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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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呪物の◯◯

 サクヤは船の舳先に座り、一人思いを巡らせていた。


(一旦角田の里に立ち寄って帰るなら、湖の国を抜けた方が早いけど、白孤の里に龍馬達を預けているしなぁ。 折角だから蒼士郎を里帰りさせ…いや蒼衣殿がいないのに一人里帰りするとも思えんしなぁ。それに、誰か角田の里に残しておきたい気もするし。誰がいいだろう?)


 

 サクヤ達を乗せた船は、角田の里に近い宿場から少し西に進んだところにある甲の津から、国府の川下にある並の津を結ぶ船で、波の津から陸路で銀鰐の里に向かい、そこからまた船で沖合の銀鰐津社に行く。


 川下りと違い、海の船旅は風向きと潮の流れに左右される為、余裕を持たせて波の津で一泊する予定である。


「サクヤ様、そんなところで考え事をしていては危ないですよ。」


「そうだな。」


 サクヤは立ち上がると船室の方へ向かう。


「千代、帰りの話しだが、角田の里に鬼防寮からも一人残そうと思うが、誰が適任だと思う?」

「適任ですか? サクヤ様の代理として残るのであれば、隊長格の者になると思いますので、私か小平太さんになると思いますが。」

「今回は里の者への色んな指導が含まれるから、それも加味して考えて欲しい。」

「であるなら、後備えも前備えもできる私が適任かと。」


「そうか・・」


 サクヤは立ち止まって考えていたが、突然振り返り千代に告げた。


「よし、じゃあ千代と左馬を残すことにしよう。」

「なぜ左馬介も残すのですか?」

「そんな嫌そうな顔しなくてもいいだろう。他意はない。千代より左馬の方が人当たりがいいし、前備えと後備え両方いる方がいいだろう。」

「人当たり…ですか。」

「千代は何でもできるし頼りにはしているが、人付き合いは不得手だろう。

 その点、左馬は誰とでもすぐに親しくなれるからな。里の者の受けもいいようだし、適任だと思うのだが、どうだ?」

「それは、まぁ。」

「じゃあ、決定だな。」


 千代はまだ不満そうだったが、反論する材料もなかった。


 風向きが良かったのか、潮が良かったのか、船は予定より早く並の津に着いたが、予定通りここで一泊することにした。


 並の津は沃の国最大の交易港で、大陸との貿易で富を築いた豪商達の町だ。

 国が荒れてからは、商人同士連携し、独自の兵を養っている。隣接する銀鰐の里とは交易都市としてライバル関係でもある。

 交易港だけあって異国情緒溢れる街並みは、初めて見た者の目を引いた。サクヤ達もその御多分に漏れなかったが、龍子と馳遊馬、蒼士郎は初めてではないので落ち着いたものである。


