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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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兵六

「今日は随分大人数だな。」

「私の旗下の者達ですが、ただの見届けです。」

「確かに殺気は感じんがな。で、一晩考えて妙案は浮かんだのか?」

「妙案とは言い難いですが…一つの提案としてお考え下さい。兵六殿の同意なしにできることではありませんから。」

「聞こう。」


 サクヤは大きく息を吐き、覚悟を決めて口を開いた。


「兵六殿。神になる気はございませんか?」


「はぁ?神?」

「はい。それだけの鬼力というか呪力というか、強い力をお持ちですので、無理な話ではないと思います。ただし、通常の神ではなく、一種の祟神としてこの地に封印されることになります。」

「封印されてどうなる?」

「この里を御神域として、将来に渡ってこの里を守り続けることができます。」

「そのようなこと!兵六様を封印するなんて!」


 小夜は半ば立ち上がって声をあげた。サクヤは小夜を落ち着かせるように、あえてゆっくりと説明する。


「確かに鬼としての実体を失いますし、行動の自由はなくなります。一例ですが、御社を設けて、その中に封印すれば、御姿は仮初となりますがお声は聞けます。」

「小夜はどうなる?」

「小夜さんには、この社の巫女兼宮司になっていただこうかと考えています。」

「そんなこと!私はなんの力もなくて目も見えない役立たずの女です。宮司どころか巫女にだってなれるわけがありません。」

「そうでしょうか?私にはその才があるように見えますが。試してみますか?」

「へっ?」

「そのようなことができるのか?」

「恐らく小夜さんなら…。」

「小夜に巫女としての才があるなら、神になる件も一考しよう。」

「小夜さん、宜しいですか?」

「兵六様がそう言うのでしたら…。」

「では、両手を前に出して下さい。」


 右手に黒曜石を、左手をサクヤが握る。


「あ、先にこれを飲んでおきましょう。力量を回復させる薬です。おそらく小夜さんの力量は空っぽですから。」


 小夜は恐る恐る薬を飲む。


「苦い…。」

「味は改善の余地がありますが、効果は抜群です。ソロソロいいかな。」


 サクヤは再び小夜の左手を握る。


「では行きます。今流し込んだのが御力です。感じますか?」

「はい。なんだか熱のようなものが…。今、胸のあたりに蠢いているというか…。」

「面白い表現ですが、間違っていません。では、その蠢く熱を黒曜石の方に誘導してください。」

「あ…今右手に…少し抵抗を感じます。」

「大丈夫です。一気に流し込みましょう。」

「あっ…入って行きました。」

「では、私は手を離します。身体中に同じような熱があるのがわかりますか?」

「薬を飲んでから全身が熱っぽいです。」

「では、その熱の半分を黒曜石に籠めて下さい。」

「はい…、あっ、できました。」

「上手いですよ。かなり繊細な扱いができるみたいですね。では、次はこれです。」

「これは?」 

「ちょっと失礼します。」


 サクヤは禊石を兵六にあてた。


「今兵六殿の邪気をこの石に籠めました。今度はこの石に御力を流し込んで、邪気を浄気に染め替えてしまいましょう。」

「はい…。」

 

 小夜は言われるがまま禊石を浄化する。


「はい、浄化できましたね。それが禊祓です。小夜さんは素直で難しく考えないから、教えやすいです。」

「ちょっと待って下さい、サクヤ様!サクヤ様は禊祓を授けることができるのですか?!」


 千代が驚愕の顔でサクヤに迫る。

 それはそうだろう。自身は神様に授けて貰った御力なのに、小夜はサクヤに教えられただけでいきなりできてしまったのだ。


「う〜ん、小夜さんは素直だからね。私ができると言えば出来るものだと思っただけでしょう。できたらいいなぁって試してみたけど、案外すんなりできちゃったね。小夜さんは御力の才があるみたいよ。」

