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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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【閑話】離職の巫女 前編

おはようございます


 赤犬の里には因習がある。

 成人を迎えた男女は、夫婦になる相手がいる者以外、成人の儀の夜に集められ、乱交を行う。



「はぁ~、本当にどうしよう…。」


 巫女寮の頭、静はもうすぐ成人である。社に務める者巫女は、成人すると社を離れる。頭も例外なくその務めを終える。なので、巫女寮の頭は、他の寮の頭に比して若い。


 静には夫婦になる予定の相手がいなかった。




「そりゃ、頭になるほど優秀で、器量も良いとなりゃ、引く手数多だろうに。いい男くらいいたんじゃないの?」


 静は寮の同期である柚葉と、馴染みの甘味処で愚痴り合っていた。


「いい男って言ってもねぇ。意外と寄ってこないものよ。」

「高嶺の花過ぎるんだよ、静は。」

「私から言い寄りたくなるような殿方もいなかったし。かといってアレは嫌だしなぁ。」

「で、どうすんの?」

「貴方こそどうするの?」

「私はアレを受け入れるさ。やってみりゃあ案外相性のいい相手がいるかもしれないしね。」

「柚葉は達観しているのね。私には無理だわ。そもそもなんであんなこと。誰が決めたのよ!」

「この里は邪心を得ることができないだろ?皆に公平に機会を設けるってのが発端って聞いたな。」

「なにそれ?馬鹿みたい…。」

「恨みや妬みは邪心の素ってことらしいわ。でも、もう一つ深刻な理由があって、嫉妬から邪心を持つ人が増えたせいで、妖に食べられたり、妖魔が増えて殺されたりで、山の民の数が危機的に減ったらしいのよ。だから、産めよ増やせよと乱交に走ったらしいわ。」

「初めて聞いたわ、そんな話。でも、今はそこまで深刻じゃないでしょ?」

「だから、夫婦になることが決まったものは対象外になっているわ。ただ、妬みや僻みを持たせないために残ってる因習らしいよ。」

「そういうこと…。でも、適齢期なんて其々でしょ?私はまだ独り身を謳歌したいし、まだ運命の相手に出会ってないだけかも知れないでしょ?」

「じゃあどうするのさ?」


 静は俯いて考えた後、決意したように顔をあげた。


「…もう里を出るしかないわよねぇ。」

「本気?」

「他に選択肢はないわ。せめてサクヤさんが私より歳上なら、状況を打開する突破口になったかもしれないけど。」

「あぁ、あの山兵になった神楽を舞う女の子ね。確かに破壊力がありそうよね、あの子。」

「そうなの。私の手には負えなかったくらい。」

「残念ね。貴方の方が歳上だもん。」

「はぁ~、仕方ない。里を出るわ。今までにもそう言う人はいたし、何とかなるでしょ。」

「そう言う意味では、サクヤって子の母親のコノハさんは意外だったわね。」

「そうね。あの人も美人で優秀だったらしいけど、アレに参加するとは思われてなくて、大騒ぎになったらしいから。」

「あの人の相手って、本当に小六さんなのかなぁ?」

「でも、小六さん以外とは褥を共にしなかったって聞いてるわ。他に考えられないじゃない。」

「でも、サクヤって子凄い美人だけど、コノハさんにソックリって訳でもないのよ。そして、小六さんとも全然似てない。」

「…確かに。そこはコノハさんのみぞ知るってとこね。」




 静は帰宅すると、両親に里を出ることを告げた。静の両親は成人までに夫婦になる約束を交わした夫婦だ。

 因みに、結婚自体は成人の儀まで決まっていなくてもできる。乱交で相性が良いと思ったら相手と結婚することもあるし、制限はない。乱交もその場限りではなく、有志で集まり、年齢に関係なく行われることもある。その場合参加は自由だ。それがしたいがために独身のままの者もいるが、集まっても相手の同意がいるので、参加のハードルは低い。そのせいもあってか、この里は性に関して開放的である。

 一方で静のような者も当然いるので、里を出る者も定期的に発生する。そして、それはそれとして布教や情報収集の役割を与えられ、手当を貰えたりもするし、一時的に帰って来ることもできる。


「そうか、そんな気がしていたんだ。いい人がいるとも聞かなかったし…。」

「静がそうしたいならそうしなさい。家の事は心配しなくても、静太もいるから大丈夫よ。」

「うん、ありがとう。偶には帰るようにするわ。」


(なんだか、あっさりしてるわね。期待されてなかったのかしら、私。)



 翌日には宮司と藤十郎にも告げた。


「そうか、そんな気はしていたのだがな。では、『犬飼』の姓を使うがよい。」

「寂しくなるな。後任の頭の相談もある。その日までは宜しく頼むぞ。」

「はい、ありがとうございます。」


(家族といい、宮司達といい、なんでこんなにあっさりしているのかしら。)




