【閑話】サクヤの師匠達
今回も過去の話
サクヤの強さの秘密です
時は少し遡り、サクヤが山兵に配属されて間もない頃のことである。
討伐をする上で、素早い相手を倒す為には、弓兵といえど近接戦の技術は体得しなければならない。
サクヤは最初、弓寮の中でも手練といわれていた者の指導を受けていた。元々身体能力の高いサクヤは無意識に身体を強化したり、動きを早くしたりしていたので、二月もすれば、弓寮の手練を凌駕するようになっていた。
その後は、槍寮の手練に指南を受けたが、剣術の基礎が身に付いていたサクヤは、あっという間に槍寮の手練をも凌駕した。
困ったサクヤは、藤十郎に相談すると、隠密寮に小太刀の名手がいると聞いて紹介してもらった。
男は猿也と言い、この時は知らなかったが、猿丸の叔父であった。
「なるほど、筋はよいな。これは教え甲斐がありそうだ。」
猿也はサクヤを指導しながら、隠密寮の仕事も教えた。
吸収のいいサクヤに、猿也も指導を楽しんでいた。
「サクヤ、弓兵を辞めて隠密寮に来たらどうだ。向いていると思うぞ。」
「面白そうではありますね。でも、なんで初期の配属では、隠密寮は対象外なのですか?」
「宮守になったばかりの歳では、見識が足らなさ過ぎるのだ。隠密寮は、各部寮で適性のある者を探して引き抜くのが基本だ。隠密寮の者の子が、幼い頃から鍛えられて、最初から配属されるという例もなくはない。私の甥の猿丸がそうだな。」
「へぇ、そんな人もいるのですね。」
「猿丸はいずれ紹介してやろう。中々使える男だぞ。」
「私が隠密を使うことなんてあるのかなぁ?」
その後、猿丸を紹介されたサクヤは、猿丸を使い回すことになる。
猿也はサクヤに剣術以外にも多くの事を教えた。
潜伏術、潜入術、外交術、交渉術、体術、投擲、戦術・戦略体系、心理学等々、隠密に必要な知識を一通り仕込んだ。
1年も経った頃には、隠密として十分働ける程度にはなっていた。
これを、弓寮や神楽寮、巫女寮のお役目まで熟しながら習得していたサクヤに、流石の猿也も呆れていた。
「私に教えてやれることは、もうなさそうだ。やはり、隠密になる気はないか?」
「面白くはありますが、私には向いていない気がします。」
「ふふ、かもしれんな。お前は、日の当たる道を歩く方が良いだろう。きっとそう言った星の下に生まれた者なのだ。」
こうして、サクヤの1年に渡る隠密修行は終了した。
弓寮や槍寮の兵を相手に鍛錬を続けたが、もう誰も相手にならなくなったサクヤは、1人山に入って鍛錬をしたりした。
そんなある日、サクヤは山中で一匹の妖と出会った。
サクヤが山中で小太刀を振り、仮想の敵と対峙していたとき、不意に何かが飛んできた。すぐに察知したサクヤは、最低限の動きで躱すと、飛んできた方向に小太刀を放つ。しかし、当たりはしなかった。
(躱された。何者だろう?)
「良い反応ですね。」
そこには二本足で立つ狐の妖がいた。人語を介したが、妖魔ではなさそうである。
狐の尾は三つに別れ、ふわふわと揺れる。
「狐の妖。演じたことはあったけど、見るのは初めてです。」
「はじめましてサクヤ君。私はハクリと言います。以後見知りおきを。」
「貴方もヌシ様の使いですか?」
「いや、あの方とは会ったことはあるけど、余り仲が良くなくてね。同じ犬の仲間なのに、気が合わないのだよ。」
「敵…ですか?」
「いや、敵というわけではないね。こうしてあの方の神域に来ることもあるが、そこを咎められたことはないよ。」
「そんなんですね、安心しました。」
「私は人間がもつ技術に興味がありましてね。君の鍛錬の様子を見せてもらっていたのだけど、私もやってみたくなったんだ。どうだろう、私と手合わせしてくれないか?」
「手合わせですか。私は今、小太刀一振りしかもっていないのですけど。」
「これでどうだろう。」
ハクリはそう言うと、何もない空間から木剣を二振り取り出した。
「凄い。それも御力ですか?」
「いや、幻術だよ。これは実体のない幻だ。これで斬られても怪我はしないけど、痛みは感じる。剣術の稽古にもってこいだと思わないかい?」
「確かにそうですね。」
サクヤは木剣を受け取ると、軽く振ってみる。重さも感じる、普通の木剣だ。
「じゃあ、お願いします。」
間を取り、対峙する。
ハクリが先に仕掛けてきた。ハクリは剣を横薙ぎすると、サクヤは剣で受け軽くいなす。いなした剣を上向きに振り抜くと、ハクリは上体を反らし躱した。
(凄い柔軟だ。そして、できる。)
ハクリの剣はかなり変則的だ。人間の理が通じない。時には足で剣を持って振ってくる。
「器用なことができるんですね。」
「そもそも、この見た目も仮初だからね。勝手が利くのさ。」
「とても楽しかったです。また手合わせ願えませんか?」
「望む所だよ。君がここに来てくれれば、私は現れるだろう。」
そう言い残すと、ハクリは風のように去っていった。
それからも、サクヤとハクリの手合わせは頻繁に行われた。
ハクリの人間の常識の外にある動きは、サクヤの動きを柔軟にさせた。日々成長を感じるのを実感できることが、楽しかった。
「サクヤ君、非常に楽しい日々だったが、残念ながら今日が最後になりそうだ。私は元いた処に帰らなければならない。」
「元いた処ですか?ハクリさんは此処で生まれ育ったわけではないのですね。」
「そうなんだ。ちょっと遊びに来ていただけでね。実はアカイヌヌシに頼まれたんだ。サクヤ君を鍛えてくれと。」
「アカイヌヌシ様に?」
「そう。私の本当の名は、ハクコナリヌシと言う。白狐の社の祭神さ。いい加減帰らないと、うちの山の妖魔が増え過ぎてしまうからね。楽しい時間はあっという間だな。機会があれば、うちの社にも遊びに来てくれれば嬉しい。」
「ハクコナリヌシ様…。知らなかったとはいえ、失礼しました。是非いつか伺い、このお礼をさせて頂きます。」
「アカイヌヌシが君のことを気に入っているのも解る気がする。本当に素直で優しい子だ。また会える事を楽しみにしてるよ。」
そう言うと、ハクリは風のように去っていった。
「神様だったんだ…。ヌシ様にお礼しなきゃね。」
少し寂しくなったサクヤだが、必ずハクリに会いに行こうと決めた。
(1回だけでも、あの尻尾をモフモフしてみたかったな。なんなら3本の尻尾に挟まれてみたかった…。今度あったらお願いしてみよっと。)
次回こそ本編へ戻り丹の国の国府へ行きます




