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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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小祠の宿

おはようございます

「お前さぁ、誰彼かまわず魅了するのやめろって…。」

「あら?何故です?魅了されたものは敵に回る心配がないのですから、極めて平和的な人心掌握ではないですか?」

 

 小平太は千代の反論にぐうの音も出ない。


「別に魅了などしているつもりはないんだがな。微笑みを返すのは礼儀くらいに思っていたが。」

「いや、まぁ、そうなのかもしれないが…。」

「サクヤ様は何も間違っていません。小平太さんの言い掛かりです。」

「千代、小平太さんの気持ちも汲んでやってくれよ。」

「気持ち?それは誰のためのものですか?何のためになるでしょう?」

「わかった…。もういい。お前はそういう奴だ。お前に男心はわからん。いつもの事だ。」

「もういいから、俺のことでお前達が揉めるな。」


「どうでもいい話は終わったか?そんなことより、今日の泊まりは何処だ?」


 櫛ノ国との国境から2つ目の宿場町は、国境に近い宿場町よりこぢんまりとした町だ。今日の泊まりはこの『小祠の宿』である。名前の通り、小さな祠を祀る町で、祠のある小山の麓に作られた宿場であった。


「この宿だな。ん?何か中で揉めてるな。」

 

 宿泊予定の宿で店の者に詰め寄る大きな男がいる。


「1部屋ぐらい空きがあるだろう?この宿場じゃ、他も空いてないんだよ!」

「申し訳ありませんが、もういっぱいでして。次の宿場町まで行ってもらうしか…。」

「次って、もう日が暮れるぞ。」


「なぁ、あの男、騎重郎じゃねぇか?」

「あぁ、そういえば、そんな男もいたな。元気そうじゃないか。」

「元気というか迷惑だな、あれは。」


「おや?サクヤ殿ではないか!どうしてこのようなところに?」


 馳遊馬がこちらに気付き、声をかけてきた。


「おぉ、馳遊馬殿か。久し振りだな。」

「久し振りってほどでもないがな。何故このような所に?」

「白狐の社で鍛錬した帰りだ。」

「白狐の社?あそこって櫛ノ国だよな?あんな危ない国に行っていたのか?」

「あぁ、確かに酷い国だったな。」

「よく無事に戻ったものだ。もっとも、サクヤ殿より腕の立つ者などそうはいないだろうが。」

「そんなことより、何を騒いでるんだ?」

「いや、宿に空きがなくてな。騎重郎が交渉しているところだ。」

「あれは交渉と言っていいんですかね?」

「ただの迷惑行為だな。追い出すか?」

「すまない。止めてくるよ。」


 馳遊馬は宿に入ると騎重郎を引っ張り出してきた。


「おっ!なんだ、お前等。こんなところでなにをしているんだ?」

「五月蝿い、もいいからどっか行け。」

「なんだよ!久し振りに会ったってのに、酷くねぇか?」

「今聞いたところだ。俺達は別を当ろう。」

「別ったって、たった今全滅したところではないか!」

「その山の上に祠があるだろ。」

「あんなとこ、野宿と大差ないだろ!」

「夜露が凌げるだけましでしょう。」

「そんな事言って、お前等はここに泊まるのか?」

「ああ、予約してるからな。じゃあな。」


 そう言ってさっさと宿に入ったサクヤは、案内を受けて部屋に入った。


「よかったのですか?」

「何がだ?」

「いえ、なんでもありません。」




 石段を登り祠の鳥居の下まで来て、騎重郎が呟く


「なんだってこんなところで…。」

「言うな。仕方がないさ。」

「組長、あの祠、先客がいるようです。」

「みたいだな…。」


 馳遊馬は直ぐ様刀を抜き、臨戦態勢をとる。


「何匹いる?」

「恐らく一匹です。ですが、強いですよ。」

「そうか。騎重郎、頼んだぞ。」

「任せとけ、組長。出てきた瞬間射抜いてやる。」

「来るぞ!」


 騎重郎が弦を絞ると、祠から鬼が飛び出してきた。騎重郎は矢を放つが、鬼はあっさり躱して、騎重郎に迫る。


「ちっ!退がれ!」


 馳遊馬は騎重郎の前に躍り出て、鬼の突撃を止める。


(重い!押される。)


 馳遊馬は力を逃がしにかかるが、鬼は馳遊馬に蹴りを入れると、反動で下がる。

 馳遊馬は体勢を整えるが、不利を悟った。


(強い。霊徳童子ほどではないにしろ、これまで戦ってきた鬼の中では、奴に次いで強いかもしれんな。)


「源吾!さっきの宿に走り、援軍を頼め!俺達だけでは厳しいが、サクヤ殿なら何とかなるかもしれん。」

「承知!」

「騎重郎!距離をとり何時でも放てるようにしとけ!俺が奴の動きを止めたら、俺に構わず射ろ!」

「ちっ!わかった!」


「人の割に強いな。だが、それだけだ。」


 鬼は馳遊馬に向け突進してきた。馳遊馬は構えるが、直前で向きを変え、蝶次郎に向け突進する。蝶次郎は槍を構えたが、鬼は槍を中程から叩き折ると、蝶次郎のみぞおちに手刀を入れた。


