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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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消滅の御力

おはようございます

 歓待の宴席は海の幸で埋め尽くされている。


 鯛の姿づくり、鮑のたれ焼き、栄螺と鱸、烏賊の刺身等々、内陸にある瑞の国ではまずお目にかかれない献立だった。


 鬼防寮の面々は豪華な料理に感嘆の声をあげたり、今にも涎をたらしそうな顔だったが、サクヤだけは仏頂面で黙ったまま席に着いた。


 菊太郎による歓迎の挨拶は、いつもの軽い調子で笑いを誘ったが、サクヤはクスりともすることなく、黙ったままである。

 菊太郎はチラチラと様子を伺いながら喋っていたが、サクヤの反応を得ることを諦めたように乾杯の挨拶を宮司に任せた。


 宮司である入鹿も、サクヤの様子を気にしていたが、引き攣った笑顔のまま乾杯の挨拶を敢行した。


 その後もサクヤは酌を断り一人で黙々と飲み食いし、周囲と一線を画したまま一言も発さなかった。


「サクヤ様、最後に挨拶くらいはしておかないと…うっ!」


 サクヤに睨まれた千代は、それ以上何も言えなくなった。


「サクヤ殿、いかがでしょう?ご要望があれば伺いますが?」


 菊三郎が何とかサクヤを宥めようと声をかけた。


「要望か…、では『消滅の御力』を見せていただきたい。」


「『消滅の御力』ですか…、それは宮司に聞いてみませんと…。」


「サクヤ様、このような宴席に呪物を持ち込むなど…ひっ!」


「す、すぐに聞いてきます!」


 菊三郎は転がるように入鹿のそばに行き、耳打ちをした。入鹿は得体のしれない物でも見るようにサクヤを見ていたが、必死に説得する菊三郎に宥められて、仕方なさそうに首を縦に振った。


 部屋を出て行った菊三郎は、暫くして二つの木箱を持って帰ってきた。サクヤが祠で封印した呪物と、並の津の露店で引き取った天目茶碗である。


 宴席に突然登場した呪物に座は静まりかえる。



「では宮司、お願いします。」


 嫌そうな顔をしながらも、入鹿はひとつ咳ばらいをしてから祝詞をあげた。


「沃の海に座す畏き黒銀大主神よ、この禍々しき呪物を減す御神力を我に与えたまえ。」


 入鹿は両手を上げて御力を溜め込むと、そのまま両手を呪物に向け叫んだ。


「減!」


 入鹿が叫ぶと同時に、祠から持ち帰った呪物は、包まれた布ごと破裂したかのように見えたが、跡形なく消え去った。


「ほう、これが『消滅の御力』か。結界の圧縮とは違うようだが、どのような理屈なのだろうか?」


 少し疲れた顔の入鹿だったが、サクヤの問いに素直に答えた。


「消滅と言ってはいるが、正確にはヌシ様の座す元に送っていると言われている。」


「それは、結界術というより『転移の御力』、所謂『神隠し』ではないのか?」


「そうとも言うな。」


「なるほど…。それは血の記憶に頼らなければ難しそうだ。結界術の一部かと考えていたのだが…。」


「結界術に変わりはない。転移先と転移させる物の2ヵ所に結界を作り、その間を転移させているから、結界術でもあるんや。」


「なるほど…。

 それはヌシ様の元じゃなくても、任意の場所に転移させることができるのか?」


「それじゃ消滅にならんやろ。やったこともないわ。」


「そうか、では物ではなく人も転移させれるか?」


「何考えとるんや、あんた…。」

「いや、例えばだが、封印されているヌシ様の元に鬼を送り込むことが出来れば、あるいは、ヌシ様の元でなくても、封印した空間に送り込めればと考えたのだがな。」

「あんた、恐ろしいことを考えるなぁ。だが、理屈上は不可能やない。せやけど、人や鬼ほどの大きさのものともなると、相当力量が必要になるで。」

「だが、研究の余地はありそうだな。」


 サクヤが入鹿を見てニヤリと笑う。入鹿は「ひっ!」と声をあげ、思わず隣にいた菊太郎の腕にしがみついた。


「あんた、まさかそれを私にやらせようとか言うんやないやろな!」

「血の記憶による御力となると、私に出来るかどうか判らんからな。試してはみるが、無理なら入鹿殿にやってもらうしかない。安心しろ、力量の増やし方は教えてやる。少し大変かもしれんが、鬼くらいの大きさを転移させるなら半年も頑張れば何とかなるんじゃないか?」


