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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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白狐の社

おはようございます


 サクヤ一行が白狐の社の御神域の入口である鳥居を潜ると、すぐに警備の山兵が飛んできた。


「赤犬の社のサクヤ殿ですね。いったいどうやって来られたので?山の手前は武士共に包囲されて通れなかったはずですが?」

「葛庭一族といいましたか?壊滅したから問題なく通れました。」 


「壊滅させた、の間違いだろ…。」


 サクヤは小平太の突っ込みはスルーして続ける。


「国府兵が制圧したので、往来は問題なくなりました。社へ案内くださいますか?」


 目を丸くした警備兵は、我に返ると案内してくれた。



「おぉ、これはこれはよくご無事で。私はこの社の宮司で、興常おきつねノ徳兵衛と申します。貴方が藤三郎宮司の養女となられた、サクヤさんですね。」


 やや背中の曲がった、白く長い顎髭が仙人を思わせる老人が自己紹介した。


「はい。乾のサクヤと申します。この度は無理なお願いをし申し訳ありません。」

「いえいえ、参道前の武士共を蹴散らしてくださり、感謝しております。兵の鍛錬をとの話でしたが、もう一つの弓の材料となる竹というのは、心当たりがありませんでな。申し訳ない。」


(そうでしょうね、でっち上げですから。)


「いえ、こちらの兵の強さに、その様な話が実しやかに噂されたものだったのでしょう。お気になさらず。」

「ご期待に添えず申し訳ない。ただ、今日はもう日も暮れる。今夜はゆっくりしていただき、明日から鍛錬を見ていただきましょう。」

「ありがとうございます。そうさせていただきます。」


 社の宮守と巫女の案内を受け、其々の客間に案内された。夕餉は応接間で、宮司や、今回世話になる槍寮の頭、三十郎と共に摂ることになった。三十郎は背は高いがやや細身、神経質そうな顔だが、穏やかな雰囲気の持ち主で、微笑で対応してくれる。


「当社の槍寮頭、三十郎と申します。サクヤ殿の噂はこちらまで流れてきておりました。弓と神楽の名手だとか?」

「どのような噂が流れているのか存じませんが、恥ずかしながら、女だてらに弓兵と神楽の舞手を務めております。」

「いやいや、どちらも一流の腕前と聞き及んでいます。寧ろ、こちらの兵が学ばせてもらうことになりそうです。」

「そのようなことは。これほど小競合いが多ければ、実戦経験の豊富な強い兵が多いものと推察します。」

「確かに。悲しいかな、無駄に実戦経験が多くなっていますな。妖相手より、人間相手の方が多くなっているほどで。」

「それほどですか。」

「しかし、我々も手を焼いている葛庭の兵達を、たった4人で蹴散らしたサクヤ殿達方が強いと思いますが…。」

「いえ、我々は彼等を謀って混乱させただけで、蹴散らしたのは国府の兵です。」

「ほうほう、それはまた、智略が得意なようですな。実に逞しい。」


 宮司が顎髭を撫でながら笑う。


「明日からの鍛錬は、隊長格の玉三郎が案内します。私は先程の件もあって、国府から呼び出しを受けておりましてな。」

「なんだか御迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません。」

「いえ、助けていただいたのはこちらです。礼を言わせてください。玉三郎は当社きっての腕利きです。よい鍛錬になると思います。」

「それは楽しみです。明日から宜しくお願いします。」


 サクヤは終始、穏やかで謙虚に対応していたが、そんなサクヤをジト目で見つめる小平太と左馬介だった。



 夕餉の後、客間に戻ったサクヤだが、左馬介が千代に声をかけた。


「千代、ちょっと話があるんだ。サクヤさんと一緒に、こっちに来てくれないか?」

「話ですか?」


 訝しげな顔をしながら、千代とサクヤはついて行き、小平太と左馬介の客間に入った。


「千代は最近急激に力量が増えていると思うんだが、何か秘密があるのか?差し支えないなら、俺達にも教えてくれないだろうか?」


 千代は左馬介の願いに少々面食らったが、遠慮気味に返す。


「私は伊都さんに教えて貰っただけなので…。」  

「伊都さんに?」


 そう言って千代はサクヤを見る。


 サクヤは千代に向け頷いた。



「はい。伊都さんとサクヤ様は、御力を使い過ぎて倒れたことがあるのは知ってるでしょ?」

「あぁ、サクヤは破魔の矢に御力を籠めたとき、伊都は禊祓のときだったかな?」


 小平太が思い出すように答えた。


「はい。その際に伊都さんは翌日、目を覚ました時に力量が増えていると感じたそうです。実際に同じ禊祓を試したら、今度は倒れずに済んだそうです。つまり、前回の禊祓の時より、力量が増えていたことが判ったんです。」

