転移と消滅の御力
久々の1日2話投稿です
梟社に着いたサクヤ達は宮司に来訪を告げた後、千尋に会うために調薬部屋に顔を出した。
「サクヤお姉様!」
「さ、サクヤ様!」
「お久しぶりです。2人共お元気そうですね。」
突然の来訪に驚いた千尋と鶴だったが、話はすぐに噂の真相についての聴取に変わる。
「咲良矢の里に続いて、また神様を生んだと聞きましたが…。」
「咲良矢の里は誤解ですが…今回はそう言われても仕方ありませんね…。」
「やはり本当だったのですね。しかも相手は鬼だったと聞きましたが。」
「里人と共存している変わった鬼だったのです。里に貢献したいとのことで、そこのヌシ様になることを提案し、鬼…兵六童子殿が受け入れたのでそうなりました。」
「受け入れたからといって出来ることではないと思うのですが…。」
「力量の問題がありましたので、千代と2人がかりです。ですので、今回は千代も共犯です!」
無駄に千代の関与を強調するが、2人にとっては今更である。
「ところで、沃の国からの帰りだと思うのですが、何故こちらに?どう考えても途中に立ち寄る位置関係ではないと思うのですが?」
「それはですね、コチラのヌシ様、チノハ様に伺いたいことがあるからなのです。」
「そうでしたか。わかりました、ヌシ様にお伝えしておきます。今日はもう遅いので、明日でも宜しいですか?」
「勿論です。」
部屋を出ようとしたサクヤに、千尋が近づき、囁くように尋ねた。
「それともうひとつ、サクヤ様のもとに叢の手の者が訪れませんでしたか?」
「…何故それを千尋殿が?」
「その、それが…。このことについては明日御山に登るときでも良いですか?」
「判りました。では明日。」
翌朝、千尋とサクヤ、龍子の3人は御山の登山口で待ち合わせ、一緒に登り始めた。
「昨日の話ですが…わたくし、出身が雲の国で、叢家は雲の国の国守の分家にあたる家なのです。そのこともあり、私が国を出てこちらに嫁ぐとき、ここで得た情報を叢に渡すよう指示を受けたのです。
わたくしは、サクヤ様の御力に驚いたあまり、つい興奮してその話を叢に漏らしてしまったのです。
後日、叢の手の者がサクヤ様について直接わたくしに話を聞きに来たのですが、断ったところ殺されそうになり、間一髪でヌシ様に助けて頂いたのです。
ですので、あの男、八郎左衛門が直接サクヤ様のもとへ行ったのではないかと心配していたのです。」
「なるほど、何故叢左大臣が私に関心を持ったのか疑問だったのですが、そういうことでしたか。納得できました。」
「御迷惑をおかけし申し訳ありません。わたくしの不始末で、なんとお詫びしたらよいか…。」
「大丈夫です。なぜそうなったのかはわかりませんが、千代を私と勘違いして返り討ちに合ったようです。今は赤犬社で捕らえてそれなりの待遇を受けているでしょう。」
「そ、それなりの待遇?」
「思わず色々自白したくなるような手厚い待遇です。」
「あっ…」(察し)
「あれ以降は特に何もありませんし、将軍にも情報共有していますので、何かあれば対応してくれるでしょう。」
「しょ、将軍様が…ですか?」
何故か龍子は嫌な顔をして2人から顔を背けたが、2人は気付かなかった。
奥宮の下、磐座の中に入ると、チノハズクヌシが待っていた。
「時間を頂きありがとうございます、チノハ様。」
「なに、我らに取って時間など有り余っとる。そんなことより退屈を凌ぐのに良い話題を提供してくれたことに感謝せんとの。」
「そんなつもりはなかったのですが…。」
「まぁ、あちこちで色々言われたのであろうから、これ以上誂うまいて。して、要件とは何かな?」
「お気遣いありがとうございます。早速ですがお伺いしたいことがありまして、『転移の御力』と『消滅の御力』の違いについてなのですが。」
「ふむ、難しいことを聞くのぉ。」
チノハは羽を組んで首を傾げる。梟の首はよく回りよく曲がるので、サクヤは興味深そうにチノハを見ていた。内心は「羽の中を見てみたい。」だったが、口には出さず我慢する。
「サクヤは転移の御力を使えるようになりたいのかね?」
「使えれば便利でしょうが、そこまでは。どちらかといえば、消滅の御力で鬼を封印できないかと考え、こちらに伺ったのです。」
「なるほど。しかし、消滅の御力と転移の御力、何故共通点があると思ったのだ?」
「銀鰐社の宮司、入鹿が申すには、2点の結界間を転移させているとの話だったので、転移の御力について聞くのが理解を深めることになるかと考えました。」
「理解を深めれば自力で習得できると?」
「かもしれませんし、できないかもしれません。」
「そうか…。」
コノハは少し躊躇いながらも意を決したように話始めた。
「すまぬが、サクヤ以外は席を外してくれんかの?あまり大っぴらに話すことでもない。知られたところで何と言うこともないのだが、理に関わることでもあるのでな。」
「「わかりました。」」
2人は素直に磐座を出ていった。
「さて、何と言えばよいか…
簡単に言ってしまえば、転移とは一度『無の世界』に行って戻ってくる事を言うのだ。」
「『無の世界』ですか?」
「さよう。そこに留まって戻ってきた者などおらぬから確かなことは言えん。じゃが、死してこの世に留まらなかった魂はこの『無の世界』に行くとも言われておる。転移とは、一旦この『無の世界』を経由して、転移先に行くことを言うのだ。」