「うわぁ…。」


 千代が思わず漏らした声に、入鹿は自身の置かれる状況を理解したのか、みるみる顔色が悪くなる。


「無理無理無理無理!そんなん無理やって!人には出来ることと出来んことがある。これは出来んことや!」

「そんなことはない、なぁ、千代。」


「は、はい…。」


「嘘つけぇ!顔引き攣っとるやんけ!」

「できなくはないと思います。力量を増やすこと自体はそれほど難しくはないです。ただ、サクヤ様が『消滅の御力』を習得できないとなると…。」


「いやいやいや!あんたら、私を霊徳童子の討伐に参加させようとしとるやろ!そんなん無理に決まっとるわ!命がいくつあっても足るかいな!」

「安心しろ、入鹿殿は罠を張ってくれればいい。まだ私の中の構想段階だが、私達がそこに誘導するから、発動の時期だけ合わせてくれれば大丈夫なはずだ。」

「はずってなんやねん!ほんまはあんたらが鬼やろ!なんで御神域に入ってこれんねん!」


「失敬な。最近はやっと妖呼ばわりされなくなったと思ったら、今度は鬼呼ばわりする輩が増えた。解せぬ。」

「何が「解せぬ」や!その輩はまっとうや!菊太郎!!塩もってこい!」

「宮司、諦めなはれ。」

「お前!裏切ったな!」


 入鹿は菊太郎の襟を掴んで揺さぶる。


「もとはと言えば、宮司がサクヤさん怒らせたんが悪いんでしょ。もうこうなったらサクヤさんが『消滅の御力』を習得するのをヌシ様に祈るしかありませんな。」

「菊太郎の阿呆〜!!」





「賑やかな宴席だったな、別の意味で・・。」


 小平太は泣きながら退室した宮司を思い出しながら呆れ顔でサクヤを見た。


「あの宮司、気の毒だったな、流石に…。」

「あぁ、あれは鬼と言われても仕方ないと思う。」


 鬼防寮の面々が口々に入鹿への同情を口にするので、サクヤは不貞腐れる。


「最初に喧嘩を売ってきたのはあいつだ。こういうのを身から出た錆というんだ。」

「サクヤ様は最早神に準する御方ですから、神罰が下ったと言うべきでしょう。」

「『触らぬサクヤに祟りなし』だな。」


「しかし、サクヤ。『消滅の御力』は習得できそうなのか?」


 サクヤは少し考えてみたが、難しい顔で首を捻った。


「いや、難しいだろうな。2ヵ所に結界を張ることは可能だろう。だが、自分で体験したこともあるんだが。『転移の御力』はどういう理屈で行われているのか皆目見当もつかない。頭で像が結ばないんだ。」

「サクヤ様はもっと感覚で御力を使っているのだと思いましたが、そうではないのですね。」

「いや。まぁ感覚に頼ることは多いと思うんだけど、千代は転移の感覚ってわかるか?」


「…わかりませんね。」

「だろう?入鹿の御力は結界術と転移術を掛け合わせたものだから、どちらかだけでは成立しないんだと思う。

 やはり血の記憶は常識を凌駕するんだな。」

「俺からみればサクヤの方がよっぽど常識を凌駕していると思うけどな。」

「私は素直なだけで常識人だ。

 って、なんで皆そんな目で見るんだ!」

「常識人は神様なんか産まねぇよ。」


 サクヤはぐうの音も出なかった。


 


 サクヤは客間の布団に横になり、天井を見上げながら考える。


(結界間の移動かぁ。何で瞬時に移動できるんだろう?

