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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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銀鰐津社

おはようございます

 予定通り宿を出発した一行は、陸路銀鰐の里へ向う。

 龍子はサクヤのせいで少し寝不足だ。


 並の津と銀鰐の里は境界を接していることもあり、陸路でも野盗の類に絡まれる心配はなかった。


 昼過ぎには銀鰐の里に到着すると、そこには菊三郎が待っていた。


「ようこそお越しくださいました。角田の里では大層なご活躍だったそうで。」

「どこか棘のある言い方ですね。何か不都合がありましたか?」

「いやいや、まぁその話は宮司のおらはるところでやりましょう。」



 菊三郎の案内で渡船に乗り、社のある島へ渡る。


「うわぁ、本当に綺麗だなぁ。」

「独特の雰囲気がありますね。厳かというか清らかというか…。」

「私もこの島に渡るのは初めてだが、鳥居と社殿が水面に映されて、青い空と青い海に挟まれているようで…、何とも表現し難い美しさだな。」

「島と社がどんなに美しくても、島に住む人間の心根が美しいとは限らんがな。」

「さ、サクヤ!おまっ、」

「ハハハ、確かに。景観とは裏腹に、腹の中は黒い奴もいてますわ。」

「妖魔に喰われるぞ。」

「生憎と、この島に妖魔はいてません。」

「ちっ…。」


((聞こえるように舌打ちするなよ!))


「小平太さんが昨夜言っていた毒の話は本当かもしれませんね…。」

「だろ…。」

「千代、何か言ったか?」

「いえ!何も。」



 船が島に接岸すると、桟橋に迎えが来ていた。


「菊太郎殿?」

「ようこそおいでまし。ささ、宮司がお待ちですわ。」

「あまり歓迎されてないようだが?」

「そなことおましまへん。いっぱい話したいことがあるようでっせ。」

「話したいことねぇ…。」


 菊太郎と菊三郎が先導し、社殿の脇にある社務所に案内される。応接間の上座に鎮座していたのは歳の頃20〜30代と思われる女性だった。


「よく参られました。宮司の入鹿です。」

「赤犬社から参りました、乾のサクヤです。」

「フフ、『神産みのサクヤ』方がわかりやすくてよ。」

「余りその二つ名を気に入っておりませんので。」

「あら?名誉な二つ名でしょうに。今回の訪問の目的は?ただの参拝かしら?」

「はい、ただの参拝です。」

「…そんなことがあるかしら?よそのシマで社まで造って。」

「国府も社も放置していた鬼の処遇として、他に解決方法がなかっただけです。我々は祠の御神域の欠損を補修に来ただけですし、それもこちらの社で対応していただけたら、我々が来る必要もなかったのですが?」


 サクヤと入鹿が笑顔で睨み合う。応接間には冷たい空気が張り詰めており、一行はサクヤの低温結界の中に閉じ込められた気分だった。


「なるほど…あくまで成り行きであり、シマを荒らす意図はなかったと…。」

「そもそも、一国に一社という決まりもないでしょう?自社の『シマ』だと言い張るなら、何かしらの解決策を図ればよかったのでは?」

「流石『神産みのサクヤ』様ね。自身の力を誇示することに長けてらっしゃる。我々にあの鬼を封印する程の力がないことを知った上での発言でしょ?」

「力の誇示などに興味はない。鬼による被害を出さぬ為に役目を果たしているだけだ。」

「でも、あの里は現状で大きな問題はなかったでしょう?」

「あれは兵六童子が信をおく人物がいたから均衡がとれていただけだ。鬼に比して人の寿命は短い。その人物が死んだ後も均衡がとれる保証はないのだから、その人物がいる内に解決しておく方が安全と判断するのが妥当だろう。」

「なるほど、理屈は通ってますね。でも、現段階であの里を実効支配しているのは赤犬社の山兵でしょ?」

「鬼を封印した以上、あの里の防衛力は低下している。信頼関係のある我らの兵を置く方が安心だと里長が判断した結果だ。お前達が言う『シマ』の民との信頼関係を築けていなかったそちらの落度まで責任は持てん。」


