最終試験 〜模擬戦〜
赤犬の里の鬼防寮、その馬場に集められた俺達は、最終試験を前に皆一様に緊張していた。
俺は正直ここに来ないつもりだった。
昨日の面接で奴と対峙して判った。
奴はヤバい。
いや、奴だけじゃない。あの隣で最初に質問してきた男もとんでもない手練れだ。
奴とは違うもう一人の女は山兵ではないようだったが、もう一人いた男は別の意味でヤバい。あれは命令があれば何の躊躇もなく人を殺せる奴だ。
あの部屋に入った瞬間、自分がとんでもない所に来てしまったことを痛感したが、昨日奴に合格を告げられた時、恐怖と共に認められたことを嬉しいと思ってしまった自分がいたことに驚いている。
そして、結局今日もここに来てしまった…。
「これより最終試験を始める。兵志望の者はこの場に残り、それ以外の者は寮舎に入れ。」
男の指示で3人が寮舎の方へ向う。
「では、前備は俺から見て右手、結界師を含めた後備は左手へ集まれ。」
「質問!」
巫女装束を着た娘が声をあげた。
「私は結界師ですが、封印術が専門で戦闘に加わらないのですが。」
「ならば、こちらで見学していろ。あとで頭から直接審査を受けることになる。」
「分かりました。那由多、頑張りなさいよ。」
「…うん。」
どうもあの娘は戦闘には加わらないらしい。
「あのぉ…。」
「なんだ?」
「わたくしも戦闘は…」
「お前は後備に入れ。」
「えっ?」
「頭がお前はそれなりの使い手だと言っている。後備として加われ。」
「…は、はい…。」
ヒョロヒョロの貧相な女は、途方に暮れた顔で後備の列に加わった。
「これより組分けして模擬戦を行う。何度か戦い適性を確認する。また、小隊単位で対戦するが、必ず1名は指揮者として寮の者を入れる。ただし、作戦には口を出さないので、作戦立案は受験者3人で行い、決めた作戦を指揮者に伝えろ。
では、最初の組み分けを行う。」
俺の最初の組は、山兵と思われる前備の男と先程の貧相な女、そして指揮者として風磨という名のガキが付いた。
最初の対戦相手は見覚えのある鬼斬りの前備の男と那由多と呼ばれたガキ、里の者と思われる後備の娘と指揮者の龍子だ。
この模擬戦の敗戦は決定したようなものだ。龍子がいる段階で勝てる見込みなんてない。
あいつはバケモノだ。下手すれば木刀でも死人が出る。
どんな作戦を立てたところで、あの理不尽な暴力に蹂躙されるだけだろう。
「相手は龍子殿がいるから、徹底的に距離をとるぞ。其方は後備と聞いたが、どのような得物なのだ?」
「わ、わたくしは『誘眠の御力』を使います。あとは、クナイを少々。」
「クナイは使えないから、礫になるな。その『誘眠の御力』で龍子殿を眠らせる事ができるか?」
「この御力を使うには、相手との距離が3間(約5.5m)以内でないといけないのですが…」
「3間か…中々厳しいな。だが、その御力が肝になりそうだが、何かいい作戦はないか?」
山兵の男仙吉が俺の方を見た。
「確かに龍子が脅威なのは間違いないが…風磨と言ったか?其方は弓兵だが御力を使うのか?」
「はい。『追尾の御力』を使います。」
「追尾?矢が相手を追うのか?」
「そうですね。追える距離に限界はありますけど。」
仙吉が槍で身体強化を使うという。俺が太刀、誘眠の女と、追尾の弓兵…
だが、相手の戦術がわからない。山兵同士は戦術が知られているだろうから、追尾は把握されているものと考えなければ…。
「あっちの弓兵の娘、どんな御力を使うんだ?」
「あの娘はこの春に巫女になったばかりで、まだ山兵部には来てないから、御力についてはよく判らないんだ。ただ、あのサクヤ様が目を掛けている娘だから、かなりの実力があると思っていいと思う。」
「もう一人の後備は?」
「あの那由多とか言うガキか。奴ともう一人の娘が封印術を使うということは、奴も結界師か?」
「おそらく…。どのような術を使うのか判らないので対策が打てませんね。」
「…よし、風磨殿。其方の弓で相手の後備2人と鬼斬りの男を戦闘不能にしてくれ。俺と仙吉殿の2人が全力で龍子を止める。」
「一度に3人ですか?順番は?」
「まずは前備、それから山兵2人。こちらはどちらからでもいい。」
「わかりました。」
「俺達が龍子を止めている間に慶乃殿が龍子に接近して眠らせる。これくらいしかやりようがないだろうな。」
「わかりました。」
「では始める。準備はいいか?」
「「おう!」」
小平太の合図で模擬戦が始まった。
俺達は予定通り風磨の弓で相手の鬼斬りを戦闘不能にした。
(ここまでは予定通り。)
鬼斬りの男は、まさか矢が曲がって追いかけて来るとは思わなかったらしい。
一本目は何とか切り払ったが、二の矢三の矢と追尾され、対応しきれず矢を受けた。
俺達は龍子めがけ突撃する。が、討ち取るのが目的ではない。あくまで足止めだ。
その間に風磨の矢は後備の2人を狙うが、距離を取られて追尾が切れる。
風磨は距離を詰める為に前に出てくるが、それに合わせるように相手も距離を取る。
俺達はとうとう龍子と激突する。それはまさに理不尽な暴力。こちらは何とか逃げ回るのがやっとだ。
「おいおい、そのまま逃げ回る気かい?」
龍子の獰猛な目が俺達を睨む。目は獲物を捕らえた獣のそれだが、口は不気味に笑っている。
「ぐわっ!」
「どうした?!」
声を上げた仙吉の方を見ると、不思議な光に拘束されている。
「結界術か!?」
あの那由多とか言うガキの結界術だ。
だが、動き周る俺達を捕らえるのは容易ではないはずだ。祝詞だってあげなければならないはずだし、どうやって捕らえたのか?
