子宝
おはようございます
「別に聞かれて困るような事は話して
いないが、揃いも揃って阿呆だな、お前等。」
休憩所で横になる男達に、サクヤの冷たい言葉が降り注ぐ。
千代は完全に軽蔑の目で男達を見下した。
一方の龍子と安澄はあっけらかんと笑っていたが、けして心象はよくないだろう。
「ま、男なんてこんなものよ、千代さん。」
最終的にとどめを刺したのは安澄の言葉だった。
翌日、サクヤは兵六と小夜の元を訪れた。
「温泉で集客できて、順調に里が発展しているようですね。兵の鍛錬も進んでいるようですし、社としての組織も形になりつつあるようです。」
「其方のおかげだな。俺は退屈でならんが、小夜は忙しくしているようだ。小夜が充実しているのならそれでよい。」
「銀鰐社とも話をつけてきましたので、港湾の権益に手を出さなければ、こちらのやることに文句は言わない(言わせない)ようです。」
「そうか、手間を掛けさせたな。其方はこれからどうする?」
「一旦赤犬社に帰って、鬼防寮の組織拡大を図らねばなりません。一応安澄の他、うちからも千代と左馬介を置いて行きます。あの2人がいれば、大抵の外圧は跳ね返すでしょう。」
「そうか、それなら安心だな。気を付けて帰るがいい。」
「はい。また近い内に伺います。」
隣の社務所では、小夜が次から次へと舞い込む決済事項にてんてこ舞いだ。
「小夜さん、宮司職はいかがですか?」
「憶える事が多くて大変ですが、やること、出来ることがあるのは嬉しいです。」
「始めは巫女の仕事も兼務してもらうつもりでしたが、もうその必要がない、いえ、資格がないと言うべきでしょうか?」
「えっ?!資格がない?」
「あれ?違いましたか?私はてっきり封印の前の夜に…」
「…!?な、なんでわか、えっ?!ええええええ!?」
「だって、小夜さんのお腹に…」
「そ、そうなん…へ?お腹?」
「あれ?気付いてなかった…あ、まぁ、そうかもしれませんね、そんなに日が経ってませんし。」
「そ、そうなのですか!?」
「はい。おめでとうございます。ただ、どのような子が産まれるのか…ちょっとお腹を触ってみてもいいですか?」
「はい!お願いします。」
サクヤは両手で小夜のお腹に触れ、薄っすらと御力を流す。
「邪気や呪詛の類は感じませんね。まだなんとも言えませんが。」
「そうですか…。」
小夜は微笑みながらも、涙が溢れた。
「大丈夫ですか?」
「はい、びっくりしましたが、嬉しさの方が勝ってます。兵六様に何と報告すべきか…恥ずかしいです。」
「きっと兵六様もお喜びになるでしょう。
私では何もできないかもしれませんが、時々経過を見に来ますね。」
「お願いします。」
「と、言うことなので、千代、しっかり見てやってくれ。」
「…。」
「どうした?」
「いえ…なぜサクヤ様は小夜さんのおめでたがわかったのですか?」
「う〜ん、兵六様が一晩の猶予を求めた段階でなんとなくそうなるんじゃないかと思ったのもあるんだけど、1人の人間の中に、違う波長というか、異なる御力を持つ者のがいるんだから、そりゃわかるだろう?」
「だから、そんなのサクヤ様くらいしかわかりませんよ。何より本人が気づく前にサクヤ様が気付くなんて普通じゃないです。」
「そうかぁ?千代もそのうち判るようになると思うんだけど。」
「ならないと思います。」
サクヤは折角鬼防寮の面子が揃ったので、今後の話をしようとしたが、話があらぬ方向に逸れていた。
「話を戻すけど、私達は明日帰還に向けて出発する。ただし、千代と左馬はここに残って山兵を鍛えて社としての体勢整備に協力してあげてくれ。」
「やはり、私1人でいいと思います。こんな変態と一緒に残るのは不安しかありません。」
「千代!お前、そんな言い方。誰がお前みたいなよ…」
「よ…なに?」
「いや、なんでもない。」
(左馬の方が冷静なようだ。余計な事を言わなかったのは賢明な判断だな。)
「千代、やはりお前一人では不安だ。左馬も残す。」
「この2人でいいのか?俺が残ってもいいが。」
「いや、小平太には帰ってからやってもらうことがある。」
「そうか…。」
「それから、私は梟社に寄って帰ることにしたから、静さんへのお祝いを小平太にお願いしたい。」
「俺でいいなら構わないが…。」
「私は後日改めて行くから、宜しく言っておいてくれ。」
「サクヤの同行者は?」
「龍子さんにお願いします。」
「了解した。」
「安澄もまだ残るようだし、暫くは2人に任せる。私も一旦帰るが小夜さんが安定した頃には様子を見にくる。その時に兵の入れ替えがいるのか、この里の者で十分か確認しよう。」
「わかりました。」
「じゃあ千代と左馬以外は一旦白狐社までは一緒で、そこから私と龍子さんは別行動ということで宜しく頼む。」
「「了解。」」
翌日、角田の里を出発したサクヤ達は、甲の津から並の津、そこから川船で川を遡上する。途中何泊かするが、ほぼ船旅となるので労力は少ない。
結果的には3泊で白狐の里に到着することができた。
「ご忠告どおり、銀鰐社の宮司は癖が強かったです。」
「いや、そんなことより、鬼守の里の方が驚きだよ。」
ハクコナリヌシはサクヤを呆れ顔で見ながら、サクヤの気になった事柄に首を傾げた。
「兵六様は良い鬼でした。私の提案にも素直に従っていただけましたし、今も里の為に働いておられます。」
「そうか…神産みのサクヤの手にかかれば、あのような出来事も簡単な報告で済む話なんだね。」
「ただ、宮司となった小夜殿が兵六様の子を身籠っておられるので、産まれる子の経過をよく見ておかなければなりません。」
「ちょっと待て!それは初耳だよ。人の娘が鬼の子を孕んだのか?」
「まぁ、そうなるだろうなぁとは思ったのですが。小夜殿も喜んでおられましたし、余り不安を煽ることも言えませんでしたから。」
「鬼と人の子か…。確かに経過に注意せねばならぬだろうが…。」
「鬼の子でもありますが、今では神の子ですからね。」
「はぁ~、本当に君は行く先々で話題を作ってくれるな。次は何をやらかすつもりかな?」
「そんなつもりはないのですけど…。」
サクヤはハクコナリヌシに詰られるのに辟易して、早々に暇乞いして山を下りた。




