弓寮のサクヤ
第2部スタートです。
逞しく成長したサクヤの活躍にご期待ください
サクヤは山道を歩き、崖下の薬草園に向かっていた。
弓寮の兵服に身を包んだサクヤは、14歳になった。
巫女になった頃より背丈も伸び、160cmを超えた。長い黒髪をポニーテールにしたサクヤは、美しく、そして凛々しくなった。
そう、凛々しくなった。
男ばかりの職場で、妖魔を相手に戦い、野山を駆け回る。時々、神楽の神役で舞い、女子から黄色い声が飛んでくる。町では男より、女のファンの方が多い。
男に囲まれたせいか、話し方まで男っぽくなり、立ち姿も勇ましい。
そんなサクヤが、お役目中にも関わらず、1人で薬草園に行けるのは、ある意味職権の乱用でもあった。
弓寮の中でも、実力が群を抜いているため、14歳にして部隊を預かる隊長格となっており、単独での巡回を許されていた。と、いうより許させた。
(やはり、水の汲み置きは駄目か…。)
薬草園での水遣りが日課になっており、御力を籠めた水での水遣りと、土に御力を籠める方法の比較をしていた。しかし、御力入りの水は汲み置きすると、次の日にはなくなっている。
「汲み置き水には御力を籠めずにおこう。これでは彼らの餌食だ。」
御力を籠めた水は、動物やモノノケ達の大好物だ。結果として餌付けになってしまい、やたらと動物達に懐かれている。
「ご機嫌よう、サクヤ君。」
後ろから鼬の妖が声をかけてきた。
「ご無沙汰です、イズマさん。」
「今日も水遣りかい?精が出るね。」
「そんなことより、私が汲み置いた水を飲むのは止めていただけますか。」
「えぇ、僕だけじゃないないのにぃ。」
「他に誰が?」
「ヌシ様も飲んでたよ。」
「…。御息災のようで何よりです。ヌシ様も飲んでいるなら、汲み置きを止めるわけにはいきませんね。」
「最近、顔を見せないから、寂しがってたよ。」
「近頃は御山から降りられないのですね。何かありましたか?」
「水は飲みに来てるけどね。最近は妖魔が増えてきたから、神力を増やすべく山籠りのような感じになってるからね。」
「そうですか。確かに多いかもしれませんね。」
「サクヤ君が、サクサク退治してくれてるから、負担が減って助かってるよ。」
「お力になれてるいるようなら何よりです。」
サクヤは水遣りを終えると、弓寮への帰路につく。
「たまには御山へ遊びに来いってさ。」
「わかりました。撫でまわして差し上げるとお伝えください。」
「ははは、伝えておくよ。」
(いやいや、本当に凛々しく逞しくなったもんだ。)
イズマは、新たに汲み置かれた水を一口飲んで、山へ帰った。
「帰ったかサクヤ。また妖魔が出た。頼んでいいか。」
「了解しました。単独で良いでしょうか?」
「後輩を育てるのも隊長の役目だ。若いのを連れて行け。」
「了解です。」
「その代わり、今回はちゃんと討伐休暇を出すからな。」
「討伐休暇をまともに取っていたら、私、月の半分も働いてませんからね。」
「すまんな。しっかり休めるよう、後輩を1人前にしてくれ。」
サクヤは兵装を整えるため、弓場の武器庫へ立ち寄る。
「今回も宜しくお願いします、サクヤ隊長。」
1つ下の弓兵、左馬介が声をかけてきた。左馬介はスラリと背が高く、精悍な顔のイケメンだ。弓の腕も確かで、もう少し鍛えれば、隊長にもなれるだろう。
「今回の討伐対象は?」
「狼の妖だそうです。」
「珍しいな。ここはヌシ様の御神域だから、狼は本来居ないのだがな。」
「動きも素早いし、厄介ですね。」
「他の兵は?」
「槍寮の小平太さんと、宗次郎さんです。」
