日輪大社にて
おはようございます
時間は少し遡る。
皇太子である貴彦と、嫡子である明日彦をつれて日輪大社に来ていた豊秋彦は、御神域で採れた食材を食べることで、力量を満たすことができていた。時折御神域に現れる妖魔を弓の御力を使って討伐し、力量が満たされていることを実感する。
「貴彦、其方も力量が満たされただろう。この刀に御力を籠めてみて欲しい。」
「それは構いませんが…。」
貴彦は刀を手に取ると、祝詞をあげる。
「日輪の御山に座す、畏き日輪大神よ。この太刀にその御神力を与え給え。」
貴彦の持つ刀がほんのり光る。
「無事籠めれたようだな。」
「この刀で鬼退治をするのですか。私は一体何振の刀や槍に御力を籠めねばならぬのですか?」
「霊徳童子の話はしたな。奴を倒すためには多くの武具が必要になる。武具に御力を籠めることができるのは帝と其方だけだ。はっきりした数は言えぬが、相当な数が必要になる。」
「何故私がそこまでせねばならぬのです?鬼を退治するのは武士や鬼狩りの仕事。私には関わりがないことではないですか。」
「其方、本気で言っているのか?霊徳童子が鬼になる前は何者だったか知らぬとは言わせぬぞ。」
「それは知っていますが…。」
「皇の家から出た鬼を皇の家の者が関係ないとはどういう了見だ。皇の家の者から出た鬼が多くの民を殺している。そして霊徳童子はいつかこの国を統べると言っている。つまり、皇の家や朝廷を滅ぼすと言っているのだぞ。私も其方も殺されることになる。お前は黙って殺されるのか?」
「その鬼から我等を守るのが武士ではないですか。武士共は何をしているのです?」
「武士とて鬼に有効な武器がなくては戦えぬ。その武器を与えるのが帝の役目だ。」
「そんなものは武士共の怠慢でしょう。」
「では其方は日々何をしておる?国を統べる為に何を学び、何を鍛えているのだ?」
「そ、それは…。」
「武士達は日々鍛錬に励み、研鑽を続けている。その様子を一度でも見たことがあるか?そんなことでお前はこの国の頂に立つことができるのか?公家共にいいように使われるだけのお飾りでよいというのか?」
「父は…、帝はそれができていると?」
「いや、私に言わせれば不十分だ。今回も其方に全てを任せている。それだけ其方に期待しているであればまだ良いのだが…。」
「そうではないと?」
「いや、帝の御心までは私にはわからんが、私として御自らその役目を果たして頂きたかったが…。」
「分かりました。帝に代わり、私が務めを果たします。」
「すまぬな。其方が頼りなのだ。」
「とは言ってみたが、1日精々2〜3回が限界で、翌日は使い物にならん。これほど大変とは思わなかった。」
「国の命運が貴彦にかかっているんだ。やり甲斐のある務めだと思うぞ。」
「分かっているからやっているんだ。この間に明日彦は何をやっているんだ?」
「俺は自分の御力がまだ判ってないんだ。どうも弓の御力ではないらしい。今は色々探っているところだ。自分のやるべきことがある貴彦が羨ましいよ。」
「そうか。早く判ればいいな。どうせなら其方も武具への付与ができればいいのだがな。」
「ははは、それはないみたいだったよ。残念ながらな。」
「そうか、本当に残念だ。」
時間はサクヤが瑞の国守と会った頃に戻る。
貴彦が御力籠めに励んでいたある日、都からある男が豊秋彦のもとを訪れた。
「これは皇弟殿。御息災のようでなによりです。」
「経晟?何故このような所に?」
「はい、先日奴の情報を求めて瑞の国府まで行ってきたのですが、そこで面白い話を聞けたものでしてね。私も自分の力量が増えるのか、試してみたくなりました。」
「ほぅ、そうか。確かにここで暮らせば力量を満たすことができる。皇太子様も順調に武具への付与ができているぞ。」
「それは何よりですな。」
「しかし、其方にそれを教えたという者は何者だ?」
「はい。赤犬の社の宮司の養女でありながら山兵をしており、かなり腕の立つ者なのです。話をしていても中々の人物でして、まだ若いのに駆引きというものを知っています。」
「ほぅ、そのような者が…。」
(よもや、先日明日彦が出会ったという娘のことではなかろうか?)
