新しい武器
白狐の社編スタートです
「叔父上、何故私がこのようなところまで来なくてはてはならぬのでしょうか?」
「父上、何故私まで来なくてはならなかったのでしょうか?」
「国の存亡に関わることで、帝の命でもある。文句を言わずについて来い。」
豊秋彦は、甥で帝の長男、つまり皇太子を連れて日輪大社に来ていた。自身の息子である明日彦はただの巻き添えで、皇太子と幼馴染だからと言う理由で連れてこられた。
「なぁ、明日彦。明日彦はこの大社に来たことはあるのか?」
「いや、多分ないと思う。父上が言うには、産まれてすぐに参拝に来たらしいが、憶えているわけもないし。」
「私は都の宮だったな。産まれて100日目の御参りだろ?」
「だったと思う。先日、父上が籠った話は聞いたが、力量が増えて、御力が強くなるらしい。」
「そうなのか。増やしたところで、誰に『治癒の御力』を使うというのだ?私の周りに病人はいないし、臣共は畏れ多いと言って、頼みに来る者もないのに。」
「そりゃあ、皇太子である貴彦に頼むのは畏れ多いだろうな。」
「父の命と言われてもなぁ。父上こそ、御力に感心が薄いんだよな。叔父上は熱心だが。」
「なんでも、鬼退治に使う武具に、御力を籠めたいらしい。」
「鬼退治?何故私がそのようなことを?武士や鬼狩りがやることだろう?」
「武士や鬼狩りでは、御力がないからできないんだろう。」
「じゃあ、私が御力を籠めて、奴等に下賜してやるのか?その為に私はこんなところまで態々足を運んだのか?いくら父上の命とはいえ、酷い話じゃないか!」
「貴彦、鬼の脅威は深刻だ。このままでは国が滅ぶ恐れもある。其方は次の帝となる者。帝として、国の脅威に立ち向かうのは当然のことだ。ましてやその原因は、我々皇一族にあるのだからな。」
鬼退治から戻ったサクヤは、金鉱の集落に来ていた。クーマ騒動の時には駐留していたので、集落の者ともすっかり顔馴染みである。また、狼の妖魔が鉱山を襲った時には、持参した薬で集落の怪我人を治したことから、集落の者にすっかり崇拝されていた。
「サクヤ様、態々この様なところに足を運んで頂きありがとうございます。この度は、如何なる要件でしょうか?」
「様はやめてくれ。いや、新しい小太刀を仕立てたくてな。御力の籠めやすい、よい素材はないだろうか?」
「御力を籠めやすい素材ですか?」
サクヤは霊徳童子を取り逃がした後から鍛錬の強度を上げていた。その中で新しい武具も検討している。サクヤは短弓を愛用しているが、これは連射性や速射性、取回しを考えて、実戦向きと思っているからだ。サクヤは遠距離を維持する戦い方をしない。近接戦も得意なので、自分から敵にに接近して戦うし、移動しながら放つことも多い。この戦闘スタイルが標準的な和弓より、短弓を選ぶ理由でもある。
サクヤは弓の強度を上げ、多くの御力を付与出来る素材を探していた。
また、小太刀もだ。小太刀は短い分、槍や長刀と戦う時は不利になるが、サクヤは相手の懐に入り込む戦い方ができる素早さがあるので、単純に腕力が必要な長刀や、槍と弓を両方持つのは不便であることなど、総合的に判断し小太刀を愛用している。こちらについても多くの御力を籠められる素材で作り直そうと考えていた。
更に、双刀にも挑戦している。単純に手数が増えると共に、防御しながら攻撃できると考えてのことだ。これはある程度カタチになってきていた。
「サクヤ様の仰る『御力』を籠めやすいというのはどういう意味で?」
「すまん、言い方が悪かったな。籠めるのは難しくともよいが、多く籠めることができて強くなる素材、そのような物に憶えはないか?」