 この時ばかりはサクヤも興奮が隠せない。元々好奇心は強い方なので、初めて見る物だらけでキョロキョロしていた。


「そこの美しいお嬢さん、南方の珍しい器があるんだが見てみないかい? お嬢さんは特に美しいからお安くしておくよ。」

「どんな器だ?」

「この天目だよ。どうだい?深い青に虹色の斑紋が美しいでしょう。」

「確かに美しいが・・この器、呪物だぞ。」


「は?呪物」


「あぁ、そんなに強くはないが、この器、日く付きだろう? 前の持ち主に不幸があったりしてないか?」

「なっ?!なぜそれを!」

「やっぱりそうか。あんたもそんなもの売ってたら呪詛をもらうぞ。早いとこ社にでも持って行って封印してもらうんだな。なんなら私がやってもいいが、金は取るぞ。」

「そんなこといって、この天目をタダでせしめようっていうんだろ?」

「そんな処分に困るものなどいらん。封印はしてやるが、処分は自分でしろ。」

「そ、そんなぁ、これが呪物だなんて。いや、きっとでまかせだ!」


「でまかせちゃうぞ。銀鳄津社の宮守である私が保証するわ。」


「何っ!?ほ、本当に呪物なのか!」

「あぁ、間違いない。そこの娘さん言う通りそんなに強い呪詛ではないけどな。でも、その前の持ち主の事、あんたが一番わかっとるやろ? 同じ目に逢いたいんか?」

「わ、わかった!これを引き取ってくれ!金は出す、な?」

「しゃあないなぁ。でも、最初にこの器が呪物やと見抜いたんはこのお嬢さんや、金払うならこのお嬢さんに払いい。封印もしてくれるんやろ?」

「私は封印はしても引き取らないぞ?」

「そこはうちで引き取るわ。どや?金は折半でええか?」

「好きにしろ。」


 サクヤは天目茶碗を木箱に入れて封印した。


「ほぉ、見事なもんや。ほな、こちらで引き取りまひょ。」


 男は商人から金を受け取ると、半分サクヤに寄こした。


「これ、禊祓でなんとかならんかなぁ。」

「無理だな。制作段階で呪詛が籠められている。どのような思いで作ったかは知らんがな。」

「そんなことまでわかるんやな。流石、『神産みのサクヤ』さんや。」

「なんだ、気付いていたのか。」

「そらそうやろ?結界術自体、この辺りじゃ珍しいし。それでいて若くて美しい娘となるとほぼ確実やろ。」

「じゃあ、ここで声をかけたのも偶然ではないということか?」

「いや、それは偶々や。菊三郎から話は聞いていたからな。」

「そうか。じゃあ、その器のことは任せた。」

「ここでうろついとるいうことは、明日には社に?」

「そのつもりだ。」

「ほうか、なら先触れとして伝えておきまひょ。あ、私、菊太郎言います。菊三郎の兄や。よろしくな。」


 菊太郎はそう言うと、人混みを縫うように去って行った。


「なんだか興が醒めたな。」

「とはいえ、安澄にお土産を買って帰らなくちゃいけないんだろ?」

「あっ!静さんへのお祝いも買わないと!」


 サクヤは気を取り直して買い物を再開したが、好奇心という誘惑に負けて、中々決めることができなかった。




「随分な荷物だな。」


 龍子が呆れてサクヤの荷物を見ている。


「いや、ほとんど自分の物じゃないんですよ。お土産をって思っていたら、あの人にもこの人にもってなるじゃないですか。」

「そのお面もかい?」

「あ、これはお店の人に薦められて。

 ◯ジュラの仮面って言うらしいんですけど、これを被ると妖魔や鬼に気付かれなくなるらしいんです!」


 サクヤは早口でまくし立てる。


「それってもしかして…?」

「はい、呪物ですね。でもあまり害はなさそうなんで、つい…買っちゃった。」


 サクヤは「むふぅ」と変な笑顔でお面を撫でる。


「結構禍々しいけどな。まさか、時の◯カリナまで買ったんじゃないだろうね?」

「なんですか、それ?」

「いや、なんでもないよ。もし何処かにハイ◯ルの盾や剣が売っていたら買っておいてくれ。」

「はぁ、どんなものかは知りませんが、あれば買っておきます。」


 

 夕餉の席も、見慣れない料理が並んだ。

 サクヤは「うひょ~」と、奇声を発して何の生き物か判らないまま、何かの足のタレ焼きを頬張る。

 提供されたお酒も飲み慣れない果実酒だったが、やはりサクヤは嬉しそうに飲んでいた。

 赤犬の里育ちの者達は、慣れない味付けと食材に微妙な顔をしていたが、好奇心の塊であるサクヤは、嬉々として料理に手を付けていた。


「なぜサクヤ様は平気なのですか?」

「そう言えばサクヤは昔から、『これは薬の素材だ』って言えば、取り敢えず口に入れていたな。時々痺れたり嘔吐したりしていたけど…。」

「いや、薬といっても色んな種類があるのですから、口にしてはいけない物もあるじゃないですか。」

「だってあいつ、大抵のものは口にすれば薬効が判るって言い張って、片っ端から試してたんだぞ。最近は幼い頃から溜め込んだ毒を、言葉にして吐き出してるんじゃないかと思ってるんだ。」

「そんなわけないじゃないですか!」

「小平太、それ以上つまらない話をするなら、結界で囲うぞ…。」

「冗談に決まっているだろ!でも、半分以上は本当の話じゃないか!」

「そんなことは憶えていないな。だが、お陰で毒への耐性がついたのだから悪い事ばかりじゃないぞ。」

「まったく、何が役に立つかわからんな。」



 

 その夜、お面を見ながらニヤニヤしていたサクヤは、枕元にお面を置いて眠った。そして、悪夢に魘される。


「ゼ◯ダ姫!」


「どうしたんですか? サクヤ様。」

「すまん、ガ◯ンド◯フという鬼に、耳の長い姫君が攫われる夢を見てな…。」

「そうですか…。よくわかりませんが、その禍々しいお面のせいじゃないですか?」

「…そうかもしれないな。少し離しておこう。」


 サクヤはお面を龍子の方へ押しやると、再び眠りについた。



 翌朝、龍子はボ◯ブリンという鬼の集団に襲撃される夢を見たとぼやいていた。


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