後輩への指導
時は少し遡り、サクヤが12歳から13歳になるくらいの話です。サクヤの言動が変わるきっかけとなった出来事の一つです。是非お楽しみください。
時は少し遡り、サクヤが12歳の時の話である。
サクヤは弓寮でも最も腕が立つ弓の使い手として認知されると、後輩の指導の役目も周ったきた。
サクヤに自覚はないが、サクヤは教えるのが下手である。感覚に頼る部分が多すぎるのと、無意識に御力を使っているからであったが、イズマに指摘されて、それには気付いた。
ただ、本当の御力の使い方を他人に教えるのは、イズマから釘を刺されているのでできない。
そうなると、感覚的な事しか指導できないので、頗る評判が悪かった。
「サクヤの言う事はちっとも解んねぇ。もうちょっと解るように教えろよ。」
今年弓寮に入った丹次郎は、弓のセンスはあるものの、負けん気が強く生意気なので、先輩達からも少し疎まれていた。
サクヤは、そんな丹次郎の性格も気にすることなく接していたが、気持ちが逸り過ぎることを心配していた。
「基本を守って放つだけよ。後は当たると信じる。気持ちを込めて射れば、自ずと矢は的にあたるわ。」
「そういうことじゃなくて、コツとかないのかよ。」
「コツなんて、自分で数熟して身体で憶える以外にあるわけないわ。基本に全てが詰まってるもの。」
「ったく、まったく役に立ちやしねぇ。」
「気が逸ったら、気持ちを込めることが疎かになる。逸っては駄目よ丹次郎。」
「んなこたぁわかってるよ。」
(本当は御力の籠め方を教えてあげたいけど、そうも行かないしねぇ。コツなんて考えた事もなかったし。)
「あんな生意気坊主に言われたい放題言われて、よく腹が立たないな。俺なら教える気にもならんが。」
「あのくらいの歳の男子なんて、あんなものでしょう。言われていることは事実だし、私教えるのが下手みたいだから。」
「なんだ?自覚してたのか?」
「思い知ったというべきかな。誰一人納得してくれないとね。」
「気にするな。できる奴は人から見て盗むもんだ。サクヤ様から盗むのは至難の業だがな。」
サクヤは曖昧に笑って自身の鍛錬を始めた。寸分の狂いなく的の中心を射抜いた矢の後端に、二の矢で射抜き、一の矢を縦に真っ二つにする様を見た勘助は、呆れて笑うしかなかった。
(あんなの、教えられて出来るなら何の苦労もねぇわな。)
そんなやり取りから暫くし、サクヤが13歳になろうかという頃、ある事件が起こる。
供物の集落に猪の妖魔が出たとの知らせを受けた山兵部は、早速討伐隊を組織した。サクヤは部隊長としてではなく、小隊長として編成に加わる。同じ小隊には、弓寮から先輩1人と、槍寮から小平太と、その先輩1人の4人小隊だ。
この討伐に、配属されて初めて丹次郎が参加したが、サクヤとは別の小隊であった。
サクヤの隊は猪の妖魔に遭遇しないまま、探索中に別の小隊の笛の音が聞こえた。
「南から包囲していた小隊のようだな。」
「包囲を維持しながら駆けつけましょう。陣形このまま、前進!」
サクヤの指揮で小隊は移動を開始する。笛の音が聞こえてからさほど時間はたっていなかったが、南から入った小隊は乱戦状態になっており、激しく動き回る猪と槍兵で、弓兵が手出しできない。
「一旦陣形を整えましょう!槍兵は距離を取ってください!」
サクヤは指示を出すが、
「乱戦中に丹次郎がやられて倒れている!今引くと丹次郎が危険だ!」
サクヤは思わず舌打ちした。
一瞬だけ考えた後、サクヤは弓を預け猪に向け駆け出した。
「なっ!?サクヤ!どうする気だ!」
思わず小平太が叫ぶ。
「引けっ!」
サクヤは槍兵に指示を出しながら猪に突進する。
サクヤに気づいた猪も迎撃体勢を取り突進してきた。
衝突寸前、サクヤは馬跳びのように猪を越え、宙返りして着地すると猪に向き直る。
