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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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迦具夜竹

 翌朝、サクヤ達は白狐山に登り、1日山中を這いずり回ったが、お目当ての竹は見つからなかった。そもそも、誰もその竹を見たことがないのである。竹藪という竹藪を探し回ったが、特徴的な竹などなく、どれも見慣れた竹であった。


「文献では、夜に光る竹だと書いてあるのですが、特徴らしい特徴は書いてないのです。」


 玉三郎は疲労を滲ませた顔で言う。


「闇雲に探しても見つかりそうにないですね。もしよろしければ、一度宝物庫に納められているという弓を見せては頂けないでしょうか?何か判るかもしれません。」

「それは構いませんが、加工されたものですから、特徴までは判らないと思いますよ。」



 とはいえ、他に手掛かりもないので、一旦社に戻ることにした。



「こちらが、その弓です。」


 それは、何の変哲もない竹製の弓で、以前玉三郎が言ったとおり、触ると崩れそうなほど古く、とても使えそうにない。弦を張るだけで粉々になるだろうと思われた。

 綺麗に加工されているので、竹の特徴も残っていない。


「確かに、これでは竹の特徴は判りませんね。あっ、カイ!咥えてはだめですよ。」


 カイは弓から何か感じたのか、頻りに匂いを嗅いでいた。


(ヌシ様が気にしている…。私達には判らない、何かがあるのかも。)


 一堂が解散した後、サクヤはカイに話しかける。


「ヌシ様、あの弓に何か感じられたのですか?」

「ふんっ、其方は奴の尻尾の方が好きなのであろう?奴に聞くがいい。」


(す、拗ねてる…。)


「ヌシ様、そういえば最近は撫でてませんでしたね。お撫でしましょうか?」

「いい。我にはあのような尻尾はないからな。」


(う〜ん、本格的に拗ねてる。さて?どうしたものか…。)


 サクヤはカイの背をサワサワ撫でるが、カイの機嫌は直らない。


「そういえば、ヌシ様のその姿は、あくまで仮初なのですから、その気になれば、もっとモフモフの毛並みになれるんじゃないですか?それこそ、私が思わず抱きつきたくなるような…。」


 サクヤの話を聞いたカイの耳はピンっと立つ。そして、僅かに尻尾が振れる。


「も、もっと、モフモフの毛並みか…。」


(食い付いた!)


「そうです!ヌシ様ほどの方なら、それくらい容易いことではないのですか?」

「それは、勿論その通りだ。我なら容易くできよう。」

「わぁ、是非見せてくださいませ。」

「そこまで言うのなら、仕方あるまいな。では、見せてしんぜよう。」


(チョロい、ヌシ様、チョロ過ぎます…。)


 見た目は大きく変わらないが、毛足が伸び、見るからにフワフワな毛並みとなったカイは、一流のトリマーに仕上げてもらったかのような、如何にも柔らかいモフモフの塊になった。


「凄いです、ヌシ様!」


 サクヤはカイに思い切り抱きつき、全身をモフモフし始めた。


「そうだろう、そうだろう。ただ、ちとはしたないのではないか?」

「よいではありませんか。素晴らしい抱き心地です。是非今夜は一緒に寝ましょう!」

「そ、そこまで言うなら、し、仕方ないな…。」


 そう言いながらも、尻尾は激しく振れていた。



 翌朝、激しく寝癖の付いたカイに、小平太の嫉妬の視線が突き刺さる。


「やはり、ただの女好きの犬だな。」


 左馬介の侮蔑した視線も刺さる。


「何故犬に嫉妬しているのですか?二人共恥ずかしくないので?」


 今度は逆に、千代の呆れた視線が男2人を刺した。



 サクヤ達は、今日も山に入るつもりだったが、何故かカイが動かない。 

 サクヤがカイ寄り添い呟く。


「如何されました?」

「夜まで待て。あの竹は夜光るのだろう?匂いは憶えたから、おおよその位置は判る。あの竹の生えている場所は判っても、みな同じ匂いゆえ、特定ができぬ。だが、光れば特定も能おう。」

「そうなのですね。分かりました。」


「夜まで待つことにします。光る竹なら、夜のほうが特定しやすいはずです。それまでは鍛錬でもして待ちましょう。」

「確かにな。じゃあ、そうするか。闇雲に山の中を歩くのも大変だからな。」


 

 日が暮れて、早めの夕餉を済ませたサクヤ達は、カイに導かれるように山に入る。それは白狐山とは反対に位置する山の南側で、大きな竹の群生地になっていた。


「なんでカイには分かるんだ?」

「あの弓の匂いを頻りに嗅いでいたから、ある程度生えている場所が判るのかもしれないな。」

「あんなに古い弓に匂いが残っているのか?犬の嗅覚って凄いんだなぁ。」 


(サクヤには『匂い』と言ったが、正確には御力の残光とでも言うべきかな。)



 竹藪に入ると、ほんのりと光る竹が…、などと、そんなに都合良くは見つかるものではなかった。



「広すぎるぞ、この竹藪。手入れもされてないから、歩き難くて仕方ない。」

「手分けするにも、離れるのはこの暗さだと危険ですね。」


 カイは藪には入ってこない。折角のモフモフが台無しになるからだ。



 それは竹藪に入ってから10分程度経った頃だった。


(何か来る!)


 サクヤはとっさに矢を番えた。


「なにか来るぞ!警戒しろ!」


 サクヤが号令すると、皆素早く臨戦態勢をとる。


「猪の妖魔です!前方から来ます。」


 左馬介が声をあげると、一斉に矢を向けた。猪が姿を見せた瞬間、一斉に矢が放たれた。当たったと思った瞬間、猪は姿を消す。


「妖術か!?消えたぞ!」


 小平太がそう言った直後、千代の前に突然現れた猪は、そのまま千代に突進する。


「千代!」


 千代はとっさに上に飛び、猪を躱す。猪はなおも華麗なステップで竹を躱しながら、今度は左馬介に突進してきた。左馬介は小太刀を構えると、千代と同様に上に飛んで躱し、猪の背に小太刀を刺した。

 それでも猪は死ななかったが、サクヤの矢が側頭部を射抜くと、その場に横倒しになって絶命した。


 猪に歩み寄ったサクヤは、いつものように祝詞をあげる。


(我々の浄めもしておこう。)


 サクヤは礼をしながら、浄めの御力を放出する。

 その時、周囲が仄かに明るくなったかと思うと、一本の竹が光った。弱い光と、やや強い光を繰り返し、辺りを照らす。


「光る竹…。これが…。」

 

 サクヤは竹に近づくと、小太刀を抜いた。


(ここを切ればいいんだな…。)


 なんとなく、切るべき場所が判った気がした。サクヤは跳躍し、2度横薙ぎに払う。その切口は綺麗に揃い、切取られた竹が抜けると、ダルマ落としのように落ちた竹の上部は、そのまま下の竹と繋がった。

 サクヤはその切口に癒しをかけ、竹を修復する。


(竹だって広い意味で生き物だ。癒しは効くだろう…。)


「嘘だろ…、くっついた。」

「いや、先程から夢か現か分からない状況が続きますね。」


 玉三郎も呆れていた。


「目的は果たせたな。速やかに立ち去ろう。なんと言うか、ここは気が強すぎる。充てられそうだ。」


 サクヤは切り取った竹を持って、足早に竹藪を出た。

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