押し掛け禊祓教室
おはようございます
「なんとも拍子抜けする将軍様だったな。あんなに威厳がなくてよいものなのか?」
「話が判る方ではあるようだ。ただ、あの少将という男は、かなり腕が立ちそうだ。」
弥九郎と藤十郎が邂逅する。
「いえ、かなり計算高い方でしたよ。あ れは素もあるのでしょうが、こちらから情報を引き出すための演技だと思います。相当な食わせ物ですね。そして、隣の男より余程腕が立ちます。あれ程の隙のない者は滅多にいません。」
「それほどなのか?そんな風には見えなかったが…。」
「見えないように振る舞ってますね。特に私が朝廷のあり方について話した時、明らかに雰囲気が変わりました。不問にすると言いながら、明らかに殺気を放って脅しをかけてましたし。」
「確かに。あれには肝が冷えた。」
「思わず素が出たのでしょう。こちらの弱みを見つけて、嬉しくなったのでしょうね。」
「あの話しをしたのはわざとか?」
「相手がどうであれ、あの話はするつもりでした。その為に来たようなものですから。」
「やはり胃に悪い…。」
「しかし、日輪宮と大社が揉めて、派閥争いをしているというのは収穫でした。もしかすると付け入る隙があるかもしれません。」
「付け入る隙…。何を考えている?」
「今は何も。いつか使える時が来るかもしれませんけど。そんなことより、折角国府まで来たのです。見物がてらに日輪宮に喧嘩でも売りに行きませんか?」
「「ぅおい!」」
「冗談ですよ。」
「お前の場合冗談に聞こえないんだよ!実績があるからな。」
「そんなこともありましたか?兎に角、見物には行きましょう。」
「何で国府の見物だけでこんなに不安になるんだろか?」
「中々面白い娘だったな。良い話が聞けた。」
「将軍様、お戯れが過ぎるのでは?余りにも将軍としての威厳が…、」
「将軍などと威張っていては、聞きたいことも聞けないからな。もっとも、あの娘ならお構いなしで言いたいことを言うかもしれないが。」
「あのような無礼をお見逃しになるので?」
「あれは使えるよ。間違っても敵に回さないほうがいい。皇弟殿と意見が近いのも面白い。」
「やはり、皇弟様を担ぐので?」
「それはあちらの出方次第かな。皇弟殿が帝を裏切るというのも考え難いし。どちらにせよ、私は実績が足りていない。そう言う意味でもあの娘は利用価値が高いよ。」
「こちらの思うように動かせるでしょうか?」
「そこなんだよなぁ。だから、余り機嫌を損ねるような言動は謹んでくれよ。」
「…承知しました。」
「ところで、我々も山の民の末裔なのだが、御力を持っているのかなぁ?」
「それこそあの娘に聞けばよかったのでは?」
「それなんだよぉ。ボロ出さないようにって気を付けてたら聞き忘れちゃったんだよぉ。」
「呼び戻しますか?」
「いや、彼等も直ぐには帰らんだろう。散策して1泊くらいするんじゃないか?町でバッタリ遭遇してみよう。」
「はぁ…。国府館に泊まるとは聞いてませんので、泊まるとしても宿になるかと。」
「どうせ監視は付けてるんだろ?」
「抜かりありません。」
「じゃ、報告を待とう。」
「将軍様に会ったんだって?どのような御方だった?」
小平太は興味津々で聞いきた。
「おおよそ将軍には見えない御方だが、実力を隠して飄々と人を欺くのに長けた方だ。」
「凄い評価だなぁ。想像と全然違うんだが。」
「全く武張った感じが無い御方でなぁ。サクヤの意見を聞くまでは、親しみやすい御方だと感じた。」
「サクヤの評価は合っているのか?」
「実際手を合わせてみないことには正確には言えないが、まず間違いないだろう。」
「実際に手を合わせる状況にならないことを祈ってるよ。」
サクヤ、小平太、藤十郎、千代の4人で国府の街を散策する。弥九郎は胃の臓が痛いと言って宿で休んでいる。
護衛の兵達も各々散策している。護衛ということで来ているが、サクヤより腕の立つ者はいないので、体裁を整えるためだけに着いて来たようなものであった。
