留学の終わりと始まり
おはようございます
社の境内は、今日も朝から参拝者でごった返していた。
サクヤが井戸水に御力を軽く込めた「奇跡の水」。この日も参拝者が列をなしていたが、この作成過程でも面倒臭がりなサクヤの本領が発揮される。当初、汲み上げた桶に御力を籠めていたのだが、汲み上げる端から売れる井戸水にいちいち御力を調整して籠めるのが面倒臭くなったサクヤは、汲み上げた桶にがっつり御力を籠めて井戸に戻したのだ。あとは汲み上げるだけで御力の薄まった「奇跡の水』の完成である。店頭に張り付かざるを得なかった状況からも解放され、サクヤは満足げに去って行った。
そんな境内をよそに、サクヤは人目を避けるようにして鬼防寮へと向かった。
鬼防寮には千代と左馬介以外の全員が揃っている。余裕のあった会議室も少し窮屈に感じられた。
「さて、今日の議題は今後の行動に関することだが、まずは蒼衣殿と蒼士郎についてだ。前にも伝えたが、二人は留学を終了し、 帰国して竜神社で鬼防寮を立ち上げてもらう。」
「あのう、それは二人ででしょうか?」
不安気な蒼衣がおずおずと聞いた。
「そうです。不足する人員はそちらで手配してください。別に必ずしも新たに寮を立ち上げる必要はありません。山兵部で相談し、鬼討伐に特化した部隊を編成できればそれで構いません。いきなり大規模な部隊でなくても、最初は一個小隊でいいと思います。」
「そういうことですか。分かりました。こちらで学んだことを存分に発揮して見せます!」
「宜しくお願いします。期待していますよ。
それから、角田の里の駐屯部隊を鬼防寮で編成し、定期的に入れ替えていこうと考えています。蒼士郎が抜けるので部隊は再編制しますが、一個小隊を順番に派遣、駐屯させようと考えています。何か意見はありますか?」
「特に問題ないと思う。」
「では、編成については後程。続いて、今後の行動についてだが…意外と忙しいんだよなぁ。」
「なんだよ、急に愚痴か?」
「やろうと思うことが多くてな。先ずは入替を兼ねて角田の里に行って小夜さんの様子も見たいし、そこで入寮希望者の試験もしなきゃならんだろ?それから、チノハ様のとこにも行きたいし、御神域の欠損補修も兼ねて護符の実験もしたいし、それ以外の護符の研究や実験もあるしなぁ。新入の強化もしなくちゃならんし、やらなきゃならないことが盛りだくさんなんだよ。」
「優先順位はどうなんだい?」
「そうですね、先ほども言ったように角田の里ですね。蒼衣さん達の帰還も兼ねていますので、竜神社に立ち寄ることになります。」
「なんだか時間を喰いそうだねぇ。」
「そうなんですよね。」
「なんだかうちの実家がすみません。」
「いや、蒼衣さんのせいじゃないから。」
「で、小夜さんの経過観察と選抜試験か。」
「まぁ、そちらは実力がある程度わかっているからな。時間はかからんだろう。」
「チノハ様のとこの用てのはあれかい?」
「そうですね。もう、なんというか、開き直りでしょうか。こんな気持ちで行くのは失礼なんでしょうけど。」
「いいんじゃないか。サクヤさんなら悪いようにはしないだろ?」
「そりゃぁ、悪用する気なんてありませんけど。」
「じゃあ堂々と貰っちゃえばいいんだよ。」
「貰っちゃうって…もしかして?」
「ああ、『転移の御力』だ。結局は結界術の一種なんだが、理屈を教えて貰っても、独自に再現するのは不可能だったんだよ。」
「試したんかい!」
「そりゃあな。何の努力もしないでってわけにはいかんだろう?」
「あぁ、そうかぁ、そういうもんかもなぁ。」
「那由多と永遠はできたりしない?」
「「無理よ! そんなん。」」
「そりゃそうか。ということで、こちらはさほど急ぎではないかな。
欠損補修は護符を使うから伊都の出番ね。」
「えっ私?!」
「そりゃそうよ。護符を使うとは言え、補修には力量がいるからね。うちじゃあ、私以外は千代と伊都くらいしか頼めないわ。」
「そういうことなら…。」
「因みに、まだ残ってる欠損箇所は?」
「桜の国と、陽の国の東の端だ。」
「そりゃまた、ついでとはいかん場所だねぇ。」
「そうなんですよねぇ。陽の国は大社の方で面倒見て欲しいところなんですが。」
「ではわたくしにおまかせください!」
「えっ!?茜殿?」
「なぜここに!?」
「言ったじゃないですか、留学に行くって。」
「いや、早すぎるでしょ! 我々が帰還したのは一昨日ですよ。」
「鉄は熱いうちに打てって言うでしょう。兄の気が変わらないうちに出発しました。」
「まさか、何も言わず出てきたわけじゃないですよね?」
「一応書置きは残してありますから大丈夫です。」
(全然大丈夫じゃないような気がするなぁ。)
「どちらにせよ、茜殿では力量が足りませんから、私か伊都は行かないといけませんね。」
「どっちからにするんだい?」
「どちらでもいいのですが、私は桜の国に行ったことがないですし、小平太に気がある変わり者の女子にも会ってみたいので桜の国にしましょうか。」
「うぉい!」
「あれは桜の国じゃなくて陰の国だぞ。」
「そこじゃねぇよ!」
「桜の国は男どもが骨抜きにされて騎重郎がモテないことが判った遊郭があるところでしたっけ?」
「遊郭じゃねぇし!モテなくないし!」
「ほらほら、新人たちが呆れ顔になってるよ。ほどほどにしときな。」
「お前達!違うからな!断じて違うからな!」
「ムキになるな小平太。いいじゃないか、好いてくれる女子がいることは悪いことではないだろう。お前がそんなだと騎重郎が可哀想だろ?」
「可哀想じゃねえよ!」
「まったく、千代ちゃんがいないと、誰も収拾をつけないから。その辺にしとき。」
「「は~い。」」
「じゃあ、桜の国でいいのかい?」
「そうですね、とりあえずその予定でいきましょう。あと、編成を発表しなきゃな。呼ばれたら返事しろ。」
●第一小隊
隊長=小平太(前)
隊員=響輔(前)、風磨(後)、那由多(後)
●第二小隊
隊長=千代(両)
隊員=竹蔵(前)、カンナ(後)、慶乃(後)、環(後)
●第三小隊
隊長=左馬介(後)
隊員=補充員(前)、補充員(前)、修平(後)
●第四小隊
隊長=龍子(前)
隊員=馳遊馬(前)、騎重郎(後)、源吾(後)
●護符隊
隊長=伊都
隊員=甚七、永遠、茜
●諜報隊
隊長=猿丸
隊員=猿田彦、伊澄
「以上だ。で、今回駐屯してもらうのは第一小隊。宜しく頼むぞ。」
「あら?私かと思ったのに。」
「龍子さんには別の仕事を頼まないといけなくなりそうなので。」
「別の仕事?なんだか嫌な予感がするねぇ…。」
「私の方から動くことはないんですけど、相手あってのことなので。」
「わかったよ。覚悟しとく。」
「それまでは新人の鍛錬を見てやってください。」
「了解だ。」
「第一小隊と私の出発は半月後とする。準備を頼むぞ、小平太。」
「了解。」




