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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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丹の国府

本編再開です

 サクヤ一行は国境を越え、丹ノ国の国府『丹府』の町に入った。

 サクヤは、動き難いと文句を言いながらも、新しく誂えられた装束に身を包み、粛々と街道を歩いていた。

 社に馬はいない。山道ばかりなので余り役に立たないからだ。遠征で必要な時は借馬を利用したりもしたが、今回は皆徒歩である。サクヤを輿か籠に乗せようという話もあったが、窮屈なので断った。


 輿にも牛車にも乗らないものは侮られる。それも覚悟していたが、町の衆は熊の妖魔を退治した社の一行を歓迎ムードで出迎えている。好奇の目がサクヤに注がれた。


「えらい美人だなぁ、あれが妖魔を倒したのか?」

「まだ随分若いだろうに。凄いもんだねぇ。」

「悪さをした武士までとっちめたって言うじゃないか。たいしたもんだ。」

「なんでも、妖術を使ったって話だ。」


 人々が好き勝手に噂し合うのを、小平太は苦い顔で横目に見る。


「何だか尾鰭端鰭が付いてるな。」

「人の噂なんてそんなものだ。一々気に留める必要はない。」


 サクヤは気にも止めず、粛々と歩き続ける。そうして何とか国府の館に到着した。

 門では田所が出迎えた。


「遠路遥々お越しいただき、ありがとうございます。国守様がお待ちです。中へどうぞ。」

「ありがとう存じます。本日は宜しくお願いします。」


 サクヤが代表して応じる。今回の主賓は、討伐の英雄で、宮司の養女でもあるサクヤとなる。付き添いは藤十郎と弥九郎と平八郎。その他の山兵は、あくまで護衛である。


「長旅でお疲れでしょう。宴までは少し時間がありますので、こちらでお寛ぎください。」

「ありがとう存じます。」


 通された客間は、十分に広く豪華だ。田所が出たところで、サクヤは一つ伸びをした。


「来るだけで疲れました。」

「精神的に疲れるのは今からだ。隙を見せるわけにもいかぬからな。」


 国守までは、途中の宿場町で1泊した。丸2日の歩き旅なので、流石に疲れる。サクヤは履きなれない下駄に辟易していた。


 間もなく日が落ち、歓待の宴の時間となった。事前に国守と挨拶を交わす。


「遠路遥々ご苦労であったな。よく来てくれた。今日は可能な限りの馳走を用意した。思う存分に飲み食いしてくれ。」

「ありがとう存じます。楽しませていただきます。」

「護衛の者たちにも酒を振る舞っておるが、サクヤ殿もいける口かな?」

「多少であれば。」


(事前に黒曜石に御力を籠めておかなければな…。飲み過ぎると舞の一つも披露するはめになる。)


 酒宴になることは予期していたので、サクヤは黒曜石を用意していた。寝る前に枯渇ギリギリまで御力を使うことが習慣になっているサクヤは、常に黒曜石や翡翠を持ち歩いている。


 

 宴が始まる。上座に国守である蘭と、主賓であるサクヤが並ぶ。蘭からサクヤの紹介がなされると、居並ぶ家人が注目した。


「いやいや、噂に聞く以上の美しき姫巫女ですな。この様なお方が妖魔を倒し、武士共を懲らしめるとは、想像もつきませぬ。」

「まったく。うちの荒くれ共を鍛え直して頂きたいものです。」


 何処まで本心か分からない世辞が飛び交う。サクヤは体裁を繕うため、微笑を維持し続けた。


 宴が始まり、酒が酌み交わされる。酔った者もがサクヤを色付きの目で見始める。サクヤはそんな目線は気にすることなく、料理を食べたり、国守から勧められた酒をちびちびやっていた。


「まだ若いだろうに、飲んでも乱さぬのだな。大したものだ。」

「飲み過ぎぬよう、抑えておりますゆえ。余り飲むなと、母にも言われております。」

「さもあろう。若い娘が酒で乱れるのは外聞も悪くなろうしな。」

「非常に美味しいお酒ですので、我慢するのも大変です。」


 サクヤはそう言って微笑んだ。


(う〜む、これなのだ。凛とした雰囲気からの、この微笑。この相違にやられるのだ。意識してやっているのなら、空恐ろしい娘だ。)


