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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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穢れ

おはようございます

 迦具夜竹を持ち帰った翌朝、サクヤは竹を縦に割ると、半分を白狐の社に寄贈した。


「長く世話になったお礼です。お受取りください。」

「このような貴重な物を…。有り難く頂戴しよう。きっと良い弓が作れるはずだ。」


「それではお世話になりました。今度は是非、赤犬の社に遊びにきてください。」


 サクヤ達はそう言って白狐の社を去った。参道を下って鳥居を潜ると、目の前に小さな岡がある。葛庭一族が占拠していた砦がある岡だ。

 そこには現在、国府軍の幟がはためいていた。


「さて、この盆地を横断するのに、どれだけ時間が掛かるかな?」


 左馬介の不安は的中する。

 盆地の中程まで来た辺りで、色んな方向からこちらに向って来る集団があるのだ。


「この統率の取れていない、見た目も整ってない連中、どう考えても国府軍ではないよな?」

「野盗や豪族の群れだろうな。」

「どうされます?サクヤ様。」

「皆の鍛錬の成果を見せてもらおうか。」


「「やっぱり…。」」


「とはいえ、こんな開けた場所でまともにやり合うのは分が悪いな。一旦後ろの岡に上がるぞ。折角の砦を活用しない手はないしな。」


 サクヤ達は葛庭一族が籠っていた砦に入るの、弓兵の2人が櫓に登る。小平太は急増の矢を矢竹から作っている。サクヤは櫓門の上から押しかけた男達の意図を問う。


「ゾロゾロ集まって何の用だ?我等はこれから国に帰る。お前達の争いの邪魔をする気はない。思う存分に殺し合え。」

「我等に用がある。先日は随分馬鹿にしてくれおって!あの時の怨みをはらさん!」

「怨みもなにも、ただの旅人に一方的に危害を加えようとしたのに対し、正当な防衛をしただけだ。そういうのを逆恨みというのだ。それに、その人数相手だと此方も加減ができん。次は死人がでるぞ。」

「出る死人はお前達だけだ!これ以上の問答は無用!者共、かかれ!」

「やむを得んな。放て!」


 サクヤ達はありったけの矢を放つ。打ち込まれた矢も回収して打ち返す。それでも矢がすぐに尽きたので、4人による近接戦に移行する。其々が狭い道を塞ぐ形で、極力一対一になるように戦うが、流石に数が違い過ぎる。


「キリがないな。皆はそのまま、私は打って出る!」


 サクヤは平場に飛び出すと、縦横無尽に駆けながら次から次へと斬り伏せる。


「くそっ!妖か!一斉にかかれ!」


 野盗達は円陣を組んで一斉に槍を突き出す。


(こんなところで使う事になるとはな。)


 サクヤは槍が届く直前に高く飛ぶ。勢いまった槍衾は互いに突き合う。


(槍は突くのではなく、上から叩くものだ。そんなことも知らない者が、私を倒すなど無理だな。)


 交差した槍の上に降りたサクヤは、くるりと回転して野盗達を横薙ぎに斬る。そのまま飛び降りると、先程号令を出していた野盗の頭らしき男の前に躍り出ると、一閃で首を落とした。


(やはり、人を殺めるのは気分のいいものではないな…。)


 この凄惨な光景に恐れをなした野盗達は、散り散りに逃げ始めた。

 そのタイミングで騎馬の一団が駆け付けて来るのが見えた。


(国府軍か、来るのが遅いわ。)


 砦を包囲していた野盗達も、国府軍の登場に慌てふためいて逃げ出す。

 砦に残っていた3人も疲労困憊で、国府軍には助けられた形となった。


「其方等は先日の山兵か?」

「来るのが遅い!其方等の国は無法地帯か?」


 返り血に染まり、鬼神の様な姿を見た櫛ノ輔は絶句した。


(なんと夥しい怪我人と骸の数。コレをこの娘1人でやったのか?)


