胃痛の3人組と簪
おはようございます
朝投稿方が落ち着くことがわかったので、今後は朝投稿に戻すかもしれません。
サクヤ達一行は、無事に赤犬の里に帰還した。
「…と言う感じで、丸く収まりました。」
「サクヤ、話を端折り過ぎだ。」
「丹の守殿は、サクヤに事実上の忠誠を誓い、敵対することなく、何かあれば何時でも馳せ参じると申されております。」
「サクヤの話から何がどうなれば、そうなるんだ。」
結局、藤十郎と弥九郎が、事のあらましを一から十まで説明することになった。
(私は不要なようだ。帰ってもいいだろうか?)
「判った…。判りたくないが判った。」
宮司は額を抑え項垂れる。理解が追いついていなのだろう。
「そんなわけで、丸く収まったのですから、そんなに疲れた顔をされなくてもよいのでは?」
「そうです、宮司はあの場にいなかったからまだましです。私は胃の臓が痛いです。」
「うむ、私もだ。サクヤから貰った薬がよく効くぞ。いるか?」
「…頂きます。胃の臓が痛くなる原因も、治す薬を作るのも同じ人物というのが納得しかねるのですが、藤十郎殿は混乱しないのですか?」
「もう諦めている。」
「あのう、そういう話は、本人のいないところでやってもらえませんか?」
「本人がいるから、聞こえるように言っているんだ。」
「性格が悪いですよ、頭。」
「鬱憤晴らしに国守の息子を全力で殴る奴に言われたくねぇよ。」
「どっちもどっちだが、どちらかと言うと、弥九郎に同意する。あれは胃に悪い。というか、心の臓が止まるかと思った…。」
「…で、あろうな。その場にいなくてよかった。」
「そうですか。用が済んだみたいなので帰ってもよいでしょうか?」
「あぁ、ご苦労だったな。明日は休暇なので、ゆっくりしてくれ。」
「ありがとうございます。では、失礼します。」
そう言ってサクヤは部屋を出ていった。
残された4人は、報告の続きを行う。但し、平八郎はどうでもよさそうな顔で上を向いている。難しい遣り取りは理解できないので、サクヤの言動の理由等を半分も判っていないからだ。
「それにしても、サクヤは普通に『禊祓』をやっていたな。」
「もう開き直ってるというか…。浄めも浄化も禊祓も一緒らしい。」
「やはり、養女にしておいてよかったな。」
「しかし宮司、サクヤも養女にして、伊都はどうするおつもりで?」
「…うむ、それよな。伊都はあの性格だ。宮司のように人を束ねる仕事は向かぬと思う。ゆくゆくは宮司を補佐して貰えればよいのではと思っておるのだがなぁ。」
「はい、宮司の叔父馬鹿はわかりました。確かに伊都には荷が勝つでしょうな。」
「そ、そのように言わずともよいではないか…。」
「普通に嫡子がおるのだ。サクヤもそのつもりはないし、伊都もないだろう。」
「でしょうね。そんなことより、もうサクヤは私の手に負えません。弓寮の頭はサクヤでよいのではないでしょうか?」
「弥九郎。お前、逃げれると思っているのか?」
「なんですか?それ?」
「こうなれば、一蓮托生だ。最後まで付き合って貰うぞ、弥九郎。」
「勘弁してください!もう限界です!胃の臓が持ちません。」
「だから、良い薬がある。責任持って本人に作らせれば良いのだ。支給品にしてやるから安心しろ。」
「何を安心しろと…。」
「この話は終りだ。諦めろ。」
「それより、サクヤが気にしていた、日輪宮のあり様だ。御力もない宮司など、何の意味があるのか?このままでは、町の者はみな、邪心で己を失いかねん。」
「そして、恨みを持って死に、怨霊となる。いずれは鬼か…。確かに、根本を断つとなると、日輪宮や朝廷を何とかせねばならんが、我々に彼等を動かす力などない。」
「そういう意味で見るとサクヤの行動は、解決の道筋を探そうとしての行動と見れば、得策だったとも言える。心の臓には悪いが…。」
「確かに…。もう少し穏やかに解決して欲しいところだな。」
「朝廷や日輪大社にツテでもあればよいのだが、そのようなものはないしな。」
「今のところ、丹の守だけか…。ちと弱いな。あの方一人では無理だろう。」
「ん?話は終わったか?では解散しましょうぜ。」
「平八郎。お前、頭としてそれでいいのか?」
「俺は頭を使うのは向いていない。命じられたことを、全力でやるだけだ。」
「今だけ、お前が羨ましいよ。」
「お前も難しいことは考えず、サクヤ殿を信じて付いていけばいいのだ。サクヤ殿は今回、結果的に何も間違ってはいないのだろう?」
「いや、まぁ、そうなのだがな…。」
「確かに、そうなのだろうが…。」
「我等では怖さをが先に立つな…。」
平八郎を除く3人は、苦悩の顔で報告と方針確認を終えた。結局何も解決はしなかったが。
「報告は終わったのか。一緒に帰らないか?」
「小平太か。そうだな、母様に土産を渡さなければならないしな。」
「サクヤ、俺からもお前に渡しておく。」
「なんだ?」
小平太は懐から布に包んだ簪を出し、サクヤに渡した。
「簪?私にか?どうしてこのような物を?」
「丹の国府で町を散策したときに買ったんだ。サクヤへと思って。」
「いつの間に。しかし、何故私に?私も一緒に行ったのに、土産など不要だろ。」
「初めて余所の国に行った記念みたいなものだ。コノハさんには買ったけど、自分には買ってないだろ?」
「それはそうだが…。わかった。有り難くいただく。付ける機会があるかは分からんが。」