「そんなぁ…。」


 千代は愕然として項垂れた。


「小夜さん、歌は得意?」

「子守唄や田植え歌は歌いますが、得意かと言われると、どうでしょう?」

「じゃあ、試しに声に御力を乗せて田植え歌を一節歌ってみてくれる?」

「はぁ…。」


 小夜はまたしても言われるままに田植え歌を歌う。


「ぐっ…、や、止めてくれ…。」

「兵六様!大丈夫ですか?」

「おお〜!凄い凄い。小夜さん、やっぱり才がありますよ!ちゃんと浄化できてます。」

「えっ?!浄化ですか?」

「はい。歌声に御力を乗せると浄化できるようです。私の同期に笛の音に乗せて浄化する者がいたので参考にしたのですが、以外とできるものですね。」

「しかし、兵六様が!」

「だいじない。」

「兵六殿はお強いですから、この程度なんともないはずです。」

「お前、分かっててやっただろ?」

「小夜さんの才を確認するためです。我慢してください。」

「そう言われるとな…。」


 兵六は小夜の為と言われれば文句が言えない。


「これだけできれば十分宮司としてやっていけます。あとはここが御神域になれば、力量も直ぐに満たされます。

 どうでしょう?兵六殿。小夜さんは宮司として務めることができそうですよ。」

「くくく、其方には恐れ入ったわ。まさかこのようなことができるとは。なるほど、神産みのサクヤの二つ名は伊達ではないな。」

「何故その二つ名を…。」

「昨日其方等が帰ったあと、少し調べさせてもらった。すぐにその名を知ることができたぞ。」

「そうでしたか…。」

「これで俺を封印し、神として祀れば、神産みのサクヤの二つ名は確固たるものになるな。」

「ですので気が進まなかったのです。流石に今回は言い逃れができませんから。」

「わかった。其方の提案を受け入れよう。ただ、永く付き合ってきたこの身体だ。今夜一晩別れを惜しませて貰ってもよいか?」

「はい、勿論です。ただ、万一のことがあってはならないので、お酒はお控え下さいね。」

「酷なことを言うな。だが、小夜にもしものことがあってはならぬからな。忠告は守ろう。」

「では、明日また参ります。」

「ああ、宜しく頼む。」




「まさか受け入れて貰えるとはな。」


 宿に戻ったサクヤ達は、夕餉を終えて明日の打ち合わせである。


「私の1番の心配は小夜さんだった。鬼として実体を失い、行動を制限されることに反対すると思ったのだが、それ以上に御力が衝撃だったようだな。」

「そりゃあんなこといきなり出来るようになれば誰でもああなるだろ。」

「あとは…里長にも説明が必要だな。あの里全体が御神域になるのだ。宮司は小夜さんにやってもらうにしても、宮守も必要になる。」

「そうだな。何もない里がいきなり社になるんだ。社の運営に関して何の知識もないんだから、大変だと思うぞ。」

「銀鰐津社に協力を頼めないだろうか?」

「話してみる価値はあるかもしれないが、どういった立場で来るかだな…。逆に里の方がやりにくくなる可能性もあるぞ。」

「確かに…あの、菊三郎という宮守もどこか胡散臭かったしな。」

「最悪、赤犬社から一時的にでも派遣してもらうか…。なんなら私が来てもいいんだが。」

「サクヤは駄目だろう。鬼防寮の頭だし、都に近くないと将軍様との連絡も難しくなるしな。」

「面倒臭い立場になったもんだな。」




 宿の中庭が臨める廊下に座り、少しだけ欠けた月を見ながら酒を飲むサクヤは、明日の封印に思いを馳せる。


(さて、私の力量で足りるものか…。それとも…。)


「風流な楽しみ方をしているじゃないか。」

「龍子さん。」

「やっぱり殿よりそちらの方がいいな。」

「指示する時にはもっと簡略になると思いますよ。」

「それでいいさ。なんなら呼び捨てでいいよ。」


 サクヤは龍子にも酒を勧める。

 龍子は遠慮することもなく、美味そうに盃をあける。


「美味いな。しかし、神産みのサクヤが本当になるんだな。あの御力を与えたのだって普通はとんでもないことなんだろう?」

「そうかもしれませんが、私は自分がそうすべきだと思うことをやっているだけで、結果とか副作用とか、あまり深く考えていないのかもしれません。」

「いいんじゃないか。今回のことだって、皆の幸せを模索した結果なんだろ?誰にも迷惑はかけてないじゃないか。サクヤさんにしか出来ないことなんだから、そういう役どころなんだろう。」

「ヌシ様みたいなことを言われるのですね。」

「ヌシ様?赤犬社のヌシ様もこんなぶっきら棒なのかい?」

「ふふ、そうかもしれません。でも、そう見えてしっかり考えておいでですよ、龍子さんと一緒で。」

「買い被り過ぎさ。さっ、深酒にならないよう早目に休もう。明日は大変なんだろ?」

「はい、そうですね。」



 

 翌朝、里に着いたサクヤは、里長の家を尋ねた。


「そういうことで、里長には苦労をかけることになるかもしれませんが、小夜さんを支えてあげて欲しいのです。社の運営については、我社か銀鰐津社の者でお手伝いさせていただきます。」