「蝶次郎!」


 蝶次郎の腹に手刀が刺さる。蝶次郎は崩れ落ち、血を吐いた。


「この野郎!」


 馳遊馬は鬼に突きを放つが、鬼は切っ先を摘んで刀を止める。


「まだまだだな。」


 馳遊馬は刀を引くと、距離を取り直す。


(攻め手が見つからん。動きを止めることもままならんか。)


「騎重郎退け!」

「馬鹿言え!できるか!」


「無駄だ。両方殺す。わしが宿場に降りることを考えてないのか?」

「行かせるか。差し違えても貴様は倒す。」

「無理だな。力の差が判らんほどの馬鹿か?」

「やってみんと分からんさ。馬鹿には馬鹿なりの戦い方がある。」


 馳遊馬は鬼に突進すると、横薙ぎに足元を払う。鬼は跳躍して躱すと蹴りを繰り出す。


(今だ!)


 馳遊馬は蹴りを受ける瞬間に液体の入った陶器の小壺を投げつけた。

 馳遊馬は蹴りを受けて吹っ飛んだが、鬼は液体を身体に浴び悶絶する。


「貴様!何をした!」

「流石サクヤ殿の浄化薬。鬼には効果テキメンだな。…ゲホッ!」


 馳遊馬はニヤリの笑った後に吐血する。


(内臓に怪我を負ったか…。まぁ、仕方ないか。)


「人如きが!死ね!」


 鬼は怒りの形相で馳遊馬に突進する。

 その手が馳遊馬に届くかと思われた直前、鬼の首が飛んだ。


「間に合ったか。生きているか?馳遊馬。」

「サクヤ殿、助かった。」


 サクヤは馳遊馬に歩み寄ると、薬を渡す。


「飲め。」

 

 渡した回復薬には、治癒の御力を籠めていた。内臓のダメージにも効果はあるものだ。


「凄い、嘘みたいな効き目だな。」

「こちらの者は残念ながら手遅れのようだ。弔ってやるか?」

「こちらでやるさ。仲間の最期くらい見送ってやらないとな。」

「くそっ、蝶次郎…。」


 騎重郎は拳で地面を殴って涙を流した。


「弔いの祝詞くらいはあげてよいか?まさか怨霊にはならんと思うがな。お前達も纏めて穢れを祓っておいた方がいいだろう。」

「…頼む。」


 サクヤは祝詞をあげ、深く礼をした。




 翌朝、宿を出たサクヤ達を待ち受ける者がいた。


「馳遊馬、よく寝れたか?」

「一晩中弔い酒を交わしていたから、殆ど寝てない。昨日は助かった。改めて礼を言わせてくれ。」

「いや、放っておけば町にも被害が出ただろうから、丁度よかったよ。ただ、もう少し早く駆けつけれたら良かったな。」

「いや、充分早く来てくれたよ。この生業だからな、仲間を失うのも初めてじゃない。」

「そうか。今度社を訪ねて来い。今の獲物に浄化の御力を付与してやる。薬の補充もいるだろう?」

「そうか、助かる。しかし、鍛錬の成果か、一段と腕を上げたようだな。」

「それでもまだ奴には届いていない気がするがな。」

「今回の鬼も強かった。最近は鬼が強く狡猾になっていっている気がする。」

「櫛ノ国に行って判ったが、町に穢れや邪心が溢れている。あれでは鬼の温床になるだろう。宮や社が機能していないんだ。朝廷が誤った政をしているのが原因の一端だろう。」

「そうか…、そうなのかもな。だが、サクヤ殿気を付けろ。最近、朝廷の政に批判的な発言をすることを取り締まるようになってきたそうだ。都から離れたこの辺りではそうでもないが、都やその近辺は結構酷いらしい。朝廷の指示を受けた国守が動き出すのも時間の問題かもしれない。」

「誤っていることを誤っていると言って何が『悪い』というのだ?」

「強いて言うなら、朝廷にとって都合が『悪い』のだろう。」

「馬鹿げている!結局自分達の首を絞めるだけじゃないか。」

「朝廷も鬼狩りに力を入れているらしいがな。サクヤ殿が言う事が合っているなら、根本的な原因を朝廷も判っていないのだろう。」

「そうか。丹の守か櫛の輔を通じて探るなり、働きかけをしてみるのもいいかもな。」

「そ、そんな伝があるのか?」

「犬も歩けばなんとやらさ。」


 カイはサクヤをチラッと見たが、すぐに興味をなくして欠伸をしていた。


設定裏話


小祠の宿の名前の由来である山の上の祠には、現在神様がいません。ですので神域がないため、鬼が入り込むことができました。本来御神域に鬼は入れません。


今後も必要の都度、こういった設定裏話を入れていきたいと思います。


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