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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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鬼と共存する里

おはようございます

 里までに2泊した後、サクヤ達は鬼と共存しているという里にやってきた。


「至って普通の里だな。」

「とりあえずは聞き込みからだな。」


 里に入ってから人に会わない。人の気配はするのだが、皆がこちらを恐れているようだった。


「貴方方は鬼斬りの人達ですか?」


 唐突に娘に話しかけられた。


「鬼斬りもいないわけではないが、我々は赤犬の社の者だ。ここに住んでいるという鬼について話を聞かせてもらえないだろうか?」

「赤犬の里?鬼を退治に来たの?」

「いや、どうするかは状況を確認してからだ。人と共に生活しているという鬼にも興味がある。」

「すぐに退治するわけではないのね?」

「そうだな。共存しているということは、里の者にとって利になることがあるのだろう。それを確認もしないまま退治しては、里の者に迷惑をかけることになるかもしれないからな。まずは両者から話を聞きたい。」

「わかった。じゃあ、兵六童子のところに案内する。」

「貴方が案内してくれるの?ありがとう。あまり大人数で押しかけるのは鬼を刺激するかもしれないから、私と千代、小平太ついてきて。あとは、里の人たちから話を聞いてくれる?」

「わかった。」


 サクヤ達は里の娘の後をついていく。娘は里から少し外れた森の中に入る。案内された森の奥、少し拓けた小川のほとりに、まだ新しい小屋があった。


「兵六、連れてきたよ。」

「あぁ、入ってもらってくれ。」

「入れってさ。」

「案内ありがとう。」


 サクヤは二本の小太刀と弓を小屋の入口に立てかけた。千代と小平太は驚きながらもサクヤに倣う。


「失礼します。」


 小屋の奥には一匹の鬼と、一人の娘が並んで座っていた。


「赤犬の里から参りました、乾のサクヤです。こちらは同じく千代と小平太です。」

「兵六だ。あと、これは小夜だ。」


 小夜は声がした方を順に見ている。


(目がみえないのか?)


「気付いたか。そうだ小夜は目が見えぬ。」

「そうですか。」


 少し意外そうな顔をした兵六は、サクヤを見てにやりと笑う。


「丸腰でくるとはな。そして殺気がない。俺を斬りにきたのではないのか?」

「まずは話を聞いて、必要とあれば斬ろうと思いましたが、小屋の外で諦めました。私に貴方を斬るのは不可能でしょう。」

「ほう、では何をしに来たのだ?」

「なぜ貴方ほどの強い鬼が人と暮らそうと思ったのか。単純に興味を惹かれました。」

「おもしろい女子だな。そして一目で、いや、見る前からか。こちらの力を把握したうえで、それでも会おうと思ったその胆力は認めてやろう。」

「褒められるようなことではありません。無鉄砲と言われればその通りですから。」

「ははは!よいな、気に入った。して、話を聞くとは、何を聞きたいのだ?」

「この里に居つき、人と共存する道を選んだ理由です。」

「ふむ、話せば長いぞ。」

「かまいません。急ぐ旅でもありませんし。あと、こちらは手土産です。鬼は酒を好むと聞きましたので。あ、妙なものは入っていませんのでご安心を。」

「そうか、済まないな。だが、俺は酒をやめたのだ。」

「酒を?何故ですか?」

「それも含めて長くなるぞ?」

「望むところです。」

「そうか。」


 そこから兵六は1人語りのように話し始めた。


「俺が人として生まれたのはここより更に西に行って、さらに海峡を越えたところだ。もう数百年前の話しだ。


 俺はその地の豪族の嫡男として生まれ育った。小さな争いはあったが、時には協力したりもして、周辺の豪族とも上手くやっていたんだ。俺の父は武力は今一つだったが人が良くてな。領民にも慕われていたし、周りの豪族からも信頼されていた。


 だが、そんな穏やかな日々は長くは続かなかった。父は隣の領地の豪族に誘われ出かけて行ったところで毒を盛られ殺された。そして毒を盛った豪族は我らに兵を差し向けて俺の家族はことごとく殺された。 俺には夫婦になる約束をした娘がいたのだが、 殺される前に目の前で凌辱された。


