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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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無理難題

 翌日、鬼防寮の演習を確認したサクヤは千代を呼び出す。


「皆の様子はどうだ?」

「力量が圧倒的に不足していて、鍛錬に、なりません。入寮して以降、力量を増やす方法は実践しているのですが、そう簡単に増えるものではありませんし。」

「そうか。なら、当面は薬を使った強制回復で力量を増やすしかないか。結界の鍛錬と並行してやらせてくれ。」

「了解しました。」

「で、今から慶乃と都へ行くので同行してくれ。」

「えっ?!やはり与一郎殿の件は…?」

「あぁ、慶乃は慶花だった。」

「そうなのですね。是非同行させて下さい!」

「…意外と興味があるのだな。」

「ここまで来たら顛末を見届けなければ!」

「そ、そうか…。」



 少し遅めの昼餉を済ませてから里を出発した。

 急に決めた都行きなので、各方面への連絡に時間を食ったためだ。


「頭というのも面倒臭いものだな。」

「サクヤ様の行動が急過ぎるのです。」


 少し急ぎ目に馬を走らせ、国府との峠で宿をとる。



「慶乃殿はどういった経緯で与一郎殿と夫婦になる約束をするような仲になったのですか?」


(随分食いつくなぁ。千代ってこんなだったっけ?)


「どういったと言われましても…わたくし達は幼馴染でして、与一郎さんはわたくしの2つ上で、宮司一族の護衛を担う一族の者です。」

「で!」


(…千代、食いつき過ぎだよ…)


「わたくしが社に入る歳に、与一郎さんは私の護衛役として付けられるうちの一人となりました。もう一人は大人の女性で、女子しか立ち入れぬような場所の護衛に充たることが主な役目となります。

 与一郎さんとは幼い頃から一緒でしたし、自然とお互いを意識する仲になったのではと…。

 ただ、宮司一族の娘が結婚する場合、跡継ぎに男がいれば普通に嫁ぐことが多いのですが、わたくしは一人娘でして、確かな家柄の者を婿にとる必要があったのです。」

「確かな家柄ですか…」

「はい…。与一郎さんの家柄が悪いというわけではないのですが、わたくしのような場合だと、他所の社の次男以下の方を婿にとることが多いようで、父上も事前に話を付けていたようなのです。そこに、わたくしが与一郎さんと夫婦になりたいと言い出したので、話を付けていた相手方の面子を潰すことになってしまいまして…」

「あぁ…それは確かに反対されても仕方ない状況ですね。」

「そこで父上は、相手方に言い訳が立つように、わたくしと与一郎さんに課題を出したのです。」

「ん?慶乃だけでなく、与一郎にも課題が?」

「はい。実はまだその課題について与一郎さんにも言えていないのです。」

「どのような課題なのですか?」

「…神から御力を授かれと…」

「そ、それは普通の感覚だと無理難題ですね…」

「はい…ですので、その課題について与一郎さんに伝えることができず、家を飛び出してしまったのです…」

「なるほどな。事情はよく判った。」

「サクヤ様…」

「千代、皆まで言うな。」

「はい…」

「御力を授かる件についてはなんとかしてやれると思う。ただ…それなりに神々への貢献は必要になると思うぞ。」

「はい。サクヤ様の成されてきたことを考えれば、当然のことだと思います。」

「そうか…なら、そのことも含めて与一郎殿に話をするんだな?」

「…はい。与一郎さんには諦めて貰おうと思っています。わたくしも帰るつもりはありません。」

「なっ!?なんでそうなるんですか!?」


 千代は思わず立ち上がって慶乃に迫った。


「千代、落ち着きなさい。

 …慶乃、二人が会う時に私も立ち会っていいか?」

「…今回このような機会を作って下さったのはサクヤ様です。断る理由はございません。」

「そうか…。では、詳しいことはそこで話そう。」


 そう言うと、サクヤは黙々と夕餉を食べ始めた。

 千代はサクヤに期待するような顔で見ていたが、慶乃は覚悟を決めたような顔で夕餉を口に運んだ。




 都に入ったサクヤ達だったが、国境の兵から連絡が入ったのか、右近が迎えに出てきた。


「前触れもなく、如何されましたかな?」

「ちと、野暮用がありまして。琴の国から与一郎という男が来ていると思うのですが。」

「琴の国ですか…。都ですから、色んな国から人が来ますからねぇ。宿を一軒一軒周る他ないかと…。」

「そうですね。そうします。」

「あれなら人を手配しましょうか?」

「それには及びません。余り大事にしたくもないですし。」

「はは、サクヤ殿が都に来ただけで大事になると思いますがね。」

「…これは、いよいよ琴の国に行きたくなったな。」

「…なぜです?」

「変身催眠で人目を憚ることができそうじゃないか。」

「相変わらず、御力を便利使いしようとしてますね…。」

「私が一緒にいては余計に目立ちそうですな。では、何かあれば訪ねて来て下さい。」

「有難うございます、右近様。」



 右近が去って行ったので、サクヤ達は宿屋を一軒ずつ周ることにした。


「あらあら!サクヤ様ではないですか!お泊りですか!それなら是非うちの宿へ!」

「サクヤ様!!昼餉は是非当店で!!勿論お代などいただきませんよ!」


 行く先々で都の民に声をかけられるので、一向に与一郎を見つけられないでいた。



「もう、サクヤ様の信者が多過ぎて捜索になりません。サクヤ様はここでじっとしておいてください。見つかったらここに連れてきますから。」


 千代がサクヤを茶店で待てを指示して出ていった。


(わたしゃ犬か…)


