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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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国府からの使者と将軍

おはようございます

将軍の登場です


 サクヤが応接室に着くと、警備の山兵が迎えてくれた。


「サクヤ様、宮司が中でお待ちです。」

「ありがとう。」


 中に入ると、宮司と藤十郎、弥九郎と藤五郎がこちら側に並び、上座側に国府からの使者と思われる男が座っている。


「サクヤ、お呼びにより参上しました。」

「うむ、こちらに座ってくれ。」


 藤十郎に言われ、左端の弥九郎の隣に座る。


「其方がサクヤ殿か。私は国守の使いで瑞の大輔、水野伊左衛門と申す。」

「乾のサクヤ、弓寮の隊長格です。」

「噂は予予聞いている。熊の妖魔を一撃で倒す腕前だとか。若い女子で美しいとは聞いていたが、噂以上ですな。」

「恐れ入ります。」

「それでは早速本題だが、今国府に朝廷からさる御方が来られておって、サクヤ殿のお話を伺いたいとのことで、是非国府までおいでくださらないかと。」

「国府に?どのような要件でしょうか?」

「それが…。実は私も聞かされておらぬのだ。」

「要件もわからずに来いとおおせで?」

「いや、申し訳ない。高位の方ゆえ、我々も強く出れぬ。あくまで御協力をというものなのだが…。」

「水野様も難しい立場なのは承知しました。朝廷の御方なら、私も聞いてみたいことがあります。御期待に添えるかは判りかねますが、そちらに赴きましょう。」

「そうか、それはありがたい。」


 宮司達は微妙な顔をしているが、断ってもよかったのだろうかとサクヤは考える。だが、どちらにしてもこんな顔になるのだろうと思い、考えるのをやめた。


「では、私は先に戻り来訪を知らせる。半兵衛というものを残していくので、準備ができたら出立願う。」

「分かりました。こちらからはサクヤと弥九郎、藤十郎と護衛の兵を数人付けさせて頂く。」

「承知した。受け入れの準備もあるゆえ、3日後に出立して頂きたい。」

「承知した。」


 こうして水野は帰って行った。



「さて、どのような要件か?サクヤは方々で問題を起こしておるから、心当たりが多過ぎて的が絞れんな。」

「そんなに問題は起こしておりません。」

「サクヤ、聞いた所によると、櫛ノ国でも野盗を多く殺傷して、櫛ノ輔の世話になったとか。」

「こちらに非はありません。あの国はまともに旅もできぬ有様で、国府軍に合力しただけです。」

「確かに、あの国は争いが絶えぬとは聞いていたが、そんなに酷い有様とはな…。」

「穢れと邪心が蔓延しています。野盗共を殺めたとき、危うく私も飲まれかけました。」

「サクヤが!?そこまでか…。やはり、丹の国と似たような事情か?」

「はい。丹の国より酷い状況です。あれでは鬼が増えるのも理解できます。」

「そうか…。案外その話も関係するのかもしれん。ただ、くれぐれも朝廷の御方に喧嘩を売るようなことはしてくれるなよ。」

「相手の出方次第ですが、心に留めておきます。」

「頼むぞ…。」


 サクヤと宮司が話し終えると、弥九郎が溜息をついてから会話に加わる。


「この度も宮司は当事者にはならないのですね。」

「サクヤ、弥九郎に胃薬を用意しておいてやってくれ。」

「できれば原因を除いて欲しいのですが。」

「諦めろ。最早避けらぬ災害だ。」

「だから、そう言う話は本人のいないところでやってください。」

 

 サクヤは3人をジト目で見てから部屋を後にした。


(しかし、朝廷の者か。案外いい機会かも知れないな。)




 3日後、準備を終えて里を出発する。


「半兵衛殿、宜しくお頼みします。」

「いや、こちらこそ宜しくお願いします。」


 半兵衛は国府の役人だが、腰の低い男だった。


 里から瑞ノ国の国府までは約3日。里から宿場町に出て街道を北上し、北西方向に進む。瑞の国府から更に北東に上れば都である。


 途中、何事もなく国府に着いた。要所要所に警備の兵が立っており、思わぬ要人対応に驚かされた。

 

