他領の使者
おはようございます。
サクヤが山中の薬草園で水遣りをして、持ち帰った野草の移植をしていると、イズマが現れた。
「ご機嫌よう、サクヤ君。」
「おはようございます、イズマさん。巡回の結果はいかがでしたか?」
「意地悪な言い方だなぁ。もう耳に入ってるんでしょ?熊の妖魔の話。」
「そうですね。ヌシ様に報告する手間が省けて助かります。イズマさんが確認したということは、間違いないのですか?」
「うん、本当らしいけど、此方から手を出せないのがね。そっちは?」
「似たようなもので。他領に勝手に踏み込む訳にもいかないとのことです。」
「そうだよね。なんとか誘い込めないかなぁ?」
「物騒な事を言わないでください。どれ程被害が出るかわからないのですから。」
「駄目かぁ。当面は来るやつを片付けていくしかなさそうだね。まぁ、原因が解って、来る方向がある程度特定できてるなら、警戒も楽になるかな。」
「そうですね。此方も提案してみます。」
当面の方針を確認すると、イズマは水を一口飲んで去っていった。
休暇が明けたサクヤは、弓寮に行き、昨日イズマと決めた方針を弥九郎に話した。
「そうだな。当面はそうするしかないだろうな。」
「私が金鉱集落に駐屯しましょうか?」
「いや、やるなら順番を決めて交代制だな。俺かサクヤのどちらかが張り付いていれば、大抵のやつは対応できるだろう。クーマが出張ってくることはないだろうしたしな。」
「クーマ?あぁ、熊の妖魔で『クーマ』ですか。分かりやすくはありますが…。」
「はは、可愛くないか?」
「実物はちっとも可愛くないと思いますけどね。」
弥九郎の命令センスに、サクヤは苦笑いを溢す。隊長格に昇進して以来、笑顔が少しずつ減ったサクヤに、苦笑いといえど表情が緩んだことに、弥九郎は安心した。
(責任感からか、単純に生き物を殺めることへの罪悪感か…。サクヤに掛かる負担を減らしてやりたいのは山々なんだがな。)
交代制で金鉱集落に駐屯するようになってから一月、思わぬ来客がやってきた。
「梟の社の方が何用ですかな。」
「急な来訪申し訳ない。我等の社がある領内に熊の妖魔が出ている話は聞き及んでおられますか?」
「風の噂程度にはな。だが、そちらの神域の話ではないだろう。」
宮司である藤三郎は話の脈絡が掴めないので、ストレートに聞いてみた。
「はい。実は、国守からの討伐依頼が当社にもありまして、討伐隊を派遣したのですが、見事に返り討ちに合いました。お恥ずかしい話ですが、当社は『森の賢者』『知恵の社』と持て囃されてはいますが、武の方は今ひとつでして。」
「討伐に合力しろと、言いたいのかな。」
「面目次第もありません。そちらには最近腕が立つ弓兵がいて活躍していると噂に聞いてます。」
「そういうことか…。そちらの国守は良いと言っているのか?」
「まずは、此方の協力を取り付けてからかと思いまして。提案しても、合力して貰えないとなっては、色々面倒なお方ですから…。」
「なるほどな。その討伐には国守の兵も加わるのか?」
「その予定ですが。」
「…う〜ん、アレのことが他領の目に留まる様なことになると、こちらとしても困るのだがな…。」
「そうですね…。では、あくまで別動隊とし合力頂き、一緒に戦う場面を作らなければどうでしょうか?」
「うむ…。それなら何とかなるか?頭達にも相談してみよう。直ぐに戻る訳でもないのだろう?」
「はい。お返事を持ち帰りたいですから。」
「分かった。では、ゆるりと逗留するがいい。」
「と、言う事で、此方は梟の社の弓頭、伊三郎殿だ。」
案内役の藤十郎が、弥九郎に紹介した。
「伊三郎です。折角の機会ですので、うちの兵達を此方の鍛錬に参加させて頂きたいのですが。」
「もちろん、歓迎しますよ。残念ながら、今うちの一番手は不在ですが。」
「一番手?頭が一番手ではないので?」
「それを言われると胸が痛いのですが…。事実ですので仕方ありません。」
「ご不在ということは…?」
「はい、北側の警備に当たっています。」
「そうですか。それは少し残念ですが、頭に教えて頂けるなら、願ってもないことです。」
「そう言っていただけるとありがたいです。では、早速的場に参りましょう。」
「隊長、御社に梟の社からの使者が来たそうです。此方が頭からの書状です。」
「梟の社から?ありがとう。」
サクヤは左馬介から書状を受け取ると、一読し左馬介に返す。
「何とか口実ができそうだな。当面、私と使者が接触することはなさそうだが。」
「そのようですね。しっかり『準備』をしておきますね。」
「頼む。」
(準備か。本当に教えておきたいことは、言えないのが辛いな。)
本日も、出来れば2話あげたいなと考えています。
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