カンナ
おはようございます
私の新しい頭、サクヤは変わった人だ。
私達のクニに比べると、西のクニは理が違うが、その中でもサクヤは理の外にいると言われている。
神のように崇められている彼女だが、接してみると偉ぶることもないし、およそ普通の娘のようだ。
だが、一度彼女が怒りを現すと、鬼神の如く完膚なきまでに叩きのめすという。
とても想像はつかないが、彼女が使う御力はとてつもないものばかりで、神と崇められるだけのことはあった。
「カンナはどうして都にやってきたのですか?」
「朝貢です。」
「朝貢?」
「はい。遥か昔、我々の神は都からやって来た神々に封じられました。それ以来、我等の一族は3年に一度朝貢を行い、封印を解いて貰えるようお願いに来るのです。願いが叶うことはありませんが、貢物を献上すると、代わりに多くの下賜品が与えられるので、我等は願いが叶わずとも、諦めて帰るのです。」
「そのようなことが…。神々と言いましたが、日輪大神御一柱ではないのですか?」
「はい。何柱かの神々が来ましたが、その中でも犬の姿をした神に封じられたと言われています。」
「犬…ですか…。」
「はい。」
「貴方達の神はどのような御姿をされているのですか?」
「鶴の御姿をされていると言われています。」
「へぇ、鶴ですか。どのような御神力を使われるのですか?」
「存じません。」
「カンナも御力を使えますよね。それは血の記憶…親から受け継いだ御力ですか?」
「いえ、我々は12歳になったとき、精霊と契約して加護を受けます。水の力が欲しい者は水の精霊、火の力が欲しい者は火の精霊に。でも、相性もあるので、必ずしも願った精霊と契約できるわけではないのです。」
「それは面白いですね。住む場所が違うと、理も違うのですね。因みにカンナはどのような精霊と契約してのですか?」
「はい、『風の精霊』です。」
「『風の精霊』ですか…。どのような御力なのですか?カンナは弓が上手いと聞きましたが、関係あるのですか?」
「はい。矢を風に乗せて遠く早く時には曲げたりもします。」
「なるほど…それは興味深いですね。私も桜の精霊に会ったことはありますが、こちらの精霊とは何か根本的に違う気がしますね。」
「こちらでは、どのように御力を身につけるのですか?」
「先程も少し言いましたが、生まれ持った親から受け継ぐ御力と、神々から授かる御力の2種です。私は幾つか神々から授かりました。」
「神々から直接賜るのですか…。私は神々にお会いしたことがないので、不思議な感覚です。」
「こちらでも神々の降臨を賜るのはそうあることではありません。私を含めた鬼防寮が特殊なのでしょう。」
「私も頭と行動を共にすればお会いできるでしょうか?」
「頭はやめて…、どうも馴染まなくて。
そうだなぁ、会いに行ってみるか。」
「えっ!?お会いできるのですか?」
「多分問題ないと思うよ。ヌシ様も貴方ほどの遠方から来た人間なら興味があるだろうし、問い質さないといけない話もありそうだし。」
「問い質す?ヌシ様を?」
「取り敢えず行ってみましょう。今から行けば夕方までには帰らるでしょう。」
そう言ってサクヤは私を連れて御山に登る。それもとんでもない速さで。野山を走り慣れた私でもかなりキツかった…。
「今日は連れもいるのだな?どのような要件だ?」
(犬が喋ってる…これがこの山のヌシ様…。)
「ヌシ様、一つ問い質したい案件があるのですが、宜しいでしょうか?」
「な、なんだ?あまりいい予感がしないが…。」
「昔、日輪大神様と共に北東の国に行ったことはありませんか?」
「あるなぁ。それがどうかしたか?」
「その時、鶴の仮初の神を封印されませんでしたか?」
「鶴?封印?あぁ…あれか…?いや、まて!あれは違う封印などしていない!」
「では、何をされたのです?」
サクヤは笑顔でヌシ様を詰めている。人間が神を詰めるなんて、そんなことがありえていいのだろうか?