「…どうかなされましたか?」
「いや、なんでもない。して、鬼の情報は得られたのか?」
「はい。その娘が実際に対峙したようで、怪我することもなく生き残っている唯一の者ということになりますな。」
「なっ!?奴とやりあったのか?」
(なんという無茶を!万が一のことがあったらどうする気なのだ。いや、万が一どころではないぞ…。)
「まぁ、唯一と言いましたが、実際には共闘した鬼狩りがいたらしいですがね。」
「そうか…。で、奴を倒すのに有益な情報はあったのか?」
「はい。その者が言うには『浄め』で鬼を弱体化できるとのことで。破魔の矢や武具に御力を籠めるのと同様に考えてよさそうです。」
「なるほど。それは良い情報だ。だが、『浄め』ができるものなど、そう多くはおらぬだろう。社との関係を改めねばならぬようだな。」
「実はそれに関しても、その者が面白い試みをしてくれましてね。日輪宮の宮司の力量を満たし『禊祓』をやらせたのです。そして、それは上手くいきました。」
「なに!?そのような事ができるのか!?」
「はい。ここにお持ちしました『綾の泉』という酒には、僅かですが御神力が含まれているようで、これを飲ませたそうです。私も実際飲んでみましたが、確かに少しだけ力量が溜まったような気がします。ただこれを飲ませただけで『禊祓』ができるようになったという話は、何か他にも裏がありそうな気がします。まぁ、その話はおいておいたとしても、日輪宮の宮司に『禊祓』ができるという事実が大事でして。これは皇弟殿の仰ってることが裏打ちされたと思うのです。因みにこの酒、非常に美味いので、一本献上させていただきます。」
「そうか、そのようなことが…。その娘、御力についてどこまで知っているのだろうな。社の者の知識が我等より豊富なのか、その者自体の問題なのか。中々興味深い話だ。このような酒があることを知っているというのもな。これは有難くいただこう。どうだ?今夜一杯付き合わんか?」
「私のような者がよろしいので?喜んでお付き合いさせていただきますよ。」
「そうか。因みにその娘、名を何というのだ?」
「はい。乾のサクヤという者です。」
(『サクヤ』か…。明日彦があった者と同じ娘だろうか?あれも同席させて確かめるか…。)
「豊秋彦が嫡子、明日彦にござる。」
「鐵右近でごさいます。以後お見知りおきを。」
「経晟は右近衛大将だ。この度霊徳童子討伐の勅命を受け、将軍として指揮を執っている。」
「皇太子様は?」
「御力を使い過ぎて寝ておられます。」
「そうですか…。やはり大変なようですな。」
「では、早速経晟の持ってきてくれた酒を頂いてみようか。」
豊秋彦が手を叩くと、三膳の肴と盃が運び込まれた。
「では、皇弟殿。」
「すまんな。ただ、皇弟殿はやめてくれ。豊秋でよい。」
「そうですか?では豊秋様、まずは一献。」
「ふふ、様も遠慮したいのだがな…。」
「いえ、これ以上は流石に不敬です。明日彦様もどうぞ。」
「私こそなんの地位もないので、様はおやめください。」
「ははは、謙虚ですな。」
明日彦が、返杯し3人で口を付けた。
「ほう!これは美味いな。少し甘いがあとに引かずすっと消える。」
「なんでしょう?これは…、力量が少しですが満ちていくような気がするのですが?」
「ほう、明日彦殿は良い感覚をお持ちのようだ。実はそういう酒なのです。」
「そうなのですか?」
「話によると、仕込み水に御神力が僅かながら含まれているのとことです。」
「よくこのようなものを見つけられましたね。」
「えぇ、実は赤犬の社の宮司の養女に教えて貰ったのですよ。」
「赤犬の社の…。もしや、女子にしては背が高く、凛々しくも美しい14〜15の娘でしょうか?」
「おや?よくお判りですな。乾のサクヤ殿というお方でして。礼節を弁えた若いのに頭の切れる女子でした。」
「サクヤ殿…。そういえば町の娘たちがそのように歓声をあげていたような気がします。ただ、私が身分を隠していたこともありますが、高位の者と分かった上で、かなり無礼な態度でしたが…。」
「ははは。確かに肝の座った娘でしたから、たとえ帝相手でも言うべきことは言うといった感はありましたな。しかし、歓声があがるとは、なぜまた?」
明日彦は宿場町で観た神楽の話を聞かせ、合わせて最初にあった時の話もした。
「なるほど。美しいだけでなく、非常に多才な方のようですな。」
(やはり同じ娘であったか。だが、それがコノハの娘かどうかは判断がつかぬな。)
「ところで経晟、其方は多忙な身のはずだが、何時まで此方に滞在するのだ?」
「それをお聞きしたかったのですが、力量を満たすのに、どのくらい滞在する必要があるのでしょうか?」
「力量に個人差があるので一概には言えぬが、7日から10日もあればよいのではないか。」
「そうですか…。では、取り敢えず10日を目安に滞在することにしましょう。もっとも鬼が出たということになれば、駆けつけねばなりませんが。」
「そうか、ではゆるりとしていけばいい。其方の御力は判っているのか?」
「はい。そこは聞いていますが、私に実際できるかは判りませんので、試してみようと思っています。」
「なるほどな。少しは退屈凌ぎになりそうだ。その間に各地の話でも聞かせてもらおう。」
「はい、喜んで。」