「さあ、これで一対一だよ。」
龍子が縦横無尽に暴れまわる。慶乃は遠巻きにこちらを窺っているが、これでは接近できないだろう。
そうこうしているうちに、捕らえられた仙吉は龍子にやられていた。
(ちっ!俺一人で止めれるとは思わんが…)
あくまで俺の勘だが、那由多とか言うガキの結界は罠だろう。
そうであれば下手に動き回るのは危険だ。ならば俺一人で龍子とまともにやり合わなければならない。
(やるしかあるまい…。)
俺は動き回るのを止めて、その場で龍子と対峙する。
「ほう。観念したかい?」
「やれることをやるだけさ。」
龍子が一気に間合いを詰め、大きく打ち込んでくる。
「まっすぐさがれ!」
背後からの風磨の声に、思わず後に跳ぶ。
龍子の上段斬りは空を斬って地面を裂く。
「そのままこっちにこい!」
俺は龍子と対峙したまま、ジワジワさがる。
龍子が今度は横薙ぎにしてくるが、太刀で受けたり、跳んだりしながらなんとか躱す。
それでも少しずつ詰まる間合いに躱し切れないと思った瞬間、
「伏せろ!」
半ば転がるように伏せた刹那、俺の頭上を矢が通過した。
その矢は龍子を捉えたかに思えたが、龍子は太刀で矢を受けていた。
そのまま上段に構えた龍子の太刀を何とか太刀で受けた直後、龍子は突然その場に倒れた。
(眠った…のか?)
俺は自分の背後に立つ慶乃にまったく気付いていなかった。
俺が振り返ったとき、胸に激痛が走った。
「がっ!」
俺の胸に矢が直撃していた。
相手の後備を見たが、とんでもない距離がある。
(あんなところから放った矢がこの威力か…?)
この攻撃で俺の模擬戦は終わった。
(よし!捉えた!)
私の矢は、確かに鬼斬りの胸を捉えた。
「凄い…あの距離を山なりじゃなくあんな威力で…。」
那由多さんが呆然と私の矢の着地点を見ている。
「まだ終わってないよ!後備同士の決戦だ!」
「う、うん。」
(この那由多さんって人、あんな結界術が使えるのに、なんでこんなにおどおどしているんだろう?
とはいえ、後備同士の戦いって、決着がつきにくいんだよねぇ。)
私がそんなことを考えているとき、小平太さんの指示がとんだ。
「そこまで!」
「えっ?まだ決着がついてないですよ?」
「決着をつける必要はない。あくまで試験であり、実力を見るのが目的だからな。」
「あぁ、なるほど…。」
「一旦休憩をとってから第2戦を始める。」
第2戦は先程戦った者が外れ、残りの6人が戦った。
第2戦はわりと直ぐに決着し、赤犬の社の山兵を主体とした組が勝ったけど、負けた組の後備にいた女の人の活躍が目を引いた。
その人は東国の更に北の出身で、訳あって都に行く予定だったらしいけど、一緒に来ていた仲間が鬼の襲撃で壊滅したため、鬼への復讐を果たすべく、この試験を受けたという。
綺麗な人だけど、顔や身体に入墨が入っているのが残念だ。そういう文化なんだろうから仕方ないけど…。
「これで試験を一旦終了する。」
「一旦ってどういうことですか?」
「頭の最終確認があるらしいからな。合否の発表は昼食の後だ。寮舎に行って昼餉にしよう。」
こうして、私達の最終試験は終わり?を告げた。