 実際、2人の遣り取りを見てた者は、サクヤの微笑にすっかり魅了されていた。


「ところで、サクヤ殿。山の民は『御神力』なる不思議な力を操るという。帝もその力をもって君臨されておられる。帝の力と山の民の力、どのように違うのだろう?」

「帝の御力ですか?私は帝がどのような御力をお使いになられるのか存じ上げません。」

「帝は『癒しの御力』をお使いになられると言われております。この御力からが使えるのは、帝の一族だけなのです。」


 藤十郎が口を添えた。


「『癒しの御力』ですか。」


(えっ?どういうこと?たしかヌシ様は私に癒しの御力があるって言ってた。そして、里の者に知られない方がいいとも…。私の癒しは薬を介して使うから、多少違うのかもしれないけど、理を知っているから、その気になれば今なら使えそうな気がする。でも、あの頃はそんなことは知らなかった。つまり、血の記憶だ。ヌシ様は私の父親が誰かを知っているの?だとしたら、『癒しの御力』が使える、つまり帝の一族ということになる…。)


「どうかされたか、サクヤ殿?」

「いえ、少し考え事を。『癒しの御力』ですか。それはなんとも尊い御力ですね。私など、到底そのような事はできません。」


(何で藤十郎さん、私を睨んでるの?)


 藤十郎は、サクヤをジト目で見ていた。


「国守様、御力には血の記憶によるものと、神様から授かる御力があると言われております。帝は代々癒しの御力を受け継いでおられるので、血の記憶の御力です。私達山の民も、血の記憶の御力を其々持っていますが、全員ではありません。私は弓の御力を使いますが、知った者では、手を触れず、物を動かす者や、身体を硬くして、攻撃を防ぐ者等がいます。しかし、癒しの御力は帝の一族だげが受け継ぐと言われているのなら、里の者にそれを使える者はいないでしょうし、聞いたこともございません。」

「サクヤ殿は、他にも色々多才だと聞く。それは御力ではないのか?」

「剣術は、それなりに鍛錬しました。神楽も里の者は皆子供の頃から親しむものなので、特別ではありません。」

「そうなのか…。私にはその美しさが何よりの御力だと思うがな。」

「国守様はお上手ですね。真に受けぬよう気を付けます。」


 サクヤはそう言って微笑むと、盃を置いた。


「若輩には酒が過ぎたようです。私は部屋に戻らせて頂きますが、皆様は引き続きお楽しみくださいませ。」

「そくか、旅の疲れもあろう。ゆっくり休んでくれ。」

「ありがとう存じます。」


 そう言ってサクヤは席をたった。



「藤十郎殿。サクヤ殿はあの若さで、あの様な振る舞いができるのは、幼き頃から宮司となるべく教育を受けたゆえか?」

「いえ、サクヤ様が養女になったのは、比較的最近の事です。宮司が見出されたのですが、確かに変わった娘ではありました。しかし、立ち振舞を身に付いたのは、努力の賜物でしょう。」

「やはり多才なのだな。宮司が養女にしたのも頷ける。もっと早く知っていたら、うちの倅の嫁にでもと考えたろうが、あれが嫁では、倅の凡庸さが浮き彫りになるだろうな。」

「御子息の室に…。」

「今はそのようなこと企てておらんので、安心なされよ。あのような女子がおる社を敵に回すほど愚かではない。」


 蘭はそう言って笑う。


「時に、藤十郎殿。先程サクヤ殿が申しておった、神から授かる御力というのは、よくあることなのか?」

「いえ、私の知る限りでは騙り意外では聞いたこともありませぬ。しかし、サクヤ様は、もしかしたらそうなのではないかと思っておりました。」

「ほぅ、何故かな?」

「先程国守様もおっしゃった通り、サクヤ様は多才です。それこそ神懸ったのかと思う様に舞われます。凡そ常人には理解できない行いを傍で見てきましたゆえ、そのように考えたこともありました。」

