サクヤの出自
おはようございます
「でも、まずは夕餉にしましょう。」
「うん。」
夕餉の支度をしに台所に立つコノハの背を見ながら、サクヤは少し罪悪感を感じた。
(これまで聞かされなかったのは、母様なりの理由があるのだろうし、言い難いことなのだろう。それを聞くのは本当にいいことなのだろうか?)
夕餉の間は国府での出来事を話してやり過ごす。どことなく微妙な空気のまま、夕餉の時間は過ぎた。
2人で片付けたあと、お茶を用意して向かい合った。
「父上について語る前に、少し聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「何?」
「サクヤは成人したらどうする気なの?誰かと夫婦になるの?」
コノハの質問に、サクヤは目を丸くする。これまで先延ばしにしていたことだったが、結局何も考えてこなかったからだ。
「う〜ん、暇があったら考えようかと思っていたんだけど、忙しさにかまけて先送りにしてた…。まだ、何も決めてない。」
サクヤの言葉にコノハは困った顔で微笑んだ。
「本当に似なくていいところが似るわね。私もそうだったの。」
「母様も?」
「何から話せばいいかしら…。貴方は、小六の話は聞いてる?」
「…うん。」
「なんとなく察していると思うけど、小六は貴方の父親じゃないわ。」
「やっぱり…。」
「私も貴方のように里の男に惹かれる相手がいなくてね。どうしようか悩んでいたのよ。」
コノハは少し間をとり、覚悟を決めたように言葉を続けた。
「成人の儀を間近に控えたある日、山に迷い込んだある男性に出会ったの…。」
コノハは彦次郎との出会いから、サクヤの出産に至るまでの経緯を隠すことなく詳らかにした。
話を終えたコノハは、何か憑物がとれたような、安心したような顔をしていた。
「でも、結局彦次郎様が都のどのような身分の方かは私にも判らないの。」
「そうなのね。ありがとう、母様。」
「ううん。それより気になっていることがあってね。貴方以前、薬草園で都から来た男と会ったって言っていたわよね。」
「あぁ、そう言えばそんなこともあったね。」
「その人、もしかしたら彦次郎様の縁者、下手すれば息子じゃないかと思ったの。」
「えっ!あの男が…?そう言えば、山に天女がいると父親に聞いて来たって言っていたような…。その天女が母様ってこと?」
「私が天女かどうかは兎も角、充分可能性があると思うのよね。その人が都に帰って貴方の話を父親に話していたら、もしかすると彦次郎様も貴方の存在に気がついているかもしれない。貴方は将軍にも知られた存在になっているのだから…。」
「う〜ん、否定できないかも。」
「それと、もう一つ気になることがあるの。」
「…御力のこと?」
「そう…。貴方は薬の力と思っているかもしれないけど、貴方の使っている御力は、明らかに『治癒の御力』よ。その御力が使えるのは帝の一族だけだと言われているの。」
「つまり、彦次郎様は帝の一族…。」
「流石に今上の帝ではないと思うの。自分で『彦次郎』って名乗ったのは、本名ではなくても次男だからだと思うし。ただ、彦次郎様は癒しの御力を使っていなかったから、ご自身は使えないのかもしれない。」
「なるほど、それなら納得できるね。元々の力量の多さも、治癒の御力も。母様は勘違いって言ったけど、勘違いしてたのは最初のほうだけで、最近は薬を使わなくても普通に使えるようになっていたの。」
「やっぱり…。ていうか、貴方の御力って、それだけじゃないわよね?」
「流石に気づくよね…。正直、私自身よくわからないんだ。無意識に使っているみたい。」
(全部は言えないけど、この言い方なら誤魔化せるかな?)
「本当に規格外ね。彦次郎様から受け継いだ御力だけじゃ説明がつかないじゃない。」
「でも、治癒の御力が使えた理由が判っただけでも収穫だよ。」
「…自分の父親が判った感想がそれなのもどうかと思うわ…。」
「ただ、もう一つ聞きたいことがあってね…。」
「…なに?」
コノハは思わず身構える。
「母様の御力は結局なんなの?」
「あぁ、そのことか…。別に珍しくもないわよ。『魅了』よ。それで彦次郎様も落としたの。」
「…そんなのなくても落とせたような気がするけど。」
「…そうかもしれないわね。正直その時以外、使う場面がなかったわ。人を思うように動かしたいときに、薬を使ったくらいかしら。」
「…恐い使い方ね。巫女舞のときに無意識に使ったりは?」
「しないわよ。そもそも無意識に使ってるのなんて貴方くらいよ。」
「ぐぅ…。」
(ぐぅの音って出るのね…。)
「それにしても、貴方の御力は度を過ぎてるわね。ただ、治癒の御力だけは使い方に気を付けなさい。」
「そうね。でも、母様の相手が帝に近しい方だと知られたとき、どんな問題があるの?里にいられなくなるとか?」
「…そう言われてみれば、里に限っては大した問題にならないかも…。いや、ならなくなった、かな。」
「ならなくなった?」
「そう、貴方のお陰でね。貴方が規格外なのは皆知っているでしょ?だから、今さら知られたところで驚きもないだろうし、寧ろ納得されるくらいじゃない?里の外の人と夫婦になってはいけないという決りはないし。ただ、そうなって里に住んでる人は余りいないだろうけど。」
「なんだか微妙な気分だわ…。でも、母様が里に住めなくなるとしたら困るわね。」
「…う〜ん、どうだろう?私は調薬ができるから、よそでも食べるのには困らないわよ。御力が使えなくなって困ることもないし。だから、貴方が成人までに相手ができなくて、里から出るってなってもついていけるわよ。」
「そうかぁ…。それは心強いかも。」
「ただ、社の人は兎も角、朝廷の関係者に貴方の出自や治癒の御力について知られない方がいいわ。どんな面倒事に巻き込まれるか分からないから。それでなくても既に巻き込まれているのに。」
「そうね。気を付けるわ。将軍と関わり合いになった時点で遅いかもしれないけど。まだ出生について知られているわけではないから、注意するよ。」
「そうしなさい。」
「話も一段落ついたから、一杯やらない?お土産に買って帰ったの。」
「貴方、すっかり癖になってるわね。私は止めたはずなのに…。」
「まぁまぁ、薬の効果の話でもしながら飲もうよ。」
「うっ…。で、どうなったのよ?」
少し短めの話ですが、切りが良いので




