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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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【閑話】山犬のカイ

カイ(アカイヌヌシ)目線のお話

ちょっと短いですが、お楽しみ下さい

「お手!…なんだよ、サクヤさん以外には懐かないのか。」

「私はしてもらえましたよ。」

「なんだ、ただの女好きか。」


 言い捨てた左馬介を、カイは後から体当たりして転倒させた。


「な、なんだよ!人語を介すのか?この山犬。妖じゃないよな?」

「犬は人の感情を敏感に察知するって言われてるから、左馬介が悪口言ったのを理解したんじゃない?」

「くそう、サクヤさんが連れてきた犬じゃなきゃ、のしてやるのに!」

「左馬、カイ。しょうもない喧嘩をしてるんじゃない。もう、次の宿に着くぞ。」


 サクヤはそう言うと、カイに近付き一撫でする。


「今夜も野宿だけど許してくださいね。あと、浄めもしてさしあげますから。」

「サクヤさんは、なんで犬っころにそんな丁寧な言葉遣いなんですか?」

「なんでって、御山から連れてきた山犬だから、もしかするとヌシ様の使いかもしれないだろ。粗末に扱えるわけがない。」

「あぁ、なるほど。それはそれは失礼しました、カイ様。」


 左馬介がわざとらしく慇懃に振る舞うと、カイはもう一度左馬介をふっとばした。



(久々に神域の外に出たが、人というのは移ろいが早いな。以前と街並みが大きく変わっている。常なら長く出ること能わぬが、サクヤがおれば浄めをしてくれる。穢れの心配はなかろう。)


 御神域は、その地に住まう神による結界で囲われている。結界の中には、穢れや邪心そのものと言える鬼は入ってこれない。

 逆に、神が結界の外に出ると、穢れに触れ、いき過ぎると大疫神、祟神、鬼神などになってしまい、結界内に戻ることができない。なので、結界の外にでるときは、依代となるものか(神輿など)、穢れを祓うものが必要になる。アカイヌヌシの今回の外出には、穢れを祓えるサクヤがいるので、安心して出ることができるのである。



(普段から野宿なのだから、さほど気にはしないが、宿に入れぬというのは、やはり、釈然とせんものがあるな。あの坊主より下に扱われているようで腹立たしいわ。)

 

 

 正体を隠しているので、敬えというのは無理がある。そんなことは分かってはいるのだが、やはり少しむしゃくしゃするのだ。

 そういうときに、間の悪い者がいるもので、酔ってカイにからんだ。

 当然、返り討ちに合うのだが、たちの悪いことに、その男は武士だった。犬っころにやられたままでは、武神の沽券に関わると、仲間を連れて戻ってきたのだ。

 5人の武士は、何を思ったか、カイに槍を向けてきた。


「やい、犬っころ!犬畜生の分際で武士に歯向かうとは太え野郎だ。槍のサビにしてくれるわ!」


(何を言っているのだ、この男は?頭が悪すぎる。どうしたものかな?)


 男たちが槍を繰り出すが、カイはひらりと躱す。男たちが何度繰り返しても、カイを捉えることは出来ない。

 いい加減、我慢の限界を迎えたカイは、最初に絡んできた男の股間に頭突きをすると、悶絶する男の顔に小便をかけた。


(有り難く思え。神域の中なら噛み殺しておるわ。ここで殺せば、穢れを得てしまうからな。)


 他の武士たちは、その光景に怒るわけでもなく、笑い転げていた。


「武士の威信に関わるからと来てみれば、相手は犬っころで、しかも返り討ちに合うとは。とんだ間抜けだ。」


 馬鹿馬鹿しくなったのか、他の武士たちは、さっさと切り上げて帰ってしまった。

 カイは、残された男に土をかけると、裏手から宿に入り込み、サクヤと千代の部屋の襖を開ける。


「あら、カイ。外が騒がしいと思ったけど、何かあったの?部屋まで上がってくるなんて。」


 千代が心配げに撫でてくる。


「大方酔っぱらいにでも絡まれて嫌気がさしたのであろう。よい、今夜はここで眠ればいい。宿の主人には明日の朝詫びを入れておく。」


 その夜カイは、千代とサクヤの間で眠ることが出来た。


(うむ、やはりこうあるべきだな。)



 しかし、味を占めたのか、カイは次の日以降も、夜な夜な忍び込んでくるようになった。

 カイの正体を知っているサクヤは、神であるアカイヌヌシに野宿をさせるのは気が引けていたので、黙認した。

 サクヤが何も言わないので、千代も何も言わない。


「カイ、毎回宿の者に謝るのも大変なので、夜明けまでには外に戻ってくださいね。」


 サクヤにそう言われて、多少の後ろめたさがあったカイは、素直に従った。



「やはり、カイはただの女好きだったんだな。」


 カイが夜な夜なサクヤ達の部屋に入り込んでいることを知った左馬介は、そう言ってからさっと身構えたが、カイは反論できなかったのか、特に反応を示すこともないまま、大人しくサクヤの横を歩くのだった。


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