将軍、遊ばれる
おはようございます
「ところで、私が呼ばれたのはどういった訳でしょうか?」
サクヤと豊秋彦は目を合わせてキョトンとしている。
「どういった訳って、其方の驚く顔が見てみたかっただけだが。」
「はい?」
「いや、面白いものが見れた。」
「えっ?」
「それだけなのです、右近様。」
「…」
右近は固まる。
(何を言っているのだ?この2人は。
しかし…この2人が組むのであれば、私の計画は狙い通りになるのではないか?)
「ところで、帝との謁見の方は?御二方で相談されたのではないのですか?」
「それよなぁ…」
豊秋彦は遠い目になる。
(あっ…これはサクヤ様が炸裂したか?)
「サクヤは賢い。こちらの心配も理解しておる。大事なかろう?」
(違う!炸裂しているのは親バカだ!)
「いやいや、サクヤさ…殿は、気に障ることがあれば、相手を選ばず喧嘩を売る御方です!きちんと言い含めておかないと…」
「相手を選ばずとは失敬ですね。喧嘩を売って問題ない者にしか売っていませんよ。実際全て丸く収まってます。」
「はは…流石神産みのサクヤ殿ですな…。」
「おう、それよ、それ。その話を聞いてみたかったのだ。おそらく帝も興味を持たれておられよう。」
「私は何も。兵六殿と相談し、最も良いと思われる策を伝え、承諾を頂いた結果でして、私の力でも何でもありません。実際に封印術を使ったのは千代ですし。」
「えっ?もう少し詳しく教えてくれないかい?」
「ですから、里の者の意見を聞き、必ずしも全員が兵六殿を受け入れているわけではないこと、兵六殿を最初に助けた小夜さんが生計を立てていく方法を伝えた上で、兵六殿がヌシ様となり、里を守るのが最も皆の納得を得やすい方法だと伝え、兵六殿が納得したので、実体の消滅と御霊の封印、御神域の展開と里の経営に協力しただけです。封印は私だけでも力量的に厳しかったので、まず千代にやらせて私がその封印術に追加の御力を籠めたのです。」
「…わかったような、よく判らぬような…。」
「ところで、サクヤは何故結界術が使えるのだ?」
「神様に授かりました。」
「か、神様か…。そうか、我娘は神様に愛されておるのだな。」
(そこではありませぬ、皇弟殿!)
「神様に授かったと言われるが、神とはそう頻繁に降臨されるものなのかね?」
「そうですね、私的には頻繁に降臨される存在です。兵六殿も今では神様ですし。」
(そうだった!この娘は神産みのサクヤだった!)
「いやいや、私もそれなりに歳を重ねておりますが、神様など本当におられるのか存在を疑うくらいでしてね。やはり神様も相手を選ぶのでしょうなぁ。」
「神様のために働く者と、そうでない者の差はあるのかもしれません。鬼防寮の者はそれなりに降臨賜っているのですが。何人かは御力も賜ってますし。」
(だめだ…ここまで常識に乖離があるとは…)
「そ、それは凄いですなぁ。」
「サクヤは力量も多いというが、それも神様の御神力によるものか?」
「最初はそうでした。父上が父上ですので、力量の器は元々多いようです。それに、先祖は大社の出身のようですし。でも、力量は巫女になる前から増やし始めたことですので、今の力量はその結果です。」
「力量を増やす…そのような事ができるのですか?」
「はい。実際、鬼防寮の者を始め、社の者は確実に増えていますよ。」
「…先祖が大社の出身とは、まさか?」
「はい。霊徳の乱のとき、大社から逃れた宮司の妹と聞いてます。」
「なんと!そうであったか…。」
(おいおい!とんでもない血筋じゃないか!帝一族と大社の一族の血筋なら、帝一族も同然だ。そりゃあ結界術の素養もあるわけだ…)
「そ、それは、あまりにも…。帝をはじめ、他の公家に知られると大変な事になりそうですな。」
「故に内密にと申しておる。もっとも、大社宮司の妹の話は私も今聞いたところだがな。」
(これはとんでもないことに巻き込まれたなぁ。)