「あれはだなぁ、日輪達とこの秋津原島がどこまで続いているのか確かめに行こうという話になって、旅に出たときのことなのだが、あっちの神は野蛮な奴が多くてなぁ。喧嘩を吹っかけて来た奴等を端からのしていたのだ。そうしたら、我等が西から侵略してきたと噂になってしまってな。その噂が次第に広まるようになったところで、その鶴のいる里に至ったとき、鶴の奴が我等を一目見るなり磐座に閉じ籠もって、まったく出てこなくなったといわけだ。」
サクヤはヌシ様の顔を両方から握って頬をムニムニしながら笑顔で睨むという器用なことをしている。
「待ふぇ!待ふぇ!わふぇふぁふぁるふなひふぁほ!」
「ちょっとお痛が過ぎたんじゃありませんか?」
ようやくサクヤはヌシ様の顔から手をはなした。
「まぁ、確かに…若気の至りだったと言えなくもないが…。」
「そのせいで、その神様の子孫であるカンナ達は、3年に一度朝貢して、封印を解くようお願いしているのですよ。」
「解きようがないだろう。自分で引き篭もっているのだからな。朝廷からしても知ったことではあるまい。」
「しかし、こんなにも長い間引き篭もっているのというのも不可解ですね…。」
「そうでもなかろう?我等からすれば、比較的最近のことだ。ソロソロ安全の確認ができたら出てくるのではないか?磐座の前で裸舞でもすれば出てくると思うぞ。」
サクヤは又してもヌシ様の頬を掴む。
「そのような破廉恥なことを勧めないでくださいませ、ヌシ様。」
「だっふぇ、ふはひははひひほほひひはははははひふぉひはっへほうはほう!」
「何を言っているのか判りません。」
(だったら手を離せばいいのに…)
「だから…引き篭もった奴を裸舞で誘き出すのは昔からある手法だ。我が考えたことではない!」
ヌシ様は身体をブルブル振るいながら、言い訳をしている。
「では、裸舞まではせずとも、神楽で舞って、楽しそうに飲み食いしておれば、誘い出されてくるであろう。」
「里長に進言してみます。」
「ところで、其方は北東から来たのだったな。其方も精霊と契約しているのか?」
「はい。風の精霊と契約しております。」
「面白いものよなぁ。ところ変われば神力の理も変わるのだから。そういえば、サクヤは桜の精霊を神にしたなぁ。」
(はっ?!精霊を神にした?)
「違います。まだ神にはなっていません。神になれるようお手伝いをしただけです。」
「最早神になったも同然ではないか。」
「いえ!違います。」
この不毛な遣り取りは何時まで続くのだろう。
双方が疲れたところで、突然話を振られた。
「折角このようなところまで来たのだ。ソナタの里の神に対する詫びも含めて、何かしら神力を与えてやろうと思うが、どのような力がいい?」
「えっ?!そのようなこと…」
「あのう?精霊の御力と喧嘩になったりしないんですかねぇ?」
「う〜む、なにぶんこのようなことはなかったから、どうなるか判らんなぁ。」
「ど、どうなのでしょう?当たり前ですが、私の周りにも神に御力を賜わった者などおりませんから…。」
「これが上手くいくなら、私も精霊と契約してみたいですねぇ。」
「其方、これ以上何を望むのだ?」
「特にないのですが、なんだかかっこいいじゃないですか、精霊と契約って!」
「まったく…其方の考えておることはよく判らん…」
(ですよねぇ。)
「まあよい。どうする?我は犬の仮初であることもあって、『先見の神力』など与えられるぞ。」
「先見ですか…。」
「あ、便利ですよ。危機を事前に察知できたり、相手の動きを読めたり。かなり使い勝手のいい御力です。」
「お前は…便利か便利でないかしかないのか?神力だぞ?神力!」
「だってぇ、不便な御力など、あってもしょうがないじゃないですか。便利は正義ですよ!」
(この人、大丈夫なんだろうか…ていうか、この2人?の関係はどうなっているんだろう?神様なんだよね?)
「では…お、お願いします。」
「そうか…では参るぞ。」
「はい!」
犬の神様は私の額に鼻先を付ける。鼻先から熱が伝わる。
「終わったぞ。」
「あ…有難うございます。」
「喧嘩してません?」
「大丈夫そうです…。」
「そうか。では其方の里の神に迷惑をかけたと伝えておいてくれ。」
「あ、はい。承りました。」
こうして私は神様から神力を賜った。
なんだか、ここに来てから夢でも見ているようなことばかりが起きている。
そして、この人について行って大丈夫なのだろうかという、漠然とした不安が広がっていったのだった。