 2人の笑顔での睨み合いが続く。どっちも引くつもりがないので、部屋の温度が確実に低下していく。


「これ以上の対話は無駄なようね。」

「ほう、実力行使でもする気か?」

「あの鬼を封印するような連中に喧嘩を売るほど阿呆ちゃうわ。」

「もう喧嘩は売っているだろ?」

「そんな喧嘩腰な言い方せんでも。あんなもん挨拶みたいなもんでしょ?」


 入鹿は砕けた話し方に変え、腹を割って話をしようと目論んでいたが、サクヤにはそのようなやり方が通用しない。


「そんな挨拶聞いたこともないな。」

「これやから都に近いとこの人はやり難いわ。私達はシマを荒らして欲しくないだけ。いつになったら手を引いてくれる?」

「あの里が自立自衛できるようになるまでだな。」

「ちょっと!それじゃあ氏子の奪い合いになるじゃない!」

「そもそも信頼関係がない段階で氏子とは言えんだろう?」

「ここの海はねぇ、私等社が取り仕切って航海の安全を保証しているの。だから、この湾岸に住む民は私等の庇護下にあるから氏子と言っていいわけ!わかる?」

「要は、社とは名ばかりの海賊だということだな。」

「あんたねぇ、言っていいことと悪いことの区別もつかへんわけ?貴方もこの国の現状を見たんやろ?国府の統治が行き届かないから治安が悪化する一方や。それを、陸路は人員の関係もあるから手が回らないけど、海路だけは安全を保証してやってんねん。それの何が悪いんや!」

「で、いくら取っているんだ?」

「そりゃ、安くはないさ!こちらだって慈善事業じゃないんや。安全を維持するのにだって金はかかるやろ。」

「金を取るのが悪いといっているんじゃない。鬼が居座っても何も出来なかった里を自分達のシマだと言い張って自立を邪魔だてするのは勝手が過ぎると言っているんだ。」

「そ、それは…。」

「あの里は海にも面していないから、お前達の言う海の安全の保証の恩恵も受けていない。今まで放置しておいて、今更何を言うか。折角自立自衛するというのなら、支援こそすれ、邪魔をするな!」


 サクヤの一喝に入鹿は黙り込む。



「せやから宮司、口には気を付けなはれってゆぅたやないですか。」

「あんなん、挨拶やないか。」

「所変われば文化も変わるんですから、こちらの常識を押し付けようとしても上手くいきますかいな。」

「じゃあお前なら上手く言いくるめたゆぅうんか?菊太郎。」

「いや、無理やろ。せやから妥協点を見出す他あらへんってゆぅたでしょ?」

「妥協点ってなんや?」

「角田の里からは手ぇ引くほかあらしまへんって。あと、内陸のことは妥協せんと、うちらかて手ぇ回らんて、自分でゆぅたやないですか。」

「ほなどうすんねん?」

「海のことはうちが、陸のことは国府と角田に任せてしまいなはれ。龍神社と櫛の国とのいざこざもあるんやから、面倒事引き受ける必要もおまへんでしょ?」

「せやったら川はどないすんねん?」 

「川は川並衆のシマでしょう?元々うちのシマやあらしまへん。欲張り過ぎや宮司。」

「折角鬼の始末がついたのに、何の旨味もあらへんやんか!」

「元々うちの手柄じゃおまへんでしょ。せこいことしなはんな。」

「せやったらこの人らどうすんねん?」

「自分で始末つけてくださいよ。宮司が喧嘩売ったんやから。」


 入鹿はサクヤに睨みつけられバツの悪そうな顔をする。


「そんなに怖い顔しなはんなや。折角の美人が台無しになるで?」

「…。」

「菊太郎!あかんわこの人!洒落が通じへん。」

「知りまへんがな。」


 そんな2人を横目に菊三郎がサクヤをとりなす。


「ご不快な思いをさせてしもうて申し訳ないです。角田の里についてはそちらの思うようにして頂いて構いません。当社としても可能な限り協力させて頂くということで堪忍してもらえませんか?」

 