 里長は、信じられないといった顔で聞いていたが、里の今後について真剣に考えていたのか、暫く沈黙した。


「わかりました。確かに、里の者全てが兵六様を受け入れていたわけではありません。今回提案頂いた案の方が、皆を納得させることができる気がします。

 社の運営については、銀鰐津社よりは赤犬社に協力していただきたい。どうせなら縁のある社にお願いする方が、我々も安心できます。」

「ありがとうございます。可能な限りお手伝いさせていただきます。御神域になれば鬼は入り込めなくなりますが、野盗や野武士はそうはいきません。山兵が組織できるまでは我々で対処いたしましょう。」

「宮司と藤馬さんが、また頭を抱えるな。」

「可能な限り鬼防寮で対応しよう。我々が1番機動力もあるしな。」

「風磨だけじゃ足りないな。もう少し人員を増やしてもらわないと。」

「それは帰ってから考えよう。」



 里長の家を出て、兵六の小屋に向う。


「おはようございます。」

「おう、来たか。宜しく頼むぞ。」

「はい。お任せ下さい。」

「サクヤ様、兵六様を宜しくお願いします。」

「大丈夫ですよ、小夜さん。小夜さんもこれから大変でしょうが、兵六殿を宜しくお願いしますね。」

「はい!」


「では、始めます。先ずは私が兵六殿を結界で包囲し、圧縮して実体を滅ぼします。抵抗されると私の力量では大変ですので、素直に受け入れて下さい。その間、小夜さんは御力を籠めて子守唄でも歌っていただけますか?」

「でも、私が歌うと兵六様がお苦しみになるのでは…?」

「はい。ですが、結界でも浄化しながら圧縮しますので、苦しむ時間を短くした方がよいのです。それに、私にやられると思うより、小夜さんの歌の方が兵六殿も良いのではないでしょうか?」

「ふっ、そうだな。小夜、頼む。」

「…わかりました。」

「実体が消滅したら、直ちに再度結界で包囲して封印します。封印は千代、お前がやってくれ。」

「私ですか!?私では力量が…。」

「わかっている。だから、私が千代の結界に御力を加える。」

「そのようなことができるのですか?」

「判らないが、御神域の補修と大差ないだろう。逆に私の結界に千代が御力を加えるとなると、千代では私の結界に介入するのは難しいのではないか?」

「確かにそうですね…。」

「範囲はこの小屋の中全体だ。ただし、小屋自体は結界に織り込むな。万一小屋が火事などで損傷したとき、結界まで欠けては困るからな。」

「わかりました。」

「よし。始めよう。」





「お、終わった…」


 千代がその場にへたりこんだ。


「お疲れ様、よくやった。」


 サクヤは千代の頭を撫でてやる。


「やはり、私の力量ではまったく足りませんでした…。」

「当たり前だ。私一人でも無理だ。途中で薬を飲んでやっとといったところだったからな。」

「封印はできましたが、御神域はどうされるので?」

「取り敢えずは形だけ作っておけばいい。あとはここの『ヌシ様』が御自分にあった大きさにしてくれるさ。」

「なるほど…。」


 そう言ってサクヤは大地に手を当て結界を張った。


「これでいいだろう。ほら、もう拡大を始めているぞ。」

「凄い…。あんなのに抵抗されていたら…。」

「はは、絶対無理だな。」

「ですね…。」



 小夜は小屋の前に座り込んで俯いていた。


「兵六様…。」


「なんだ?今は神域の拡大で忙しいのだが。」

「ひょ、兵六様!」

「サクヤが言っておっただろう。話はできると。」

「このように普通に…。神様になられるので、もっと御告げのようなものになるのかと思っておりました。」

「俺は封印されて実体がないから、姿を見せたり、触れ合うことはできないが、会話なら問題はない。この小屋を本殿として隣接するように社務所でも造れば、これまでと変わらず何時でも話はできよう。」

「そうですね…。でも、里にはお金がありませんから、是非ご利益のある神様になって下さいまし。」

「ガハハハ!そうだな、力は有り余っておるが、ご利益など与えたことがないからどうしたものかな?」

「そのあたりもサクヤ様に相談してみましょう。きっと妙案を考えてくださるでしょう。」

「そうだな。俺は神としてまだまだひよっこだからな。最も身近で詳しいのはヤツしかおらぬからな。軌道に乗るまでしっかり面倒をみてもらおう。神を産んだ責任者としてな。」


 そんな会話を少し離れたところで聞いていたサクヤは、溜息を吐きながらもどこか嬉しそうに笑った。


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