 国府軍の兵達も、この地獄絵図に絶句する。


「サクヤ、無事だったか。サクヤ…?」

 

 小平太は返り血に染まり立ち尽くすサクヤの姿に違和感を覚えた。もう人でなくなったのではないかと思える目をしていたのだ。

 そこにカイが駆け付けてサクヤに囁いた。


「穢れを浴び過ぎだ。我もこのままでは危うい。祟神か鬼神になる前に祓いをしてくれぬか?」

「…ヌシ様。…そうですね、浄めましょう。」


 サクヤは祝詞をあげ死者を弔いながら浄めの御力は放出する。


「取り敢えずはこのくらいでしょうか。後で改めて禊祓を行いましょう。」

「うむ、そうしてくれ。」


「乾の娘、大事ないか?」

「私は傷一つ負っていません。」

「人を殺めたのは初めてか?」

「そうですね。やはりいい気はしませんね。」

「そうか…。すまぬ、不甲斐ない領主で。」

「そうですね。次訪れることがあれば、もう少し普通に旅ができる国にしておいてください。」

 

 そう言ってサクヤは立ち去ろうとした。


「待て、その姿で旅を続けるつもりか?流石にその血塗れの衣では不味かろう。疲労もあろうし、代わりの衣を用意してやる。国府館へ立ち寄ってはくれぬか?詫びもしたいのでな。」

「いや、私は帰ろ…、」

「サクヤ様、サクヤ様は平気でも、我々は嫌です。」


 千代達3人もボロボロであった。疲労も限界に達している。


「そうか…、そうだな。では、お言葉に甘えるとしようか。」


 4人は取り敢えず回復薬を飲み、馬に相乗りさせてもらって国府館へと向かった。



 櫛ノ国の国府は、町全体が掘りと塀に囲まれていた。町の入口は東西と南の3カ所で、どの入口にも立派な櫓門を備えている。

 町に入ると、血塗れの4人に町の衆は驚愕している。



「取り敢えず挨拶は後だ。湯浴みをしてくれ。着替も用意させる。」

 

 サクヤと千代は侍女に案内されて湯浴みをする。


「流石にあの人数は大変でした。鍛錬の成果が出たのは確認できましたが。」

「すまなかったな。流石に無謀だったのかもしれない。」

「いえ、サクヤ様なら全滅させてたでしょう。助かったのは野盗の方です。」

「いや、あのまま戦い続けていたら、私は取り返しのつかないところまで行っていた。あれでは鬼と変わらない。」


 返り血を浴び、虚空を睨むような目で立ち尽くすサクヤの姿を思い出し、千代は湯に浸かりながらも寒気を感じた。


(あれを鬼神と言われても疑わなかった。あんな恐ろしいサクヤ様は初めて見た。)



「お腹が空きました。早く上がって食事を用意してもらいましょう。」

「そうだな。」


 千代はわざと話題をずらし、鬼神のようなサクヤを頭から追い出した。



 新しい衣をまとい、案内されて客間に入る。


「すぐに歓待の用意ができます。それまではこちらでお寛ぎください。」


 侍女はそう言うと、一旦部屋を出たが、5分もしないうちに食事の席に案内された。



「先程までの鬼神の如き姿が嘘のように、美しき女人の佇まいだな。」

「恐れ入ります。」

「あれだけ暴れたのだ、腹も減っておろう。先ずは食事だ。」


 そう言って膳を用意させた。4人とも確かに空腹だったので、遠慮なくいただくことにした。


「改めて礼を。そういえば名乗りもしてなかったな。私は櫛ノ輔を務める、櫛橋右近経平と申す。右近と呼んでくれ。」


 サクヤ達も順に名乗る。ついでにカイも紹介しておいた。


「本来なら櫛ノ守自ら詫びをせねばならんのだがな。情けない話だが、この国の荒み具合に心を痛めた国守様は、都に滞在したまま国入りしていなくてな。だから、輔である私が実質領主のようなものなのだ。」

