受験の資格
おはようございます
鬼防寮の選抜試験を十日後に控えたある日、サクヤ達は乃美の宿に向かっていた。
サクヤと共に向うのは、伊都と蒼衣である。
静へのお祝いを改めて行うための旅で、一泊2日の日程である。
瑞の国は比較的平和だが、それでも女3人の旅だとガラの悪い連中に絡まれる。
しかし、「赤犬の社のサクヤだ」と告げれば皆顔色を変えて去って行った。
「凄い知名度ですね。名前聞いただけで逃げて行くなんて。」
「面倒は省けていいが、あんなのをのさばらせておくのも考えものだな。」
「とは言え一泊2日の旅なのですから、かまってやる暇はありませんよ。」
「…そうだな。」
事前に連絡してあったこともあり、静は絢音と共に待っていた。
「静さん、おめでとうございます。」
「ありがとう、伊都さん、蒼衣さん。」
「少し見ない間に、また大きくなったようですね。」
「そう?まぁ、そうかもね。あ、お祝いありがとう。」
「いえ。折角沃の国まで行ったので、異国の物を選んだのですが、大丈夫でした?」
「うん、万華鏡だったっけ?凄く綺麗だったわ。この子が分かるようになるのは少し先になりそうだけどね。」
静はお腹を擦りながら笑う。
「お腹の子もそれなりに力量がありそうですね。似た波長をしているので、同じ御力を引き継いでいるようです。」
「…さ、流石『神産みのサクヤ』ね…。そんなことが見ただけで判るとか。」
「う〜ん、あくまで何となくなんですけどね。」
「あの後の活躍は聞かせて貰ったけど、関係者じゃなくて良かったと心から思ったわ。まだ巫女寮の頭だったら、胃に穴が開いているわ。」
「あ〜、実はですねぇ…」
「えええええっ!帝に謁見!」
「まぁ、あれだけのことを成したのですから、当然と言えば当然じゃないかしら、静さん。」
「そう…そうですね…。絢音さん、冷静ね…。」
「いえ、ビックリはしていますけど、サクヤさんですから。」
「そうよね、サクヤさんだもんね…。」
サクヤ達は簡単な歓待を受け翌朝には帰ることになる。
見送りには酒問屋で静の夫である太兵衛も顔を見せた。
「お初にお目にかかります、静の夫で酒問屋の太兵衛と申します。この度は祝いの品を頂き、ありがとうございます。」
「いえ、静さんとお子さんを大切にしてあげてくださいね。」
「はい。静とははとこだと聞いていましたが、やはりどことなく似た雰囲気ですね。あの有名なサクヤ様にお会いでき光栄です。」
「そうですか?あまり似ているとは言われたことないのですが。」
「怒ると怖いところじゃないかなぁ。」
「伊都ぉ、何か言った?」
「気のせいよ。」
サクヤと静の2人に睨まれ、伊都は口が滑ったと後悔した。
「それでは、元気な子が産まれることを祈っています。産まれたらまた会いにきますね。」
「是非。気を付けて帰ってね。あと、帝に粗相のないようにね。」
「わかってますよ…。」
その日の夕方には里に帰還し、サクヤは寮にも寄らずそのまま帰宅した。
「ただいまぁ。」
「おかえり、サクヤ。お客さんよ。」
「客?」
「サクヤ!私も試験を受けるからな!」
「環。何をしてるんだ?」
「何をって、選抜試験の申し込みは鬼防寮の者に口頭で伝えるか、申し込みの手紙を寮に届けるかだって書いてあったから、申し込みに来たんだ。」
「そうなのか?」
「そうなのかって、サクヤ。貴方頭なのに知らないの?」
「試験の実施までは小平太に一任してたから。申し込み方法までは知らない。」
「ちゃんと申し込んだからな!」
「いや、環。お前巫女になったばかりで、まだ配属も決まってない研修中だろ?」
「だから、試験に受かれば配属に悩まなくてもいいだろう。」
「まぁ、確かにそうだが。でも、実力がなければ容赦なく落とすぞ。」
「わかってる。」
「そうか。なら、小平太に伝えておこう。」
環は言うだけ言うと、さっさと帰って行った。
翌日、寮に行くと小平太と風磨が書類の整理に悲鳴をあげていた。
「なんだ?この書類の山は?」
「なんだ?って、試験の申し込みの手紙の山だよ!口頭での申し込みもとんでもない数になってるぞ!」
「…どのくらいだ?」
「百や二百じゃきかないです!千近くあるっす!」
「申し訳ないが、環も口頭で申し込んできたので、頼む。」
「環?あのサクヤに挑んではコテンパンにされてる小六さんとこの娘か?」
「ああ、昨日うちで待ち構えてた。」
「そうか。だが、これは1次試験でそうとう篩にかけないと、試験を行うだけで大事だぞ。うちの山兵から移動の申し込みも多いから、弥九郎さんから厳しくしろと厳命されているしな。あと、平八郎さんも申し込んできたんだけど…。」
「却下だ。書類で落とせ。」
「…だよな。」
小平太は平八郎の物と思われる申し込みの手紙をサクヤに渡す。
「自分で断ってくれ。俺達はご覧の通り忙しい。」
「…わかった。すまんな小平太。」
「いや、これもお役目だ。サクヤはもっと俺達に頼ってくれていい。ただ、人員を増やすのは急務だと痛感したよ。」