「なるほど…。黒曜石のようなものですな。黒曜石では欠けやすいので小太刀には不向きですしな。ならば…、ここから西にある『湖の国』に龍神の社がある御神域があります。その鉱山から産出される『竜牙鉱石』は、確かその様な性質で、刀の素材としては最高級品です。それには及びませんが、御山で僅かに産出される『狼牙鉱石』も良いかと。ただし、これで刀を打つとなると、宮司様にご許可をいただかないと…。」
「そうか…。取り敢えずは『狼牙鉱石』かな。宮司に相談してみよう。小太刀で二振欲しいのだ。その時は頼まれてくれるか?」
「そりゃあ、サクヤ様の為なら、喜んで打たせて貰いますよ!」
「助かる。」
「サクヤ様は先日、強い鬼に苦戦されたそうですな。サクヤ様でも倒せない鬼となると、新しい刀も必要でしょう。頑張らせてもらいます。それ程強い鬼と戦われたなら、さぞ消耗されたでしょう。ちょうど集落を川沿いに昇った所に良い湯(温泉)が出る湯治場があります。そこで英気を養われてはいかがでしょうか?鉱山の者も怪我が絶えませんが、そこで2〜3日療養すれば、すっかり良くなると評判なのですよ。」
「ほう、湯治場か。それは良い話を聞いた。早速行ってみるかな。」
「では、集落の者に案内させましょう。」
サクヤは集落の女子に案内されて、湯治場に行く。
「脱衣場は別々ですが、露天の風呂は混浴です。湯帷子をお召しになってください。不埒者が来ぬよう、私はここで見張っておきます。」
案内してくれたキヌが頼もしく胸を張る。
「ありがとう。千代行こう。」
「私も見張りをしようと思います。」
「見張りはいる。其方も鬼と戦ったのだ。一緒に湯治すればいい。」
「わかりました。キヌ、お願いします。」
「畏まりました。」
サクヤと千代は、一緒に湯に浸かった。
(ほう、この湯には御力が溶けているな。確かにこの湯に浸かれば、身体も力量も僅かにだが回復するな。もう少し強くてもよいかもしれぬ。)
思い立ってしまったサクヤは、実行せずにいられない。
サクヤは、湯に御力を籠めた。
「サクヤ様!何をなさいましたか!?急激に傷が回復しました!」
「あぁ、この湯にはその様な力があるみたいだな。」
「先程まではそれ程ではありませんでした。サクヤ様…、御力を籠めましたね。」
「いや、もう少し回復の力が強ければ、皆助かるのではと思ってな。」
「やはり…。湯治に来たのに、御力を使ってどうするのですか。」
「御力なんて、一晩寝れば回復する。籠めたのも少しだけだ。」
千代はジト目でサクヤを睨んだが、そっぽを向かれ溜息を吐いた。
その後に湯に浸かった集落の者が、あっという間に怪我や病が回復したため、大騒ぎになったのは、サクヤ達が帰ったあとである。
湯治場から帰ったサクヤは、宮司に面談を求めた。
「どういった要件かな?」
「はい、『狼牙鉱石』の使用許可をいただけないかと伺いました。」
「『狼牙鉱石』…。なる程、先の鬼との戦いを受けてということか。それは構わんが、今ある鉱石では刀一振も打てんだろう?」
「はい。ですので、御山に行こうと思います。」
(他にもヌシ様に相談事もしあるしな。)
「分かった。しかし、鉱石は何処にあるか判らんぞ。今ある鉱石も、偶々露出しているのを見つけたという話だ。どこで見つけたかくらいは教えるが、付近に鉱脈があったという話は聞いていない。」
「その調査も含めて入ってみます。暫く掛かると思いますので、頭に宜しくお伝え下さい。」
「また弥九郎の頭痛の種になりそうだな。分かった。休暇の代わりに行ってくるがいい。」
「ありがとうございます。」
宮司の了承を得て、サクヤは早速御山へ向かう。千代には残るよう伝え、コノハに暫く留守にすることを伝えて欲しいと頼んだ。
「猿也殿にも頼んである。しっかり鍛えてもらうといい。」
「畏まりました。」
サクヤが御山に入ると、イズマが出迎えた。
「あら、どうしたのです?イズマさん。」
「『狼牙鉱石』を探しにきたんだろ?案内するよ。」
