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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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【閑話】苦労人藤十郎

おはようございます

今回は藤十郎目線のお話です

「いつもすまぬな、藤十郎」

「いえ。では、行ってまいります。」

「サクヤを頼んだぞ。」

「はい…。」


 藤三郎に見送られ、藤十郎はサクヤ達と共に国府へと向った。




 赤犬の社の宮守である藤十郎は、宮司である藤三郎と社務頭の藤五郎の弟だ。

 乾家の前当主であり前宮司の藤右衛門は子沢山だった。

 因みに、里には一夫一妻というルールはない。ないが、殆どそのようになっているのは、嫉妬が邪心に繋がるからだ。逆にそれを防ぐ為に一夫多妻になったり、多夫一妻になることもあった。

 そして、藤右衛門は11人の子供がいた。最初の妻とは5人の子宝に恵まれたが、長男の藤太郎は早世し、長女の柊は結婚して他の社の宮司の家に嫁いだ。3人目が藤三郎で藤四郎も早世。藤五郎が社務頭である。

 最初の妻と死別した後、後妻を迎え、6人目が次女の松だったが、10歳で病死した。7人目が三女の富で、彼女も嫁いだ。八人目が藤八郎で、他の社に婿入した。9人目は藤九郎も早世。この藤九郎を産んだ時の肥立ちが悪く、後妻は亡くなった。亡くなる前に側室として迎えていた元巫女の輝が藤十郎を産んでいる。輝はもう一人藤寿郎を産んでいるが、藤寿郎については前述した通りである。

 

 藤十郎は宮守になると弓寮に入り(破魔寮と兼務)、頭になった。

 長年頭としてお役目を全うしたが、年齢と体力の衰えを理由に山兵を引退したのが、サクヤが巫女になる1年前だった。

 引退後は宮司の補佐として新人教育や外交等に従事していた。


 平穏な隠居生活のつもりだった藤十郎の環境が一変したのは、他でもないサクヤが巫女になったためである。


 

 御力量りの儀の段階で彼の苦労人としての晩年は始まっていた。


 

「俺は量りの泉に石を放り投げた子を初めて見た…。」

「まぁ、そのような男子が。さぞきかん坊なのでしょうねぇ。勿論石は沈んだのでしょ?」


 藤十郎の妻『千鶴』は眉を八の字して困り顔で相槌を打つ。


「いや、それが女子なのだ。しかも、沈むどころか水面で跳ね返ったのだ…。」

「はい?」


 千鶴は意味が分からないという顔をしている。それはそうであろう。見ていた藤十郎が1番意味が分からなかったのだ。


「コノハのとこに一人娘がいるだろう。その子だ。」

「あぁ、えらく器量のいい娘がいましたねぇ。」

「そう、サクヤという娘だ。どうも巫女になりたかったわけではなかったらしい。明らかに投げやりだった。」

「でも、跳ね返るなんて…。」

「余程力量が多いのだろう。折角才があってもやる気がないのでは…。先が思いやられるな。」

「大変ですね。」


 

 千鶴の言った「大変ですね。」は、まだ序の口だったことを、当然知る由もなかった。


 その後もサクヤは、黒曜石の破魔の矢の鏃を破壊したり、女子なのに神楽を見事に舞ったり、弓の才能を見せたりと、それなりに騒動を起こしていたが、まだこの夫婦は微笑ましい話程度に考えていた。


 本格的に騒ぎを起こしたのは宿場町での奉納神楽だった。



「千鶴、神楽で観衆が興奮して騒ぎになるなど、考えれるか?」


 夫婦の会話は、ここ最近は殆どサクヤの話題だった。千鶴はサクヤを見かけたことがある程度で面識はなかったが、毎日の様に話題にあがることで、子供のいないこの夫婦にとっては、自分達の子供のような感覚になっていた。

 そんなサクヤがまたしても騒ぎを起こしたのである。


「またサクヤさんの話ですよね?なぜその様な事に?」

「サクヤの神楽が人を引きつける舞だという話はしたな。サクヤは本来舞う予定はなかったのだが、怪我人が出たことで代役にと頭が指名したらしいのだ。その舞が観衆を魅了したらしく、終了後にサクヤを見ようと観衆が舞台や帰りの神楽団に殺到したらしい。」

