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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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呪物と人の娘

おはようございます

 祠からの帰り道、絢音が大きく息を吐いた後、呟くように話す。


「まさか、ここの祠のヌシ様に会える日が来るなんて、思いもしませんでした。しかも、知らないうちにヌシ様が代わっていたなんて…。」

「そうですね、ヌシ様が交代するなんて初めて聞きました。」

「それにしても、神様の間で二つ名が付くなんて、サクヤさんはやっぱり凄いんですね!」

「いや、そもそもが誤解ですし、そんなものいらないんですけど。」

「私なんて神様が本当にいるのかどうかさえ疑ってましたけど、普通に生活しているだけでは絶対にお会いできることなんてなかったと思うんです。サクヤさんと一緒だったからお会いできたのですから、やっぱりサクヤさんは凄いんですよ。」

「あたしも同意見だね。正直妖魔かと思って、柄に手をかけちゃったよ。」

「気持ちはわかります。私も最初の頃はそう思いましたから。多くの神様は仮初が動物の姿ですから、ぱっと見ではわかりませんからね。」

「どうやって見分けているんだ?」

「それはもちろん、邪気の有無です。それにヌシ様であれば、御神力を感じ取れますから。もっとも遠目ではよほど力の強くない限りは判りませんけどね。」

「いや、そもそも普通は邪気を感じ取ることができないが。」

「あ、そういえば禊祓ができる人くらいしか感じ取れないって誰か言っていたような…。」

「そういうことか。じゃあ、我々では見た目で判断するのは困難だな。」

「そうかもしれませんね。」


下山後、遅めの朝餉を御馳走になり、出立の準備を整えた。





「赤ちゃんが産まれたらまた顔を見にきますね。」

「是非見に来て!サクヤさんに抱いてもらったら御利益がありそうだもの。」

「ありませんよ、そんなもの…。」


 サクヤは呆れて大きく息をつく。


「あと、絢音さん。日輪宮にはこちら箱のお酒をお詫びと共に届けた方がいいと思います。最近の出荷分は御神力が少なかったようですから。こちらの箱のお酒にはたっぷり籠めておきましたので、埋め合わせにはなるでしょう。」

「何から何まですみません。どうお礼をしたらいいのか。」

「いえ、今回もお世話になりましたし、お気になさらず。あ、できれば帰りも泊まらせていただけると助かります。」

「その程度なら全くかまいませんよ。是非寄ってください。」


 絢音と静、そして蔵の人達に見送られ、サクヤ達は出立した。




 櫛の国の国境の関所を抜け、そのまま南進すると桜の国と沃の国を結ぶ東西に走る街道にぶつかる。そのまま南進すれば白孤の里に着くが、街道を東に曲がって国府方面に向かい、途中で北側の山間部に入ると今回の目的地である。


