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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第1部 覚醒〜巫女への道〜

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御力の本質

おはようございます

本日も宜しくお願いします

「ただいま。また明日から討伐休暇になっちゃった。」

「鬼退治に行くって聞いた段階で、それはわかってたことじゃない。」

「そうなんだけどね。山兵って、休んでばっかりな気がする。」

「それは貴方が、研修中なのに主力として働いてるからでしょう。とても疑問だけど。」


 サクヤは着替え終わると、裏庭の薬草畑の様子を見る。


(うん、順調。)



「母様はお酒を飲まないの?」

「何より藪から棒に。御神酒くらいなら飲むけど、普段は飲まないわね。」

「母様は、お酒を飲んだら力量が溢れそうになったり、回復したりする?」

「はぁ?何それ?そんなことになったことはないわ。なんで?」

「実はね、討伐後の宴で、勧められたから飲んでみたの。酒は百薬の長で、薬と一緒だからって。」

「最近の宮守はどうなってるの!サクヤくらいの歳の子に酒を勧めるなんて!また抗議にいかないといけないわね!」

「いや、それはいいんだけどね、美味しかったし、お猪口2杯で止められたから。問題なのは、お酒を飲んだら力量が溢れそうになったことなの。」

「そんなの聞いたことないわ。そんなことができるなら、宮守達が酒盛りする度に、破魔の矢を大量に用意しとけば便利だけど。で、それからどうしたの?」

「何とか発散しないといけないと思って、奉納舞で、皆を『浄化』したの。鬼退治した後だから、穢れを得ているだろうって思ったから。」

「…待って。『浄化』って、つまり『禊祓』のことよね…。貴方、そんなことできるの?」

「う〜ん、よくわからないけど、そのつもりでやっただけ。結果として発散できたから良かったけど。帰還してから宮司様に禊祓をしてもらったから、できてはいなかったのかもしれないわ。」

「そうよね。『禊祓』は宮司様の血筋の者しか使えない御力だから、できるわけないもの。」

「えっ?!そうなんだ。」


(できると思ったけど、やっぱり違う御力なのかなぁ、『浄化』と『禊祓』って。)


「そんなことより、貴方はまだ子供なんだから、お酒は早いわ。成人までは控えなさい。」

「はぁい。」


 サクヤはお酒の味が気に入っていたので、少し残念だったが、ここで余計な事を言うと怖いことになりそうだと考え、素直に了解した。


「そういえば、鬼に回復の薬を飲ませたら、鬼が死んでしまっなの。」

「はぁあ?ていうか、どうやって鬼に薬を飲ませるのよ?」


 サクヤは経緯を説明する。


「もう!危ないでしょ!何でそう貴方は危ない方へ行ってしまうのよ。」

「それは、弓寮の人にも叱られたわ。ごめんなさい。」

「本当に気を付けてよ。

 それにしても、興味深い話ねぇ。貴方に持たせたのは、確か『心を込めた』方だったわね。込めてない方との違いを検証したいけど、流石に鬼に相談できないわよねぇ。」

「鬼って、怨霊が実体を得たものだって聞いたけど、鬼に破魔の矢が効果を発揮するのは何故なの?」

「う〜ん、私はその辺りのことには詳しくないから、山兵や宮司様に聞けばわかるかもしれないわね。」


(お酒を飲んだら力量が一時的にであっても増えるのかぁ。薬を量産するときに便利かもしれないわね。サクヤが成人したら試してみようかしら。)

 

 2人の探究心は果てないまま、夜は更けていった。



 翌朝、サクヤは薬草採りと称して山に入った。薬草採りは建前で、本当は1人で考えを整理したかったからだ。


(それにしても、『御力』ってよくわからないことが多い。そもそも、私の親から受け継いだ御力は何なんだろう?母様は自分の御力を教えてくれなかったし…。でも、ヌシ様は「里の者が持つことのない力」って言ってたし、知られない方がいいとも言ってた。母様に教えてもらった薬を使った時に言われたことだし、母様も治癒の御力じゃないかって言ってたから間違いないと思うけど、母様が薬に治癒の御力を籠めるのを見たことがないしなぁ。治癒の御力は、母様から受け継いわけじゃないのかなぁ?だとしたら父様?私の父様って誰なんだろう?里の人ではないのかなぁ?

