サクヤの思い違い
おはようございます
「今度こそ、国府最後の夜だ。明日には帰るぞ!」
弥九郎が妙な乾杯の挨拶をして盃を干した。
「蒼衣様は兄上についていなくてよいのですか?」
宿に戻った一行に、何故か蒼衣も混じっていたので、千代が問いかけた。
「サクヤ様の素晴らしい治療のお陰で、血が足りない以外は問題ありませんので、人質としての責務を全うしようと思います。」
「人質?もう国守の依頼は破棄されたんだから、人質は不要だろ?」
小平太は至極当然の疑問をぶつけた。
「私は此度の出来事で、己の不足を嫌というほど知りました。ですので、少しでも長くサクヤ様と過ごすことで、何か少しでも学び取れればと思いまして…。」
「サクヤを基準にするのはやめたほうがいいぞ…。」
「おい、小平太。それはどういう意味だ?」
「だって、お前の事を真似るとか無理があるだろ!」
「私は至って普通だ。どいつもこいつも人を妖呼ばわりするし、失礼極まりない。」
「そんなに言われてるのか…。」
周りが同情の目でサクヤを見る。
「五月蝿い!そんなことより、蒼衣様はおいくつですか?」
「えっ?!歳ですか?16です。」
「やはり…。蒼衣様は私より歳上です。歳下の私に学ぶというのはどうかと思うのですが。」
「自分より長けた物を持つお方から学ぶのに、歳は関係ありません。サクヤ様は私などより、ずっと秀でたお方ですから、当然のことです。」
自信満々に答える蒼衣に、サクヤは少々ゲンナリした。
「どちらにせよ、明日私達は帰りますし、蒼衣様も蒼士郎殿を連れて帰らねばならないでしょう?一緒にいると言っても明朝までですよ。」
「それは承知しています。私は決めたのです、赤犬の社に留学すると!」
「「はい?」」
皆がキョトンとした目で蒼衣を見ていたが、千代だけは違った。
(この人をサクヤ様の側に置くのは危険だ。私が守らねば!)
「そのようなことをしたとて、サクヤ様に追いつくことなど無理でしょう?具体的にサクヤ様から何を学ぶおつもりで?」
「千代…?」
「そ、それは、やはり御力の使い方です。禊祓をあれ程の回数、規模で行われるなど初めて見ました。同じ宮司の娘として、同程度にはできるようになりたいと考えてます。」
(くっ、思ったよりまともな答えを…。もっと不純な動機だと思っていたのに…。)
「そ、そんなことは力量を増やせばできるようになります。それでしたら、サクヤ様に学ばずとも私でもお教えでます。」
「そうだな。じゃあ、千代が教えてやってくれ。」
「えっ…?」
(何故留学すること前提にお話されているのですか!サクヤ様、この女の策略にハマってます!)
千代1人が悶々とした感情をかかえたまま、夜は更けていった。
「では必ず許可を得て、赤犬の社へ参ります。お気を付けてお帰りください。」
蒼衣と共に半兵衛も見送りに駆けつけた。
「我等も近いうちに使者を送ります。この度は誠にありがとうございました。」
帰路についた一行は、今回の騒動を振り返りながら、賑やかに歩く。
「ところでサクヤ、前から気になっていたんだが、なんでお前は穢れや邪心、呪詛が認識できるんだ?」
「えっ?!いや、皆できるのではないのか?」
「できねぇよ!」
「…だって、宮司も普通にできるじゃないか?」
「宮司以外に誰がいるんだよ。」
「藤馬さんもできますよね?」
「できるけど、それは私は宮司の息子で、禊祓の御力を受け継いでいるから…。」
藤馬は困惑した苦笑いで答える。
「そもそも禊祓ができるのも謎なんだよ。お前の使える御力って、どれだけあるんだよ?」
(小平太、よく聞いてくれた!私もそれは以前から疑問だったが、なんとなく聞けなかったのだ。)
藤十郎はサクヤの返答に注目した。
「え、え〜と、よくわからない…。」
(ていうか、言えるわけないし。)
「なんでだよ。これまで見てきた中でも、『禊祓(浄め・浄化)』『弓』『武具への付与』はほぼ確定だろ。あとは『異常な薬の効果』や『異常な勘の良さ』『異常な跳躍力』も見せられている。どこまで御力なのかわからねぇよ。」