「今は違うと?」

「はい。サクヤ様は非常に勤勉で努力家です。しかも、人の見ていないところで努力なされる。元々高い才覚があるのでしょうが、それ以上の努力を惜しみなくなされる。それを知らず、御力だの天才だのというのは、失礼にあたると思い致りました。もっとも、本人は努力とも思わず、楽しんでおられるようですが。」

「なる程な。確かに其方の言う通りだろう。努力を楽しめる。これこそがサクヤ殿の御力やもしれぬな。」

「御尤もですな。」


 蘭と藤十郎は目を合わせ笑った。




 部屋に戻ったサクヤは、国守が用意してくれた側女の手助けを受けながら、湯浴みをし、部屋着に着替えた。


(帝の御力は、『癒しの御力』…。

母様は何処で父上と出逢われたのだろう?まさか、今上の帝ではないだろうけど、極めてそれに近い人のはず。癒しの御力か…。薬を介さずに使えるものか?)


 気になったサクヤは、すぐに実行に移す。このあたりの性格は変わっていない。

 サクヤは短刀を抜くと、左腕に血が滲む程度の傷を付けた。

 普段、サクヤは御力を使うのに祝詞はあげない。明確に具現化するのに、祝詞は寧ろ邪魔だと思っていた。実際、サクヤほどの力量があれば、祝詞は不要だ。力量が少ない者が、神の力を分けて貰うために上げるのが祝詞である。


「早く良くなれ…。」


 サクヤは短く呟きながら、傷に手を添える。一撫ですると、傷は綺麗に消えていた。


「できるものだな…。」


 できたはできたが、サクヤは次の疑問にぶち当たる。


(これは、血の記憶による御力なのか?)


 御力の理を知ったサクヤは、頭の中で具現化イメージでき、力量さえあれば、実際にできることを知っている。最早、サクヤに血の記憶の御力など意味をなさないのだ。


(今日の事を話したうえで、母様に聞くのが1番早いか…。話してくれるかどうかはわからんが。)


 これ以上は考えても答えが出ないと思ったサクヤは、黒曜石に御力を籠めると、早々に褥に入った。




(『血の記憶』か…。)


 酒宴の席を離れて、庭に面した廊下に座った藤十郎に、弥九郎が声をかけ隣に座った。


「国守様の相手、任せきりにしてすみません。」

「いや、言えることと言えぬことがある。一人で対応した方がよかったのだろう。」

「どのようなお話を?」

「サクヤと御力についてだ。当たり障りない程度のことを話したつもりだか、サクヤが不思議な事を言っていた。」

「どのような?」

「我々が『代々受け継ぐ御力』と呼ぶものを、サクヤは『血の記憶の御力』と言っていたのだ。言い得ているが、そのような言い方をどこで憶えたのだろうかと思ってな。」

「『血の記憶』ですか…。面白い表現ですね。」

「サクヤの事は、我々も分からないことが多い。猿也との鍛錬を終えた後も、1人で山に入って鍛錬を続けていたが、見る見る上達しているのがわかった。1人でそのような鍛錬ができることなのか?私も山兵だったが、1人でできる鍛錬など、限界があるだろう。」

「確かに…。確実に強くなっていました。正直、動きが独特過ぎて、妖かと思った程です。天狗にでも稽古をつけられましたかね?」

「冗談に聞こえんのが怖いところだ。本当に人ならざる何かに稽古をつけて貰ったのかもな。」

「ヌシ様に会っていたとしても、サクヤなら本当かもと思えますからね。」

「まったくだ。そう言えば、御山の山犬を直ぐ様神の使いかもと言ったのは、確信があったからかもしれないな。しかも手懐けていた。」

「それが使いどころか、仮初のヌシ様だとしたら、もう笑えませんね。」

「…本当に冗談に聞こえぬ。」

「やめましょう。きっと酒が入り過ぎているのです。」

「そうだな。宴もそろそろ終いだろう。水でも飲んで、明日に残さぬようにせねばな。」


丹の国編のスタートでした。

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