御前神楽
おはようございます
謁見を終え、サクヤは神楽殿へ赴く。
神楽殿では神楽寮の面々が着々と準備を進めている。
「伊都、準備は順調?」
「サクヤさん。謁見は終わったのね。」
「なんとかね。でも、問題は山積みよ。」
「うわぁ、聞きたくないなぁ。」
「大丈夫。現状と大きく変わらないから。」
「よかった…サクヤさんの話方、機嫌を損ねず済んだみたいね。」
「あぁ、不敬な言い方だけど、思ったよりまともな人だったから。」
「フフフ。確かに不敬だね。」
「でも、帝であっても中々思うようにはならないみたい。あれはあれで大変そうだわ。」
「そうか…。
サクヤさんも稽古しておかなくていいの?」
「それ!早く着替えなくちゃ。」
サクヤは巫女達の楽屋に行き、稽古着に着替える。
化粧も省いて舞を合わせた。
「多忙なところ申し訳ないが、演目の確認もしてくれ。」
神楽寮の頭である竜造が声をかけてきた。
「今日の演目は華やかさを、明日は楽しんでもらえる内容であれば、なんでもいいと思いますよ。そう言えば安澄は間に合いましたか?」
「何とかな。隠密寮の護衛付きでやってきたぞ。」
「そうですか。それはよかった。」
夕暮れを迎え、舞台脇に篝火が焚かれる。
華やかさな演出を狙い、舞台は複数の護符による光で照らされた。
観客席には仮設の小屋が設置され、帝はそこで鑑賞する。
観客となる公卿達は、舞台の明るさに度肝を抜かれていた。
「何故あのように明るいのか?」
「あれも御力なのか?」
「ハハハ、驚いてる驚いてる。こんな演出、俺達も初めてだもんな。サクヤさんはやることが派手だな。」
神楽寮の者達もこの演出には驚いたが、自分達が驚いた分、ひとが驚いている様を見るのは楽しいらしい。
帝が小屋の裏手から入場し席につく。
それに合わせて楽達が舞台に上がり、観客に向け一礼するが、今回は相手が帝である為、全員が一度正座してから深々と礼をした。
其々の席に着くと、伊都が笛を掲げる様に礼をして演奏が始まる。
最初の演目は例によって四方祓い。それから巫女舞、神々の降臨、鬼退治と続く4演目の予定だ。
サクヤは最後の演目のみの出演で、こちらも例によって神役だ。
四方祓いで伊都が笛による浄めを行った後と神楽は滞りなく進み、巫女舞で鼻の下を伸ばす公卿達に呆れながら、サクヤは出番を待った。
客席に座る公卿達は男だけではない。退屈を持て余した女達も共に鑑賞する。
また、神宮や大社の関係者達も共に鑑賞していた。
「田舎神楽と侮っておったが、中々のものだ。」
「巫女も美しかった。」
「あの笛には心洗われたようだ。」
演目の間合いで各々感想を零す声が聞こえた。
そして最後の演目を迎える。
「さて、行きますか。弥助さん、火傷に気を付けてね。」
「へへ、あんな演出誰もやったことがないだろうからな。ただ、結界術を受けるのは怖ええな。」
「大丈夫ですよ。締め上げなれば痛みはありませんし、矢も直前で消しますから。」
「頼むぞぉ。」
楽に合わせて神役の2人が舞台に出る。
「あれが『神産みのサクヤ』か…なんとも…美しいな…。」
サクヤの舞に観客達は確実に惹き込まれていく。
話も勧善懲悪で誰が観てもわかりやす、客席は水を打ったように静まり返る。
しかし、鬼との戦闘が始まると様相は一変した。
鬼役が鬼術として、通常なら蜘蛛の糸を放つところを、護符を使って火を放出する。サクヤは直ぐ様結界を張って防御し、クルクル回転しながら円を描く様に舞う。
そして、サクヤが鬼に向け結界の矢を放つ。矢は当たる直前で消えるので、実際に刺さることはないが、鬼役の派手なアクションで、観客達は本当に射抜いたのではと思わず声を上げる。
最後は結界で拘束し、神2人で斬りつけて、幕の中で藻掻きながら、鬼は力尽きた。
鬼を退治し終わると神の嬉舞で締め括る。
そして、いつも通りサクヤの微笑みで観客は蕩けた。
「いつもながら、凄い破壊力だな…。」
「サクヤにかかれば、民も公家も関係ないようだ。」
「弥助さん、よい演技でしたよ。」
「いやぁ、本当にヒヤヒヤしたぜ。」
「仮に刺さっても、直ぐに治しますから大丈夫ですよ。」
「いや、痛いのは勘弁してくれ。」
「しかし、今までにない演出だな。よく考えついたな、サクヤ。」
「いえ、夜神楽ならこうしたらいいんじゃないかって、伊都と安澄が言い出したのであって、私の案ではありません。」
「それはサクヤの結界術ありきの演出だから、一番の功労者はサクヤよ。でも、護符の使い道は色々ありそうだから、夜神楽はうちの売りにできそうね。」
「相変わらず商魂逞しいな。」
ワイワイと楽しそうな神楽寮に対し、公家達は驚愕と魅了でパニックとなっていた。
「神楽に妖術を用いるとは…。なんと恐ろしい者達だ…。」
「いや、そんなことより、あのサクヤ殿の美しさよ…。」
「確かに、あれは美しかった…。最後の微笑みは天女の如きであった。」
「しかし、あの矢はどうなっておったのだ?何もないところから放たれ、射抜いたように見えたが…。」
「あれも御力なのか…?」
「如何でしたか?帝。」
帝は呆然としていたところを、豊秋彦の声で我に返った。
「う、うむ。なんと申したらよいか…。言葉では言い尽くせぬな。
だが、この上なく素晴らしい物を観た。」
「それは良うございました。帝が満足されていたとサクヤ殿にも伝えておきましょう。」
「うむ。何か褒美を取らせたい。何がよいだろうか?」
「それとなく確認しておきましょう。」
「明日は都の民に観せると聞いたが?」
「はい。サクヤ殿の申し出です。」
「そうか、民も喜ぼう。民に受け入れられれば、サクヤの願いもよい方向にいくやもしれぬな。」
「それも狙いなのでしょう。」
「ハハハ、強かであるな。あのような強かさが我等にも必要なのだろう。」
帝は楽しそうに舞台を見ていた。
舞台には整列して礼をするサクヤ達の姿がある。
「彼等は明日の公演の後は如何するのか?」
「日輪大社へ参拝すると聞いてます。」
「そうか。朕も久し振りに行ってみるか。良い日取りを調べておいてくれ。」
「畏まりました。」
翌日は都の民向けの公演を行った。
より多くの民が観れるよう、仮設の小屋も撤去し会場を広くしたが、それでも開場と共に席は埋まった。
午前と午後で完全に入れ替えれるよう、入れなかった人に整理券を配った。
民向けの演目は3番目にチャリ(お調子者の男が、軽妙なトークで面白可笑しく場を盛り上げる)の出る演目を選び、最後はサクヤも出演する鬼退治物。
2番目の巫女舞にはサクヤも急遽出演して、伊都と共に会場全体への浄めを行った。
神楽公演は大いに盛り上がり、好評のうちに終えることができた。
当然サクヤの魅了は炸裂し、都の民の心を掴むことに成功した。
再演を望む声も多かったが、最後の挨拶で、
「是非赤犬の社の定例祭に足をお運びください。」
と売り込んでおいた。
後にこの売り込みが大変な事態を招くことになるのだが、それは別の話で。




