日輪大社へ
おはようございます
鬼防寮と神楽寮の一行は、日輪大社へ向かっていた。
都から徒で向かうと丸一日かかるという。
早朝から出発した一行は、夕方前には日輪大社に着くことができた。
早速大社の拝殿に向かい、揃って参拝する。
人数がいるので、サクヤと竜造が代表して榊を奉納した。
「この社は拝殿だけなのですな。あの日輪山が本殿であり御神体ということですかな?」
竜造が健平に質問する。
「本殿は山頂の磐座ということになっているのです。」
「なっている?」
「はい。昔は山頂に参拝することもあったのですが、今は道が崩れて、人が通れなくなっているのです。」
「では健平殿も?」
「はい。参拝したことはありません。代わりに日輪山の西に聳える山の山頂に遙拝所を設け、そちらで拝することにしています。」
「御山に入るとはできるのですか?」
「禁止はしていませんが、妖魔も多いですし、少し特殊な事情があるので入ろうとする者はいませんね。」
「特殊な事情、ですか?」
「登山口に行ってみればわかりますよ。ただ、今日はもう暗くなるので明日にした方が良いでしょう。」
「そうですな。」
日輪大社の客殿の一室は皇太子が使用しており、元々部屋数も多くない。
サクヤと巫女たち女性陣は残りの客室を使用させて貰ったが、男性陣は社務所や拝殿等に雑魚寝となる。
食事は大社の好意で用意してもらえたが、携帯食に近い物に汁物で済ませる形となった。
因みに、皇太子はサクヤと顔を合わせることがないよう、部屋に閉じこもって出て来なかった。
サクヤと竜造、藤十郎は健平から簡素ではあったが歓待を受けた。
「紹介します。こちらは妹の茜です。」
「茜でございます。サクヤ様のことは噂で聞いておりまして、是非お会いしてみたいと思っておりました。こうしてお会いできて嬉しゅうございます。」
「乾のサクヤです。どのような噂かは知りませんが、噂に尾鰭端鰭が付くもの。余り真に受けられないようにお願いします。」
「茜は今年18だから、サクヤ殿より2つ上か。話をしてみたいと予予言っていましたので、相手をしてやってください。」
そう言って男達は男達で酒を酌み交わし始めた。
「サクヤ様、お酒は?」
「嫌いではございません。が、様付けはおやめください。私の方が歳下ですし、様付けされるような立場でもありません。」
「そうですか。ではご一献、サクヤさん。」
「ありがとうございます。」
サクヤは盃を干して返杯しようとした。
「ふふ、わたくしは普段飲まないのですが、折角だから頂きましょう。」
そう言って茜は盃を干した。
「サクヤさんは結界術をお使いになるのでしょう?それは受け継いた御力ですか?」
「いえ。私の高祖母がこちらの宮司の妹らしいのですが、そのような御力は受け継いでおりません。結界術はオオシロタタケヌシ様から授かった御力です。ただ、私のはとこが相手の動きを止める御力を使えるのですが、最近はそれも結界術の一種じゃないかと考えてますが。」
「えっ?!それってもしかして…霊徳の乱のときの…」
「はい、そう聞いています。」
「そうだったのですね…。であれば、私とサクヤさんは遠い親戚になるのですね。」
「そうなりますね。かなり遠いですけど。」
「ところで、一昨日の神楽、わたくしも鑑賞させていただいたのですが、素晴らしかったわ。あの舞台の明かりやサクヤさんの矢等の演出はどのようなからくりなのですか?」
「あぁ…あれですか。」
サクヤは護符や結界術の話を簡単に説明した。
「け、結界を矢にして放つ…?そ、そんなことできるのは秋津原島広しといえど、サクヤさんだけでしょうね…。」
「いえ、千代もできるようになりましたから、結界術の素養と力量があれば、誰でも出来ると思いますよ。」
「流石…神産みのサクヤと呼ばれるだけあって、神々に愛されている方は言うことが違うわ…。」
「愛されているのか便利使いされているのか、最近は判らなくなってきましたが、良くして頂いてはいますね。」
「それって…ヌシ様と対話されているということ?」
「はい。ここだけの話ですが…うちのヌシ様は仮初の姿が犬ですので、ナデナデしてあげると喜ばれます。モフモフになったときなどは、抱きついて寝たこともありましたね。」
「はい?」
「そこにいる藤十郎もヌシ様には会っていますし、うちの寮の人間は神々の降臨に遭遇することはもう珍しくありません。」
「そ、そうなのですか…。わたくしはここで生まれ育っていますが、大神の降臨を賜ったことなどありませんから…。サクヤさんならお会いできるかもしれませんね。」
「そうですね。一度お話してみたいとは思っています。明日、御山に入らせて頂きたいのですが。」
「それは問題ないと思いますが、途中で道が崩れ、山頂に行く術がないのです。」
「白狐の社の奥宮もそのような感じでしたから、私一人であれば何とかなると思います。」
「なんとかなるのですか…。」
茜は呆気にとられたまま次の言葉が出てこなかった。
(余りにも生きている世界が違い過ぎる。)
茜のサクヤに対する印象であった。
「あの神楽、ぶち凄かったねぇ。」
「那由多、あんたそれ何度目?」
「だって、永遠はあんな神楽観たことあるん?僕はホンマに感動したんよ。」
「確かに凄かったけど…。」
鬼防寮の面々は、大社の山兵部に集まって夕餉を食べていた。
大社の山兵は人数が少なく、昔からある兵舎は部屋が余り気味だったので、鬼防寮の者達は余った部屋を借りて宿泊させてもらっていた。
大社の山兵達も鬼防寮の者興味があったので、夕餉に混じって歓談していた。
「君たちは西国の訛りがあるね?元々赤犬の里にいた者ではないのかな?」
「あ、はい。先日の入寮試験を受けて…。」
「そうか。ではあの神産みも?」
「はい。見ていません。」
「そうなのか。その話を聞かせてもらいたかったんだがな。
ところで入寮試験ってのはどんな感じだったのかな?」
永遠が掻い摘んで説明する。
「あの試験で見せられた結界術は、ホンマに度肝を抜かれたわ。」
「そ、それはまた…。サクヤ殿はとんでもない効力の薬を煎じ、大規模な禊祓ができて、弓兵としても近接戦闘もそうとうな腕と聞く。そんな方の寮でお役目に着くことを望まれたのだから、其方等も相当な手練れなのだろうな。」
「いやいやいやいや!あの方と比較されたら困ります!まったく足下にも及びません。」
「ハハハ!そんなに謙遜せずともよい。」
(謙遜じゃないんよ!あんなのに付いていけるか不安でしょうがないんじゃけぇ。)
永遠は何を言っても受け流されるので、諦めて愛想笑いをしながら夕餉を続けた。
「ところで、明日はサクヤ殿が日輪山の磐座に向かわれると聞いたが?」
「はい。そう聞いてます。」
「君達も登るのかい?」
「いえ、サクヤ様だけ登るようです。」
「そうか…しかし、どうやって行くのだろう?あの山頂の手前は、完全に崩れていて、あれ以上登るのは無理なんだけど…。」
「そ、そうなんですか?」
「どうやって登るのか、君達は判るかい?」
「いえ。ただ、サクヤ様なら登ってしまいそうな気はしますが…。」
(あんな結界術が使えるんじゃけぇ、なんとかしそうな気がするんよねぇ。それこそ、結界で階段でも作るんじゃないじゃろか?)