 国府に着くと、直に応接室に通される。


「赤犬の社山兵隊長格、乾のサクヤ、参上しました。」

「おお、これはこれは、遠路遥々すみませんね。私は…、」

「ごほんっ。」


 返事をした男の側に立つもう一人の男が咳払いをし、話を止める。


「将軍、体裁がございます。」

「そう?じゃあ、任せる。」

「こちらにおわすは、征鬼せいき大将軍、くろがね右近衛大将様だ。畏れ多い、控えよ。」

「少将よいよい。彼等は我等の及ばぬ者達だ。こちらの仕来りに倣う必要はないさ。」

「しかし…。」

「いいんだ、晟景。」

「畏まりました。」

 

 将軍と呼ばれた男の言葉に、少将と呼ばれた男は黙った。

 将軍は背は高いが痩せ型で、瞼が半分閉じた眠たそうな目をして微笑みを絶やさない。将軍という武張った感じはまったくない男だった。



「じゃあ、改めて。私は…、もう将軍って言ったからよいか。とはいえ、将軍なんて肩書で呼ばれてもこそばゆいから、右近と呼んでくれ。」

「では、右近様。」


(ここでも『右近』か。ややこしいな。)


「様もいらないんだけど…、少将の目が怖いからそれでいこう。」


 将軍改め右近は肩を竦めて苦笑いする。


(なんとも、掴みどころがない御方だな。)


「しかし、話には聞いていたが、本当に若いのだな。君が霊徳童子と渡り合った山兵で間違いないかな?」

「はい。霊徳童子を御存知なのですね。」

「本当なのか…。凄いなぁ、初めてだよ、奴とやり合って生きている者に会うのは。」

「生きている?」

「そう、生きている。私も見たことはあるんだけどね。だからこそ名前も知っているのだが。多くの兵で取り囲んだにも関わらず、奴が逃げおおせてくれたから私もこうして生きている。」

「何故名前を?」

「質問しているのは将軍様だ!」

「少将、黙っててくれる?」

「…は。」

「すまんね、話の腰を折って。名前を知っているのは、堂々と名乗りを上げたからだ。そして自分が世を支配すると言って笑って逃げて行った。」

「同じですね。」

「そうか、君の時も同じだったか。当時私はしがない中級公家で右馬介にすぎなかったんだが、唯一奴に遭遇して生き残った公家ということで、柄にもなく右近衛大将などという大層な地位を賜ったわけだ。そんなだから、高貴な話し方なんて身に付いてなくてね、砕けた口調は許して欲しい。」


 サクヤは曖昧に相槌を打つ他なかった。


「で、今回肩書通り、征鬼大将軍として霊徳童子の討伐という勅命を受けたわけだが、とんと足取りが掴めなくてね。瑞ノ国のある里を鬼が占拠したという情報が入ったから、駆けつけようとしたら、君が先に殲滅していたわけだ。」

「なんだか、申し訳ありません。」


 何故か弥九郎が謝罪した。


「いやいや、霊徳童子がいるという情報があったわけではないんだ。もし先に我々が遭遇していたら、恐らくこちらが殲滅させられただろうな。」

「そのようなことは!」

 

 少将がいきり立つ。


「あぁ、すまんすまん。だが、打ち倒すほどの戦力も手段もなかったことは確かだ。」

「…出過ぎたことを言いました。」

「いいんだ。武士の意地もあるだろうし。」

 

 少将は俯いたまま黙り込む。


「ところで、本当によく無事に生き延びたものだ。奴と対等に渡り合う秘訣か何かあるのなら教えてくれないか。今のところ武士も鬼狩りも打つ手がないのが現状だ。」

「ないわけではありませんが、その前にこちらも聞きたいことがございます。」

 

