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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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大社宮司の来訪

おはようございます

 鬼防寮の建屋に久しぶりに全員が集まった。


 折角だからと両班の活動報告と今後について簡単に打合せを行うことになった。



「第2班は以上ですが、懸案事項が2つあります。一つは捕らえた男の事で、未だに口を割っていません。2つ目は私の補修では力量回復の力が付与できないということです。」

「力量回復?そんなこと私でもできないぞ。」

「えっ!?どういうことですか? サクヤ様は咲良矢の里で御神域を作ったではないですか?」

「何を言っている。御神域など作っていない。あれは普通に無実体結界を張って、土地に御力を籠めただけだ。だから時々御力を籠めに行く必要があるんだ。」

「では、それをずっと続けなければならないのですか?」

「いや、あの桜がちゃんとヌシ様になれたら、ご自分で何とかするだろう。」

「そういうことですか…。流石のサクヤ様でも無理なのですね」

「だから、私は神様じゃないと言っているだろう。尤も試したことがないからできるかどうか、本当のところは分からないが。」

「それは是非やってみましょう!」


「話がおかしな方向にいってないか?当面必要ないなら優先すべきことが他にあるだろう?」

「うっ、そうですね。」


(うん、よく言った小平太!)


 小平太のアシストを受けたので、サクヤはさっさと話しを切換えた。


「こちらの方も崇神の討伐自体は大きな問題はない。今後も私が対応しようとは思うが、そのうち千代にも任せようと思うので、騎重郎と共に結界術に磨きをかけておいて欲しい。」

「その里でサクヤ様がまた神様として扱われているのは報告しなくてよいのですか?」

「蒼衣殿…、不要です。」

「そうですか。」


 その一言だけで大体のことが想像できた面々は、呆れるだけで突っ込みすら入れない。唯一龍子がきょとんとしているくらいである。


「それと、叢については将軍から何かわかり次第連絡をもらえることになった。こちらも何か動きがあったら知らせることになる。」

「了解しました。」

「今後はまた別の祠に行くことになる。第2班は再び陰の国へ。我々は櫛の国に行こうと思う。今回はついでなのでそのまま沃の国に足を延ばしたい。第2班は終わり次第白狐の社まで来て欲しい。」

「了解しました。」


 

 打合せが終わり、それぞれが鍛錬を始めようとしたところに、またしても安澄がやってきた。


「今度は誰だ?」

「あら?察しがいいわね。でも私も知らない人だったのよね。」

「知らない人?将軍様の使いとかではないのか?」

「う〜ん、私は呼んできてくれって言われただけだしね。でも優しそうな若い男の人だったわよ。武士っぽくはなかったわ。」

「わかった。行けばわかるのだろう。」




「サクヤ入ります。」

「ご無沙汰ですね、サクヤ様。」

「健平殿?!」

「ご活躍は耳にしております。とうとう神様になられたとか。」

「そんなものになった憶えはございません。大社の宮司様も多忙でしょうに、このような山奥まで何の御用でしょうか?」

「いや、案外暇なものだよ。神宮の方は知らないけど。今日はちょっと相談がありましてね。」

「私を呼び出したということは私にでしょうか?」


 怪訝そうな目で健平を睨む。


「サクヤ様は結界術が使えましたよね。」

「ええ、先日も陽の国の崇神の討伐に行かせていただきました。陽の国のことですので、本来は大社か神宮の方が対応すべきところでしたが、つい出過ぎた真似をしてしまいまして。申し訳ありません。」


 サクヤの氷のような笑顔に宮司と藤馬は背筋を冷たいものが走った。しかし、健平は動じない。


「いえいえ、こちらこそ申し訳ない。封印だけならなんとかなったかもしれませんが、討伐までは難しかったのです。なんせ物理攻撃なんて、我々の手に余ることでして。」

「あら?大社とて山兵くらいいるのでしょう?そちらで対応できたのでは?湖の国府での会合で、呪物による御神域の欠落の話は聞いていらしたと思いますが?」

「大社の山兵は、朝廷の近衛兵がいる関係で多くないのですよ。神宮も大社以上に少ないですし。今になって兵部卿が将軍様に詰められて慌てている有様で。御神域の補修については可能な限り協力させてもらいますよ。」

「では、こちらに欠落が認められている詞の一覧があります。この辺りは大社からも近いので、そちらで対応してい頂ければ助かります。」

「こ、これは、どこからこのような物を?」

「それは秘密です。ですが間違いのないところからの情報ですので、行って空振りになることはないと思います。」

「わかりました。

 ところで、相談がございまいして。」

「なんでしょうか?」


 サクヤは思わず身構えた。


「サクヤ様は都の結界についてどの程度ご存じですか?」

「さて?結界に守られているとは聞きましたが、私は都に行ったこともございませんし、どのようなものか想像もつきません。」


(あと数年しかもたないとは聞いたけど、これを話すとまた出所を疑われるしね。)


