神力を授ける御力
おはようございます
予定通りの行程で、サクヤ達一行は無事赤犬の里に帰還した。
鬼防寮では、一足早く帰還していた小平太達が出迎えた。
「皆ご苦労だった。明日は全員休暇としよう。明後日は宮司への報告と部隊の再編成について、それから今後の予定について話をする。会議は全員参加で、報告は私と藤十郎殿で行う。以上、解散!」
「宮司への報告、明後日でいいのか?」
「今から少し顔を出して、簡単に報告は済ませておく。それで必要なくなれば報告もなしだ。」
「分かった。」
一足早く帰っていた小平太達は、そのまま鍛錬に戻った。
「サクヤです。只今戻りました。」
「ご苦労でしたね。」
「あれ?宮司は?」
「腰を痛めてしまってね。もういい歳ですから、身体にガタがくるようです。」
「そうですか。」
「恙無く終わったようですね。」
「先発隊に聞きましたか?」
「概要は。」
「では、私からは特にないのですが…。」
「いやいや、ヌシ様がそちらに出向いておられたとか?」
「あぁ、はい。どこで聞きつけてきたのか、日輪山で待っておられました。」
「で、一緒に日輪大神に会ったと…。」
「はい。」
「で、日輪大神は何と?」
「人間の世については無関心のようです。『勝手に滅びろ』という感じです。」
「とても自分の子孫に対する言とは思えませんねぇ…。」
「大神からすれば、霊徳童子も子孫ですから、どちらに加担する気もないらしく、あくまで自然の摂理に従うようです。」
「鬼も自然の摂理の一部ということですか…。サクヤさんはそれに対してどう答えたのですか?」
「まぁ、もっともだなぁと…。」
「…やはり神々に近い人は、理の外の視点になるんですねぇ。」
「そういうわけでは…。私からすれば、朝廷はどうでもよいですが、この里に関わる者が不幸になるのは見過ごせません。民が苦しむことのないよう、鬼と対峙していくつもりです。その方針に変わりはありません。」
「そうですか…。それを聞いて安心しました。
ところで、帝の方はいかがでしたか?何か不敬を働いたりしてません?」
「それこそ失敬です。帝は私の意見を真摯に受け止めてくださいました。あのボンクラの親なので心配していましたが、思いのほかまともな御方でした。」
「十分不敬です。」
「そうですかね。」
(あれが叔父で、あのボンクラが従兄弟かと思うと頭が痛くなるんだけどな…)
「分かりました。これ以上詳細な報告は必要ないでしょう。明後日でしたっけ?報告は省略しましょう。どうせ宮司も出れませんし。何かあればまた質問させてもらいます。」
「わかりました。では、失礼します。」
「母様、ただいま帰りました。」
「お帰り。」
「ご報告があります。」
「まぁ、なんとなく想像はつくけど…夕餉の後にしましょうか。」
「はい…。」
2人は用意されていた夕餉を済ませて、サクヤは酒を用意した。
「何故?」
「何故って…そんな気分かなぁと。」
「そう。ま、いいわ。で、報告は?」
「はい。予想通り、皇弟様が父上でした。」
「…そう。どうやって確認を?」
「2人きりで面談がありましたので、その時に「彦次郎とコノハという名に憶えはありませんか?」と。すると、泣きながら母様のことを忘れた日はないと仰っておりました。」
「そう…。」
「まあ、わかったところで、私には特別な感慨はなかったから、『父上』と呼んであげることで良い伝手にしてきたけど。」
「あぁ、そうね…。貴方からすればそうかもね。ところで、それを知っているのは?」
「あまり大っぴらにはできないから、息子の明日彦、将軍とその娘の龍子さんだけよ。」
「将軍と龍子さん?」
「そうそう。将軍、右近様はここに訪ねてきたから知っているでしょう?龍子さんはうちの寮の鬼斬りなんだけど、その人が右近様の家出した娘だってことがわかってね。何かと都合がいいから、教えておいたの。」