「国守様すら投げ出すとは…。本当に酷い有様だな、この国は。」


 小平太は呆れたように肩を竦める。


「なにも手をこまねいているわけではないのだ。懐柔したり、ときには見せしめ的に脅したりして和議まではいくのだ。だが、何れも長続きしない。好き好んで争い事を起こそうとしているとしか思えないのだ。」

「そうだろうな。明らかに好き好んでいる。」

「サクヤ…?」

「こちらの国府に着いた時に見たのだが、ここにも日輪宮があった。状況は恐らく丹の国と一緒なのだろう。」

「どういうことだ?」

「この国の者達は、穢れや邪心に染まりきっている。己の欲を抑えきれず、人を殺すことにすら喜びを見出している。」

「穢れや邪心が…。それと日輪宮と何の関係があるのだ?」

「丹の国の日輪宮もそうだったのだが、あの宮の宮司は禊祓ができない。朝廷に忖度して、社との縁も絶ったから、皆穢れも邪心も祓う機会がないのだ。」

「禊祓?そのようなことが必要なのか?」

「そう言えば、我々もできていなかったな。丁度いい機会だからここでやろう。」


 サクヤはカイを呼んで禊祓を始める。


「白狐の山に座す、畏きハクコナリヌシの神よ。この地に溢れる穢れを祓い、我等の身を浄め祓い給え…。」


(なんと、これ程の御力が必要なのか…。なんとも根深い。)


 サクヤはいつも以上に必要になった力量に驚いたが、何とか禊祓を終えた。


「今回は穢れも邪心も多過ぎた。この地の者達を祓うのは容易ではないだろうな。」


 周りを見渡すと、食事の用意をしてくれていた侍女等は泣いている者もいた。


「なるほど…。心洗われるというのは、こういう事を言うのだな…。」

「ふぅ…やっとスッキリできたな。何となく心が荒んでるのが気になっていたんだ。」


 小平太は風呂上がりよりスッキリした顔をしている。


(ヌシ様を祟神にするわけにはいかないしな…。)


 


「今夜はここに泊まっていくといい。明日国境まで馬で送ろう。」

「お言葉に甘えさせて頂く。私達だけでは、また今日のようになりかねん。兵法には戦わないで済ませることの大事さも説かれているのだが、すっかり失念していたようだ。」

「おいおい。てか、サクヤにそんなことができるのか?」

「やったことはないが、穢れを得ないためにはやらねばならないことかもしれないな。もう一度学び直すかな。どうだ?左馬も。」

「遠慮しときます…。」

「なんで俺に聞かないんだよ?」

「小平太の頭に入るとは思えなかったからな。できるのか?」

「…できると思えないのが情けない。」

「興味深い話だな。私は兵法を学びたくなった。この国を治めるのに、戦わないで済む方法も分かるかもしれない。」

「そんな都合良くいかないかも知れないが、学んで無駄になることはない。」

「そうだな。」



 翌朝、朝餉を終えた後、右近に国境まで送ってもらった。


「世話になった。次来るときは少しはまともな国になっていることを願っている。」

「最善を尽くそう。社との関係も考え直してみる。」

「豪族共に声をかけ、祭でもすればいい。

社との縁ができる良い切っ掛けになるかもしれない。」

「なるほど…。それも兵法か?」

「いや、うちの社が宿場町でやっていることを真似ただけだ。祭の場で社の者に浄めをしてもらえば、少しずつでもマシになるかもしれないからな。」

「ほぅ、それは是非参考にさせてもらおう。では、気を付けて帰られよ。」

「ああ、ここまでの見送りに感謝する。其方なら良い国にできると思う。」


 サクヤはそう言って微笑んだ。


(またやりやがった…。)


 小平太は頭を抱える。サクヤの微笑みは人を魅了することを知っているからだ。ご多分に漏れず、右近や兵達も蕩けてしまっていた。




まだ帰れません

次回はある人物との再会です


評価、リアクションをお待ちしております

毎日更新頑張りますので

是非ブックマークしてお楽しみ下さい

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