「そうですか。都の結界は、初代の神宮宮司が命を賭して張った結界で、神宮と大社の者で御力を籠めて維持してるのですが、なにせあの規模です。とても追いつきませんで、いつ結界が崩壊するか分からない状態なのです。」

「で、私にどうしろと?命がけで結界に御力を籠めろとでも?」

「そのような無体なことを言うつもりはないのですが。」


 流石の健平も、サクヤが露骨に機嫌を悪くしているので、ややたじろいだ。


「ではどうしろと?」


「そんなに怖い顔しないでください。サクヤ様が広域展開の結界術を研究されていると小耳に挟んだものですから。情報共有ができない物かと思いまして。」

「そんなことより、都を御神域に戻した方が手っ取り早いと思いますが?」

「それはそうなのですが…。ただいくら言葉を尽くしても、帝から公家まで中々首を縦に振ってはもらえなくてですねぇ。」

「でしたら、そのまま放っておけばよいのでは?嫌でも都を戻す他なくなるでしょう。」

「そこがですねぇ、仮に結界がなくなってもそのまま移る気がないような事を…。」

「帝や公家というのは阿呆なのですか?真っ先に鬼にやられますよ。少なくともこの世を統べると嘯いている霊徳童子なら確実に攻めてきます。今のところ勝つすべもありませんし、帝は今の代か次の代で終了となりますが、それでよいのですか?」

「いいわけがないからこうやって相談にきているのです!」


 サクヤの態度に、健平も体裁を整えるのが馬鹿らしくなったのか、少しずつ素が出始めた。


「なぜそのような阿呆のために、私達社が努力せねばならないのでしょう?日輪大神以外は神ではないと嘯いて、社を蔑ろにしてきたのは朝廷ですよ?」

「社への協力をお願いしているのは私と将軍様だけで、公式に朝廷がお願いしているわけではありません。」

「だとしたら余計にです。朝廷の代表が頭を下げて協力してくださいというのならまだ理解できます。今の状態では全く協力する気になりませんし、する理由も利もありません。」

「気持ちはわかります。我々大社もいいように利用されているだけですから。」

「でしたら、何故そこまでするのです?」

「私は帝になどなりたくありません。」

「どういう意味ですか?」


 少しの沈黙を置いたあと、健平はポツリポツリと話始めた。


「今の帝の血統が絶えた場合、同族である大社の血統から帝を出すことになっているのです。ですので、今の帝の血統が絶えたら、私が帝になってしまうのです。」

「貴方のことは正直あまり好きではありませんが、御神域の重要性も理解できない愚かな帝一族や公家より、御神域の重要性を理解している貴方が帝になった方がまだましではないでしょうか?」

「私には治癒の御力がありません。私の子達が皇統を継いだ場合、帝の象徴でもある治癒の御力が失われることになるのです。」

「たとえ結界が失われることがなくとも、今の都に住み続ければ、どのみち失われるのでは?」

「そうかもしれません。ですから、何とか協力をしていただけないかとこうして訪ねてきたのです。」


「何故私なのですか?」

「それは…、貴方が非常に力量が多く、結界術まで使える稀な方だからです。

 失礼ながら貴方のことはそれなりに調べさせていただきました。結界術だけでなく、薬を用いてとんでもない治癒を行うとか、 一度に大人数の禊祓を行うとか。先日は大地に御力を籠めて、作物の成長を促したとも聞きました。それほどの御神力を持つ貴方は私などよりよほど帝にふさわしいとさえ言えます。」

「な!?何を言い出すのですか!」

「すみません。言葉が過ぎました。でも正直な気持ちなのです。私も結界術は使えますが、崇神を封印するほどの強力な結界は行使できません。禊祓も一度に複数人となると5人が限界でしょう。大社の宮司と言えどその程度なのです。所詮遷都の際のどさくさで宮司になっただけの傍系ですからね。」

「因みに神宮の宮司は?」

「神宮が宗家になるのですが、あちらの家は長く御神域を離れ過ぎました。もうまともに御力を使えないでしょう。禊祓すら怪しいかと…。」

「 おそらく力量の問題でしょう。私は以前、瑞国の日輪宮の宮司に禊祓ができるようにしたことがありますが、単純に力量が満たされていなくて、使い方が分からなかっただけです。御力量りの儀ではじかれてしまう子の多くは、力量が不足しているのではなく、単純に使い方、動かし方を知らないだけで、きっかけを与えてやれば使えるようになると思っています。私が今まで試した人で使えなかった人はいませんから。」