「って感じでね、私、期待されてなかったのかなぁ?」

「察するとこがあって、かといって因習も変えれないから、快く送り出すしかなかったんじゃない?」


 静は例によって柚葉と甘味処で愚痴を溢していた。


「里を出るのはいいんだけど、どうやって生きて行こうかしら。手に職もないしねぇ。」

「販促寮にいたんだから、売り子くらいはできるでしょう。何処かの店で奉公でもさせてもらえば?」

「そうねぇ、その線からあたってみるかなぁ。とりあえずは宿場町を辿って職探しね。」



 そして、里を出る日を迎えると、別れもあっさりしたもので、涙一つなく静は里を出た。



「少しだけ寂しくなりますが、静なら何処でもやっていけるでしょう。」

「そうだな。なんせ、頭の中で1番若かったが、1番達観していたからな。偶には帰ってくるだろう。」

「正直、厳しのがいなくなってホッとしているのですが、顔に出す訳にもいきませんしね。」

「だよなぁ。静さん、怒ると怖いもんなぁ。」


 社では、静に期待していなかったのではなく、家族も含め皆が単純に恐れていただけだった。




(さて、とりあえずは宿場町に行ってみますか…。)


「あら、静さんじゃない。」


 宿場町で食事処を営む女が声をかけてきた。神楽団でも偶に世話になっていた。


「実は里を出ることにしまして、仕事を探しているのです。何かいい仕事ありません?」

「仕事ねぇ…、うちは手が足りてるし…。宿なんてどうだい?住み込みで働けるんじゃないかい?」

「ありがとうございます。訪ねてみます。」


 静は宿屋に行く前に色々聞き回ってみたが、仕事にはありつけなかった。


「仕事ねぇ。ごめんねぇ、今はうちも手が足りててねぇ。」

「そうですか。では、今晩泊まりたいのですが、部屋は空いてますか?」

「部屋なら空いてますよ。では、改めていらっしゃいませ。」


 女将は部屋に案内してくれた。


(そう簡単にはいかないか。明日は何処に行ってみようかしら。)


 夕餉の時間になり、部屋に膳が運ばれて来る。


「ありがとうございます。あら?お酒は頼んでいませんが?」

「雇ってあげれなかったから、これでも飲んで元気になってちょうだいな。お代はいいからね。」

「ありがとうございます。有り難くいただきます。」


 女将が酌をしてくれたので、早速飲んでみた。


「美味しい…。こんな飲みやすいお酒初めてです!」

「最近評判のお酒でね、街道を南に下った『乃美の宿』で造られているお酒なの。」

「へぇ~、なんと言う銘柄なんですか?」

「え〜と、確か『綾の泉』だったかしら。」

「乃美の宿の『綾の泉』ですか。憶えておきます。」


(特に宛もないし、明日にでも行ってみようかしら。)


 

 翌朝、静は乃美の宿を目指し出発した。

 

 乃美の宿に着いた静は、『綾の泉』の蔵を探すため、人に声をかけようとしたとき、酒屋の前で男女が揉めているが目に入った。


「なんでうちの酒を置かせてくれないんですか!」

「女が造った酒なんて不浄な物、置けるわけがないだろ!」

「誰が造っても酒は酒でしょ!貴方は不浄な酒が飲んでわかるわけ?」

「五月蝿い!駄目と言ったら駄目だ!」

「もういいわ!あんたのとこには頼まれても置かせないから。」


 女は店から立ち去ると、川上に向け歩き出したので、静は追いかけて声をかけた。


「すみません。先程酒屋さんと揉めておられましたが、何事か教えていただけますか?」

「貴方は?」

「私は犬飼の静と申します。この町には『綾の泉』というお酒を造っている蔵を訪ねてみようと訪れたのです。」

「犬飼?犬飼って、赤犬の里の人よね。『綾の泉』はうちの蔵で造っている酒よ。赤犬の里の方が、うちに何か御用?」

「あら!貴方が酒蔵の方なのですね。では、先程の騒ぎは?」

「あぁ、あれね。込み入った話になるから、とりあえずうちに来ない?お茶くらい出すわ。」


 2人は共に川上の蔵に向け歩きだす。

 程なく蔵に着くと、静は応接間に通され、出された茶を啜った。


「で、うちに用というのは?」

「私は事情があって里を出ることになったのですが、昨日泊まった宿で出されたお酒がとても美味しくて。それがこちらのお酒だったのです。仕事を探して方々を回っているのですが、特に宛もなく、折角だからこちらに来てみようと思いまして。」

「あぁ、そういうことなのね。自己紹介が遅れたわね。私はここ蔵元で絢音といいます。うちの蔵はこの間まで、普通に杜氏もいるよくある蔵だったの。でも、昨年父が亡くなると、跡継ぎは私しかいなくて…。私が跡を継ぐって言ったら、杜氏から蔵人まで皆辞めてしまったの。それでも何とか酒造りは続けたかったから、私と母、そして残ってくれた数人の蔵人とで続けているのだけど…。他の酒蔵や酒屋からの嫌がらせが酷くてね。父が亡くなった後に造った酒は出来が良かったのだけど、逆にそれが他の酒蔵は気に入らなかったんでしょうね。他所の酒蔵が徒党をくんで、酒問屋や酒屋に圧力をかけるのようになったの。で、あの騒ぎになったってわけ。」

「それは酷い…。町の人達は、そこまで心が荒んでいるのね。里にいては分からないことだわ。もしよかったら、私をここで雇っていただけませんか?何かのお力になれるかもしれません。」


 その日から静はこの酒蔵で住み込みで働くことになった。元々人手が足りていなかったこともあり、絢音は喜んで受け入れてくれた。


設定裏話

 里の因習の経緯をいつどのような形で出すか、ずっと考えていましたが、静のその後を書く事を決めた時に「これだ」となりました。

 この因習は、今後サクヤの動向にも関わって行きます。



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