暴露
朝餉を済ませ宿場町を出たサクヤ達は、国境を越えてオオシロタタケヌンのいる祠へ向かう。
サクヤは前回の事もあるので誰かに監視されたり追跡されたりしていないか周囲に注意を払っていたが、龍神社を出て以降、これといった気配はなかった。
山道を登り祠が見える位置まで来ると、祠の上に白い狸が座っているのが見えた。
サクヤ達は嗣の前まで来て礼をとる。
「ご無沙汰しております、オオシロタタケヌシ様。」
「うん、名も知られていましたか。では、我がどこから来たのかも知っているようだね。」
「東国からと聞いております。詳しいことは聞いていませんが、以前おられた社の者だったという男が私の寮にいますので。」
「あらら、そうでしたか。」
「少し伺いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだろう?」
「はい、まず一つ目ですが、なぜオオシロタタケヌシ様はこのような小さな祠のヌシ様をされてるのでしょか?元は立派な社に祀られておられたと聞いているのですが。」
「我は元々ー所でじっとできない質でね。東国にいたころも、しょっちゅうあちこち旅に出ていたんだ。 で、やっと後任が育ったから、後を任せて旅に出たわけだ 。とはいえ、神域に居ないと穢れをもらうでしょう?我は結界術があるから幾分ましなんだけどね。で、とりあえずここに腰を据えて、中央諸国を周っているところだ。もう少ししたら西国や余島、鎮島あたりに行こうと思っているんだよ。仮の神域の為に、立派な社を造ってもらうのは申し訳ないから、ヌシのいなくなった祠を拠点にしているんだ。」
「そうでしたか。ではもう一つ。オオシロタタケヌシ様であればここの神域の結界の補修くらいわけなかったはずですが、なぜ私にやらせたのですか?」
「噂に聞く巫女だったからね。実際会って力量の多さに驚いたんだ。ここ以外にも欠損した祠が多かったこともあるし、我等は直接呪物に触れることができない。補修しても根本原因を除去できなきゃ意味がないでしょう?だから、サクヤに呪物の撤去と補修をお願いしたんだ。」
「なるほど。そういうことでしたか。でも、呪物を結界で囲い、移動させるなら可能だったのでは?」
「あっ、なるほど…それは考えつかなかったな。」
オオシロタタケヌシは惚けてみせるが、サクヤは懐疑的だった。
「そうそう結界の補修と言えば、アマツミコトハヌシに頼んでいた件、協力してくれたそうで、助かりました。」
「いえ。神の使いとして可能な限りは務めさせていただきます。」
「いや、常人では能わぬことです。どうやってあのようなところに?」
サクヤはいきさつを一部はしょりながらも説明する。
「ははは。我でもそのような使い方は思いつかないな。流石『神産みのサクヤ』だ。首までどっぷり神の世界に浸かっているとはよく言ったものだ。」
「意外と伝達が早いのですね…。」
「うちには優秀な連絡係がいるからね。そうそう日輪大神にも会ったんだって?」
「はい。しかし、よくご存じですね。オオシロタタケヌシ様の連絡係には、空を飛べる者でもいるのですか?」
「いや、飛べる者はいないけど、猿の妖がいてね、あのくらいなら平気で登るよ。」
「なるほど。」
「あの…そのようなところ、サクヤ様はどのように登ったのですか?」
(ぎくっ!!)
「そ、それはね、結界を複数個出して、それを足場にして登ったんだ。」
「あぁ、なるほど…。」
(我ながら完璧な言い訳だ!)
「言うのは簡単だけど、複数個出すのが簡単な事じゃないと思うんだけどね。これが力量の暴力ってやつかな。」
「力量の暴力…よく言い表せていると思います。」
「千代…。」
「まぁ、最早神同然なんだから、何ら不思議はないか。」
「私はあくまで人の娘で、そのようなこと畏れ多い話です。」
「よく言う。お礼に何か授けてあげたいところだけど、『人に神力を授ける』まで授かっているそうだし、我にできることはもうないねぇ。」
「「ええっ!!??」」
(!!!何言い出すんだ!このタヌポンが!!!!)
「千代、左馬、今の話、他言無用だぞ…」
サクヤは二人の方を振り返り睨みつけた。
「「は、はい!!!!!」」
「あら?これは内緒だったのか。ごめんごめん。お詫びにそこの彼にも結界術を授けておこう。我でなくても授けれるんだろうけど、余計な嘘をつかなくて良くなるし。今後は我の名を使って授けるといいよ。」
「はい、しっかり利用させていただきます。」
((怖ええええ!!!!!))
「ははは!下手な神罰より、サクヤの方がよほど怖いな。これ以上余計なことを言ってしまう前に退散するとしよう。では!」
そう言い残し、授けるだけ授けてオオシロタタケヌシは消えた。
「もう一度言っておくが、他言無用だぞ。命に関わると思え。」
「はいっ!!!!」
「もっとも、千代には実験台になってもらおうと思っていたから、どのみち教えるつもりではいたんだがな。丁度いい巻き添えができてよかったな、千代。」
「はい。」
「はい、じゃねえよ…」
「帰ったら千代には結界師達の鍛錬を頼む予定だったんだが、一人増えたな。左馬は力量もあるし、鍛えごたえがあるだろう。任せたぞ、千代。」
「はい!」
「だから、はいじゃねぇよ!」
「それより、実験台とは?そちらの方がよほど不穏なのですが…」
「最初の実験台は母様にお願いしたから、できることはわかっているんだけどな。千代には何を試そうか…。楽しみだな、千代。」
「…何が楽しみなのでしょうか…」
「出来ることが増えるんだから、楽しみに決まっているだろう。そうだなぁ、帰ったら転移術を授かりに行こうと思っているから、それを二人に授けるのもいいな。力量の多い伊都にも結界術を使わせたいし、楽しみが広がるなぁ。」
サクヤは不敵に笑いながら、少し涙目の視線が彷徨っていた。
「なんか、サクヤさん、開き直ってないか?」
「やけになったんだと思う。巻き込まれるのは間違いないから、覚悟した方がいいよ。」
瑞の国府までの道中、何の前触れもなく「ふふふ」と笑いだすサクヤに、二人は恐怖を憶えながら、夕方には国府にたどり着いた。将軍に伝えていた予定より1日早く着いたことになる。
「こんなに早く着いて、何か用があるのですか?」
「いや、特にはない。何時頃着くか分からなかったから、余裕を持たせただけだ。将軍相手に遅れるよりはいいだろう。」
「確かにそうですね。」
「じゃあ、このあとは自由行動ですか?」
「なんだ?女郎屋にでも行くのか?」
「行きませんよ!そんなとこ。そんな目で見るな!千代。」
「そうか。まあ好きにすればいい。」
「そういうサクヤさんはどうするんです?」
「特に行きたいところもないんだが、宿でのんびりしていると、突然右近様が来そうでねぇ。」
「う…確かに…。」
「その辺の食事処にでも行って久しぶりに綾の泉でも飲むかな。」
「お付き合いします!」
「俺は…付き合います。」
「なんだ?女郎屋はいいのか?」
「だからっ!そういう誤解を招きたくないから一緒に動かざるを得なくなるんですよ!」
「冗談なんだから好きにしていいぞ?」
「いいです。行きたいところがあったわけでもないですし。」
「あっ、逆に私が御邪魔虫か?」
「余計な気遣いをしないでください!冷やかすと千代の機嫌が…ほら。」
千代は明らかに不機嫌そうにそっぽを向いている。
「ごめん…」
結局3人で食事処に言ったが、会話が盛り上がることはなく、お通夜のような時間が過ぎるだけだった。