 時間を持て余したサクヤは、茶店で待っているだけなのに人が集まってくるので、仕方なく調子の悪い人を薬や御力入の水で癒したり、禊祓をするなどして過ごす。


「やっと順番が回ってきました!」

「…なにやってるんですか、与一郎殿…。今、慶乃…いや、慶花達が貴方を探しに行ったのですよ。」

「あれ?行き違いになったみたいですね…。」

「まぁ、ここで待ってたら帰ってくるでしょう。与一郎殿は破魔の矢への御力籠めが出来ますよね?」

「は、はぁ、そりゃ出来ますけど…」

「では、ここに汲み置いた井戸水に、自己回復能力が向上するよう祈りながら御力を籠めてください。」

「えっ?!そんなことは…破魔の矢意以外に御力籠めなどしたことがありませんし、出来るとは思えないのですが…」

「皆そう言いますけど、私の寮の者達は皆できます。水を破魔の矢だと思い込んで、籠めてみて下さい。いいですか?祈りを込めるのを忘れないように。そして、破魔の矢だと思い込むんですよ!」

「は、はぁ…。破魔の矢に自己回復能力を上げる祈りをして御力を籠めたことなどないのですけど…」


 ブツブツ言いながら与一郎は水に御力を籠める。


「多分、出来ました。」

「そうか。では試してみましょう。」



 サクヤは小太刀を抜くと、与一郎の手を取って傷をつける。


「痛てっ!いきなり何をなさるのです!」

「あら、貴方様は私のような娘の肌に傷をつけた方がよいと?」

「あ、いや、そう言う意味では…前もって言って欲しかっただけでして…。」

「では、この水を飲んでみてください。」


 サクヤは与一郎の言葉を無視して指示を出す。

 与一郎は半信半疑のまま水を飲み干した。


「なっ…傷が塞がった…」

「まだ痕が残っているが、まあまあの効力だな。この薬を少し塗っておきなさい。」


 言われるまま与一郎は薬を塗ると、傷痕は綺麗に消えた。


「こ、これが神のご加護か…」

「いいですか?勘違いしないで下さいね。我々の御力は、このように民に加護を分け与えるため、神々が我々には預けた力なのです。決して私達個人の力ではありません。私達はあくまで神々の使いであり、教えの伝導者なのです!」


 サクヤは態と民衆に聞こえるような大きな声で説明した。


「まだそのようなことを…」

「千代、戻ったか。」

「サクヤ様の諦めの悪さには頭が下がりますね…。」


「与一郎さん…」

「け、慶花!」


「ここではなんだな。場所を変えよう。」


 サクヤは立ち上がり、残っていた水を配り終わると、並んでいた民達に社に参拝して欲しいと言い残して茶店を出た。


 サクヤ達は日輪神宮に移動し、応接室を貸してもらった。

 道中、慶乃も与一郎も言葉は交わさなかった。


「さて、よ…慶花、事の経緯を与一郎に説明してやってくれ。」

「慶乃で結構です。説明は不要かと。わたくしはもう帰る気がありませんから…」

「待ってくれ慶花!それでは私が納得できぬ。」

「父上に…無理難題を申し付けられ、それができなければ夫婦になることを認めないと言われたのです。」

「無理難題?」

「はい。私はサクヤ様の御力のからくりを調べること、与一郎さんは神から御力を授かること…どちらも無理なことです。」

「神に御力を…そ、それは確かに無理な話だ…」

「それに、サクヤ様の御力にからくりなど御座いません。正真正銘、神々に授かった御力なのですから。」


 黙って聞いていたサクヤだったが、理解不能といった顔で口を挟んだ。


「何を言っているんだ?与一郎殿はもう新しい御力を身に付けているじゃないか?」

「えっ?新しい御力…ですか?」

「さっきやった御力籠め、私の感覚では同じ御力籠めだが、皆の感覚ではまったく別の御力なのだろう?それじゃ駄目なのか?」

「あっ!?」

「与一郎さん、どういうことですか?」

「先程の茶店でサクヤ殿に、水への御力籠めを教えて頂いたのだ…。驚くことに水を飲んだだけで切傷が塞がったのだ。」

「それって赤犬の社で配っている『奇跡の水』では…」

「そういうことだ。あの程度、うちの寮の者なら誰でも出来ることだが、他所ならそうでもないのだろう?」

「は、はい!ただ、それは神々に授かったことになるのでしょうか?」

「サクヤ様は神も同然の御方。サクヤ様に授かったのなら神々に授かったのと同義でございましょう。」

「た、確かに…しかし、サクヤ様の御力のからくりは…」

「私が神と同義なのは兎も角、アカイヌヌシ様に授かったことにしておけばいいだろうし、からくりに関しては、私が直接赴けば証明できるだろう?何か問題があるか?」

「あ…ありません。」


 サクヤは満足気に笑って頷く。


「ただ、慶乃はうちの貴重な戦力だし、スンナリ帰すのも業腹だ。二人共暫く鬼防寮で働く気はないか?」

「わたくしは兎も角、与一郎さんもですか!?」

「それなりに腕は立つようだし、御力も使えるのだろう?充分戦力になりそうだが?」

「一応幻術系の御力は使えます。私もお役目に加えていただけるなら、是非お願いしたいです!」

「じゃあ決まりだ。」



 こうして与一郎も鬼防寮に入隊することになった。


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