(こんなとこにも綾の泉が売られている。そうだ、いいことを思いついた。)
「手土産に買っていこう。」
サクヤは酒屋に寄ると、綾の泉を一本購入した。
「手土産って誰にだ?」
「日輪宮に決まっている。」
「お前、喧嘩を売りに行く気か!?」
「いや、目を覚まして貰うだけだ。きっと感動に打ち震えるだろう。」
「言っている意味が分からないが、嫌な予感しかせぬな…。」
(さて、仕込もしっかりしておかなければな。)
サクヤ達は日輪宮にやってくると、宮司に面会を求める。
「そんなに簡単に会ってもらえるのか?」
「今朝廷から来ている、ある高貴な御方の命により面会を所望すると、適当な事を言ったら、宮守が慌てて走っていったから多分大丈夫だろう。」
「完全に嘘じゃないか…。」
「いやいや、将軍に呼ばれて来たわけだし、鬼に関係する要件だ。協力するって話もしたわけだから、全部が嘘ではない。」
「一体何の話をする気なんだよ。鬼が関係するって。」
「まぁ、直にわかる。」
少しすると、宮司と思われる男が同様を隠しきれない顔でやってきた。
「宮司の道春です。どのような御要件でしょう?」
「私は赤犬の社の宮司の養女で、乾のサクヤと申します。さる御方の命で、鬼の討伐についてご相談にあがりました。」
「赤犬の社?」
道春は訝しげな顔でサクヤを見るが、朝廷の高貴な者の命であれば無碍にもできないため、応接室に通してくれた。
「では、改めて要件を伺いましょう。」
「はい。まず、お伺いしたいことがございます。」
サクヤはにこやかに質問を始めた。
「日輪宮に宮司であられる道春様は、宮司という要職を就かれるほどですから、帝に連なる貴重な御力を持つ者の血筋と推察しますが、間違いないでしょうか?」
「そ、それは、まぁ、勿論。宮司ですから、当然ですな。」
「ということは、日輪大社の宮司と同族ということでしょうか?」
「そう、日輪宮の初代宮司は日輪大社の宮司の兄で、我々はその血筋です。嫡流ですので、こちらが正当な血筋と言えますな。」
「ですが、今はその御力が失われている、というこで間違いないでしょうか?」
「む、確かに。我々には禊祓の力はない…。」
「日輪大社の宮司は、今でも禊祓の御力を使うことはできるのですか?」
「そう聞いている…。」
「そうですか。ならば、宮司様のような『高貴』な血筋の者であれば、条件さえ整えば御力が使えるのではないかと愚考します。今回お伺いしたのは、試していただきたいことがあるからなのです。」
「試す?」
宮司はおだてられ気をよくしていたが、サクヤの願いに訝しげな顔をする。
「小平太、例のものをこれへ。」
「はい。」
(って、これ、ただの酒だよな…。)
小平太は先程サクヤが買った『綾の泉』をサクヤの横に置いた。
「こちらは『綾の泉』のいう、最近評判のお酒です。実はこのお酒には、僅かに御神力が含まれていまして。飲めば力量が回復するのです。」
「力量?」
「はい。御力を使うには御神域で産出された水や食べ物をとり、そこから身体に蓄積して力量を満たす必要があります。我々山の民は、御神域で生活していますから、常に力量が満たされていて、御力を使うことができるのです。町に住むものには難しいことなのですが、この『綾の泉』を飲めば、町にいても力量を満たすことができ、飲み続ければ宮司様も禊祓ができるようになるのでは?と考えたわけです。」
「そ、そのようなことが?本当に可能なのか?」
「あくまで推論ですが。しかも、この酒に含まれる御神力は多くありません。毎日飲み続けなければ禊祓をできるほどにはならないかと思われます。そこで、どの程度効果があるのか?宮司様に試してみて頂きたいのです。」
「なるほど…。しかし、何故そうまでなさるので?サクヤ殿に利があるとは思えませんが?」