「小平太か…。宗次郎殿も腕が立つから安心だな。私達も近接戦に備えておこう。」
「近接戦ですか…。あまり得意ではないですが。」
「動きの早い狼は、直ぐに懐に入り込んでくるぞ。小太刀は必須だ。弓兵といえど、近接戦の鍛錬は必須だと教えたはずだ。」
「そうですね…。」
装備を整えたサクヤ達は、小平太達と合流し、妖魔の出たという北の鉱山に向う。
「小平太、何故槍しか持ってきていない?相手は狼だぞ。」
「懐に入られる前に仕留める。俺が喰い付かれるようなら、その隙に仕留めてくれりゃいい。」
「お前の母様が聞いたら泣くぞ…。」
(しかし、サクヤの口調はなんとかならんのか?見た目といい、口調といい、全く可愛げが無くなった…。これはこれで、凛々しく美しくはあるんだが…。すっかり逞しくなりやがって。もう、守ってやるなんて言えねぇや…。)
鉱山の下の集落には、怪我人が溢れていた。既に社から薬師を中心とした救護隊が駆けつけていた。
(薬の効果が低いな。)
「これは、母様が煎じた傷薬だ。使うと良い。」
「ありがとうございます、サクヤ様!」
「…様付けは止めてくれ…。で、狼は?」
「はい。坑道の中に居るようです。」
「坑道の中に?それは余計に厄介だな。」
サクヤ達は坑道の入口で、中の様子を伺う。
「さて、こういう場合はどうする左馬。」
「火矢でも撃ち込みますか?」
「やめておけ。引火でもしたら大事だ。」
「そうですよね。弓じゃ分が悪いんで、俺達の出番はなさそうです。」
「馬鹿を言え。その為の小太刀だ。」
「苦手なんですがね。」
「いや、左馬は弓でいい。小平太が生贄になってくれるそうだ。」
「お前、真顔で言う冗談じゃないぞ…。」
「どっちにしろ、誰かが動きを止めないとな。ましてや妖魔ともなれば知恵が回る。」
「策はあるのか?」
「私が囮になる。動きを抑えた所でトドメを差してくれ。」
「サクヤを囮になんて…!」
「私がこの中では1番腕が立つし、その備えをしている。」
「備え?」
「左馬。準備の大切さを教えてやる。」
そう言うと、サクヤは先頭に立って坑道に入って行った。
坑道は人が一人歩くのがやっとで、サクヤは少し屈んで歩かなければならない高さだ。
(そろそろ来るな。右の坑道からか?)
サクヤは『先見の御力』を正しく理解し、使うことができるようになっている。
「来るぞ。」
サクヤは飛び出してきた狼の妖魔に、左腕を差し出した。妖魔は差し出された左腕に喰らいつく。
(かかったな。)
サクヤは真っ直ぐ伸ばした左腕を妖魔の口に突っ込むと、舌を掴む。そのまま妖魔を押し倒し、右手の小太刀で妖魔の首を掻っ切る。
「迷わず山へ還りなさい。」
サクヤはそう呟くと、左腕を引き抜いて立ち上がる。
「トドメは不要だったな。終わったぞ。」
「サクヤ!腕は?」
「問題ない。その為の装備だ。」
サクヤは袖をめくると、左腕に付けた鎖帷子を見せた。
「狼と聞いた段階で、これくらいの用意はしておくものだ。戦いは準備段階で始まっている。いや、準備で勝敗の8割方が決まるといっていい。小太刀の鍛錬を含めてな。分かったか左馬。」
「…はい。」
サクヤは妖魔の方に向き直ると、塵になっていく妖魔を見ながら祝詞を上げる。
「畏きアカイヌヌシの神よ。長く山に生きた狼に、安らぎの刻を与え給え。」
4人は揃い礼をした。
サクヤのキャラが大きく変わったことに、違和感を感じるかもしれませんが、その理由も追々書いていきます。
第2部は、現在も執筆中で、書き溜めてる数も多くありませんので、1日1話を目標にがんばっていこうと思います。
評価、感想のほど宜しくお願いします。




