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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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龍神社の懲りない面々

 サクヤ達が龍神社に着いたのはお昼過ぎだった。


 湖畔に聳える鳥居から、御神体となっている御山に伸びる参道は、この社の正しい参拝経路が湖を船で渡って来ることを示しているが、サクヤ達は騎馬での訪問となるため、この経路を使っていないことになる。実際一般の参拝者は6割方陸路であった。


 サクヤは以前の訪問時にアマツミコトハヌシの降臨を賜った木の方をチラリと見たが、特に気配は感じなかった。


(今回もお会いできるだろうか。念を送ってみようかな。)


 などと、呑気に考えることができたのはここまでだった。


「『神産みのサクヤ』殿が来たぞ!総員構え!!!!!」


 号令したのは他でもない、蒼右衛門であった。


 蒼右衛門の号令に呼応したのは総勢50人はいようかという山兵達だった。


「サクヤ殿より一本取った者は、生涯の誉となろうぞ!奮え!!」


「「「おうっ!!!!」」」


 これに呼応するようにサクヤが怒鳴る。


「前備構え!!後備迎擊用意!!」

「なっ!?まじか!?」


 小平太達は戸惑いながらも条件反射のように陣形を整える。


「小平太!蒼右衛門の首を落とせ。」

「無茶言うな!出来るわけないだろ!」

「蒼士郎の許可も取ってある。」

「堂々と嘘をつくな!」

「流石に多勢に無勢じゃないか?」

「なんだ、この程度も突破できんのか?護符の使用も許可する。手加減は無用だ。

よいか!!この襲撃は宣戦布告と見做す!」


「まじかよ!」

「お・お・お・お・お待ちくださいサクヤ様!」

「問答無用!かかれっ!」

「くそっ!もうやけだ!!」


 おろおろする蒼衣を置き去りにした第1小隊+サクヤ、蒼士郎は、陣形を維持しつつ前進し、護符による攻撃を開始する。


 慶乃作成の誘眠+広域展開の護符で、龍神社方山兵の前衛の半数を戦闘不能にした。龍神社方は弓兵による一斉射で反撃に出るが、サクヤと風磨の連射で矢一本一本を確実に迎撃するという離れ業で相手の戦意を奪う。


「なんということだ!あのような神業を全ての矢に…。」


 弓寮頭の男は絶句したまま、次の指示を出せないでいる。


「前備、突撃!!!!!狙うは蒼右衛門の首ひとおおおつ!!邪魔するものは神罰が降ると思えええっ!!」


 サクヤの激は龍神社の兵を怯ませるに十分だった。なにせあの『神産みのサクヤ』が神罰が降ると宣言しているのだ。兵と言えど神職である山兵は、その言葉を何よりも恐れた。


「ええいっ!!何を怯んでおる!包囲して潰せええ!!」


 蒼右衛門も負けずに叫ぶが、たった今神業を見せられてからの神罰宣言だ。早々に立ち直れるものではない。勇気を出して突撃し者は、悉く那由多の結界に捕まった。


「前が開けたぞ!小平太、行けえええ!!!」

「くっそう!!ここまできたらやるしかねぇな、行くぞ蒼右衛門殿!!!」


 小平太の槍が蒼右衛門に突き出される。蒼右衛門は咄嗟に躱したが、小平太の連続の突きで少しずつ削られていく。


「小癪な!!」


 蒼右衛門は突き出される槍を弾くとその場で旋回して小平太の横腹を払いにいく。蒼右衛門は大柄な体躯に似合わず俊敏な動きを見せた。


 小平太はそのまま突進し、槍の柄の中程を左腕の籠手で受けて、蒼右衛門の腹に蹴りを入れた。後方に吹っ飛んだ蒼右衛門の鉢がねに小平太の槍の柄が真上から振り降ろされた。



「巽の蒼右衛門、打ち取ったりいいい!!!」


 大の字になって気を失っている蒼右衛門の首筋に穂先を当て、小平太が絶叫すると、龍神社の山兵たちは膝から崩れ落ちて項垂れた。


「よもや、たった六騎に敗れたのか…」

「なんという突破力、強いのはサクヤ殿だけではなかったか…」


 打ちひしがれる龍神社の山兵達を冷め切った目のサクヤが睥睨する。


「二度とこのような愚行を起こさぬよう、首を落としてしまえ。」

「無茶言うな。本当に戦になっちまうだろ。」

「問題ない。どうせこれがほぼ全兵力だろ。こちらが勝ったのだから占領されても文句は言えぬはずだ。」

「サクヤ様ぁ、馬鹿な兄を赦してやってください!!」


 やっと追いついた蒼衣が、涙ながらに訴える。


「こんな馬鹿のために、蒼衣殿が涙を流される必要はないでしょう。この馬鹿は放っておいたら社を傾けますよ。現に、私が宣戦布告と見做すと言ったにも関わらず、矛を収めようとしませんでした。自分が何をやっているかもわかっていなのでしょう。そしてそのような馬鹿を止める者もいないとは。宮司はどこに居る?親子ともども首を刎ねてくれる。」

