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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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38/89

再開

 休暇の明けたサクヤは、的場で鍛錬に励んでいた。


「それで本当に御力を籠めていないのか?」

「意識的には。全く籠めていないというと嘘になるかもしれません。」

「無意識に籠めれるものなのか…。」

 

 弥九郎は首を傾げる。


「頭の御力も、便利そうですね。矢の軌道を変えれるなんて。」

「俺の御力は、『手を触れず物を動かす御力』だからな。でも、僅かにだ。」

「僅かでも、放った矢の軌道を変えれるのは強味だと思いますが。」

「そこに活路を見つけたから、弓兵になったんだ。重たい物などビクともしないからな。」


 そう言って、弥九郎は明らかに見当違いの方向を向いて矢を放つ。

 しかし、放たれた矢は、途中で曲がると、的の中心に突き刺さった。


「ただ、この御力に頼り過ぎて、実際の腕前が上がらないのが玉に瑕だな。」

「確かに、多少損じても修正できますからね。」


 2人が鍛錬に勤しんでいると、竜造が声をかけてきた。


「サクヤ、明日は頼むぞ。」

「明日?何かありましたか?」

「お前なぁ、明日は宿場町の奉納神楽だ!」

「あぁ、そう言えば。明日でしたか。すっかり忘れてました。」

「今からでもいいから、舞を合わせに来い!最近全く顔を出してないだろう。お前は一応、神楽寮兼務なんだぞ。」

「そうでしたね。忘れてました。」

「ぅおい!」

「冗談です。今行きます。」


 サクヤは、神楽寮で舞の稽古に励む。

 しん意外は舞わない。というか、舞わせて貰えない。以前、妖狐を演じて大惨事になったからである。

 だが、サクヤが神楽に出演するおかげで、社の財政は黒字に転じた。参拝者が増え、物販は好調。出演依頼も増え、礼金も弾んでもらえる。最近は安澄にも人気が出てきたので、サクヤの負担も減りつつあった。安澄は巫女舞だけでなく、姫役も演じるようになったからだ。


「たまにしか顔を出さないのに、舞は完璧ね。」

「神しか舞わないからな。他を憶えなくていいから、技量も上がるさ。」

「はぁ、サクヤが男ならなぁ。サクヤの神を見ると、他の男が見劣りするのよね。」

「なんだ?もう連れ合いを探しているのか?」

「もうって、そろそろ始めないと、いい男は他に取られるじゃない。」

「そんなものなのか。」

「サクヤはいいわよね、小平太がいるし。」

「小平太?何故小平太なんだ?」

「えっ?小平太とは違うの?てっきり夫婦になるんだと思ってた。じゃあ、私も考えてみようかなぁ。」

「ふぅん、小平太ってそんなにいい男なのか?」

「えぇ、男前だし、女子には優しいし、結構人気あるわよ。サクヤがいるから皆遠慮してたけど、サクヤにその気がないって知れたら、奪い合いになるんじゃないかしら?」

「そうか、それは意外だったな。」

「サクヤには、他に意中の人がいるの?」

「そんなこと考えたことも無かったな。」

「まさか、平八郎さんだったり…。」

「論外だな、まったくその気はない。」

「ほんと、サクヤが男だったらよかったのにね。」

「その方が余計な事を考えずに済むから、楽だったかもな。」

「余計な事って…。これじゃあ、男になっても、夫婦になる女が可哀想だわ。」


(成人か…。少しは真面目に考えなければならないのかもな。)



 サクヤ達は宿場町に向う。道中、サクヤは何時も山兵の兵服である。

 神楽団がやってくると、宿場町は黄色い声があがる。サクヤが山兵だということは、もう知られているが、凛とした佇まいで脇目も振らないから、声をあげる以上の事は起きない。




 そんな神楽団の一行を、興味津々で見物する男3人組がいた。


「滞在中に祭とは、運が良かったな。」

「まさか、こんな鄙びた宿場町に、5日も滞在することになるとは思いませなんだ。」

「折角なら観てみたいじゃないか。ここの社の神楽は評判らしいぞ。」

「随分美形の舞手がいるらしいですね。黄色い声が飛んでいるのは、それが原因らしいですよ。」

「だが、神楽団というより、山兵に声を掛けているようだが…。」

「うわぁ、あれかぁ。確かに美形の山兵だなぁ。」


(あの山兵は、あの夜の!山兵だったのか。だが、女子が山兵なのか?)


「山兵が神楽も舞うのか。それとも演出か?」

「山兵の格好をしているだけってことですか?」

「さてな。それは分からん。」

「そんな事より早く行こう。席が埋まってしまう。」


 3人は舞台に向う。自然と早足になる明日彦に、2人は苦笑いで顔を見合わせた。


「なんと、凄い混雑ですな。」

「なんでも、今日は神楽団でも人気の2人が一緒に出演するそうですよ。」

「まぁ、田舎の神楽だ。期待し過ぎると裏切られますぞ。」


 そんな2人の会話を聞き流し、明日彦は全く違う期待をしていた。


(あの女子に、また会えるかもしれない。)