「それは、ただ成長しただけではないということか?」

「そうです。倒れるまでいかなくても、その直前まで御力を使えば、回復した後は前回より力量が多くなっているんです。」

「そんなことが…。ということは、もしかしてサクヤも同じ方法で?」


 小平太の問に、サクヤは頷いた。


「力量の限界値は個人差もありますし、増え方も同様です。でも、毎日のようにやれば、僅かずつでも間違いなく増えます。実際、私は始める前の倍になっています。」

「倍!?そ、それは凄いな…。でも、御力を使うと言っても…。」


 その言葉が出ることを分かっていたように、サクヤは黒曜石の鏃を取り出して見せた。


「あ、破魔の矢の鏃か!」

「鏃でなくても、御力が籠めれるものなら何でもいいようですし、普通に使ってもかまいません。」

「なるほどな…。こんな凄いこと、教えて貰ってよかったのか?」

「私も伊都さんに教えて貰いましたから。特に口止めもされていませんし。」

「そうか、ありがとう。俺も試してみるよ。」

「そうだな。ただ、俺の場合は、御力自体が解ってないからなぁ。増やしたところで、どう作用するのやら…。」

「それでも、増やしておいて損はないだろう。」

「そうだよな。ありがとう、俺もやってみるよ。」


(これは、この2人にも『授けて』貰った方がいいかもしれないな。)




 翌朝、朝餉を済ませた4人は、玉三郎を紹介された。

 玉三郎はヒョロっとした狐目で瓜実顔の男とも女ともつかない顔をした、年齢不詳の山兵だった。


「玉三郎です。この度は私が指導役兼案内役を務めさせていただきます。宜しくお願いしますね。では、早速兵達の鍛錬を見ていただきましょう。」


 そう言うと、玉三郎は音もなく歩き始める。


(捉えどころのない男だな。まるで妖だ。)


 日頃、妖と呼ばれては憤慨しているにも関わらず、人を妖呼ばわりしているサクヤだか、玉三郎については半分本気で考えていた。



 槍寮に着くと、兵達が鍛錬を始めていた。素振りをしたり、組討をしたりと様々だったが、鍛え抜かれた体躯は、その実力を充分過ぎるほど伝える。


「素晴らしいですね。当社の頭と同等程度の強さの者が、多くいるように見受けられます。」

「凄い熱気だな。これは是非、手合わせしてみたいな。」

「ほう、尻込みするどころか、闘志を沸かせるとは。若い者はいいですね。では、やってみますか?」

「よろしいのですか?是非お願いします。」


 小平太は同年輩と思われる槍兵と手合わせする。互いに一進一退の攻防が繰り広げられ、決着がつかないまま、終了の声があがった。


「強い。だが、面白い。赤犬の社では見られない型があったり、とにかく力強い。これはやり甲斐がある!」

「それはよかったです。では、そのまま混じって鍛錬してください。」

「はい!ありがとうございます。」


 小平太は、そのまま槍兵の鍛錬に混ざった。



「サクヤ殿は、両の腰に小太刀を提げてらっしゃるということは、双刀使いですか?」

「はい、始めたばかりですが。」

「なぜ、またそのようなことを?」

「実は…。」


 サクヤは霊徳童子との戦いについて話した。


「なるほど…。それはまた、とんでもない相手に立ち向かおうとされているのですね。それで双刀…。ちょっと腕前を見せていただけませんか?武丸、こちらへ。」

 

 呼ばれたのは壮年の小柄な男だったが、感情を面に出さない、無口で怜悧な目をしていた。この男も双刀だったが、標準的な太刀と、小太刀の二刀流だ。小太刀は明らかに防御用だろう。


「立ち合ってみてください。木刀はそこにありますので、好きなのを取って使ってください。」


 そう言われて、サクヤは木刀を持つ。2人とも腰に提げたものと同じような長さの木刀を選んだ。


 向かい合うと、武丸の構えに隙が見当たらない。流石のサクヤも下手に打ち込めなかった。対峙したまま時間が過ぎたが、不意に武丸が突っ込んで来た。武丸は長刀を横薙ぎに払うと、サクヤは左の小太刀で受けつつ右の小太刀を横薙ぎに払う。武丸も左の小太刀で受けた。互いにひと跳ね後退すると、間髪入れずに武丸は一歩踏み込み、長刀を斜め下から振り上げる。サクヤは仰け反るように避けると、上段から振り下ろされる武丸の小太刀を受け止めた。