「そうか…。じゃあ、突っ返してくる。あと、1次試験だが…」
サクヤは槍寮にやってくると、平八郎を見つけて申し込みの手紙を突っ返した。
「頭としての自覚はないのか?これは受理できん。」
「なぜだ!経験や年齢は不問と書いてあったであろう?」
「鬼防寮のせいで槍寮が崩壊しては意味がないだろう。平八郎が抜けたら誰が頭を務めるのだ?」
「宗次郎がおる。あ奴がおれば何の問題もない。なんせ、実質ここの指揮をとっているのは宗次郎だ。」
「威張って言うな阿呆。」
「では、もし俺がサクヤから一本とれたら、試験を受けさせてくれるか?」
「…私から一本とれるなら、その段階で合格だ。最終試験はそのつもりだったからな。」
「…待て、それでは合格者などおらぬだろう?」
「とれずとも、実力が分かればよい。それに一本とるのは武術とは限らん。」
「ふっ、なるほどな。」
平八郎は木槍を2本持ってきて、一本をサクヤに差し出した。
「一本もとれなんだら、試験も其方の事も諦めよう。どうだ?」
「…いいだろう。」
サクヤと平八郎は静に槍を構えて向き合う。
(考えてみれば、槍でまともに勝負をするの初めてかもしれない。腕は確かだ。そして、槍寮一の剛腕。油断はできない…。)
因みに、剣術であればサクヤの方が強い。だが、槍となると話は別だ。槍を持たせると平八郎は天下無双かと思うほどの強さだ。
2人は向き合ったまま動かない。そもそも槍を使い慣れていないサクヤは、槍の間合いでの戦い自体に不馴れだ。
「参る!」
平八郎が一気に間合いを詰めて突きを連発してきた。
サクヤは軽快に躱したり、槍の軌道をそらしたりと、まだ小手先であろう平八郎の攻めを観察する。
平八郎の槍は、その剛腕が売りでありながら、無理な突撃はしない。まずは相手の出方を伺いながら、徐々に攻め手を変えていく。
(やはり強い。槍だとこちらが不利か…。ならば!)
サクヤは槍を平八郎に投げつけた。そして投げた槍の後を追うように間合いを詰める。
投げられた槍を槍で払った平八郎に、結界の小太刀二刀流が襲う。
「なっ!?」
平八郎は旋回しながら小太刀を受けると、後方に跳んで間合いを取り直す。
「結界は狡いではないか!」
「使ってはいけないとは聞いておらん。」
「ぐっ…ならば!」
平八郎は祝詞をあげると、サクヤを囲う様に分裂した。
「『分身の御力』か。」
平八郎の御力は、自身の分身を7体作り出して、其々異なった動きをすることができる。
「やっかいな…。」
分身を含め8人の平八郎が、一斉にサクヤに槍を繰り出す。
サクヤは実態型結界で自身を囲うと、8人の平八郎ははじき返されよろけた。
すかさずサクヤは結界を解きつつ、一体の平八郎に突っ込む。
一体を十字に斬りつけた後、直ぐに隣のもう一体に斬りかかる。背を向けられた形になった側の平八郎が、サクヤに突きを放つが、サクヤは高く跳んで突きを放った平八郎の後に着地する。
突きはサクヤではなく、斬りかかろうとした平八郎に直撃し、突きを放った平八郎がたじろいだ隙に、背中から袈裟斬りにした。
残り5体の平八郎が体勢を立て直すして、サクヤを再包囲した。今度は迂闊に飛び込まない。
5人は一斉に上段からサクヤに槍を叩きつける。
だが、5人が上段に構えた瞬間、サクヤは一人に対し一気に間合いを詰めて胴を払った。
「ぐあっ!」
その胴を強かに打たれた平八郎が本体の平八郎だった。
平八郎が膝をつくと、残りの4体は消え失せる。
「なぜわかった?」
「最初から判っていたさ。分身はその力量まで再現できないからな。私が個々の力量や邪気を察知できることを忘れたか?それに…」
「なんだ?」
「8体も一度に動かすのに、お前の頭では無理がある。明らかに個々の動きが一人の時より精彩を欠く。分身しない方が強いと思うが?」
「…なるほどな。」
平八郎は立ち上がるとサクヤに礼をする。
「御力に頼らず、まともに槍で挑まれた方が私には厳しかったろうな。」
「だが、結界術を使われると複数人を相手に戦うのと同じ状況になるからな。他に手がなかったのだ。」
「複数人を相手?」
「そうだ。両手に小太刀を持ち攻撃しながら、防御結界でこちらの攻撃を受ける。しかも防御結界はひとつやふたつではないのだ。これでは複数人を相手にするのと同じだろう。しかも、結界で拘束されては手も足も出ない。そうなる前に決着をつけたかったのだがな…。」
「平八郎にはまだまだ頭として、精進してもらわなくてはならないことが良く判った。私が結界に頼ることなく其方を打ち負かせれるようになるまではな。」
「わかった。転属は諦めよう。」
「…待て、私のことも諦めるのではなかったのか?」
「それは御力なしの勝負での話だ。」
「そんなことは言ってなかっただろう!」
「そうだったか?俺は阿呆だからよく忘れるのだ。ということで、まだまだ諦めんぞ!」
「無駄な足掻きを…。そのうち封印してくれるわ。」
「がははは!そうなれば俺は神にしてもらえるのか?」
「そんなわけがあるか、阿呆め。」