「…なんでもかんでも『異常』って言うな。お前は本気で私を妖だと思っているのか?」
「い、いや、そういうわけじゃ。寧ろ神様の加護が、あ、いやその…。」
サクヤと千代が小平太を睨むと、小平太はシドロモドロになったあと黙り込んだ。
(どういうことだ?小平太と千代も何かしらの秘密を知っているのか?白狐の社でなにかあったか。いや、サクヤの力はそれ以前からだった…。)
(うぅ、失敗だった。よく考えたら、サクヤは俺達より前から神様と知り合いだった。というより、サクヤの剣術の師匠が神様だった。なら、いくつかの御力を授かっていてもなんら不思議はない…。てか、どうやって神様と知り合って剣術を教えて貰えるんだよ。もう聞くのが怖くなってきた…。しかも、あの勘の良さは巫女になる前の話だし。サクヤの父親って本当に小六さんなのか?もうサクヤの父親が神様だって言われても納得できる気がする…。)
焦点の合わない目で一点を見つめたまま固まった小平太を、疑わしく思い見る藤十郎。あれだけ騒がしかった一行は、一転皆が沈黙したまま歩くことになった。
(まさか皆が穢れや邪心を認識できないとは思わなかった。そういえば、私は何時から認識できていたんだろう?気がついた時には見えていた?里にいれば見る機会自体そうないから、巫女になってからなのかもわからないな。浄めができると思ったのも、やってみろと言われて出来るものだと思い込んだからできたはずだ。そう言えば、御神域を初めて出た時、外が穢れに溢れてることを知ったのだから、その時には認識できていたのかもしれない。弓だって無意識に御力を使っていたし、治癒の御力も心を籠めたら治ると思い込んでいたからできていた。今でこそ理が分かっているから納得できるけど、そうじゃない人から見たら妖と思われても不思議じゃない気がしてきた…。)
そこに気づいたサクヤは、ショックで項垂れる。千代はそんなサクヤを不思議そうに見ていた。
その後も重たい空気のまま帰路の旅が続いた。
最後の宿泊予定地に着いて宿に入ると、そこには静が商談中だった。
「あら、皆さん。ご活躍は耳にしていますよ。」
「静さん!こんなところで、お仕事ですか?」
「そうなの。サクヤさん達のお陰で、売り上げも好調よ。蔵元も是非お礼をしたいって喜んでいたわ。」
「私は特に何もしていませんが?」
「あら?国府でうちのお酒を買い占めたうえに、日輪宮公認酒にしてくれたじゃない。お陰で今は品薄になる程の状態よ。」
「日輪宮公認酒は私が決めた訳ではないのですが…。でも、立て直しができたなら良かったです。」
「立て直しどころか、過去最高益らしいわよ。蔵を増やさないと受注に追いつかないって、蔵元が嬉しい悲鳴をあげていたわ。」
「『綾の泉』は普通に美味しいからな。サクヤがあんなことしなくても、早々に立て直せたんじゃないか?」
「ううん、色々嫌がらせとかもあって大変だったのよ。赤犬の里出身者にもとてもお世話になったわ。今日はここに泊まり?」
「はい。明日には里に帰ります。」
「そう。そのうち絢音さんと一緒に里にも顔をだすわ。私は他もまわらなきゃならないかなら、またね!」
そう言うと静は忙しそうに出ていった。
「楽しそうに働いていて何よりですね。」
「そうだな。あの厳しい頭だった頃が嘘のようだな。」
「皆静さんを恐れてましたもんね。」
こうしてサクヤ達の長い国府への旅は、翌日に帰着して終了した。
【設定裏話】
サクヤが初めて飲んだお酒は、御神域から湧き出た水を使った蔵元のお酒でした。これは『綾の泉』とは別の銘柄でした。サクヤが飲んだことのあるお酒は、偶然にも全て御神力が含まれたお酒だったため、サクヤは「お酒を飲めば力量が回復する」と勘違いしているのです。
次回より新章突入です。
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