 このような応酬でサクヤと武丸は打ち合いを続けるが、両者決め手のないまま、時間だけが経っていた。


(強い。二刀流とはこの様な闘い方をするのだというお手本のようだ。きっとまだ本気は出していないのだろう。)


 サクヤは少し距離をとると、受け主体の戦術から、攻勢に切り替えた。武丸は攻撃を受け流し、少しずつ後退するが、それは円を描くように躱しつつ、移動を続ける。

そして、いつの間にか元の場所に戻っている。


(常に掌の中か…。)


「参りました。よい勉強になりました。」

「まだ、どちらも攻撃を当ててないが?」


 武丸は表情を変えないまま答えた。


「武丸殿がその気なら、何時でも当てれたでしょう。まだ私の双刀使いが不慣れなことを差し引いても、恐らく歯が立ちません。それに、私の技量を見ることが目的で、はじめから打ち倒す気などなかったのでは?」

「お見通しか。だか、そう欲張るな。実際かなりヒヤッとさせられたしな。その若さでその技量なら、まだ伸び代が多い分、私などより高みに登れる。羨ましいことだ。」

 

 武丸はそう言うとニヤリと笑い、はじめて感情を映した。


「流石ですね。武丸の言う通りでしょう。それで弓が本業というのですから、嫌になりますね。」


 そう言って玉三郎が苦笑いすると、武丸は初めて聞いたという顔で、サクヤを見た。


「そうでしたか…。いやはや、末恐ろしい若者ですな。」

「どうです?良かったら弓兵の鍛錬を見に行きますか?サクヤ殿がよければ、是非その御業を伝授いただきたい。」

「そのような大層なものではありませんし、どうも私は人に教えるのが下手なようで。私の技量など参考にならないでしょうが、是非弓寮の鍛錬を見せて頂きたいです。」



 玉三郎はサクヤと千代、左馬介を連れて弓寮へやってきた。


 弓寮では、屋根付きの立派な的場が整えられていて、そこにはずらりと弓兵が並び鍛錬をしていた。


「壮観ですね。皆素晴らしい技量です。」

「こちらが弓寮の頭で、嘉兵衛です。」

「嘉兵衛と申します。サクヤ殿の噂は予予伺っております。是非その御業を拝見したいですな。」

「参考になるとは思えませんが、見せるだけでよければ…。」


 そう言ってサクヤは何時通りの所作で、矢を番える。

 番えたと思ったら、直ぐ様矢を放つ。しかし、矢は違うことなく的の中心を射抜き、続け様に放たれた矢が、先に当たった矢の矢尻を射抜いて2つに割いた。

 赤犬の社では見慣れた風景だが、白狐の社の弓兵は、皆度肝を抜かれた。


「はは、最早笑うしかないですな。教えて頂いたところで、とても真似できません。」

 

 そう言って嘉兵衛は呆れ笑いを溢す。



「左馬介殿でしたか?サクヤ様は弓の御力がお有りなので?」


 弓兵のひとりが左馬介に尋ねた。


「いえ、本人が言うには、普段は特に御力を籠めていないそうで。御力を籠めると、多分的を貫通します。」

「えっ?!貫通ですか?」

「はい。実際、鹿の妖魔の眉間を貫いて、そのまま貫通したのを見たことがありますし…。」

「そ、それは何とも恐ろしい…。」

「間違っても人に向けてはならない矢ですよね。」

「…ですね。」




 嘉兵衛や他の弓兵があっけにとられている横で、玉三郎がサクヤに声をかけた。


「流石ですね。弓に関しては、当社で学ぶことなどないでしょう。そういえば、弓の素材をお探しと伺いましたが?」

「はい。こちらの山に、弓に適した竹があると噂に聞きまして。」


(ごめんなさい。でまかせです。)


「う〜む、どこからそのような話が漏れたのか…。なくはないのですが、見つけ出すのが大変な竹で、今まで多くの者が探しに行っては断念していましてね。」


(えっ?!本当にあるの?宮司は知らない振りをしてたの?)


「それは、どのような竹なのでしょうか?私が探して採っても良いものをなのでしょうか?」

「採取自体は問題ありません。見つけるのが大変なだけです。なにしろ、私も話に聞いているだけで、見たことがないのです。社の宝物庫に、一張だけその竹で作られた弓があるのですが、なにぶん古いものですから、今は使い物になりません。」

「そうなのですね。もし、時間が許すのであれば、探してみたいものです。」

「そのためにも、是非当社の剣技を体得していただけなければなりませんね。」


 サクヤは思いがけない話を聞けたことで、テンションが爆上がりしていたが、周りにはそんなふうには見えないので、竹探しの話が何処まで本気か測りかねていた。



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