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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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湖の国の3人

 国守との面会を終えたサクヤ達は、もう1泊して帰還することにした。将軍との面談、日輪宮との交渉、国守との面談と、のんびりする時間もなかったので、面談後の午後がら翌朝の出立まで国府見物を兼ねて自由時間にしたのだ。


「千代は兎も角、何故小平太や藤十郎殿まで付いてくるのですか?自由時間と言いましたよね?」


 サクヤは折角なので国府の北にある川湊まで足を伸ばしてみようと思っていたが、小平太と藤十郎も付いてきた。


「いや、俺も川湊を見てみたかったからな。」

「サクヤから目を離すなと、宮司から厳命されておるからな。」


 サクヤはジト目で2人を見るが、諦めて歩き出した。

 国府から川湊までは大した距離はないので、夕餉の時間までには帰ってこれる。

 瑞の国府近くの川湊は、都の上流にあたる。都を過ぎれば海まで出れるが、国境を跨ぐので乗船のチェックは関所並みに行われる。サクヤは乗船するつもりはなかったが、車も鉄道も飛行機もない世界なので、物流の要である船を見てみたかったのだ。

 川湊に到着した一行は感嘆の声を上げる。


「これ程の船が行き来するのだな。」


 湊の船着場が雁木が設けられ、10を超える船が係留されており、川下から昇ってくるのが見える。そこまで深くない川でもあり、船は大きくないが、積み下ろしを行う人夫の景気の良い声があちこちから聞こえる。


「宿場町近くの川は細いから、これ程の数を見ることなどないからな。」

「櫛の国など、そのようなことが出来る状態ではなかったですからね。やはり活気があります。」


 珍しく感想を述べる千代に目をやったサクヤは、千代の育ちを考えた。


「千代はそのような見方をするよう育てられたのか?」

「そうですね。やはり隠密寮に入れるつもりだったみたいです。今はサクヤ様に付いて行動していますから、とやかく言われることもありません。」

「では、隠密寮に転属する気もないのか?」

「サクヤ様のご命令であれば、猿丸のような役割も考えなくはないです。」

「そんな命令を出す気もないし、権限もないがな…。」


 そんな話をしていると、雁木に1艘の船が着いた。都からではなく、上流から下ってきた船だ。荷物と人が混載されていたが、小柄な女が一人と背の高い男、サクヤよりやや高い男の3人組だ。


(身のこなしがいい。この男2人は相当な手練れだ。)


 千代と小平太も感じとったようで緊張が走った。


 サクヤは背の高い男と目が合う。男2人にも緊張が走り、それを感じ取ったのか女が嗜めた。


「二人共!ここは天下の船着場。初対面の人に殺気を漏らさないで!」

「すまん、ついな。」

「…奴等も殺気を放っているが。」


 サクヤは女の言葉で緊張を緩める。このようなところで知りもしない相手に殺気を放つのは確かにおかしい。少し反省したサクヤは女に声をかけた。


「申し訳ありません。余計な緊張を作ってしまいました。」

「いえ、こちらも喧嘩っ早くて困っているのです。船を待っておられるので?」

「いえ、ただの見物です。山育ちなものですから、このような湊は珍しくて。」

「我等も似たようなものですが、大きな湖があるので、船には慣れ親しんでいるのです。」

「大きな湖…。」

 

 藤十郎がハッとした顔だ3人に声をかけた。


「其方等、湖の国の者か?」

「はい。国境を越えたところから川船で下り、ここまで参りました。」

「国境からなら、ここまで歩いてもしれておろう。何故船など使うのだ?」


 小平太は疑問をそのまま口にした。


「ふんっ、時間の価値の分からぬ小僧が。歩きなら国境から国府まで2泊はいる。船なら1日で着くうえに2泊分の宿代が浮く。船代を払っても充分お釣りがくるわ。」


 連れの男の小さい方が小平太を小馬鹿にして言い放つ。


「隼人!口を慎みなさい。」

「ちっ!」

「いえ、なるほどその通りです。私が物を知らないだけですので、お気になさらず。」

「いえ、こちらこそ、無礼をお赦しください。」

 

