男達の送別会
おはようございます
鬼防寮の演習施設は山兵部の槍寮や弓寮からはかなり離れた供物集落に造られた馬場に隣接している。
土地に余裕があったので演習施設も広い。弓場は特別大きくはないが距離がかなり取ってある。それに比して的は少ない。
これは、追尾の御力や風の精霊の御力等、隣との距離をとらなければ迷惑をかける者が多いからという事情からだった。
因みにサクヤは馬場の端から放って、端に設置された的を射る。
また、サクヤの方針で、弓兵は全員騎乗弓の鍛錬を義務付けられている。
そのため、専用の流鏑馬用馬場まで設けているほどだ。
この日も風磨、環、修吾、騎重郎が流鏑馬に稽古に励んでいた。(カンナはサクヤと御山に行っていた。)
一方の前衛陣は槍の集団戦術について研究していた。
山兵は基本小隊単位で戦闘を行い、前衛2人、後衛2人で一小隊としているのだが、サクヤから複数小隊で戦う時の前衛の集団戦術について研究するよう指示があったからだ。
これは龍神社へ行った時に白銀童子と戦闘になった際、前衛の連携が今一つだと思ったサクヤが、小平太と相談して始めたものであった。
「一番の問題は、同じ前備でも得物が違うことだと思うんだよ。」
小平太が最初に懸案事項を伝えた。
「小隊での戦闘なら得物の違いは大きな問題にならんのだがなぁ。」
「せめて複数小隊での戦闘は槍に統一した方がいいだろうな。できれば長さも揃えたい。」
「集落や森の中などでは、余り長いと取り回しが悪いが、開けた場所なら長い方が有利だよなぁ。」
あれこれ議論しながら何種類か長さの違う竹槍を用意して実践を繰り返す。
現在ここにいる前衛は、蒼士郎を入れて6人。全小隊が揃っても8人なので、演習としては数が揃っているのだが、3対3で模擬戦をやっても集団戦術の演習にはならない。
そこで竹槍を持って槍寮に出向くことにした。
「頼も〜う!」
「龍子さん、悪ノリしないでください。槍寮の連中がひいてるじゃないですか。」
「いや、この方が雰囲気が出ていいかなぁって思ったんだけどなぁ。」
「おうっ!小平太、どうかしたか?」
「頭。ちょっと集団戦術の演習に付き合って頂けないかと思いまして。」
「そりゃいいが、なんだその竹槍は?」
「集団戦術に適した長さの槍を検討していまして。」
「なるほどな。こっちは何人用意すればいい?」
「こちらが6人ですので、取り敢えず同数でお願いします。」
「いやいや、そっちは龍子殿も含む精鋭揃いだろう?倍はいるんじゃねぇか?」
「いや…あくまで集団戦術の検証が目的で、模擬戦の勝敗は二の次なんですけど…。」
検証という名の模擬戦は、結局夕方まで続き、双方がヘロヘロになったところでお開きとなった。
「なぁ、蒼士郎さんの送別会と新人どもの歓迎会を兼ねて、一席設けないか?」
言い出したのは騎重郎である。
「いいなぁ。でも、頭のサクヤとカンナがいないぞ。」
「私も遠慮しとくよ。あれなら男だけで楽しんでくりゃいんじゃないか?」
「あぁ、なるほど。じゃあ、そうしようか?」
「そうだな。これだけの人数で押しかけたら店も迷惑だろう。男だけならまだなんとかなりそうだ。」
そんな流れで男達だけで門前町の食堂に行くことになった。
因みに面子は、小平太、蒼士郎、馳遊馬、騎重郎、風磨、那由多、源吾、響輔、竹蔵、修平、甚七である。
猿丸と猿田彦は情報収集の為不在だ。
店は以前安澄が主宰した女子会の会場と同じ店である。
「んじゃ、蒼士郎さんの留学終了お疲れ様と、新人の輝かしい未来を祈念して、乾杯!」
小平太の乾杯の挨拶で飲み会は始まった。
「ふふん、蒼士郎。これでサクヤとの交流が減るから、3人の競争からは一歩後退だな。」
「そんなつもりはないが、今のままではどちらにしてもサクヤに敵わないからな。帰ってもう一度鍛え直すつもりだ。」
「う…そういう意味だと、俺も厳しいな…。」
「あんたら、頭のこと狙っているのか?」
響輔は2人を不思議そうな目で見ている。
「いや、だってあの器量だし、あの肝の据わりよう。響輔はあの魅力が判らないのか?」
「それ以上に恐ろしさが勝つんだよ。あんなの普通の人間に扱えるわけがないだろう。」
「確かに、あれだけ神々に愛されている人間はいないだろうな。でも、障壁が高いからこそ燃えるんじゃないか。」
「障壁なんて次元じゃない気がするが…。」
「俺は単純に男としてこのまま負けたままではおれんだけだ。」
「因みに、小平太殿は頭に勝てるのか?」
「単純な近接戦闘だけなら小平太の方が強いだろうな。ただ、サクヤは結界術とか他の攻め手を持っているから、総合力だと敵う奴なんていないだろう。龍子さんでも敵わないんだから。」