「随分耳が早いですね。」
「私達の『耳』は彼方此方にいるからね。最近はサクヤさんに張り付いて置くよう伝えているんだ。」
「あぁ、あの『烏』ですか。なるほど。」
「なんだ?気付いていたの?流石だね。」
「あれだけ四六時中張り付かれたら、嫌でも気付きますよ。」
「おかしいな?気配は消しているはずなんだけど。」
「そんなことより、早速案内してくれますか。」
「わかったよ。ついておいで。」
サクヤがイズマの後を追うこと30分、谷間の渓流に下りてきた。
「この渓流の上流に鉱脈があるんだが、サクヤ一人で掘り出すわけにもいかないだろう。この渓流には流出した鉱石が偶に落ちてる。ほら、こんな風に。」
そう言ってイズマは、一抱えほどある石の上に乗った。
「この、少し青味がかった石が『狼牙鉱石』を含む石だ。上手く目を叩くと原石だけ取り出せる。やってみるといい。」
そう言われたサクヤは、持って来たタガネを金槌で叩く。綺麗に割れた断面は美しい蒼だった。
その後も何個か鉱石を見つけ、同じ作業を繰り返して籠に入れる。
「それだけあれば、小太刀二振りは打てるだろう。」
「助かりました、イズマさん。思ったより早く採集できました。」
「もう帰るのかい?」
「いえ、ヌシ様に相談したいことがあるので。イズマさんも同行してください。」
「ふ〜ん、わかったよ。」
2人は連れ立ってアカイヌヌシのもとを尋ねた。
「ヌシ様、ご無沙汰しております。」
「我の感覚では、ご無沙汰というほどでもない。」
そう言ってアカイヌヌシはサクヤに背を向ける。「撫でろ」という意味である。
サクヤは失笑してアカイヌヌシの背を撫でた。
「して、今日の要件は?」
「ご相談がニつあります。一つは、ハクリ様にお会いしたいので、ご紹介下さい。もう一つは、ある者に『御力を授け』ていただきたいのです。」
「ふむ、1つずつ話そうか。ハクコナリヌシを紹介しろと?其方はもう会っているのだから、紹介するも何もないだろう。」
「はい。ハクリ様にもう一度稽古を付けて頂きたいので、頼んでいただけないかと。今度は此方から伺います。その際に、もう一つのお願いと関係しますが、千代という山兵を連れて行きたいのです。」
「ほう。では、先に2つ目の話を聞いておこうか。」
「はい。千代に『御力を授け』た振りをしてもらい、武器に御力を付与させることを覚えさせたいと思っています。理を教えるのは相手を選ばれるようですから、この方法なら問題ないかと。それに、ヌシ様に出てきて頂かなくても、ハクリ様に授かったことにすれば、鍛錬と合わせて一石二鳥かと。」
「なんだ、美味しい所を全部ハクコナリヌシに持って行かれるようだな。まあ、良かろう。奴はに伝えておく。だが、そのような面白そうなこと、黙って見ておくのもつまらんな。よし、我も同行しよう。」
「「はい?」」
「ちょうどイズマもおる。イズマ、我は暫く留守にする。後は任せたぞ。」
「ええっ!?ぬ、ヌシ様。そんなこといきなり言われても!」
「大した問題はないだろう。今すぐ出立するわけでもなし。ちょうど退屈しておったのだ。このような話、放って置く手はないではないか。」
「はぁ~、サクヤさん、こうなることが分かってて私を連れてきたのですか?」
「そのようなわけがありません。まったくの想定外です。イズマさんには、ハクリ様案が却下されたときに、ヌシ様の代わりに『御力を授け』る役をやってもらおうかと思っていただけで、こんなことになるとは…。」
「そうですか…。ヌシ様がその気になってしまった以上、仕方ありませんね。」
出立の時期を決め、サクヤは御山を下りた。籠の石が少し重く感じたのは、気のせいではないだろう。
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