 昼過ぎの開演を前に、席はすっかり埋まってしまい、立ち見が多く出ている。

 3人は、何とか中程の席を確保していたが、日頃このような混雑の中で鑑賞することがないため、少々困惑していた。


「やはり、下々の者達と並んで座るのは、微妙な心地ですな。」

「中々出来ぬ経験だ。これも見聞を広めるうちのひとつだ。」

「若は我慢強うございますな。」

「露店で売られている食べ物は美味いですよ。」

「私には少々味付けが濃いようだ。」


 そんなことを話しているうちに、開演の時間を迎えた。



 四方祓いから神降ろしを終え、巫女舞が始まる。


「退屈な舞から、やっと華のある舞になりましたな。」

「あの中央で舞う娘は、中々の器量良しですな。なるほど、人気があるのも分かる。」


 巫女舞が終わると、鬼婆退治、妖狐退治と続く。今回、妖狐を演じるのは安澄であった。


「あれは、先程の巫女か。やはり華があるな。」

「あれなら、都でも名の売れる舞手になれそうですね。」

「話が分かりやすく、民衆が観ても楽しめる舞だな。笑いもあり、哀憐もあり、思いの外見応えがある。」


 そして、最後の演目は、サクヤの出演する大鬼退治である。

 3人の神と、3匹の鬼が対峙する、最終演目に相応しい、豪華な演目である。因みに、この演目にも鬼に拐われた姫役として、安澄は出演している。


 演目が始まり、サクヤが登場すると、大歓声があがる。しかし、その歓声は直ぐにやみ、一挙手一投足を見逃すまいと、しわぶきひとつあげない。


「なんとも…人を惹きつける舞だ…。」


 幽玄斎が一言呟いた後は、3人揃って舞台を、いや、サクヤを見つめるだけだった。

 明日彦は、あの夜に会った娘と同一人物とはとても思えなかった。あの鬼神のような女子が、神々しくもあるほどの舞を魅せる。時より見せる猛々しい舞に、その面影を感じたが、怖さを感じる程の冷気は微塵もない。この場にいるだけで癒されるような、浄化されるような心持ちになった。


 鬼を退治し、寿ぎの舞となる。少し場の空気が緩むが、誰も口を開きもしない。

 舞が終り、観衆に一礼して顔を上げたサクヤが、不意に微笑みを見せる。

 この瞬間、観衆と共に、3人も溶けた。

 放心状態のまま、明日彦は閉演の挨拶を見届けた。観衆が退場し始めて、やっと我に返った。


「なんというか…、圧倒された、いや、魅入ってしまいました。都でもあれ程の舞手はいますまい。」 

「うむ。これ程舞に魅せられたのは初めてだ…。」

「若?!大丈夫ですか?」


 我に返った明日彦は、訥々と喋り始めた。


「実はな…、あの夜、抜け出して赤犬の山に入ったのだ。」

「えっ!?そのような事、あの夜は、女郎を見て廻っていたと…。」

「父上に教えられてな。あの山には天女の様な女人がいると聞いて、会いにいってみたのだ。」


 明日彦は、2人にあの夜の顛末を語った。


「なんと、無茶をなさる…。何かあったら、どうなさるのか。」

「すまぬ。だがな、あの夜に会った娘は、今の舞手だった。あの時は鬼神のような女子だと思ったが、何故か惹かれるものがあってな。別れ際に、また会える気がすると伝えたのだが…。こんなに早く会えるとはな。」

「い、いや、気のせいだって言われたと仰ってましたましたけど…。」

「だが、実際会えたのだ!」

「会えたというか、観ただけですよ。」

「そうだな…。よし、会いに行こう。」

「えぇ〜、会ってもらえるのでしょうか?凄い人気ですよ。」

「わからぬが、行ってみねばわかるまい。今動かねば、必ず後悔する!」

「えぇ〜、大丈夫ですかねぇ。」


 明日彦は立ち上がると、舞台裏に向け動きだした。


 舞台裏に廻ろうとした明日彦を弥九郎が止める。


「此処から先は立ち入りできぬ。引き返してくれ。」

「私は、あの舞手に用があるのだ。取次いでくれぬか?」

「舞手?悪いが、そういう手合は受けつぬことになっている。」

「顔見知りなのだ。会ってあの夜の礼、いや、詫びだけでもさせて欲しい。」

「詫び?あれに迷惑を掛けた輩なら、余計に会わせるわけにはいかないな。」

「そこを何とか!もう都に帰らなければならぬのだ。この機を逃せば、次がないかもしれぬ。」

「都に?そう言われてもな。」


「なんだ、あの夜の男か。まだこのあたりを彷徨いていたのか?」


 弥九郎が押し問答をしているのを見たサクヤは、その奥に見覚えのある男が必死に訴えているのを見て、顔を出した。


「おお!出てきてくれたか。あの夜の詫びを言いに来たのだ。」

「今度会ったら射殺すと言っておいただろう。ここが御神域でなくてよかったな。」

「なんと、無礼な!この方は…。」

「幽玄斎、よい。」

「ふん、其方の従者か。余程の身分なのだろうが、御神域に無断で入る者は、誰であろうと容赦はしない。来るなら参拝者とし来るのだな。」

「参拝者としてなら会ってくれるのか?」

「そんなことは言っていない。何故会わねばならぬ?」

「いや、まぁ、その、あれだ…。」

「大した理由もないのだろう。こちらに用はない。詫びも不要だ。帰れ。」


 そう言い放つと、踵を返して立ち去った。



「若、何故あのような無礼者に…。」

「とても、先程の微笑を見せた舞手とは思えませんね。なんとも豪胆というか、傍若無人というか…。」

「よい。最後に話が出来ただけでも上出来だ。流石に父上のようにはいかなかったがな。」


 つっけんどんな対応を受けたわりに、嬉しそうな顔の明日彦を見て、2人は肩を竦めた。

サクヤも明日彦も2人の関係に気付いていません。

今後の2人がどのように関わっていくのか、お楽しみに。

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