 俺は当然奴らを憎んだ。殺される直前、必ず鬼になって復習してやると誓った。


 そして、俺は本当に鬼になった。誓った通り、奴らの一族を悉く殺した。


 だがな、その殺した者たちの中に、子供がいたんだが、その子供は夫婦になる約束をしていた娘の子供だったんだ。まさかあの娘が、奴の妾にされているとは思わなかった。てっきり殺されていると思っていたんだ。俺はその娘の目の前でその子供を殺してしまった。未だにあの時の娘の顔が頭から離れない。


 あれ以来、俺は人を殺すのをやめたつもりだった。だがあの娘のことを思い出すたびに、現実から逃れるように酒を飲んだ。


 酒を飲んで酔っ払うと、また人を殺めていた。


 そして、酒を飲んでも何も解決しないことに気付いてからは酒もやめた。


 だが、人を殺さないと誓ったところで俺は鬼だ。人を喰らわずとも生きてはいけるが、落ち着いて暮らすことなどできるわけがない。そして、流れ流れて行きついたのがこの里だ。


 この娘、小夜は目が見えんだろう。


 俺のことを見かけで判断できなかった小夜だが、俺が普通ではないことは判ったようだ。それでも目も見えないのに俺の世話をしてくれてな。だから俺は小夜の為に薪を用意したり、獣を狩ってやったりと何とか恩に報いてやりたかった。


 ただ、そんな小夜が猪だの鹿だのを里に持ち替えれば当然何故だという話になる。かくして俺は里の者に存在が知れてしまったわけだが、そんな俺を小夜は庇ってくれた。だから俺は小夜の為にも里に役立つ者でなくてはならんのだ。


 で、今では里の用心棒のような事をしたり、小夜の生活を支えてやったりしているというわけだ。」

「なるほど、話は良くわかりました。では、いくつか質問してもいいでしょうか?」

「かまわんぞ。」

「貴方は今後、どのようにしたいと思っているですか?」

「今後か…。小夜には恩がある。小夜の生活を支えてやりたいと思っている。」

「しかし、人と鬼とでは寿命が違います。小夜殿が亡くなったり、誰かと夫婦になったらどうするおつもりで?」

「そうだなぁ、そこまでは考えておらなんだが、里の者たちが許してくれるなら、このままここで暮らしていたいのだがな。」


「里の者が兵六様を拒むはずがありません!」


小夜が初めて口を開いた。


「小夜殿が兵六殿をお慕いしているのは判ります。ですが人の気持ちは移ろうもの。いつまでも里の者が兵六殿を頼りに思ってくれるかはわかりません。そうならないように考えておくことも大切かと。」

「そのようなことができるので?」

「それは兵六殿次第かと、それともう一つよいですか?」

「なんだ?」

「兵六殿は霊徳童子や白銀童子と面識がおありになりますか?」

「いや、名前は聞いているがな。こちらに来てから他の鬼と接触をもったことがほとんどない。一度、この里を襲撃しようとした鬼どもを蹴散らしてからは全くないな。」

「そうですか。ありがとうございます。今後もあの鬼と共闘するようなことがないように祈っております。」

「何か因縁があるようだな。わかった。心にとめておこう。他になにかあるか?」

「いえ、今日のところはこの辺りで引き揚げます。一晚考えを整理して、明日もう一度こちらを訪れても良いでしょうか?」

「かまわんぞ。特にやることもないのでな。」

「ありがとうございます。では失礼します。」


 サクヤ達が小屋を出ると、小夜が後を追ってくる。


「兵六様は鬼ですが、悪い方ではありません!けっして人に危害を加えることもありません!どうか、このまま帰ってはいただけませんか?」

「心配せずとも私たちに兵六殿を倒すほどの力はありません。この里に迷惑や不利益になるようなことをするつもりもありませんのでご心配なく。明日、もう一度だけ、お話をさせてください。この里のためにも、兵六殿のためにも良い提案ができないか、 一晩しっかり考えてきますので。」