「そ、それは…。いや、だとしても私は使い方を知っていてもその程度ですから。」

「これも最近確信したことですが、どこの社も力量の増やし方を忘れている、あるいは知らないようです。力量は成人後でも増やせます。これは断言できます。当社の藤十郎も50を過ぎていますが増やせました。」

「そ、そんなことができるのですか!?」

「はい。急激にとは行きませんが、ちょっとずつなら増やせます。私も巫女になった頃は、黒曜石の鏃に御力を籠めただけで倒る程度でしたから。」

「サクヤ様、貴方はなぜそのようなことをご存じなのですか?」

「単純に経験則です。色々試しているうちに色々気付くものです。皆さん、固定概念に囚われ過ぎなんですよ。御力というのはもっと自由なものです。」


((お前が自由過ぎるんだ!))


 宮司と藤馬は眉間を抑えて天を仰いだ。


「無理を承知でお聞きしたいのですが、サクヤ様は以前神になる前の精霊を神となれるよう御神域を作ったとお聞きしました。都でも同じようなことが可能だと思いますか?」

「はぁ〜、これはあくまで仮説ですし、できるかどうかとやっていいかどうかは無視して考えればという話ですが、できなくはないと思います。」

「それはどうするのですか!?」

「実際に都を見たことがないので何とも言えませんが、都を丸ごと御神域にできるほどの強力なヌシ様、又はヌシ様候補が必要です。」

「そのような強力なヌシ様候補がいるのですか?」

「この国には崇神を封印してヌシ様としている社や詞があると聞きました。所謂怨霊信仰です。強力な祟りを齎すものは、正しく祀れば強力な神になるというものです。それほどの強い呪力や妖力、霊力を持つものを都に封印してヌシ様とするのです。」


「まさか…、その強力な怨霊というのは…?」

「はい、そのまさかの霊徳童子です。」


「無理だ!!そんなことは絶対できない!」

「そうですね、今の戦力では厳しいでしょう。」

「戦力の問題じゃない!!貴方は霊徳童子のことを知らないからそんなことが言えるんだ!」

「確かに、詳しくは存じませんが…。」

「霊徳童子は遷都を実行した帝の弟なんだ!遷都に最後まで反対し、謀反の濡れ衣を着せられ最後は非業の死を遂げた最強の怨霊なんだぞ!そのような方を今の都のヌシ様にするなど、どんな皮肉だ!」


「そうなのですね…。そのような経緯があったことは知りませんでした。まぁどちらにせよ現実的な案ではありません。まさか封印された怨霊がいる都に帝が住まうなど、普通は考えられませんよね。帝や公家は邪心は抱いても穢れは嫌うと聞きますから。それに、霊徳童子を封印できる状態になるころには都は壊滅していると思います。」


「貴方がそんなに皮肉屋だとは思いませんでした。つまり、現在の都のままで結界を保つことは不可能に近いということですね。」

「はっきり言えばそうです。ですから最初からできるかどうかとやっていいかどうかは無視してと前置きしましたよね。今更幻滅されても困ります。そもそも私は今の都に反対なのですから。」


「ふふふ、私は確信しましたよ。貴方は大社の一族の血を引く者です。」


(唐突に何を…。そういえば、そんな話もあったね。)


「あれ?驚かれないんですね?」

「以前、そういう話は聞いたことがありました。遷都騒動の時に赤犬の里に落ち延びてきた大社の宮司の妹だかがいたと。そして、その子孫が私だということも。」

「そうでしたか…。それならその御力も納得できますね。」


(いや、結界術は授けて貰ったんだけどね。そして治癒の御力はまた別の理由だし…。)


「やはり皇弟様に御頼りするほかないか…。」

「皇弟様ですか?」

「はい。朝廷にあって数少ない、都を御神域に戻すべきとお考えの御方です。おそらく将軍様も同意見なのでしょう。御二方ともよく大社を訪れてくれるのです。」

「そうでしたか。再遷都が行われることを心よりお祈りしております。」

「本当に貴方という人は食えない御方だ。」


(失敬な!自分の方がよっぽど食えない男じゃないか!)





「それでは失礼します。」

「お気をつけてお帰り下さい。」


 参道を降りる健平と大社の山兵2人。サクヤは妙な不安を感じ声をかけた。


「間違っても皇弟様を第2の霊徳童子にするようなことはないようにしてくださいよ。」


「…分かっている。」


 健平は少しだけ振り返ったが、足を止めることなく参道を降りて行った。


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