「なるほど。だから、一瞬ですが何もない暗い空間になるのですね。」
「なんだ、そこまで考えておったのか?」
「はい。初めての時は、瞬時に移動したように感じましたが、2回目以降は暗い空間に置かれたことが分かりました。」
「流石の観察眼じゃな。つまり、『消滅の御力』も『転移の御力』も理屈は同じ。一度異なる世界を経由する、なんと表現すればよいか、空間を歪めるとでも言うべきか…。儂とてよく判らぬ理なのじゃよ。」
「『異なる世界』…『無の世界』へ…。結局のところ、その『異なる世界』へ送る方法が分からないのでどうにもなりませんね。」
「すまぬな。儂とてそこまでは判らん。」
「因みになんですが、もし転移直後に転移先の結界を消した場合、転移されたものは『異なる世界』に取り残されるのでしょうか?」
「…恐ろしいことを考えるのぅ。やったことはないが、そうなる可能性が高い。または元の場所に戻るか…。」
「じゃあ両方の結界を消した場合は…」
「おそらく戻る術をなくすであろうな。」
2人は押し黙ってしまった。
サクヤも自分で言っていて怖いと思ったが、相手が鬼なら封印するより安全な気がした。
「もうひとつだけ宜しいでしょうか?」
「其方の質問はちと怖いが、まぁついでよのぅ。」
チノハはボヤきながらも質問に答えるつもりはあるらしい。
「『転移の御力』で、自分自身を転移させることはできるのですか?」
「当然できる。自身を結界で囲むだけ故な。」
「なるほど…転移できる距離は?」
「自身の神域の内になら容易だが、知らない土地へは無理じゃの。行ったことがある場所でも、あまり遠いと力量がもたん。途中で切れるようなことになれば、それこそ戻ってこれなくなるやもしれぬので、そのような恐ろしいことはせんほうがよかろう。」
「確かにそうですね…。ありがとうございました。」
「やれやれ…。やっと質問は終わりか。ところで、其方はこの御力はいらんのか?」
「授けていただけるのですか?」
「其方なら問題なかろう。どうする?」
「…少し考えさせてください。鬼の討伐に使えそうなので、あると助かるのですが、どんどん自分が人間離れするようで…。」
「何を今更な感じがするがの。まぁ、よい。欲しくなったら尋ねて来るがいい。」
「ありがとうございます。熟考いたします。」
磐座から出ていくサクヤの背を見ながら、チノハズクヌシは心の内で呟く。
(あれほど使い方について確認をとったのだ。いずれ来ることになるじゃろうの。)
「よいお話ができましたか?」
「はい、大変有意義な時間でした。でも、悩みも深くなった気がします。」
「そうですか…。悩みは解決しそうなのですか?」
「そこは…私の覚悟次第ですね。」
サクヤは曖昧に笑うと、山道を降りていった。
下山したサクヤ達は護符寮頭の新右衛門に伊都と蒼衣の短期留学が終了したこと、孫四郎と共に3人と迎えの護衛で帰還したことを知らされる。
「画期的な発見を伊都殿がしてくれたのです!
サクヤ殿!この白紙の護符に結界術の行使直前までを思い浮かべて、紙に御力少し籠めてください。」
「は、はぁ。」
サクヤは言われるままに紙を受け取ると御力を籠めた。
「素晴らしい!成功です!
し、しかし、何とも複雑な文様ですねぇ。これは書き写すのが難しそうだ…。」
「これは?」
「サクヤ殿の結界術を護符の文様にした物です。このようなやり方があることを伊都殿が発見してくれたことにより、護符の研究が一気に飛躍したのです!」
「それは凄いですね。じゃあ、この護符を使えば、例えば龍子さんでも結界術が使えるわけですか?」
「はい、理屈上は。ただし、力量が多く必要なものの場合は、祝詞を書き込んで神々の力をお借りしてもできるかどうかは使い手次第になるかと。」
「そうですか…。じゃあ、早速試してみましょう、龍子さん。」
「はい?!」
サクヤはサクッと護符を作って龍子に渡す。
「これは拘束結界の護符です。護符に御力を籠めれば対象者を拘束できます。試しに新右衛門殿に行使してみますか?」
「マジか…容赦ないな。」
そう言いながらも乗り気で護符を受け取る。
龍子は新右衛門を目で捕らえ護符に御力を籠めた。
「ギャ〜!!!」
「凄いな…これ。」
「成功ですね。帰ったら一人数枚ずつ持てるように量産しましょう。」
「いや、駄目だね。」
「何故ですか?」
「…私はもう倒れる寸前だ…力量の…消費が…はげ…」
「龍子さん!?」
龍子は気を失って倒れた。すかさずサクヤは龍子を支えたが、龍子の意識はない。
龍子が気を失ったので、新右衛門の拘束も解かれた。
「取り敢えずこれを飲ませておきましょう。」
サクヤは懐から力量回復薬を取り出して水と共に飲ませる。
多少噎せたがサクヤは気にしない。
「これで少ししたら目を覚ますでしょう。」
「サクヤ殿は周囲の者に容赦がなさ過ぎます…。」
先程まで拘束されていた新右衛門がボヤいた。
「千代に作って貰えば、もう少し消費量の少ない拘束結界の護符が作れると思います。帰ってからこちらでも研究を続けますので、また意見交換会でも行いましょう。」
「それは願ってもない!是非宜しくお願いします!」
その後も龍子が目を覚ますまで実験を続けたサクヤと新右衛門。
好奇心旺盛な2人は案外気が合うのじゃないかと、目を覚ました龍子は思うのだった。
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