「へぇ~、それ程見事な舞なら、一度見てみたいものですね。」

「何を呑気な。だが、その話を聞いた藤五郎兄上が、社で神楽を開催して、参拝者を呼び込もうと画策している。案外、ここで観れるかもしれん。」

「あら、それは楽しみだわ。」

「俺は不安しかない…。」



 後日、社の神楽殿で行われた神楽には、千鶴も袖から見学することができた。しかし、観たのはあの惨状だった。



「なんというか、凄まじかったですね…。」

「あぁ、あれ程の事態になるとは…。神楽だぞ、人が演じてることは判りきっているはずであるのに…。」

「でも、姫舞の時は本当に素敵で見入りましたよ。そして、狐になる過程はドキドキして、本当に怖くなりましたもの。」

「そうだな。神楽であそこまで人を惹きつけ、感情を動かすというのは凄いことだと思う。公演としては失敗だろうが。」

「鬼や妖魔になる役さえしなければいいんじゃないです?」

「そうかもな。だが、竜造も流石に懲りたようだ。」

「勿体ない話です。才能を潰すようなことはして欲しくありません。」

「サクヤは、他のことも才があるから、神楽ができなくても他にいくらでも活躍の場があろう。」

「それでも勿体ないです。私はまたあの子の舞が観たいわ。」

「そうだな…。」


 結果としてサクヤは神専門で神楽を続けることになったので、千鶴は安堵した。



 しかし、サクヤに関わる騒動は、とどまることを知らなかった。

 その後も、妖鹿を退治したり、ともに御山に行って月読夜草の花を採取したり、鬼退治に行って回復薬で鬼を倒したり、酒に酔ったあげく禊祓をしたのではと騒ぎは続く。これはまだ配属が決まる前の話であることに気付いた藤十郎は、いよいよ真剣に不安になり始めた。



「サクヤに藤三郎兄上の子疑惑が持ち上がった…。」

「えっ?!何故そのような事に?」


 藤十郎は千鶴に事情を説明する。


「勿論、藤寿郎にも可能性はあるのだが、同時期に伊都の母と恋仲であったし、故人であるため話題にはあがらなかった。私は御力が違うので論外だな。」

「サクヤさんは多才過ぎて、疑い出せばキリがないでしょう。野暮なことはおやめください。」

「そうだな、詮無きことだ。しかし、まだ配属前だと言うのに、これだけ次から次へと騒ぎが起きるものか?」

「確かに多過ぎますが、あの子なりに一生懸命やった結果であって、悪気がある訳ではないのです。あの子の責ではありませんよ。」

「そうなのだがな…。」


 この時、サクヤが意図的に騒ぎになるようなことを、事あるごとにしでかすようになるのを知る由もない2人は、サクヤの健やかな成長を祈っていた。



 そして、サクヤの配属が決定する。


 

 弓寮と神楽寮という女子として異例の配属となったサクヤだが、1年目はそれ程問題を起こすことなく、その実力を遺憾無く発揮していた。


「まぁ、やっぱり凄いのね。配属1年で小隊長だなんて。」

「うむ、元弓寮の頭として、他の兵にも奮起して貰いたいところだが、実力が頭抜けているからな。兵法書も読み込んでいるから、隊を指揮させても的確な指示ができる。弓の腕も寮随一だからな。弥九郎も随分助けられているようだ。」

「最初は心配したけど、慣れてくれば落ち着きも出てくるのね。よかったわ。」


 しかし、丹次郎が死んだ頃から、サクヤの雰囲気が変わり始める。隠密寮での修行を経て、サクヤは凛々しく逞しくなった。




「サクヤが隣国で熊の妖魔を退治したのだが、その時その国の武士を斬ったらしい。」

「えっ!?あのサクヤさんが?その様な乱暴なことを?」

「非は向こうにあり、その者達は死罪になるであろう。サクヤにお咎めはない。なんでも、武士達が年貢を横領していたのを知って、領主に証拠を出したそうだ。」

「それにしたって、あの優しい子が…。」

「余程腹に据えかねたのだろう。その場で命をとるような事はなかったらしいが。ただ、その国の領主にもサクヤの存在を知られた。これから面倒なこのになる。藤三郎兄上はサクヤを形だけとはいえ養女にすると言い出した。」

