白狐社での鍛錬
2日目以降、4人共に槍寮で近接戦の鍛錬に励んでいた。サクヤ以外の3人は、武丸達に稽古をつけてもらい、サクヤは玉三郎が相手にしていた。
(玉三郎殿の技量は、武丸殿を遥かに凌駕している。凄まじい剣技だな。技量もだが、身体の使い方がハクリ様のようだ。もしや、この方もハクリ様に手解きを受けているのだろうか?)
「サクヤさんは、反応に頼り過ぎです。反応速度が早いから対応できていますが、ある程度『読み』も必要です。勘ではなく、経験則に基づいた、根拠のある『読み』が必要です。」
「『読み』ですか。」
(『先見の御力』でもいいのかな?ちょっと違う気もするし…。経験則に基づいた『読み』か…。試しに『先見』も使ってみるか…。)
サクヤは『先見の御力』を使いながら打ち合ってみた。
「サクヤさん、それは『ズル』です。」
(えっ!?御力を使ったのがバレた…。)
「サクヤさんは力量が豊富ですから、一度や二度の打ち合いでも問題ないでしょうが、貴方が倒そうとしている鬼は、そんなに短時間で倒せる相手ではないでしょう。そんな頻繁に使っては力量が足りなくなりますよ。」
「確かにそうですね。『先読み』を身につけなければならないのは判りました。しかし、よく私が御力を使ったことが判りましたね?」
「ふふ、判る者には判るものです。その理由もいずれ判るでしょう。」
(やはり、妖なのか?)
サクヤは少し釈然としないまま、玉三郎との鍛錬を続けた。
鍛錬を続けて5日たった。
「では武丸さん、お願いします。」
玉三郎との組討を続けていたサクヤは、少しずつ『先読み』が身に付いてきた実感を得たので、久し振りに武丸と打ち合いをしてみることにした。
武丸の剣は基本に忠実である。玉三郎のような奇抜さはない。だが、剣筋は美しく、剣技の完成形を見せられているようだ。その分、先が読みやすい。動きがパターン化されているとも言える。こう攻めれば、こう防いでこう返す。サクヤは最初に打ち合ったときに比べ、かなり余裕を持って捌けるようになっていた。
(もう一歩先に進めてみよう。)
サクヤは攻め手を変えるのではなく、より速く、より多く、より強くギヤを上げる。
(ここをもう一手速く!)
「参った。そこまで速いと捌ききれんな。たった5日でここまで伸びるとは。若い者は吸収が早いとはいえ、尋常ではないな。こちらの攻めもよく読んで捌いている。」
「武丸殿の剣が基本に忠実で、敢えてその範疇だけで打ち合ってくれているからです。まだまだ及びません。」
「いや、その早さは私には捌ききれん。結果は変わらんだろう。」
「そうですね、サクヤさんは本当に吸収が早い。他の者達も5日で随分伸びました。そろそろ次の段階に移っていいかもしれませんね。明日から新しい鍛錬を始めましょう。」
玉三郎はそう言ってニヤリと笑う。
(しかし、何でこうも胡散臭いのかな、この人は。敢えてそういう役を演じているようだ…。)
翌日、サクヤ達4人と玉三郎は、御神体でもある白狐山を登っていた。
中腹に郭のように拓けた平地があり、玉三郎はそこで足を止めた。
「さて、サクヤさんはお会いしたことがあるでしょうが、他の方は初めてですね。」
玉三郎がそう言った直後、サクヤは殺気を感じて前に飛ぶ。他の3人は、何事かとサクヤを見たが、直後に悲鳴をあげた。
「痛ってー!誰だ!」
小平太達の後には、二本足で綺麗に立っている白い狐の姿があった。
「なっ!?妖狐!」
「妖狐とは失礼だね。あたしゃ神様だよ。」
「ハクリ様、ご無沙汰しております。いつからその様な喋り方になったのでしょう?」
「自分を神と紹介するときの定型文さ。サクヤともう一人と聞いていたけど、3人もいるんだね。さてさて、どのくらい耐えられるかな?」
サクヤとハクリ様ことハクコナリヌシが交わす会話を見ながら、小平太達3人は目を丸くしていた。目の前に自称神様がいるのである。当然と言えば当然の反応だろう。
「アカイヌヌシも元気でやっているようだね。宜しく伝えてくれ。」
ハクリはチラリとカイの方に目をやってニヤリと笑う。
「さ、サクヤ!その方は、は、ハクリ様?は、白狐の山の神様なのか?」
小平太は驚愕の表情でサクヤとハクリを見ている。残り2人も同様だが、千代はサクヤならおかしくないと思っているのか、やや落ち着いていた。
「そうだ、こちらはハクコナリヌシ様、私は神様と知る前からハクリ様と呼んでいたので、そのままハクリ様と呼んでいる。私の剣術の師匠の一人だ。今回こちらに訪れた本当の理由は、このハクリ様に改めて教えを乞うためだ。」
「さ、サクヤの師匠…。てか、アカイヌヌシ様に宜しくって、お前、ヌシ様とも面識があるのか?」
「あ…。」
(勘弁してくださいハクリ様!)
「う、あぁ、ちょ、直接の面識はないだろうが、その社の山兵だからな。拝殿から言上くらいするだろう?その時に伝えてくれって意味だよ。うん。」
ハクリがシドロモドロで答える。玉三郎とカイは遠い目をしている。
「そ、そうだぞ。ヌシ様に早々会えるものではない。ハクリ様にお会いできただけでも幸運なことだ。だから、皆もここで見聞きしたことは口外しないように頼む。」
「とても言えませんよ。サクヤさんの規格外がここまでとは思いませんでした。ていうか、こちらの宮守は、このように神様と直接お会いすることができるのですか?」
左馬介が玉三郎に目を向けた。
「いえ。ヌシ様と面識があるのは私だけです。私はヌシ様の使いですが、今は山兵をしているのです。」
(やはり、そういうことか…。)
「つまり、その姿は仮初ですか。」
サクヤが問う。
「仮初というより変化ですかね。妖術ですよ。」
そう言うと、玉三郎はハクリ同様に二本足で立つ狐の姿になった。ハクリと違うのは白ではなく、普通の狐の色ということくらいだ。
「「なっ!?」」
小平太と左馬介は驚愕する。
「なるほど。だから私が御力を使ったのも判ったのですですね。」
「はい、その手のことには敏感ですから。
では、早速稽古をつけて貰いましょう。他の3人は私がお相手します。」
「「宜しくお願いします。」」
「久し振りだな、人と打ち合うのは。サクヤ君がどれほど成長したか、見せてもらおうか。」
「宜しくお願いします、師匠。」
幻術の刀を手にした2人が、激しく激突しながら打ち合う。そこに遠慮などない。
「よし!俺達もやるぞ。」
小平太が気合を入れる。
「では、小平太さんから始めますか。他の2人はよく見ておきなさい。」
この日から4人の山での鍛錬が始まった。
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