「槍、突け!」
動きが鈍くなった猪に、槍兵が一斉に槍を入れる。完全に動きを止めた猪の妖魔は、その場に崩れ落ちた。
「なんと無茶な。」
「あの一瞬で猪の首に小太刀を刺したのか。」
サクヤは猪が動かないことを確認すると、直ぐ様丹次郎に駆け寄った。
「丹次郎!大丈夫?」
しかし、丹次郎の返事はなく、反応を示さない。
「くっ、丹次郎!直ぐに薬を飲ませる、頑張れ!」
サクヤは丹次郎の上体を起こそうとしたが無理だと悟る。丹次郎は首の骨が折れ、即死だった。
サクヤは治癒の御力が使えないか考えたが、丹次郎の息はなく、心の臓も止まっている。
「手遅れだ、サクヤ。薬も飲めん。」
弥九郎がサクヤの肩に手をやり、首を振った。
「サクヤが責任を感じることはない。責任があるとしたら、丹次郎を参戦させた俺と、後退の指示を無視した丹次郎だ。」
「わかっています。けど、もっと教えれた、出来ることがあったんじゃないかと思うと、悔やまれます。丹次郎は何故後退の指示を無視したのでしょうか。」
(女のサクヤに負けたくなかったんだろうな。本人には言えんが…。)
「指示を聞けない奴を編成に加えた俺の失態だ。人手が足りないことを言い訳に、新人にまで無理をさせている。女であるサクヤを引っ張り込んで、今や小隊長までやらせている。」
「そうですね。」
「肯定するなよぉ。」
「冗談です。今では感謝してますよ、多分。」
「多分かよ。」
「冗談ですよ。」
「勘弁してくれ…。」
「すみません。でも、仕方ないことはわかってるんです。でも、もっと出来たことがあったんじゃないか、上手く教えることができていたらって思いは変わらないと思います。」
「それは俺も同じだ。後悔することばかりだ。でも、前に進み続けないといけない。妖魔は待ってくれないからな。」
「そうですね。」
「サクヤ、お前、次から隊長やれ。」
「えっ?!私。まだ12ですよ。」
「もうすぐ13だろ。それに、あの時あの現場で指揮執ってたのは実質お前だ。もう十分できるし、兵法書を理解し、実践に移せてるやつなんてお前くらいだ。周りも文句なんかないだろう。素直に従ってたんだから。」
「13でも早過ぎると思いますけど…。」
「丹次郎での後悔があるなら、その分を後輩達に教えてやってくれ、今度は後悔のないように。」
「分かりました。」
「弥九郎、あの隊長は厳し過ぎるぜ。実力は間違いないし、指示も的確だ。だか、13歳に背負わせ過ぎじゃないか?」
「…だよな。まさか、あそこまで厳しい隊長になるとは思わなかった。口調までスッカリ指揮官のそれだ。下手すりゃ俺より頭っぽいしな。」
「自分で言うなよ。」
「少し張り詰め過ぎなのは解ってるんだがな。もう丹次郎のような事が起きないようにって、サクヤなりの思いだろ。」
「山兵やってりゃ、どうしても死人は出る。それは皆解ってるはずだ。そういえば、サクヤ殿が入ってからは丹次郎だけだな。」
「言われてみるとそうだな。だいぶサクヤに助けられてるってことだろう。つい頼ってしまう。」
「俺の将来の嫁さんに、余り負担をかけんなよ。スッカリ可愛気が…。まぁ、あれはあれで悪くないが。」
「お前、まだそんなことを…。いい加減にしとけよ。自分より腕の立つ嫁でいいのか?絶対尻に敷かれるぞ。」
「それはそれで…。」
「黙れ、変態!」
お楽しみ頂けたでしょうか。
サクヤの言動が変わるきっかけがこの話で、近接戦の技術や、考察能力が上がっていく話は、また別の話として後日上げる予定です。
第1部から第2部になり、キャラが変わったことに違和感があるかもしれませんが、サクヤの成長を久し振りに会った親戚くらいの感覚で見て頂ければよいかと。
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