 それと、母様は、私が思っていた『心を込める』のと、『御力を籠める』のは同じだって言っていた。でも、私にとって、破魔の矢に御力を籠めるのも、薬に籠めるのも、弓矢に籠めるのも、浄化をするのも全部同じで、御力を籠めていること以外の差はないんだよね。

 よく分からないのは、ヌシ様が授けてくれた「鼻が良くなる」御力くらいで、実感できたかもしれないのは、大猪が来るのが判った時くらいだ。)


 サクヤは腕を組んで、ブツブツ考え事をしながら山道を歩いていた。 

 その時、ふと山道の先から気配を感じ、咄嗟に矢を番える。

 しかし、気配の主から敵意は感じず、矢を下に向け、じっくりと気配の主を観察した。


「ほう。人間は妖と見れば、妖魔であるかどうかに関わらず攻撃を仕掛けると思ったけど、敵意の有無が判るようだね。」


イタチの妖が喋った。そう言えば高位の妖は、妖魔にならなくても人語を解するって聞いた気がする。)


「失礼しました。以前遭遇した妖が、人語を解したので、妖魔かと思い咄嗟に身構えました。貴方のような高位の妖にお会いするのは初めてです。」

「ふふっ、君は面白い子だねぇ。相手が妖と分かったうえで、そのような遜った物言いをするとは。」

「少なくとも、私より遥かに長く生きてこられた、山に生きる者の先達に、失礼な物言いはできないと思いましたから。」

「ははは。なるほど、これはアカイヌヌシ様が気に入るはずだ。実に面白い。」

「アカイヌヌシ様を御存知なのですね。」

「うん。僕はアカイヌヌシ様の遣いだからね。君のことは聞き及んでる。先日も僕の仲間だった鹿の妖が世話になったようだ。」

「鹿の…。あれはヌシ様の遣いだったのですか?そうであれば大変なことを…。」

「いや、奴は妖魔になりかかっていた。君が手を下さなくても、我々が同じことをしていたはずだから気にしなくていい。それよりも、妖魔になりかかったような者にまで慈悲を掛けてくれたことに感謝しているよ。」

「いえ、山に生きる者の先達に対する敬意を示しただけでございます。」

「そうか、ありがとう。ところで、何やらブツブツ言いながら歩いていたけど、何か悩み事かい?」

「いえ、そのぉ、ヌシ様のお話が難しくて、分からないことが多いものですから…。」


 サクヤは御力の話を説明する。


「なるほど。多少誤解があるみたいだけど、アカイヌヌシ様の言う事も確かだよ。でも、本能的に出来ることと、授かったと思い込むことで使えるようになった御力は違うと言えば違うけど、本質は同じものだ。」

「えっ?!同じなんですか?」

「『御力を使う』という、広い意味では同じだね。だから君が言うように、使い方に差はないんだ。出来ると思い込んでいるか、本能的に出来るかの違いだけ。根本は同じだよ。君は自分が鳥のように飛べると思うかい?」

「いえ。流石に無理だと思います。」

「そうだね。でも、鳥の雛はどうだろう?飛んだことはないのに、自分が飛べると信じて疑わないよね。それが、本能的に出来ることだ。君が本能的にできることが僕にはわからないけど、それ以外は全部一緒で、君が出来ると思っているから出来ている、つまり、アカイヌヌシ様が言うところの『具現化』ができたってことだよ。」

「私が出来ると思ったこと…。じゃあ、私が飛べると信じ込んだら飛べるということですか?」

「極端な話、そうなる。ただ、羽根のない君が飛ぶとなると、今の力量ではほんの一瞬で力尽きると思うけどね。」

「あ、力量の問題もあるんだ…。でも、今の話だと、信じれは出来るって知った段階で、力量が許す限り何でもできることになりませんか?」

「おぉ!意外に賢いんだね。実はその通りなんだけど、人ってそんなに単純じゃないでしょ。何処かに疑う心があるものだからね。」

「私、「浄化してやれ」って言われて、出来るもんだと思って浄化しましたけど…。」


 2人を重い沈黙が襲う。


(た、単純と言うか、素直と言うべきか、人の言葉を簡単に信じるんだな、この子は。)


「う、うん。だから、この話は、君が御力を間違った使い方はしないって信じてるから話したんだよ!もし、自分の欲を満たすために使ったら、邪な心が現出することになる。呉れ呉れも注意してくれ。」


(もっとも、君が邪心を得たところで、妖魔なんて簡単に倒しちゃいそうだから、怖くもなんともないだろうけど。ただ、力量が減っちゃうから、それも難しくなるか…。)


「わ、わかりました!肝に命じます!」

「うん、その素直な心をなくさないようにね。御力を使うのも、その素直さが大切だからね。」


 そう言い残すと、鼬の妖は山中に消えていった。


「御教授ありがとうございました!」


 サクヤは鼬が去った方に向かい礼を述べた。


(鼬さんのお名前、聞いておけばよかったなぁ。)

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