「それは朝廷のさる御方の命があるからです。我々は鬼がこれ以上増えるたり、力を付けるのをなんとか阻止したいと考えています。そのためには、巷に溢れる穢れと邪心を祓う必要があるのですが、我々社の力だけでは限界があります。そこで、高貴な血筋で、朝廷からの信任も厚い日輪宮のお力を頼りたいと考えたのです。」
「なるほど、そういうことですか。ならば御協力することも吝かではありません。」
「ありがとうございます。では早速、こちらのお酒をお試しください。お口に合うかわかりませんが、私は大変好きなお酒なのですよ。」
サクヤが微笑むと宮司が少し蕩けた。
盃を2つ用意してもらい、注ぐ前にサクヤは御力を籠める。
(御力を水増ししておこう。)
毒見を兼ねて、先にサクヤが口を付ける。それを見た宮司も口を付けた。
「ほう!これは美味しいお酒ですな。これなら毎日でも飲みたい程だ。」
「お口に合ったようで何よりです。この酒は国府でも買えるようですので、是非お求めください。御力を使うためですから、経費で買えると思いますよ。」
「なるほど!それは良い話を聞きました。」
宮司が邪な顔をしているのを見てサクヤは少し呆れたが、唆したのは自分なので何も言わない。
「おや?何だか身体が熱い、不思議な感覚が…。」
「それが御力です。」
サクヤは懐から勾玉を2つ取り出す。
「この石は穢れや邪心等を一時的に封じ込めることができる石です。2つとも現在封じ込めている状態で、少し濁っています。私が今から禊祓を行い、一つを祓います。宮司様は後程私の真似をして、もう一つの石を祓ってください。」
そう告げると、返事も聞かずに禊祓をはじめる。
「日輪の御山に座す、畏き日輪大神よ。この石に満ちた穢れを祓い給え。」
祝詞をあげて石に手をかざすと、石はほんのり光って澄んだ緑色になった。
宮司は驚きの顔で石を凝視する。
「では、やってみてください。祝詞を唱えると御力が体内で動くのが分かると思います。その力をそのまま石に流すのです。」
「や、やってみましょう。」
宮司はサクヤと同じ様に祝詞をあげ、石に手を添えた。
石はほんのり光って澄んだ緑色に変わる。その直後、宮司がふらついた。
(あっ、力量が空になったんだ!)
サクヤは慌てて宮司の体を支えると、宮司に御力を籠めた。
「大丈夫ですか?」
「う、す、済まない。大事ない。」
「力量が空になると気を失うことがあります。宮司様は初めて御力をお使いになったので無理もないことかと思われます。それでも禊祓は見事に成功なさりましたよ。」
「そ、そうか、できたのか…。」
「はい。しかし、ご無理をさせてしまい、申し訳ありません。」
「いや、サクヤ殿に教えていただけなければ、私は禊祓をできないままであった。これこそが宮司の本来の姿なのだな…。」
宮司は疲れた顔で石を見つめた。
「貴重な経験をさせてもらった。先程の話は是非とも協力させていただこう。」
「ありがとうございます。我々も足を運んだ甲斐がありました。ですが、ご無理はなさらないよう、ご自愛ください。」
「かたじけない。そこまで送ろう。」
サクヤ達は宮司の見送りを受け、宿への帰路に着く。
「あのような穏便なやり方ができるのならば、何故毎回そうしないのだ?」
藤十郎がサクヤに問うた。
「簡潔に言えば面倒臭いからです。」
「頼むから、その手間を惜しまないでくれ。」
「今のは冗談ですが、これからは今のように日輪宮の協力も取り付けないと鬼に対抗できないでしょう。私が全ての日輪宮を回るわけにも行きませんし、道春殿が今回の経験を広めてくれればいいのですが。」
「そこはどうだろな?余り期待できない気がするが。」
「そこは将軍様にも協力して頂きましょう。」
「将軍様まで利用する気か!?」
「話を持ち掛けてきたのは将軍様ですからね。」
「本当に怖いもの知らずというか、俺はサクヤが1番怖いわ。」
「あら?また人を妖呼ばわりする気?」
「そんなことは言っていない!断じて違うぞ!」
「そんなに必死にならなくても。」
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