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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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仇討ち

おはようございます

 白狐の里に着いた時には日が暮れていた。

 千代達第2班はまだ着いてい。これは想定通りでもあったので、サクヤも気にすることなく、久し振りにハクリ様にでも会いに行こうと考えていたが、到着早々に玉三郎から呼び出された。




「随分活躍されているようですね、サクヤ様。」

「なんですか、玉三郎殿。久し振りに会ったと思ったら、急に様付けなんて。」

「いやいや、神産みのサクヤの二つ名はこの里にも轟いていますよ。そのような方に気安くサクヤ殿などと呼べないではないですから。今や神の使いでしかない私より、神に近いところにいらっしゃるのですから。」

「…いや、もう…。

 ここまでに何回同じことを言ってきたか判らないので、誤解を解くことさえ面倒臭くなってきました。」

「あらあら、すっかりやさぐれてますね。名誉なことだというのに。」

「名誉というより迷惑ですが…。」

「まあ、お変わりがないようで何よりです。」

「からかわないでください。そんなことより、こちらで呪物の保管をお願いしたいのですが。」

「しっかり封印されているようですから問題ありませんよ。まさか、結界術まで使えるようになっているとは思いませんでしたので驚きましたが。」

「それも成り行きというものでして…。神様達にいいように使われている結果です。」

「言い方、捉え方の問題です。頼りにされているというべきでは?」

「それならまだいいのですけど。」



 互いに近況報告をしつつ、ハクコナリヌシに余り妙な噂を広げないよう伝えておくよう話しておいた。




 翌朝、朝餉を済ませると、今度は宮司から呼び出しを受けた。


「私に来客ですか?国府の者でしょうか?」


 応接間に入ると、そこにはサクヤとそう歳の変わらないくらいの少年と、その付き人と思われる男が待っていた。


「突然の訪問失礼します。ぼ、そ、某は葛庭犬千代と申します。」


 少年はそう自己紹介する。


(葛庭…?どこかで聞いたような…。)


 少年はやや細く、背もサクヤよりやや低い。目に力はあるが、腕も細く武芸はまだひよっこと見抜けた。


「乾のサクヤです。この度は何用でしょうか?」

「葛庭の名に憶えはないでしょうか?以前貴方様がこちらの社を訪れる前に、砦で捉えた地侍の嫡男でございます。」

「ああ!あの時の…。」


(思い出した。猿楽一座に扮して人質にして、国府兵に引き渡した男の息子か。)


「あの後、捕らえられた父は、騒乱の責任を取り腹を切りました。あの砦も国府に抑えられたことで、所領も半分以下となり、当主を失ったこともあり、家臣の多くも去って行きました。

 別に貴方への恨みがあるわけではありません。戦の勝敗は武士に付き物。謀にかかったとはいえ、それも兵法のうちと心得ています。

 とはいえ、家臣たちの信を得て、家勢を再興するには、貴方への仇討ちが必要なのです。」

「御言葉を返すようですが、葛庭殿を捕らえたのは国府兵であり、わたくしへの仇というのは納得しかねます。

 それに、こう言ってはなんですが、貴方とわたくしでは技量に差があり過ぎますので、正直気乗りいたしません。」

「な、何を無礼なっ!」


 付き添いの男が激高するが、一睨みすると気圧されたのか、黙り込む。


「失礼を承知で申しましたが、貴方はわたくしを一目見て、その技量の差を認識出来なかった段階で勝負にならないのです。恐らくそちらの付き添いの方と2人がかりでも…。」

「ええいっ!無礼にも程があろう!」

「先程わたくしに一睨みされただけで気圧される段階で、貴方様もそこは理解できたでしょう?」

「ぐっ…。」

「勝てるかどうかは大事ではないのです。仇を討つべく動いたということが大切なのです。無理を承知でお願いしたい。」


 犬千代は頭を下げた。


「若!仇に頭を下げるなど!」

「そもそもが言い掛かりなのだ。無理な願いをしているのはこちら。頭の一つも下げねばなるまい。

 それとも、輔殿を討てとでもいうのか?」

「そ、それは…。」


 男は苦渋の顔で俯く。

 ここで国府に楯突けば葛庭の家は完全断絶だ。それでも家臣達の不満を晴らすには、仇がいる。その点でサクヤはうってつけの相手といえた。


「内情は分かりました。とはいえ力の差があり過ぎます。わたくしは木剣、そちらは真剣でやりましょう。」

「武士を愚弄する気か!」

「愚弄する気はありません。わたくしは『稽古』を付けるつもりでお相手します。」

「それでかまいません。宜しくお願いします。」



 サクヤ達は槍寮の演習場に行くと、サクヤは木剣持ちかけて手を止めた。


「木剣より、こちらにしましょう。」


 サクヤは結界で小太刀を作る。


「こらなら痛みは感じても実際に怪我をすることはありません。その代わり痛みの分だけ体力は消耗しますので、ご理解ください。」


 犬千代と男は呆気にとられた。


「サクヤ様、いつの間にそのような術を…。」

「こちらで鍛錬したときの幻術を参考にしました。中々便利ですね。」

「いや、参考にって…。」


 玉三郎も呆れて笑うしかなかった。



「では始めましょう。」

「宜しくお頼み申す…いざっ!」



 それから四半刻、サクヤは犬千代を何度打ち伏せたか、犬千代も体力の限界を迎えていた。


「攻撃が直線的過ぎて今からやろうとすることが相手に丸わかりです。闇雲に突っ込んでいては命がいくつあっても足りませんよ。

 私は人に教えるのが不得手ですので、聞いたままを教えますが、自分が打ち込んだとき、相手がどう対処するか、そしてそれに対して自分がどう動くべきか、常に先を読み続けることが大事です。反応速度だけでは限界がありますよ。」


 

 そこからはサクヤによる剣術の稽古のような様相を呈してきた。

 時々回復薬を飲ませながら、時には手を取り足を取り、サクヤの指導にも熱が入っていく。

 途中からは龍子も加わって、槍寮の兵も参加してくる。

 結果として仇討ちがただの鍛錬になっていた。




「なんだか、色々お世話になりました。」

「いや、其方は中々見所がある。鍛えれば一廉の武人になれよう。」

「有難うございます。精進いたします。」



 犬千代は爽やかな笑顔で帰っていった。


「あの者、仇討ちに来たのではなかったか?」

「よいではないですか。あんな後向きな気持ちより、今は前を向いて歩いている。あの若さで余計な物を背負う必要もないでしょう。」

「あの若さって、サクヤと変わらぬではないか。」

「そう言われればそうですね。なんだか幼く感じたのでつい…。」

「サクヤさんが老練し過ぎているのでしょう。なんせ神産みのサクヤですから。」

「それはもういいです…。」



 犬千代と打ち合ったサクヤは、どこか爽やかな気持で犬千代を見送った。

 何より犬千代が過去の因縁に囚われず、前向きな気持で取り組んでくれたことが嬉しかった。

 技術的なことは上手く教えることができなかったかもしれないが、気持ちは伝わったのではないか?そんな感情がサクヤの気分を良くしたのかもしれない。


 人を指導するのが下手なサクヤだったが、教えるのが嫌いなわけではない。

 気持だけでも伝わったなら…

 そこがサクヤに満足感を与えたのであろう。


 葛庭家が犬千代により再興し、国府に出仕するようになるのは、まだ先の話である。


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