都へ
サクヤの帝との謁見を前に、千代と左馬介が一時的にだが帰還した。
「とんでもないことになっていますね。」
「まぁ、仕方がない。右近殿の顔も立ててやらねばならんだろう。それと、皇弟殿との面会もある。」
「皇弟殿ですか?どういった理由で?」
「右近殿の後ろで密かに我々の動きを補佐してくれていたようだ。朝廷における数少ない還都推進派だそうだしな。」
「なるほど…。それは味方にしておいた方がよさそうですね。ところで、我々を呼び戻したということは、同行しろということですか?」
「ふふ、今回は鬼防寮全員で向う。今全員が馬に乗れるよう猛稽古中だ。」
「それは…少々剣呑では?」
「多少圧力をかけるくらいのつもりだ。軽く見られてはならんからな。」
「かなりの掛かりになるのでは?」
「安心しろ。呼びつけた方が負担するに決まっている。人数制限はなかったしな。どうせ神楽団も同行するのだ。少々増えたところで大した問題じゃないだろう。」
「…それもそうですね。」
こうして鬼防寮全員が馬に乗れるようなったわけだが、神楽団がいるので行軍速度が速まるわけではない。ただの威圧でしかなかった。
因みに鬼防寮の編成(仮)は以下の通りである。
頭=サクヤ(両)
相談役=藤十郎(後)
●第一小隊
隊長=小平太(前)
隊員=蒼士郎(前)、風磨(後)、那由多(後)
●第二小隊
隊長=千代(両)
隊員=響輔(前)、カンナ(後)、慶乃(後)、環(後)
●第三小隊
隊長=左馬介(後)
隊員=竹蔵(前)、猿田彦(両)、猿丸(両)、修平(後)
●第四小隊
隊長=龍子(前)
隊員=馳遊馬(前)、騎重郎(後)、源吾(後)
●護符隊
隊長=伊都
隊員=蒼衣、甚七、永遠
以上、22名が騎馬で向う。因みに、現在鬼防寮所有の馬は30頭。増員を見越して購入したり、寄進を受けたりした結果、大幅に増えた。
これに伴って厩も急遽増築したので、鉄太は大忙しである。
「では行ってまいります。」
「穏便に…と言ったところで無駄でしょうね。これだけの人数で行くのですから、向こうも下手なことはできないでしょうが、反面刺激も強いので余り威圧的になり過ぎないようにお願いしますね。」
「心得ています。」
「…。」
「なんですか!」
「だって、行く前から不機嫌じゃないですか。」
「乗り気でないことは確かですが…。」
「上手く乗せて利用するくらいのつもりでお願いします。」
「あぁ、なるほど。物は考えようですね。頭にいれておきます。」
「頼みます。」
「サクヤ。」
「母様!」
サクヤはコノハの元に駆け寄る。
「どうしたの?珍しく見送りなんて。」
「う〜ん、何となく気になってね。」
「何が?」
「なんとなくだけど、彦次郎様に会う事になるんじゃないかと思ってね。」
「…父様に?」
「あくまで勘だけどね。名乗り出ることはないと思うけど、帝の一族が揃うようなら、その中にいるかもしれないしね。」
「そうだね。でも、態々探すつもりないわ。」
「そうね、それでいいと思う。」
「覚悟だけはしておくよ。」
「なんの覚悟よ。」
「もし父様って判った時にどういう態度をとるか考えておくよ。」
「ふふ、そんなのいらないわ。私のことは気にしなくていいから、その瞬間の素直な感情に任せなさい。貴方にはその権利があるんだから。」
「素直な感情か…。そうだね、そうする。」
「うん、気を付けてね。」
「行ってきます。」
「では出陣!」
サクヤの号令で鬼防寮と神楽団、総勢四十人の軍勢が里を出発した。
途中で3泊する行程だが、人数が多いので二手に分かれることにしている。
鬼防寮、神楽団を其々半分に分け、先発隊の神楽団は途中を船での移動を入れて、鬼防寮は馬の機動力を使い三泊目を都にする。サクヤは先発隊を率い、後発隊が到着するまでに皇弟と面会する予定だ。
赤犬の里から国府の川湊までは四十人での行軍。しかもサクヤの発案で全員が兵装での行軍なので、威圧感はたっぷりだ。
宿場の者達は「すわっ戦か!?」と口々に噂するほどであった。
国府までにある峠の宿場で一泊する予定だったが、宿は一行が占拠するような形となっている。
行軍の様子を伝え聞いた国府の兵が、状況確認の為に飛んで来たくらい、威圧としては効果テキメンであった。
「効果があり過ぎだ。敵対行動と見られてもおかしくないぞ。」
「蒼士郎は心配し過ぎだ。」
「うちはそれで痛い目にあっているからな。」
「あぁ…そうだったな。」
「しかも、今回は相手が帝だ。」
「心配はするな。あちらから来るなと言われたなら、それはそれで良いのだからな。」
「…なるほど…。」
今回、サクヤに会いたいと言ったのは帝であり、サクヤではない。
積極的に会いたい理由はないので、来るなと言われればそれで構わないとサクヤは考えている。
2日目以降は2隊に別れての行軍となったので、いくらか威圧感は減ったが、サクヤ率いる騎馬隊は、半分とは言え10人を超える行軍だ。さぞ民衆は萎縮するかと思わられたが、サクヤの名は国府でも知れ渡っていたので、サクヤを一目見ようと沿道には民衆が声援を送るという異様な光景となる。
「サクヤ殿の人気は凄いな…。」
「なんせ『神産みのサクヤ』ですからね…。」
「特に陽の国では『咲舞の里』でのこともありますし、噂の中心になっているみたいですね。」
陽の国に入ってもう一泊し、いよいよ都が近づいてくると、街道の先で朝廷軍が待ち構えていた。
サクヤは動揺するでもなく、軍の先頭で騎乗している男に目をやる。
「やれやれ、お出迎えか。」
「あれは…将軍ですか?!」
「ああ。なんとなく魂胆が読めたな。」
「はぁ?」
「サクヤ殿、遠路遥々ご苦労だったね。」
「将軍自らお出迎えとは。」
「はは。わかっててやっているだろうに。そんな状態で都に来られちゃ、朝廷の威信に関わるもんでね。」
「その威信の為に狩り出されたわけですか?」
「いやぁ、元々迎えには上がるつもりだったんだけどさ、そんな目立つように来るとは思わなったんで、兵達に準備させるのが大変だったよ。」
「流石に集め過ぎでは?」
「そこはねぇ、朝廷の面子ってやつさ。」
迎えた朝廷軍の兵は100を越えている。その半数は後方から来る第2分隊を迎えるという。
「では都まで案内いたそう。帝も皇弟殿もお待ちかねだ。」
「宜しくお願いします。」
そして、サクヤは初めての都に足を踏み入れた。




