合流
おはようございます
第2班はまだ到着しない。
焦りはないが、手持ち無沙汰ではある。
サクヤは散策と称して1人御山に登ってみることにした。
しかし、1人で登るつもりだったのに、玉三郎はついてきた。
「案内はなくとも問題ありませんよ。」
「いやいや、こんな楽しそうなこと、見逃す理由はありません。」
また同じような会話が繰り返されるかと、サクヤはゲンナリする。
白狐の社の御山は高くはないが、道が険しい。断崖絶壁を越えて道なき道を征く。
「社の方は奥宮に参拝されないのですか?」
「ええ。この崖を越えて入ってくる人などいません。サクヤ様のその御力は便利そうですね。」
サクヤは所々飛翔の御力で難所を越えている。
玉三郎の方はすでに人の姿をとどめていない。
「普通に来ることなど不可能でしょう。この崖、せり出していますよ…。」
「知った者には抜け道があるのです。」
「だったら案内してくださいよ…。」
「狐一匹が通るのがやっとの穴なのですけど…。」
「…玉三郎さんはそちらをどうぞ。」
「ふふ、じゃあ遠慮なく。」
悪戦苦闘しながらなんとか奥宮に到着した。
「よくきてくれたね。こんなところまで来れる人間なんてサクヤ君くらいのものだろう。」
「ご無沙汰しております、ハクリ様。そう思うのでしたら、最初から降りて来て下されば助かります。」
「ハハハ、神に対しても臆さぬようなって、流石は神産みのサクヤだ。」
「もうそれはいいです。」
「そうかい。じゃあ、もう少しサクヤ君の興味を引く話をしようか。」
悪びれるでもなく、ハクリは飄々と話を続ける。
「君たちがこれから行く沃の国に、一風変わった鬼がいてねぇ。里人と上手くやっているっていうんだ。」
「えっ?鬼ですよね。」
「ああ。沃の国はここに負けないくらい荒れててね。現段階なら櫛の国より沃の国方が荒れてるかもしれない。そんな沃の国のなかで、『鬼守の里』と呼ばれる里があるんだけど、その異名が表す通り、鬼と里が共存している里があるんだ。」
「鬼と里が共存…。」
「そう。鬼が里の外からの脅威から守る代わりに、里は鬼を奉っている。中々面白いだろう。」
「所謂『鬼神』と呼ばれるものですか?」
「いや、至って普通の鬼だ。ただ、人と共存しているという段階で、普通とは言い難いかもしれないがね。」
「それは興味深いですね。人と共生する鬼ですか…。」
「嫌悪感はないのかい?」
「鬼とて元は人。そういう鬼がいても不思議はないかと。」
「フフフ、サクヤ君のそういうところが僕は好きだな。実態はどのようなものか分からないけど、サクヤ君の目で是非見てきて欲しい。」
「承りました。」
「あと、あそこの社の宮司はかなり癖が強い。心してかかるといいよ。」
「癖、ですか…。有難うございます。心してかかります。」
ハクコナリヌシとの面会を終えて山を降りる。
登りはそれなりに苦労した断崖絶壁も、下りは飛び降りて、着地の瞬間だけ御力を使えばいいので楽ちんである。
「私は猫じゃないので、その御力が狡く思います。」
狐の姿になった玉三郎を抱きかかえて飛び降りるサクヤに、玉三郎は申し訳なさそうに溢した。
第2班との合流待ちで、サクヤ達は数日は鍛錬に明け暮れた。
特に玉三郎との手合せは、サクヤだけでなく、馳遊馬や蒼士郎にもよい鍛錬になったようだ。
「最初からここに連れてくれば良かったかもな。」
サクヤからもそんな声が漏れるくらいに、2人の腕は上がった。
そうこうしているうちに第2班が到着した。
「ご苦労だったな。」
「いえ。ここまでの道程は報告書で確認ください。」
「ああ。今日のところはしっかり休むといい。報告を読んで、疑問があれば確認することにしよう。」
「はい。お願いします。」
「因みに3日後には出発する予定だ。しっかり休養をとってくれ。」
「有難うございます。」
千代が簡単な報告を済ませる後ろに、小平太達が落ち着かない顔で立っている。
(まあ、報告書を読めばあの表情の理由も判るだろう。)
そして、サクヤは1人で報告書に目を通した。
(ま、小平太達をからかうのは明日以降だな。)
翌日、第2班はゆっくりさせる予定だったが、男達が落ち着かないとのことで、急遽報告会が行われることになった。
「御神域の補修は予定通りですが、報告書に関して何か質問がありますか?」
「いや、特にない。」
サクヤは本当に興味なさそうに素っ気なく答える。
「いや、待て!千代が変なことを書いていただろう?それについて何もないのか?」
「特にないな。騎重郎がモテないのは予想通りだし。」
「そんなことじゃなくてだなぁ…。」
弁解の言葉を用意していたであろう小平太は、自身が救った娘のことについて何も聞かれないのが気持ち悪くて仕方ない。
嫉妬のひとつでもしてくれた方がまだ救われる。
しかし、サクヤはその話にはまったく触れることなく、第1班の話を始めた。
「…と言った感じだ。ただ、静さんのおめでたには驚いたが。」
「えっ?!静さんがおめでた?!」
静のことをよく知る3人は驚きと喜びが相混ぜになっている。
「お、お相手は…あの酒問屋の若旦那ですか?」
「そうらしい。幸せそうだったぞ。」
「そうですか…。それは驚きますね。」
「うん。帰りにも寄る予定だから、お祝いを用意しておかなくてはな。」
サクヤは沃の国によい手土産があればいいなと思案していたが、当然小平太の気持ちなど気にもとめていなかった。