「そこなのだ。せめて、龍子殿には勝てるようにならねば。まずはその壁を越えることが肝要だ。そして小平太…。」
「え、なに?小平太殿と3人で争ってるのか?」
「あと、平八郎っていう槍寮の頭。さっき会っただろう?サクヤに相手にされていないのに、懲りずに求愛を続けているな。」
「あのう…頭は弓兵って聞いとるんですけど、近接戦闘もそんなに強いんですか?」
「那由多はサクヤの近接戦闘を見たことがないんだっけか?いま角田の里に行っている千代もなんだが、二人共後備なのに近接戦闘もやたら強いんだよ。正直、俺も千代ちゃんに勝てるかどうか。多分五分五分なんじゃないかなぁ?」
「俺は直接手合せしたことがないな。だが、サクヤとの手合せを見ていると、かなりの手練れだとは判る。しかも、千代殿も結界術を使うからな…。」
「あぁ、そうだ。それを使われると勝てる気がしないな。あの防御結界と拘束結界は本当に狡い!」
「千代殿は防御結界と拘束結界を一度に使うことはないからまだマシなのだが、サクヤは一度に使ってくるからな…。」
「千代が帰ってきたら、結界師は本格的に鍛錬するそうだから、覚悟しておいた方がいいぞ、那由多。何しろ、あの千代でさえ疲弊しきっていたからな…。」
「ひぃっ!僕、殺されるんじゃろか…」
「なぁ、小平太はまだサクヤのことが、その…なんだ。」
「悪りぃかよ…。」
「いや、別に否定したいわけじゃない。俺はこの里を離れていた期間が長くて、サクヤに会ったのも3年振りくらいだから、久し振りに会って驚いたんだ。」
「そんなに会ってなかったか?じゃあ、サクヤを取り巻く事件の数々も…。」
「あぁ、噂には聞いてはいたが、とても現実のこととは思えなかったよ。」
「だろうな…丹次郎が死んだ辺りから、サクヤが変わっていったのは知っているんだっけ?」
「その直後くらいから会ってないな。」
「そうか…あれからな…」
小平太はサクヤが思い詰めた感じになり、隊長格としてより責任感が強くなったこと、命令をするために、普段の話し方まで男っぽくなったこと。神々との遭遇や白狐社での修行、将軍との接近など、掻い摘んでこの3年の出来事を竹蔵に教えた。
「…教えてもらったのにすまんが、よくわからん…。」
「いや、しょうがない。サクヤの行動や起きたことを理解するのはまず無理だろう…。」
「大丈夫だよ、竹蔵。俺達は竹蔵に比べれは近くで見てきたけど、サクヤの行動原理なんて未だに分かんないからな。」
「修平さんでわかんないなら、俺には無理でしょうね。そう考えると、小平太は小さい頃からサクヤの扱いが上手かったもんな。」
「他の者よりマシな程度で、未だに振り回されているよ。それでも、最近は俺達を信用して仕事を任せてくれるようになったな。事前に相談もしてくれるようになったし、やり易くはなったかもな。」
「いつの間にかお役目の話になってるぞ。俺が聞きたいのはそこじゃないんだけど?」
「なんの進展もないよ。あいつ自身がその手のことに興味なさそうだしな。」
「じゃあ、誰も抜け出せてないのか。」
「まぁ、そういうことになるなぁ。」
「でも、今回小平太は角田の里に暫く駐屯するんだろ?離れて自分気持ちに気付くなんてこともあるかもしれないじゃないか。」
「それを言ったら蒼士郎殿だってそうだろ。」
「あぁ、そうか…。」
「それに、まだサクヤを守れるほどの力はないしな。あいつの進化はとんでもない速さだから、追いすがるのに必死で、追い抜くなんて想像もつかねぇよ。」
「確かにな…また、新たに御力を賜るって話だし、本当に神様になっちゃいそうだもんな…。」
「もう半分なってるよ。なんせ、信仰の対象なんだから…。」
「そこだよ…布教寮は何を布教してるのかわからなくなってるからな…。もうヌシ様が二柱いるようなもんだ。」
2人揃って溜息をつくと、小平太は徐に立ち上がって皆に伝えた。
「明日は参拝者の警備だそうだから、程々でやめておこう。
そして、蒼士郎殿、俺はまだまだ負けませんからね。あっちに行っても鍛錬を怠らないようにしてくださいよ。」
小平太は蒼士郎を見てニヤリと笑った。
「当然だ。必ずお前を超えてみせる。お前こそ鍛錬を怠るなよ。」
2人はニヤリと笑い合う。
「おいおい、俺は蚊帳の外かい?程々ジジイとムッツリがいない間に、俺もしっかりやらんとな。」
「誰が程々ジジイだ!」
「誰がムッツリだ!この女誑しが!」
ここでお開きのつもりで挨拶した小平太だったが、もう暫く3人の罵り合いは続いた。