「サクヤ、そのくらいにしておけ。お前の言い分はもっともだが…。」


「そのくらいにしてやってくれ、サクヤ。」


 サクヤは反射的に声のした方に向け膝を落とした。その姿をみた鬼防寮の面々もすぐさまそれに倣う。


「そのような愚か者でも我が末裔、よくよく躾けておくので勘弁してやってくれ。」

「宜しいのですか?コトハ様。この者はこの社の為になりませんよ?」


「こ、コトハ様…?も、もしやアマツミコトハヌシ様!?」


 山兵たちが一斉にひれ伏した。


「やれやれ。そこの愚か者はしっかり躾けをする故心配はない。我とて『神産みのサクヤ』の逆鱗に触れるようなことはしたくないからな。」

「また、そのようなお戯れを。」

「戯れとも言えまい。其方の神力は最早我をも凌駕しておろう。そのような神力を持つ者を敵に回すような愚か者がこの社にいないと我は信じておる。なぁ、者ども。」

「はっ!ははぁ。仰る通りにございます!」


 弓寮頭の男は迎合しながら引き攣った笑顔を浮かべている。

 それに倣うように兵達もひれ伏したままだ。


「コトハ様がそこまで仰るのであれば、私も矛を収めざるをえませんね。」

「そうか、済まぬな。では、躾といくか。」


 そういうとアマツミコトハヌシは蒼右衛門に不思議な光を降り注ぐ。光に包まれた蒼右衛門は憑き物でも取れたような顔で目を覚ました。


「こ、ここは…。私は何を…。おお、蒼士郎、それに着衣ではないか。無事に帰って来たのだな。おお!これはサクヤ殿。ご無沙汰しておりますな。変わらず美しくあられる。神々しいほどでございますな。」 「な、なんだこれは…。」

「粗野な心根を取り払ってみたのだが、何とも言えぬ者になったな…。」

「ま、まあ、先ほどまでよりは良いのではないでしょうか。」

「そうか?そうだな。これなら社を傾けることもないであろう。では躾も済んだし、我は戻るとしよう。」

《また後で、よいかな?》

《了解いたしました。》


 アマツミコトハヌシの姿が消えると、兵たちがざわつき始めた。


「アマツミコトハヌシ様が降臨されるとは…。」

「何という僥倖。この社に仕えてきて良かった。」

「アマツミコトハヌシ様がサクヤ様をあのように言われるとは。サクヤ様はやはり神々に比する御方なのか。」

「我々はそのような方に、なんと非礼なことをしたのだ。」

「そうだ!非礼を詫びねば!」


 兵たちが一斉にサクヤの前に並んでひれ伏した。


「や、やめてください。私はそのように崇められるような者ではありません!」

「いえ!あの鬼神の如き戦いぶり。そしてアマツミコトハヌシ様との対話。そこいらの巫女と同様に扱うなど以ての外と痛感いたしました。どうか!我らの非礼を御赦しください!」

「わかりました!わかりましたからひれ伏さないでください!」


「何事か?この騒ぎは?」


 宮司と如雲が今更ながらに社務所から出てきた。


 思わずサクヤは殺意を憶えたが、アマツミコトハヌシの言葉を思い出し、感情を押し殺した。


「遅すぎます!父上!アマツミコトハヌシ様もお帰りになってしまいました。そんなことより、なぜ蒼右衛門兄上の愚行を止めていただけなかったのですか!サクヤ様のお怒りが凄まじく、ヌシ様が宥めてくださらなければ、社の存続の危機だったというのに!」

「何のことだ?また蒼右衛門が何かやらかしたのか?」

「ヌシ様が宥めて下さらなければ、兄上も父上もサクヤ様に首を刎ねられているところでした。」

「なに!なぜそのようなことに!奴は何をしたのだ!?」

「山兵を率いてサクヤ様に挑み、返り討ちに遭いました。その際サクヤ様は宣戦布告と見做すと仰ったのですが、兄上は矛を収めず、サクヤ様の逆鱗に触れました。」

「これだけの山兵を率いて負けたのか!?たったこれだけの戦力にか?」

「そこではありません!宣戦布告と受け止められたのです!そして負けたということは、本当に首を刎ねられても文句は言えないのですよ!ことの重大さを理解していますか!?」

「蒼衣殿、アマツミコトハヌシ様はああ言ったが、こやつは躾がされていない。首を刎ねてもいいか?」

「御赦しくださいサクヤ様!父は私が必ず責任を持って躾ます!どうか宣戦布告の件はご容赦ください!ほら、父上も謝罪してください!」

「う、うむ。よくわからんが、息子が済まなかった。」

「まったく理解できていないようだな。やはりこやつは…。」


「申し訳ありません!!!!」


 蒼衣の絶叫のような謝罪が里にこだました頃、日は西の山に沈んだ。


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