 サクヤは大きく息をつくと、仕方ないといった顔で頷いた。


「判った。角田の里に不利益にならないならこちらとしてはこれ以上言うことはない。」

「助かります、サクヤさん。お詫びと言っては何ですが、今夜は当社で歓待を受けて…ひっ!」


 サクヤの鋭い視線が菊三郎を捉える。


「いや、結構。」

「サクヤ様、今後の連携も模索しなければなりません。ここはひとつ穏便に…ヒッ!」

「サクヤ!大人げない!お前は乾の名で行動してるんだろ、程々にしておけ。」

「ちっ…程々ジジイめ…。」

「ぐっ、お前、またその…。」

「わかった。歓待は兎も角、今夜は世話になろう。」





「おい!話が違うやん!あの兵六童子を宥めすかして封印したいうから、どんだけ慈悲深い娘かと思ぉたら、あいつの方が鬼やんけ!」

「せやから、言葉には気ぃつけぇゆぅたでしょうよ。」

「結局、何も得るもんなかったやん!」

「そら、宮司が初手から間違えたからやろ。」

「なんでこっちが妥協せなあかんのよ。」

「そりゃ、相手が『神産みのサクヤ』やからなぁ。勝てる要素が見当たらんわ。元々あっちの手柄を横取りしようとしたんが甘かっただけですやん。」

「…。」





 サクヤ達は菊三郎に社を案内してもらっていた。

 主な目的はサクヤの頭を冷やすためである。


「どうですか?綺麗な社でしょ?」

「住んでる人間の心根は見るに耐えれんがな。」

「あれはこのあたりの挨拶だと思って聞き流して下さいよ。」

「あれほど性根の腐った宮司は、丹の国の日輪宮以来だ。あれでよく宮司が務まるな。ヌシ様は何も言わないかのか?」

「ここの宮司は祟神で、海の底に封印されてますからな。」

「あ、なるほど。だがら本殿がないのですか。」

「はい。ここのヌシ様はこの海で暴れ回ったあげく、日輪大神とオオシロタタケヌシ様が封印されたと伝えられてます。」

「オオシロタタケヌシ?」

「この社のヌシ様はクロガネノオオフカヌシ様と仰るんやけど、あまりの暴れっぷりに手を焼いた日輪大神が封印されようとしはった。せやけど、一柱では手に負えんかった。そこに、オオシロタタケヌシ様が助太刀なさって、何とか封印に成功されたそうで。で、ここの宮司は、日輪大社の分家が宮司を務めるようになったと伝えられているんです。」

「日輪大社の分家なら、結界術が使えるんですか?」

「使えるのは『消滅の御力』です。結界術の一種ではあるんですが、そこまで強い御力ではありません。」

「どのような御力なのですか?」

「こないだ私や兄が持ち帰った呪物があるでしょ?あれを跡形なく消滅するんです。」

「消滅?封印するのではないのですか?」

「はい。文字通り消滅します。」

「それは凄いですね…。」

「ですが、消滅できるのは呪物程度でして、鬼を消滅するほどの力はありません。」

「それは力量が足らないだけで、御力としてできないわけではないだろう?」

「そうかもしれません。サクヤさんくらいあればいけるかもしれませんなぁ。」

「もうひとつ気になるのは、オオシロタタケヌシ様だ。どのような神様なのだ?」

「言い伝えでは、東国出身の神様で、拠点を転々とし、今でも放浪されていると聞いてます。仮初の姿は白い狸だそうで、結界術を得意とされているようです。」

「白い狸…結界術…。」

「サクヤ様!それって!」

「ああ、そうだな。おそらく間違いないだろう。」

「オオシロタタケヌシ様を御存知なので?」

「私と千代に結界術を授けて下さったヌシ様だ。だが、それほどの結界術の使い手なら、御自分で御神域の補修など容易かったはずだが…。」

「もしかして、ただの口実だったのでは?」

「案外そうかもしれないな…。」


因みにですが、前回の話に出て来た◯ジュラの仮面等は、本編に一切関わりません。あくまで冗談として読み流してください。

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