 小平太と女はペコペコ謝りあっている。


「貴方の装束を見る限り巫女であられるようだ。龍神の社のお方ですか?」

「はい。申し遅れました。わたくし、『巽の蒼衣』と申します。こちらの背の高い方が兄の『蒼士郎』、もう一人が『竜門隼人』と言います。」

「こちらこそ申し遅れました。私は『乾のサクヤ』、こちらが順に藤十郎、小平太、千代です。」

「乾だと…。」


 蒼士郎と紹介された男がサクヤを見る。


「まあ!乾ということは宮司の御息女でしたか。」

「蒼衣様も巽であれば御息女でしょう。私はあくまで養女ですから。」

「あら?乾にはご子息がいると聞いてますので、態々養女にされたということは、将来はご子息と…?」

「いえ、成り行きでそうなっただけで、そのような予定はございません。」

「成り行きで…、宮司の養女ですか…。」

「女だてらに山兵の格好をして、宮司の養女とは。赤犬の宮司も呆けたか?」

「隼人!これ以上の無礼はサクヤ様がお赦しになっても、私が赦しませんよ!」

「おお、恐い恐い。」

「程々にしておけ、隼人。」

「はい。控えます。」

「隼人が失礼した。だが、ウチも含めて

女が山兵など聞いたことがないのでな。だが、腕は確かなようだな。」

「いえ、蒼士郎殿でしたか。貴方も中々の腕のようで。力量もかなり多いようですね。」

「ほう、そんなことが判るのか…。」

「推察ですが。否定されないということは、自信がおありなのですね。」

「ふん、なるほど。知恵が回るようだ。」


 そう言うと蒼士郎は興味を失ったように遠くを見る。


「皆さんはこれから国府へ?」

「はい。仕事で少し。では、失礼します。」


 蒼衣は一人一人に会釈をして国府の方へ去って行った。



「湖ノ国龍神の社の者か。仕事ということは戦でもする気か?ここの国守は。」

「どういうことです?」

「あの社の山兵は傭兵を生業にしているのだ。湖ノ国は湖以外に平地が少なく、田畑が作り難く林業が唯一の稼ぎと言っていい。そこで食っていく為に、積極的に国外からの妖魔や鬼の討伐依頼に出るようになって、そのうち強さが評判になると、戦の手伝いまでするようになったのだ。」

「戦の…。」

「そんな国を憂いた国守が、湖を干拓して耕作地を増やそうと計画したのだが、湖は龍神の住まうところだとして、社が猛反発した。それでも強行しようとした国守を山兵達が攻めて国外に追い出したのだ。そのような事をすれば当然朝廷も黙っていないのだが、各国に出兵の要請をしたものの、どこも応じなかった。」

「朝廷の出兵要請に応じなかったのですか?」

「勿論、表向きは尤もらしい理由をつけてな。本音は山兵の戦力を充てにしていた国からすれば、間違っても敵に回したくないからだ。結果、湖ノ国は国守不在で、お飾り程度に国ノ輔が在任している。なんの権限もないがな。」

「つまりは、龍神の社が国を支配していると…。」

「そういうことだ。」

「なるほど…。戦慣れしているのなら、あの独特な雰囲気も納得できるな。」

「しかし、そんな生業で穢れや邪心は大丈夫なのでしょうか?」

「だから蒼衣様が付いているのでしょう。」

「蒼衣様が?」

「あの方、かなりの力量の持ち主で、しかも宮司の娘。おそらく禊祓ができるのでは?」

「なるほどな。」

「それに、あれ程の手練れなら、妖魔など怖くもないでしょう。」

「…確かに。」


((それは、お前もな…。))


「余り敵に回したくない相手です。寧ろ霊徳童子を倒すのに協力してもらえるなら、かなり心強い味方なのですが…。」

「蒼衣様は良い人そうだったけどなぁ。」

「あら?小平太はあの様な方が好みなのか?」

「ばっ!馬鹿言うな!そういう意味で言ったんじゃなふぃ!」

「盛大に噛んでるぞ。そんなに同様することないのに、逆に怪しいな。」


 サクヤはニヤニヤ笑いながら見ていたが、他の3人は憐れみの目で小平太を見ていた。




「よく来てくれたな。余が篁瑞守である。」

「お初にお目にかかります。巽の蒼衣です。こちらの2人が兄蒼士郎と槍頭の隼人です。」

「うむ、苦しゅうない、面を上げよ。遠路遥々ご苦労であったな。」

「早速ですが、ご依頼の内容を伺いたいのですが?」

「その前に一つ教えて欲しいのだが、よいか?」

「何でしょうか?」

「其方等、戦の他暗殺もできるか?」

「けほっ!失礼しました。暗殺ですか?あまり請け負ったことはありません。」

「そうか。実は余に無礼を働いた者がおってな。訳あって大っぴらに捕らえることができぬ。秘かに始末できぬかと思ってな。」


 今まで黙っていた蒼士郎が口を開く。


「遣り方を任せて貰えるなら…できなくはない。ただ、相手によっては高いぞ。」

「兄上!交渉は私の役目です。」

「分かっている。」

「そうか…。ならば頼んでみるかの。」


 そう言って篁はほくそ笑んだ。



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