 右近は意外だなという顔でサクヤを見ると、質問を促した。


「右近様は朝廷の御方であり、失礼を承知で聞かせて頂きますが、何故日輪宮のような無能を崇め、社を蔑ろになさりますか?」

「おいっ!」


 少将がまたしてもいきり立つが右近が止めた。


「無能?日輪宮がか?」

「はい。禊祓もできない宮司など、何の役に立ちましょう。巷に穢れと邪心が溢れていることが、鬼の温床になっていることにお気付きでしょうか?」

「もう少し詳しく教えてくれるか?」

「はい。本来、宮や社の宮司は禊祓の御力を持つ者が務めているはずです。しかし、日輪宮の宮司は御力を持たず、朝廷は社との関係を絶ち、結果穢れと邪心を払えぬまま怨念を残して死んだ者が怨霊となります。怨霊は怨念を持った人間を喰らい、実体を持った鬼になります。帝は日輪大神の末裔であれば、禊祓の御力を持ち、破魔の矢や浄化の御力を籠めた武具を武士や鬼狩りに与えることもできるはずです。何故それができないのでしょうか?」

「なるほど…。其方は皇弟殿と似た考えを持っているようだな。」

「皇弟殿…?」

「いや、こちらの話だ。中々答えの難しい質問だな。少将の顔色を見てわかるように…、今の君の話は、取締りの対象にすらなり得る話なのだが、今回はこちらの要請に従って協力をしてもらっているわけだから、不問にさせてもらうよ。」

「…。」

「そんな顔をしなさんな。折角の美人が台無しだ。眉間に皺が寄っている。」


 そう言われ、サクヤは表情を戻す。


「君の言う通り、日輪宮は日輪大神を唯一の神として崇め、他の神を神と認めていない。だが、これはあくまで『日輪宮』の話だ。『日輪大社』はそのようなことは言っていない。日輪宮側は日輪大神をお移しし、遷宮したと言っているが、大社側はあくまで分祀であって、遷宮を認めていない。朝廷は日輪大神の遷宮を勧めたわけだから、当然日輪宮側だ。だが、朝廷内にも大社の側につく者もいる。これが派閥闘争なんて始めちゃうわけだ。」

「そうなのですね。では、どうすれば大社側の言い分が通るようになるのでしょうか?」

「その辺りは私のような者ではなく、もっと高位の殿上人達が決めることだ。私はどちらの派閥でもないし、相手にもされてない。」


 右近は肩を竦める。


(何かを誤魔化しているが、嘘は言っていないようだな。)


「で、鬼を退治する有効手段とは何かな?」

「早い話が『浄め』です。」

「『浄め』?禊祓のことかな?」

「禊祓も浄めですが、鬼に向け呑気に禊祓の儀式をする暇はないでしょう。浄め、或いは浄化とも言いますが、その御力を籠めた破魔の矢や、武具、そして薬も有効です。以前、それ程強くない鬼に回復薬を飲ませたら死んでしまいました。回復薬自体より、それに込めた御力に殺傷能力があったのではないかと考えています。」

「ほう。それは興味深い話だ。だが、御力を使える者が必要なのだろ?君は使えるのかい?」

「私だけではありませんが。宮守や巫女のお役目に、破魔の矢に御力を籠めるというものがあり、力量があれば誰にでもできることです。」

「なるほど…。そして、君なら他の者よりより強力な御力が使える。そういうことかな?」

「さて?私は自分の里の事しか知りませんので、他の社にはより多くの力量を持つ者もいるかもしれません。」

「そうかもそれないね。ありがとう。大変参考になった。」

「いえ、大したお力になれず。」

「いやいや、初めて聞く話が多くて勉強になったよ。あ、最後に一ついいかい?」

「何でしょうか?」

「君は今奴と戦ったら勝てるかい?」

「さあ?やってみなければ判りませんが、最善を尽くすつもりです。」

「そうかい。もしかすると、君に合力を頼む事があるかもしれない。その時は協力を頼めるかな?」

「合力した方が有効的だと思えば…。」

「なるほど。期待するとしよう。今日はありがとう。気をつけてね帰ってくれ。」

「では、失礼します。」


 サクヤは浅く礼をすると、部屋を出た。

 右近は最後まで微笑みを絶やすことはなかった。


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