければならないから、俺は帰るぜ。」
「ああ、宜しく伝えてくれ。」
要件を済ませた隼人はあっという間に去って行った。
「本当に良かったのか?サクヤ。」
「鬼と戦ううえで、龍神社の戦力は重要になってきます。そのあたりの話も詰めてこれればと考えています。」
「そうか、馬のことしか考えていないのかと…。」
「宮司、私を何だと思ってらっしゃるのですか?」
「いや!済まん済まん。私は今だに其方の冗談と本気の境界が掴めんのだ。」
「サクヤは冗談も真顔で言いますからな…。」
「そうなのだ。本当に胃に悪い。」
「だから、本人のいない所で言って下さいと…。」