「状況は理解できました。
一公卿として御二方にお聞きしたいことがございます。よろしいでしょうか?」
「なんだ?畏まって。」
「はい。御二方とも還都すべきとお考えかと思いますが、もし帝がこの都にこだわり、あくまで還都しないと判断なされれた場合、如何されるおつもりでしょうか?」
「私は朝廷の人間ではありません。都や帝一族がどうなろうと、関わり合いのないことです。」
「しかし…サクヤ殿は皇弟殿の娘で…」
「経晟、私は今更サクヤの父親面をするつもりはないし、サクヤの生き方に口を出すつもりもない。サクヤはサクヤの幸せの為に生きればよいのだ。もし私に出来ることがあるなら、全力で手助けするが、私を助けてもらおうとは思っておらん。」
「では、皇弟殿は如何されるおつもりですか?」
「そうならぬよう説得する他ない。私は第2の霊徳童子になる気はないのだ。」
「霊徳童子にならずとも、ただ世捨て人の如く大社にお籠りになられればよろしいのでは?」
「ハハハ。先程サクヤにも同じ事を言われたわ。」
「サクヤ殿が…?」
「私は放っておけばいいと言っただけです。反意を示したり誤解を招く言動をしなければ、口煩いのがいなくなったくらいに思われるのでは?と。」
「確かに…。態々皇位を簒奪するまでもないと…。」
「何を考えておる?経晟。」
「私は常々皇弟殿こそ帝に相応しいのではと思っておりました。このまま霊徳童子への対処もまともに出来ぬような帝なら、取って代えればよいと。私個人は政にも権力にも興味はありませんが、このままでは私の所領も鬼に荒らされ、いつか一族郎党滅亡となりかねません。将軍に任じられたのは天啓だと思いましたよ。」
「経晟…其方…。」
「わかっております。具体的に何をしているわけでもありませんし、全ては皇弟殿がその気にならねば成せぬことです。ただ、サクヤ殿も仰るように、黙って大社に籠っているだけでそれが実現するなら、時間が過ぎるのを待てば良い。態々危険を冒す必要はないと気付きました。」
「経晟、私は帝を敬っておる。都が灰燼に帰し、一族が殺されるのを黙って見ておることは出来ぬ。」
「健平殿も同じような事を言っていましたね。もっとも、あの方は帝になどなりたくないという理由でしたが。
そういえばあのボンクラはどうされているのです?」
「ボンクラ?」
「皇太子様のことです、皇弟殿。」
「ハハハ!確かにな。アヤツならサクヤを恐れて大社に籠っておるぞ。」
「帝も神楽で脅せば、大社に籠っていただけませんかねぇ?」
「いや…流石にそれは不味いだろう…。」
「ですよねぇ。では、明日の謁見で散々脅し上げてみましょうか?『この都は結界が解けた瞬間、霊徳童子と鬼達が雪崩込み、都の民も公家も帝一族も皆殺しにされ、都は鬼ケ城となり果てます』と。ついでに私が日輪大神に会いに行き、御告げでも聞いてきましょうか?お会いできる保証はありませんが、うちのヌシ様と一緒なら案外いけるかもしれません。」
「さ、サクヤ殿?日輪大神にお会いする?赤犬社のヌシ様と?そ、そのような事ができるので?」
「ヌシ様は『久し振りにあれの顔でも見に行ってみたい』的なことを仰ってましたから、大丈夫かと。」
(…どこまで本気なのだ?この娘は…。)
「そうか、日輪大神が降臨されることがあれば、流石の帝もその意見は無視できまいなぁ。」
(皇弟殿?本気にされてるので?)
「まぁ、明日の帝の対応次第です。どうにもならないようならヌシ様にお願いしてみます。ただ、ヌシ様が帝の為に動くとは思えませんから、口実は別に用意しておかなければなりませんねぇ。」
「で、では宜しくお願いします…。」
(本気なようだ…。神産みのサクヤ…恐るべし…)
「あっ、私がヌシ様と交渉することや日輪大神に会おうとしていることは、他の方々には内密に。ヌシ様は余り存在を大っぴらにされることを快く思っておられませんから。」
「言ったところで、誰も信じませんよ…。」




