鬼が占拠する里
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鬼が占拠しているという里に着いたのは翌日の昼前。途中の小さな町で1泊し、早朝に出発した。
「この峠から見える、あの川沿い里が件の里だ。ここから列をなして進めば、鬼にも此方が判るだろう。どうする?」
「別に知られて困ることはない。このまま進む。」
「正気か?奇襲は戦術の基本だろう?」
騎重郎はサクヤを訝しげに見る。サクヤはそちらに目線をやることなく返す。
「ほう、少しは考える頭があるのだな。だが、あれ程拓けた里なら、気づかれるのが遅いか早いかの差しかない。夜襲でもしない限り、奇襲は無理だろう。夜目の効く鬼に、夜襲など以ての外だがな。」
そう言い捨てると、そのまま進軍を続けた。
「さて、勝負だったな。此方は私と千代だが、そちらはどうする?」
「くそっ!正気かよ。いいだろう。此方は俺と組長だ。」
「では、早速始めようか。千代、行くぞ。」
サクヤはそう言うと、いきなり矢を番え、遙か先の鬼に放つ。
空気を切り裂く矢の音に振り向いた鬼が、此方を向いた瞬間、鬼の眉間に矢が刺さり、そのまま絶命した。
「ま、まじか?!」
「まずは一体。お前達、のんびりしてていいのか?」
「くそっ!どっちが鬼かわからんわ!組長、行こう!」
感心する馳遊馬を引っ張るように騎重郎が駆け出す。騎重郎の矢はここからでは届かない。
「それでは、実力を拝見しよう。しかし、鬼とは失礼な奴だ。なぁ、小平太。」
「そ、そうだな。」
(い、意外としつこい…。)
サクヤと千代は、騎重郎達の戦いが観えるよう前に出る。
「小平太達はこの辺りで待機!私が鏑矢を上げることがあれば、参戦せよ。こちらに寄ってきた鬼は倒してかまわん。ただし、鏑矢をここに向けて放つときは、直ぐ様撤退だ。こちらに構うな。」
「「はい!」」
サクヤは手短に指示を出すと、千代と共に前進を再開した。
「案外やるな、特に組長の方。」
サクヤは寄ってくる鬼を倒す以外は、馳遊馬達の戦いぶりを見物している。
騎重郎の弓の腕は、悪くはないがそこそこだ。一方、長刀を振るう馳遊馬は、無駄のない動きで、騎重郎に近付く鬼を斬り捨てる。
この段階で、サクヤは4体、騎重郎が2体倒している。因みに、千代は2体、馳遊馬も2体だ。
「残りも少なくなってきた。ケリをつけよう。」
サクヤは屋根の上に飛び乗ると、続け様に矢を放つ。一気に3体倒したところで、異変に気付いた。
(何か来る。今までの鬼とは違う…。)
サクヤは矢を番え、違和感を覚えた方へ向ける。
(そこか!)
サクヤは矢を放つが、突然現れた鬼は飛んできた矢を手で掴む。
(掴んだ!こいつ、やる。)
サクヤは鏑矢を番えて、即座に小平太達の方へ放つ。
「千代!退け!」
そう指示された千代は、即座に撤退を開始する。千代はサクヤの指示に従順だ。逸ることも反発もしない。サクヤが退けと言った以上、ここにいるのは危険と判っている。自分が残っても、サクヤの足を引っ張ることになるのだ。
「鬼狩り達も退け!こいつにはお前達では勝てん!」
「じゃあ、お前も退け!1人では無理だろ!」
騎重郎が言い返した刹那、騎重郎は吹っ飛ばされる。
鬼の槍が騎重郎を襲った。騎重郎はすんでのところで槍を躱したが、即座に蹴りが飛んできた。
「不味いな。組長!騎重郎を連れて退け!」
そう言ったサクヤは、退却を援護するため、続け様に矢を放つ。しかし、鬼は素早い動きで矢を躱す。
「いい腕だな、娘。だが、矢が尽きたときどうする?」
「ほう、鬼が一端の口をきく。そうなったらそうなったで、やり方はあるものさ。」
サクヤは屋根から飛び降りると、液状の浄化薬を鬼に向って投げつけた。
鬼は回避したが、足元で割れた容器から飛び散った液体が足にかかる。
「ちっ、何だこの水は?浄化しているのか?面白いことをするではないか?娘!」
怒りの形相の鬼は、サクヤに向って槍を振るう。サクヤは躱しながら小太刀で応戦するが、獲物のリーチが違うので、反撃が届かない。
サクヤは槍を躱し、懐に入り込んで小太刀を振るう。鬼は身を捩らせながらも蹴りを放つ。蹴りを両腕で防いだが、軽いサクヤは吹っ飛ばされた。
「やるではないか娘。弓だけでなく、刀も使えるとはな。名を聞いておこうか。」
「鬼に名乗る名などない。聞いたところで、冥土の土産にしかならんぞ。」
「勝てると思うてか、人の分際で。」
「お前とて、元は人だろう。」
「ああ。だが今は違う。人では到底及ばぬ力を身につけた。そして、穢れや邪心を得ることで、永遠に生き続けることができるのだ!」
鬼は素早く突きを繰り返してきた。躱しきるのが難しいと判断したサクヤは、先程の浄化薬をもう一度放つ。槍が容器を貫くと、鬼は直ぐ様後に飛んだ。
「ええい、忌々しい奴め。これで終いだ!」
鬼はとてつもない速度で突っ込んでくる。
(回避する時間はない。受けても吹っ飛ばされるか。)
サクヤが受ける覚悟を決めたとき、横から刀が入り槍を止める。
「組長、まだいたのか?早く退け!」
「娘ひとり残して退けるか!騎重郎も動けないしな。」
馳遊馬はサクヤの前に立ち、鬼と退治する。