 ただ、流石に距離があるので、街道が交わる宿場町で一泊、さらに一旦国府に立ち寄って一泊してから向かうことにした。



 以前はかなり治安が悪く、街道を歩くだけで野盗に何度も絡まれたが、今回は一度絡まれただけだ。

 その運のない野盗は、龍子と蒼士郎に一蹴されている。



 街道が交わる宿場、『水入の宿』の宿に入ると、すぐに国府から使いが来た。


「櫛の輔殿が歓待してくれるそうだ。」

「なんで我々がいることがわかったんだ?」

「大方関所の兵から連絡がいったんだろうよ。」

「なるほどな。流石有名人だ。」


 サクヤが説明せずとも理由は知れた。


「まぁ、宿代が浮いたと思って、歓待を受けるとしよう。」



 翌日、予定通り国府に入る。



「ようこそいらっしゃいました。櫛大輔様がお待ちです。」

「有難うございます。本日はお世話になります。」


 客間に案内されると、櫛橋右近が笑顔を出迎えた。


「よくきてくれた。今日は楽しんでくれ。」

「お世話になります。こちらは龍神の社の蒼士郎、鬼斬りの龍子殿と馳遊馬です。」

「鬼斬りか。龍子殿といったか。其方、何処かで会ったことがあるような気がするが…。」

「気のせいでしょう。よくある顔です。」

「いや…それはないと思うが…。」

「世の中には自分に似た者が3人はいるといいます。そのうちの1人でしょう。」

「そ、そうか…。」


 右近は釈然としないままであったが、これ以上問うてもしょうがないと諦め、サクヤ達を席に案内した。





「へぇ、それじゃああの時も今回も、御神域の欠損を修復するために各地を周っているのか。」


 歓待の宴が始まると、櫛の国の主だった役人達が集まり、サクヤ達をもてなした。

 櫛の国の隣の沃の国は海に面しており、川を通して物流量が多い。

 櫛の国からは木材が、沃の国からは海産物等が運ばれる。

 それもあってか、この宴の料理には海の幸が多く並んだが、流石に生物はない。


「人心が荒れるのは、邪心や穢れが強く関わっています。祠や社を守って人心を浄化する機会が多ければ、荒んだ心も治まると考えているのです。」

「つまり、鬼が跋扈する環境を改善したいということか…。」

「そうです。」

「それなら尚の事、我々も協力せねばならぬな、少輔。」

「は、仰せの通りで。」


 右近の側近であろうか、少輔と呼ばれた男は右近の言葉に同意する。


「何かご協力できることがあるでしょうか?」

「いえ、御神域の修復だけであれば、戦力も必要ありませんし、道中さえ安全なら…。」

「それでは、野盗対策として、兵を連れて同道しましょう。」

「恐れ入ります。」

「まぁ、戦力的にはうちの10人より、そちらの4人の方が強いかもしれんがな。国が全面的に協力しているということを示すのにも丁度よいだろう。」


 右近には右近なりの事情や目論見もあるのだろう。サクヤは大人しく同意した。




 翌朝、国府を出たサクヤ達は、今回の目的地である祠に到着した。



「おかしいな、呪物が見当たらない…。」

「今回もヌシ様の力不足ったことではないのか?」

「いや、邪気は感じる。欠損の原因はそれに間違いないと思うのだが、肝心の呪物が見当たらない。今回は器ではないのか…?」

「邪気を追うことはできるのか?」

「人を犬みたいに言うな。とはいえ、やってみるか…。」


 サクヤは祠の周囲をゆっくり歩きながら、邪気の出所を探る。


「この辺りが強く感じるな…。」

「この地面、掘り返した形跡があるな。」

「人海戦術ならお任せください。

 おい、ここを掘ってくれ。」


 少輔が兵達に指示を飛ばす。

 数人が農家に走り鍬等の農具を借りに行く。



「何か出てきました!」


 土中から出てきたのは木箱に入った櫛だった。


「…かなり強い呪力ですね。すぐに封印しましょう。」


 サクヤは木箱ごと結界で包む。


「これでよし。では、修復します。」


 祠の前に手を付いたサクヤは欠損の大きさに驚く。


(これは酷いな。念のために祝詞をあげるか…。)


 サクヤは祝詞をあげて、神域の修復にかかる。


(これは中々…。力量が厳しいな。薬を飲んでおこう。御神力も相当流出している。)