「何故またそのようなことに?」

「宮司の養女なら将来の宮司候補だ。おいそれとちょっかいは出せなくなる。サクヤを守るにはよい方法ではあるのだが…。」

「それならいっそ、うちの養女にしたかったですね。」

「う、うん。そ、そうかな?」

「あら?貴方はそうでもないの?」

「いや、もし本当にサクヤがうちの子だと思ったら、胃の臓に穴が空くくらいでは済まないだろうと思ってな…。」

「確かに心配かもしれませんが、うちの会話の殆どがサクヤさんのことですよ。実の子並みに気掛かりじゃないですか。」

「確かに…。話題に事欠かないからな。それだに先が思いやられる。」


 そんな藤十郎の心配は杞憂に終わらない。


 丹の国の使者に喧嘩を売り、招かれた丹府の日輪宮の宮司にも喧嘩を売り、挙句国守の息子を殴り倒した。それでも丸く納めて(日輪宮は納まってないが)、丹守を味方につけたのだから、サクヤの外交力は評価されるべきだ。だが周りの者の神経は擦り減った。


「無理だ…。千鶴、私にはサクヤの面倒は見切れない。胃の臓がいくつあっても足らぬ…。」


 藤十郎は丹府での出来事を千鶴に聞かせた。


「ふふふ。サクヤさんは何も間違ってないわ。本当に肝が据わっているというか、周りが見えているし、機転も利く。振り回されてる大人が情けないだけじゃない。」

「その場におらぬからそんなことが言えるのだ。喧嘩を売った理由が気晴らしだとか、ちょっとイラッとしたとか…。気ままにも程がある。」

「でも、サクヤさんの主張に間違いがあって?」

「ない。ないから困るのだ。しかも、結果として丸く納まる。私のような凡人にはついていけないのだ…。」

「そう…。でも、弥九郎さんを含めて一蓮托生なんでしょ?腹を括りなさい!」

「ぐぅ…。」




「駄目だ…。千鶴までサクヤの味方だ。私の逃げ場はなくなった…。」

「藤十郎さん、うちもです。しかも、平八郎の馬鹿が、俺がサクヤに邪な心を抱いたなんて嫁に喋ったもんだから、家で愚痴ってもサクヤの名を出すだけで白い目で見られるんですよ!」

「そ、それは…キツイな…。弥九郎、薬は足りているか?」

「あの薬を飲むと、凄く矛盾した気持ちになるんで、胃は良くなっても、頭がおかしくなりそうなんです…。」


(私はまだ弥九郎よりはマシかもしれないな…。)




 その後もサクヤは都の高貴な男と知り合ったり、強い鬼と死闘を繰り広げたりと、藤十郎の心労は増すばかり。

 白狐の社に行っている間は束の間の休息であった。

 だが、帰ってきたと思ったら、櫛ノ輔と知り合いになってたり、野盗を殲滅したりと相変わらずで、とうとう将軍に呼び出された。



「私の心労が晴れる日は来るのか?それともこのまま朽ち果てるのだろうか…。」



 藤十郎の苦労は、残念ながらこれからも続くのである。



【設定裏話】

この話に出てくる神楽のモデルは、広島県の芸北地方を中心に舞われている神楽です。エンタメ性が強く、地元でも人気があり、商業施設の催しに呼ばれたりと目にする機会も多いです。広島市中心部や安芸高田市では定期公演も行われており、YouTubeに動画も上がっているので、気になる方は見て頂けたらと思います。

ですので、用語などもこの芸北神楽で使われる物を活用させていただきました。


次回は本編に戻ります。感想、評価、リアクションをお待ちしております。

是非ブックマークしてお楽しみ下さい。

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