「わかりました。」



「ああは言ったが、どうする気だ?」

「気は進まんが、あとは兵六殿次第だな。」


 サクヤは少し疲れた顔で里に戻って行った。


 里に戻ったサクヤ達は、残っていた左馬介達と合流し、近くの最寄りの宿場町まで戻ることにした。


 宿に入ったサクヤ達は、夕餉を済ませるとお互いの情報を突き合わせた。


 サクヤは先に兵六が鬼になった理由と里に居着いた経緯を話した。


「なるほど。それは壮絶な人生ですね…。」

「それが本当なら、里の者達が同情するのも理解できます。俺でも同情できますから。」

「そう考えると、誰もが鬼になりえるということか。悲しい生き物だな、鬼も人間も。」

「だがな、奪われたから奪うというのは、終わりのない負の連鎖だ。どこかで食い止めなければならないんだ。鬼に同情しても負の連鎖を止められるわけではない。」

「そうですね…。」


 一堂が黙り込んだので、サクヤは里人の声を聞くことにした。



「里の者達は、殆どが鬼に同情的で、好意的に受け入れているようです。実際、野盗や鬼に攻められた時も、鬼に守って貰ったことで恩義も感じており、頼りにしているようです。

 一方で、やはり鬼ですから、いつか恐ろしい目に遭うのではないかと心配している者も一定数います。」

「そうだろうな…。」


「サクヤはさっき、里の者達の移ろう心を繋ぎ止める方法を考えておくと言っていたが、何か考えがあるんだろ?気が進まないとも言っていたが。」

「それに関しては一晩考えさせてくれ。本当にやっていいのか、やるべきなのか、自分の中で整理したい。明朝、私の考えを伝えるから、皆の意見を教えて欲しい。」

「分かった。」

「私はサクヤ様の決断を支持するだけです。」

「…少しは考えろよ…。明日には猿丸も来るだろう。あれの意見や情報も聞いておきたい。」

「じゃあ明日だな。どちらにせよ、私等の出番はなさそうだな。」

「そうですね。全員でかかっても勝てるかどうか怪しいくらいの相手ですからね。」

「まじか!そんなに強いのか…。」

「霊徳童子に匹敵…いや、兵六の鬼術しだいでは兵六の方が強いかもしれないな。」

「そんなにか!流石に現段階では無理だな…。」

「それだけ判って貰っていれば十分だ。それなら無理はせんだろう。」



 報告を終えたサクヤはひとり、宿の中庭を臨む廊下で月を眺める。

 しかし、目は月を見ていたが頭の中にその望月はない。


(問題は二つ。兵六殿が同意してくれるか?小夜の処遇をどうするか…。断られた場合どうしたものか…、いや、断られたら私にできることはない。兵六殿に任せるほかないだろう。できることは、兵六殿が鬼として動き出した時に、対抗できるだけの力を身に付けることしかないな。)


「サクヤ様、こちらにおいででしたか。」

「千代か。どうした?」

「お悩みなのですか?」

「いや、結論は出ている。あとは兵六殿次第だ。」

「そうですか。私に何かお手伝いできることはありますか?」

「もしかしたら協力を頼むかもしれない。しっかり力量を回復させておいてくれ。」

「わかりました。念の為に回復薬を用意しておきます。」

「頼む。」


 サクヤは立ち上がると、一つ伸びをしてから部屋に戻り明日に備えた。


 翌朝、宿に猿丸が到着していた。


「周辺の地侍や国府、社についても鬼に関しては手出しができぬようで、「触らぬ鬼に祟りなし」状態です。」

「そうだろうな。束になっても叶うまい。」

「で、サクヤ様はどうされるおつもりで?」

「そうだな…」


 サクヤは自身の考えを皆に伝える。



「そんなことができるのか?」

「兵六殿次第だ。同意があればできるだろう。抵抗されたらまず無理だが。」

「よろしいのですか?サクヤ様は。」

「気は進まないが、他に妙案がない。何かあるか?」

「…確かに、放置する以外にないな…。」

「断られたらどうする気だ?」

「それまでだ。手の打ちようがない。まさか霊徳童子討伐に協力を頼む訳にもいかんだろう。霊徳童子があの里に危害を加えようとするなら話は別だろうが。」

「そう差し向けては?」

「猿丸、それをやって里に被害が出ないと思うか?」

「無理でしょうな。よって、サクヤ様はそんな手段はとらない。」

「ああ。いい案だが、採用は出来ない。」

「承知しました。」

「他に良い案がないなら私の案で行こう。兵六殿のもと行くのは昨日と同じ面子でよいな。」

「念の為外で待機しておきたいのですが。」

「…わかった。だが、呉れ呉れも殺気を出さない様に。」

「「承知!」」


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