 修復を終えたサクヤは、強烈な疲労感に立ち上がるのさえままならない。


「大丈夫かい?サクヤさん。」

「少し時間をください。ついでに回復薬も飲んでおきます。」

「へぇ、あのサクヤさんがここまで消耗するとは…。」

「欠損が大きかったのと、御神力の流出が多かったのが…」



「手間を掛けさせたな。危ういところであったが助かった。」


 祠の前に現れた緑色の兎に、サクヤはヨロヨロしながらも膝をついて頭を垂れる。


「間に合ってよかったです。お力になれたのならなによりです。」


 サクヤに続き、龍子や蒼士郎、馳遊馬も膝をつき頭を垂れたので、少輔や兵隊も慌てて倣う。


「とはいえ其方には過度な負担をかけたようだ。アカイヌヌシ殿に申し訳が立たぬな。」

「いえ、わたくしはヌシ様の代弁者であり、代行者です。困ったときはお互い様、お気に病むことは御座いません。」

「そう言って貰えると助かる。」

「この度はかなり手の込んだことをされておりますが、ヌシ様に心当たりはありましょうか?」

「うむ、人の娘が持ち込んで来てな。相当邪気に囚われておるようであった。」

「そうですか、人の娘…。」

「其方よりもまだ幼く見えたな。子供と言っていい年頃だ。だが、何かの強い意志を感じた。世の中に相当の不満を持っておるのだろう。」

「しかし、娘1人の仕業とは思えません。このような強力な呪物。どこで手に入れたのか…。」

「そこまでは我にも判らぬな。」

「いえ、あとはこちらにお任せ下さい。」

「力になれずすまぬ。我も元の力を取り戻すまで時間がかかりそうだ。礼もろくにしてやれん。1年後、改めてここを訪れてくれぬか?」

「礼には及びませんが、1年後様子を伺いに参ります。」

「そうしてくれ。其方に神々の加護があらんことを…。」


 兎はそう言い残し姿を消した。



 兎と話している間にサクヤの体力も回復した。穴を埋め直し、祠を後にする。


「よもや、ヌシ様が降臨されるとは…。」


 少輔と兵隊は未だ興奮と畏れの入り混じった顔だ。


「こちらの呪物。厳重に保管と封印をせねばなりません。結界があるので邪気が漏れ出ることもないでしょうし、このまま白孤の社で保管してもらいましょう。万が一でも鬼に持ち出されては困りますので。」

「呪物に関しては専門であるサクヤ殿にお任せします。」

「では我々はこのまま白孤の社に向かいます。お世話になりました。」

「いえ、あのままでは祟神になるところでしたので、こちらとしても助かりました。白孤の社までお送りしなくてもよろしいので?」

「大丈夫で…」


「なんだあれは?野盗か?」


 前方から迫ってくる十数の群れ、サクヤは直ちに戦闘態勢に入る。


「鬼だ!総員構え!」


 4人のうちで後衛はサクヤ1人。国府兵も戦闘態勢をとるが当てになるかどうか判らない。


「国府兵は後備に!馳遊馬、蒼士郎、龍子殿は前備!」


 迫り来る鬼の群れに、サクヤは続け様に結界の矢を放つ。

 矢は違うことなく鬼の頭部を捉える。


「前備、かかれ!」


 サクヤの号令に3人は一斉に鬼の群れに突っ込む…というより襲いかかる。


 特に龍子の無双ぶりは国府兵の度肝を抜いた。


「あれじゃどっちが鬼かわからんな。」


 緊張した面持ちだったサクヤも、龍子の戦いぶり苦笑いを浮かべた。


 あっという間に鬼の群れを屠ると、3人は汗ひとつかくことなく戻ってきた。


「この呪物を取り戻しにきたのかもしれぬ。やはり社で管理するのが正解のようだな。」


「鬼斬りというのはこうも凄まじいものか…。」


 少輔は呆気にとられたまま立ち尽くす。

 その時、少輔は何かを思い出したのか、突然大きな声をあげた。


「あっ!思い出した!龍子殿は…」


 少輔は右近がどこかで会ったことがあると言った場面に同席していたようで、龍子の事を記憶の片隅から呼び起こしたようだ。

 しかし、龍子はそんな少輔を今にも殺しそうな顔で睨みつける。


「あ、いや、勘違い…でした…。」


 サクヤが龍子を見た時には、その表情を引っ込めていたが、少輔の態度に龍子が何をしたのかは察しがついた。


(人には言いたくないこともあるのだろう。詮索はしない方がよさそうだ。)


「呪物にも触れ、鬼とも遭遇しましたので、皆纏めて浄めておきましょう。」


 サクヤは話を切り替える意味も含めて禊祓を行ってから、白狐の社に馬を向けた。


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