【閑話】大社客殿にて苦酒を交わす
短いお話ですが、ふと思いついたので、健平とサクヤの会談の後日談を書きました。
豊秋彦は日輪大社の客殿で過ごすことが多い。
御所では日々権力争いが繰り広げられ、あそこにいるとどうしてもそれに巻き込まれる。
そうでなくても叢左大臣と皇太子の妃について争っているので、豊秋彦自身が政争の中心人物だ。
帝の信任厚い豊秋彦ではあるが、帝と意見が一致しているわけではない。
特に都の在り方や霊徳童子への対応では温度差が大きい。
その帝も、最近は叢の意向を無視できなくなっており、御所は豊秋彦にとって居心地のいい場所ではなかった。
とは言え、完全に逃避してしまうと叢の思い通りになってしまうため、牽制の為に時々は顔を出すようにしていたが、最近は大社で過ごすことの方が多くなった。
「お越しでしたか、皇弟殿。」
「おや?お出かけだったようだな健平殿。」
「はい、赤犬の社へ出向いておりました。」
「赤犬の社に?何故また。」
「サクヤ殿と話をしたいと思いましてね。」
「サクヤ殿と?いかがであったかね?」
「手酷くあしらわれました。」
「経晟(鐵右近)からは聞いているが、中々の気性らしいな。」
「ですね。今の都に固執する帝は阿呆だと斬り捨てられましたから。」
「ははは…手厳しいな。」
「はい。」
健平の側使いである、巫女の一人が酒と肴を運んで来たので、二人は尺を交わす。
「サクヤ殿も再遷都すべきと?」
「はい。神域から離れている今の都には疑問があるようです。」
「そうだろうな。経晟からもそのような考えだと聞いた。社の巫女故、余計にそう感じるのだろう。」
「ですが、今の都の結界はもう長くありません。そうなった場合のことも話しましたが…。」
「こちらの事情など知ったことではないわなぁ。」
「はい。理解し難いようです。」
「大社の宮司の役割につても話したのか?」
「はい。神域の重要性や御力のことも判らない帝ならどのみち絶えるのだから、私が帝になった方が良いとまで言ってましたね。私よりサクヤ殿方が適任だと言ったら叱られましたが。」
「それはそうだろう…。」
「ですが、本心です。あれだけの御力があり、大社の宮司の血も引いているのです。資格はあるでしょう。」
「なに?大社の宮司の血を?!」
「はい。『霊徳の乱』のとき、当時の大社の宮司の妹が兄を殺して逃亡したのは御存知ですよね?」
「うむ、霊徳帝(※怨霊を鎮めるため、後に追号された)の婚約者であった者だったな。」
「そうです。その宮司の妹は赤犬の社に匿われ、そこで子を産んだと言われているのです。」
「もしや、その子は霊徳帝の?」
「恐らく…。そして、サクヤ殿はその子孫にあたる方のようです。」
「なんと!」
(それならあの御力も納得だ…。そしてもし本当に私の子であれば…確かに帝になる資格も十分に有するな…。)
「で、サクヤ殿は都について協力はしてくれそうなのか?」
「ははは…、とんでもない提案をしてくれましたよ。」
健平は自嘲気味に笑い、サクヤの案を告げた。
「…確かに無理だな。サクヤ殿の言う通りだろう。」
「はい…。結局途方に暮れて帰ってきたという次第でして。」
「それは…大変でしたな。」
「やはり、もう皇弟殿にお縋りする他ないようです。」
「私には何の力もありません。ですが、妹御が妃になれば、可能性が高まるやもしれぬと思っておるのだがな。」
「結局、権力争いから逃れる術はないということですか…。」
「健平殿も、私もな。意見を通す為には避けて通れぬだろう。」
苦いものでも飲むように盃を干した健平は、疲労困憊である旨を告げて自室に下がった。
(サクヤも私と同意見か。一度話をしてみたいものだな。
だが…健平殿と同様、私も手酷い目にあいそうだが…。
とはいえ、サクヤを権力争いに巻き込む訳にもいかぬ。そんなことになればコノハに顔向けできない。
今は経晟を通して意思の疎通を図る他ないか…。)
豊秋彦も盃を干した。
サクヤが好むという『綾の泉』は、少し苦く、あるいはしょっぱくも感じたが、余韻も少なく消えて行った。
今回の話は、あったほうが先の話の理解が深まると思い、急遽追加しました。
明日はまた本編の続き(といっても閑話並みにゆるい話ですが)をお楽しみください。