「今付けてみればいいだろ。貸してみろ、付けてやる。」
小平太は簪を手に取ると、サクヤの髪の結ってある根元に簪を挿した。
「似合ってるよ。」
「そうか?私にこのような華やかな物が似合うとは思えないが…。」
「御守とでも思って付けておけばいい。」
「そうか…。確かに、簪の先は鋭いから、いざという時、武器になりそうだな。」
「いや…、そういう意味ではないのだが…。」
「ありがとう。中々良いものを貰った。家に帰ったら、早速先端を研いでみるよ。じゃあな。」
サクヤはそう言うと、家の中に入って行った。残された小平太は、呆然と立ち尽くし、閉まった戸を見つめていた。
「ただいま、これお土産」
「お帰り、あら、ありがとう。何?」
「紅。丹の国の名産らしい。」
「へぇ、いい色ね。ありがとう。あら?貴方、その簪どうしたの?」
「あぁ、さっき小平太がくれたんだ。御守だと思えって。ただ、このままじゃ先端の出来がいまひとつだから、あとで研ごうと思う。」
「はぁ?研ぐ?」
「簪は先端が尖っているから、いざという時武器になる。小平太も意外と気の利くものをくれるな。」
「いや、御守って、そういう意味じゃ…。」
(ごめんね、小平太。こんな風に育てた憶えはないんだけど。あぁ、小平太が不憫でならないわ。)
「で、どうだった?丹の国府は?」
「華やかで活気があったが、多くの者が穢れや邪心に蝕まれてる。国府にある日輪宮の宮司は禊祓もろくにできないし、梟の社とも不仲では、ああもなる。鬼の温床といった感だったな。」
「そんなに…。里にいると分からないことが多いわね。で、問題は起こさなかったの?」
「全てを丸く納めてきたつもりだ。」
「つもり、ねぇ。ていうかサクヤ、貴方、討伐に行ったわけでもないのに、口調が戻ってないわよ。」
「あぁ、忘れてた。」
(きっと、次男坊のせいだな。)
「明日もお役目?」
「いや、明日は休暇を貰った。御山に行ってくるよ。」
「どこが休暇なのよ。」
「散策みたいなものだよ。」
「若いっていいわね…。ついでに若返りに効く薬草でも採ってきてくれないかしら。」
「そんなものあるのか?」
(ヌシ様に聞いてみるか?)
「冗談よ。そんなものあったら苦労しないわ。」
「母様は、充分綺麗だと思うけど。」
(その気遣いを、小平太にもできないものかしらねぇ。)
翌日、御山に登ったサクヤは、アカイヌヌシをなでなでしながら、報告をした。
「なるほどな。社が機能しないから、穢れも邪心も増え放題というわけだな。」
「そうですね。何とか町の者達の浄化ができれば、怨霊の発生も抑えられます。私達がよく奉納神楽に行く宿場町も、最初は酷いものでしたが、最近は随分改善しています。」
「それは、サクヤが浄化しまくっているからだろう。全ての国々でできるものではあるまい?」
「そうですね。流石に無理だと思います。行ってみたい気持ちはありますが、毎度毎度巡るのは厳しいですね。」
「町の者達も、日輪大神だけを信仰しているのか?」
「いえ、そこは必ずしも。梟の社に参拝するものは少なくありません。公家や武士は朝廷に忖度しているようです。」
「とはいえ、町の者でも行かぬ者は行かぬだろう。穢れを得たり、邪心を持ったところで、さしたる不便はないしな。山にでも入らぬ限り。」
「しかし、行き過ぎれば怨霊になり、いずれ鬼になる恐れもあります。」
「死んだ後のことまで心配する余裕があるとは思えんな。その日食うのに精一杯であろう。」
「そうですね…。」
「まぁ、鬼が頻繁に出て、身の危険を感じだして、初めて何とかせねばと思うのだろう。外圧が無ければ、変わろうとしないのは、今も昔も変わらん、この国の民の習い性よ。して、サクヤ。其方はこれからどうしたい?」
「私ですか?そうですね、すぐにという訳ではないのですが、何れは日輪大社に行ってみたいとは思います。」
「日輪大社に?何をしに行くのだ?」
「根本的な原因は、都の朝廷と日輪大社にあるのではないかと思っています。行ってみれば、分かることもあるのではないかと思いまして。」
「そうか…。その時は我も同行できればよいがな。」
「ヌシ様がですか?そう言えば、以前白狐のヌシ様に稽古をつけて貰った時にも思ったのですが、ヌシ様も御神域を離れることができるのですか?」
「長く離れなければな。理由は2つある。神といえど、神域を長く離れると、神力が失われ穢れを得る。最悪、祟神や鬼神になることもある。もう一つの理由は、離れた神域を見てくれる者がおらぬと、妖魔が増えて荒れ放題になることだ。」
「では、白狐のヌシ様は、大丈夫だったのでしょうか?」
「他の神域におる分は問題ない。ただ、離れた神域が荒れるがな。」
「そういうことだったのですね。では、ヌシ様も余所の神域に行ったりするのですか?」
「いや、もう久しくここを出てないな。行く用事もないし。会っても不快になるだけだ、あんな連中。」
(本当に不仲なのですね…。)
「そうですか。なのに、日輪大社には同行するつもりなのですか?」
「まぁ、やり方は色々あるからな。時々戻って来るなら、1〜2年離れても大事あるまい。」
「山兵や、イズマさんたちが大変なことになりそうなのですが…。」
サクヤがそう言うと、アカイヌヌシは不敵な笑いを見せ、遠くを見ていた。
次回は新キャラ登場です
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