「都合がいいか…。まあその辺りのことはサクヤに任せるわ。で、それ以外は?」
「父上とは特に…。あとは、帝が思ったよりまともだったことと、日輪大神様にお会いしたくらいかな。」
「情報量が多いわねぇ。帝がまともじゃなかったら、民は困るんだけどねぇ。」
「あれでも叔父だからね。本人は知らないけど。私の意見をちゃんと聞いてくれたわ。」
「そうか…そうなるのか…恐ろし話ね。非公式とはいえ、貴方も帝位継承の権利があるんだもんねぇ。」
「あっ、そうか…龍子さんの反応はそういうことだったのか…。」
「気付いてなかったの?」
「うん。だってそんなもんいらないし。」
「そういう問題じゃないんだけどね…。」
「えぇ~面倒臭いのはヤダなぁ。」
「だとしたら知られないよう気を付けないとね。間違っても将軍様が貴方を推挙したりしないようにしてもらいなさい。」
「あぁ…父上にしっかり締めてもらわないといけないねわ。」
「父上なんだから、そのくらいやってくれるわよ。」
「そうだよね。折角の伝手だしね。」
「やれやれ…。で、日輪大神様はどんなだった?どこまで言えるの?」
「特に問題はな…あっ!!そうだ、格好の実験だ…い…が…」ニヤリ
サクヤはコノハを見て企みの笑顔だ。
「なっ!?何か良からぬことを考えているわね!何をする気!?」
「いや、本当は千代で試そうと思ったんだけどね、ここに適任者がいるなぁと。これも余り大っぴらにできないことなんだけど、母様ならまったく問題ないし、ねっ!いいでしょ?」
「待ちなさい!まったく説明になっていないわ!何をする気なの?!」
「大丈夫、怖くない…怖くない…」
「わたしゃ少動物か!」
サクヤは詳細を説明することなく、コノハの額に手を添えた。
「さて?できたかな?」
「な、何をやったの?!」
「ええっとねぇ、日輪大神…面倒臭いなぁ、ヒノワ様に御神力を授ける御力を賜わったんだけど、ヒノワ様もやったことないから自信ないみたいでね。誰かに試したかったんだけど、余り誰にでも彼でもできることじゃないじゃない?で、千代で試そうかと思ってたんだけど、母様なら秘密の共有者だし、都合がいいって気付いたの。で、どう?」
「貴方…またとんでもない御力を…。
どうって言われても、何を授けたのよ?」
「あっ、そうか。ごめんごめん。『治癒の御力』を授けて…なんか母様に『授ける』って烏滸がましいね。取り敢えずやってみたけど、どう?」
サクヤは徐に自分の腕を小太刀で傷付けた。
「貴方ねぇ…よりによってそんな特殊な御力を…。しかも躊躇なく自分の腕で切るとか…嫁入り前の娘のすることじゃないわ。」
「大丈夫よ。母様が治してくれるから。」
「だって、出来るかどうかも分からないんでしょ?」
「う〜ん、感触的には出来たような気がするんだけど…兎に角試してみて!」
「この実験狂いが…」
コノハはサクヤの傷口に手を近付け、御力を流し込んだ。
「凄い!ほら出来たよ、母様!…母様?」
「無理…力量が…」
「あっ!こ、これ飲んで!」
サクヤは酒に薬を入れてコノハに飲ませた。
「大丈夫?」
「ふぅ…な、なんとかね…。」
「流石に完全回復は力量の消費が大きいね。」
「まったく…もうちょっと小さな傷でよかったんじゃないの?実験なんでしょ?」
「そうだね、失敗失敗。でも成功したから、今後は作った回復薬にも御力を籠める事が出来るから、より効果の高い薬が作れるようになるよ。」
「簡単に言ってくれるけど、まずは力量を増やすところから始めないと…。」
「フフフ、楽しくなってきた。」
「余り大っぴらにはできないんじゃなかったの?」
「大丈夫。千代は巻き込む気満々なの。」
(千代ちゃんはサクヤに何をしたんだろう?可哀想に…。)