「ふん。ちと分が悪いか。まあよい、楽しみは先に延ばそう。幸い、我にはいくらでも時がある。もう一度聞こう。娘、其方の名は?」
「サクヤだ。」
「そうか、サクヤか。憶えておこう。我が名は霊徳童子。いずれこの国を統べる鬼だ。憶えておけ。」
そう言い残すと、鬼は去っていった。サクヤは追うことも考えたが、今の自分では勝つのが難しいと、思い止まった。
「助かった組長、礼をいう。」
「いや、こちらこそだ。しかし、騎重郎が…。」
サクヤと馳遊馬は騎重郎に駆け寄る。騎重郎は生きていたが、全身の骨があちこち折れている。内臓へのダメージも深刻だ。
「これなら間に合う。」
サクヤは回復薬を取り出すと騎重郎に飲ませる。その間に、こっそり治癒の御力も使った。
苦痛の顔を浮かべていたが、薬を飲むと落ち着いたようだ。
「凄いな、この薬は。これも里で作っているのか?」
「そうだが、高いぞ。」
「そ、そうか。そんなもの使って貰って悪いな。」
「いいさ。自分で育てて煎じているから、元手はタダだ。」
「そ、其方は凄いな。それだけの強さで、調薬までするのか。そしてその美しさだ。」
「こんな時に女を口説いてる場合でもあるまい。取り敢えず、これを町まで運ぶ。板戸を外してきてくれ。」
「そんなつもりは。素直な感想さ。」
サクヤと馳遊馬は騎重郎を板戸に乗せ、峠まで運ぶ。峠で待っていた者達に任せ、町まで戻った。
「しかし、サクヤが取り逃がすとは、それ程強い鬼がいるのか。」
「今の私では刺し違えるのが精一杯だろう。まだまだ鍛錬が足りないな。」
「サクヤで足らなきゃ、俺達はどうすればいいんだよ。」
「鍛錬するしかないさ、死にたくなければな。」
「しかし、サクヤ殿に怪我は無いのか?かなり派手に吹っ飛ばされていたが。」
「あの程度なら問題ない。」
(すぐに治癒の御力を使ったしな。)
「じょ、丈夫なのですね。」
「丈夫というわけではない。上手く力を逃がしただけだ。それにしても、あの霊徳童子とか言ったか?馳遊馬殿は知っていたか?」
「いや、初めて聞く。かつては何某童子と呼ばれる強い鬼が何匹かいて畏怖されていたが、遠い昔の話だ。」
「そう言えば神楽の演目にも出てくるな。そんな伝説級の鬼なのか?」
「私が遭遇した鬼の中では群を抜いてる。あんなのが頻繁に出るようでは、鬼狩りは全滅しているよ。」
「確かにな。」
「ところで、小平太殿と言ったか?君はサクヤ殿の想い人なのか?」
「な!何を、藪から棒に!そ、そのような…、」
「そんなものではない。ただの幼馴染で同僚…、いや、今は部下か?」
「そうか。なるほどな。ならば、私が名乗りを上げても問題はないのかな?」
「く、組長!サクヤ殿はまだ14です!何を考えてるんですか!」
「いいではないか。今すぐというわけではないんだ。サクヤ殿が成人するまで、ゆっくり焦らず口説くとするさ。」
「はぁ、仲間がこんな状態なのに、呑気なものだな。さっきといい、もう少し場所と時期を考えた方がいいのではないか?」
「ははは。だが、このように不意をつく方が、印象には残るだろう?」
「なるほどな。奇襲は兵法の鉄則だ。このような時にも応用できるのか…。」
「組長、騎重郎に怒られますよ。」
「騎重郎はサクヤ殿との勝負に負けたんだ。文句は言わせないよ。」
「あぁ、やっぱり負けたんですね。」
「うん、圧倒的な差だったよ。」
「サクヤ、気をつけろ。こういう口説くことに慣れた奴は、基本女誑しだ。碌なもんじゃないぞ。」
「なんだ?小平太。お前が心配することでもないだろう。邪な心があれば、私には判るからな。」
「えっ!?サクヤ殿はそのようなことが判るの?き、気を付けなければならないな。いや、大丈夫だ!今の私に邪な心などない!」
「だが、私も含めて、皆穢れが付いているようだ。後で禊祓をしなくてはな。」
「そうだな。ついでにあの組長の邪な心も払ってやれよ。」
「私に邪な心はない!」
「帝、また一つ里が滅んだようです。」
「そうか、やはり『霊徳童子』が?」
「はい、そのようです。」
「宮の宮司に祀らせたが、それ程怨みは深いのか…。」
「御力も持たぬ宮司に何ができましょう。やはり、帝自ら御神域に入られるべきです。」
「そうは言うが豊秋彦、今朕が都を離れては、逃げ出したと言われてかねん。他に方法はないか?強い鬼狩りはおらぬのか?」
「鬼狩りに強い武具を持たせるにも、御力は必要なのです。そのような御力を持つ者がおりません。」
「武士共を使えばなんとかならぬか?」
「武士とて鬼狩り同様、鬼を調伏する武具がなくては、餌食になるだけです。」
「豊秋彦、其方御神域に籠ったときに御力が増えたと言っていたな。其方が武具に御力を籠めれば良いのではないか?」
「私の御力は、弱目の「治癒」と、「弓」だけで、武具に御力を籠めるような力を持っておりません。帝なら「治癒」と「禊祓」ができます。今、都で「禊祓」ができるのは帝だけです。」
「いや、皇太子がおる。あれを連れて大社に行ってくれぬか?豊秋彦。」
「皇太子様をですか…。分かりました。行ってみましょう。」
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