 いや、よく考えると瞬間だっただろうか?私は3回経験したけど、ふわっと体が軽くなって、真っ暗な空間にちよっとだけいてから移動したような気がする。気が動転していた1回目は瞬間移動したような感覚だったけど、2回目以降は少し間があった気がする。

 あっ、それこそチノハ様に相談してみてもいいかもしれない。帰りに寄り道してみるか?)


 サクヤは考え事をしながら、無意識に二つの結界を作りだして大きくしたり圧縮したりしていたが、両隣で横になっていた千代と龍子は気が気でなかった。


(でも、ただ聞くだけじゃ脳がないか。色々試してみないとね。)


 サクヤは枕元に置いていた湯呑の水を飲み干すと、湯呑を結界で囲う。 そして、もう1つ結界を作りだすと、頭の中で転移をイメージしてみた。


(う〜ん、どう考えても、空間を超えて移動させるなんて想像もつかないんだよね。どうしたものか?)


 サクヤは結界を可能な限り圧縮してみたが、中の湯呑が粉々になっただけで、消滅には至らない。


(これが生き物なら実体を奪うほどの圧壊になるんだけど、消滅ではないんだよね。そういえば、妖魔ってなんで死んだら塵になって消えるんだろう?あの塵はどこにいくの?)


「サクヤ様、もうやめてください!!怖くておちおち寝れません。」

「あ…。ごめん。」

「勘弁してくれ。いつその粉々になった湯呑がいつ降りかかるのかと気が休まらん。というか、なんでそんな無意識に御力を操れるんだ。」

「無意識ってことはないんですけど、色々考え事はしていました。」

「なんだよ、考え事って?」

「え〜っと、妖魔ってなんで死んだら塵になって消えるんでしょう?」

「なんでそんなことと、結界が結びつくのかわからんが…。

 そういえばうちの師匠は、「妖魔も鬼も長く生き過ぎていて、実体は本来寿命を迎えているから、死んだ瞬間に実体を維持できなくなって塵になる」って言っていたな。」


「なるほど。それは面白い話ですね。では魂はどうなるのでしょう?神様の場合、実体を失っても魂だけ依り代に入れたり、封印したりできますよね?」

「サクヤが兵六にしたようにか。そういう意味では力の強い鬼も同じなんだろうな。妖や妖魔は神様になりきれていないから、魂をとどめることができないんじゃないか?」

「そういえば、桜の精霊も消えそうなところをサクヤ様に救われましたものね。 

 でも、それと転移の何が関係するのですか?」

「いや、一度実体を奪っておいて、魂のままもう一つの結界に移動させたうえで実体を回復すれば、2結界間の移動ができないかと考えたんだが、無の状態から実体を作り出すというのがなぁ。」

「ちょっと待てサクヤ。実体を奪うって、実体を何もない状態には出来ないだろう?」

「そこが妖と鬼の謎なんです。これらは塵となって消えるんですよ。でも、この湯呑は粉々になるだけです。だから、なんで塵になって消えるのか考えていたんです。」


「そういうことかぁ。やっとその斜め上の思考が理解できたよ。」

「確かに、サクヤ様の言っていることは理屈に適っています。実体のあるものを無には出来ませんし、その逆もしかりです。」


「だが、実際転移は起きる。何かコツというか理がわかれば、できるんじゃないかと思うんだが。」


「あれ?龍子さん、いつの間にか寝てますね。」

「私たちも寝ることにしよう。こんなとこ、ちょっとでも早く出ていきたいからな。明日は早々に帰るぞ。」

「入鹿さんへの指導はよいので?」

「あんなこと伝えるのに時間はかからんだろう。千代に任せる。精々脅しておけ。サクッと伝えてさっさと立ち去るぞ。」

「わかりました。」


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